悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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雷門改革

 ダイヤモンドダストの急襲から翌日、雷門イレブンは雷門グラウンドへ早朝から集合していた。

 円堂は今日用意されるであろう()()()()()を今か今かと待ち遠しく思う。となりの立向居も同じような表情をしている。

 その思いが天に通じたのか、校舎からマネージャーである木野が出てきた。

 

「二人とも、新しいユニフォームができたわよ!」

 

 彼女は円堂たちの前に駆け寄り、手に持っているそれをバッと広げてみせる。

 15と刻まれた黄色のユニフォームと、1と刻まれた長袖で緑色のユニフォーム。二人は目を輝かせて服を脱ぎ、さっそく着替え始めた。

 ……木野の前で。

 

「きゃぁっ!? ちょっと円堂君!」

「へっ? ああすまん。なえとか塔子はなんも言わないから、最近気にする機会がなくってさ」

「へっ、へぇ……」

 

 ちらりと話に出た二人を木野は見る。あの二人、下手したらそこらの男子よりも男勝りなんじゃ……。

 それ以上は命が危なくなりそうなので、彼女は考えることをやめた。

 それはともかくとして、円堂たちは新しいユニフォームに着替え終えた。

 

「なんか新鮮だな。特に長袖じゃなくてスースーするぜ」

「これが雷門のキーパーユニフォーム……なんか、身が引き締まっていくのを感じます」

「似合ってるわよ二人とも!」

 

 二人の姿を見た周りも、おおっ、と声を上げる。特に、キーパー姿じゃない円堂というのはそれだけ新鮮であった。

 立向居はキーパーグローブを身につけ、拳を軽く握る。それだけでユニフォームから力が流れ込んでくるように感じる。猛烈にサッカーがしたくてたまらなくなってくる。

 

「さあやりましょう皆さん! 俺、今ならどんなシュートでも受け止められる気がするんです!」

「それはいいけどよ……お前、あれ見てよくやる気出せるな」

「へっ? あれって……?」

 

 言い切るよりも先に。

 ドゴォォォォンッ!! という轟音が響いた。

 耳をつんざくようなその音を耳にし立向居は思わず怯む。落雷か、大砲にも劣らないように感じた。

 その音源は黒焦げになったゴールポスト。そして同じく摩擦熱で焦げてしまっているボール。それが転がっていく先には……真っ黒で見るからに不機嫌そうなオーラを纏ったなえがいた。

 

 立向居の拳がへにょりと力なく解かれた。

 

 

 ♦︎

 

 

 はぁ。とうとう円堂君がキーパーでなくなってしまった。私と同じユニフォームを着てる姿は私にとってはとても違和感のあるものだった。

 うーあー!

 八つ当たり気味にボールを蹴る。

 ああもう! 誰にシュート撃てばいいんだよ! というか暇! みんな私に構ってくれない!

 さっきもダイヤモンドダスト戦で出た新しい技を完成させようとしている円堂君のところに手伝いにいったら、「今の段階じゃ下手すれば頭蓋骨が壊れかねん」とか鬼道君に言われて満場一致で追い出された。解せぬ。

 だから今度は究極奥義を練習してる立向居のところに行ったら、これまた立向居が死んじゃうとか言われて追い払われた。超解せぬ。

 

 というわけで私は何をするでもなくボールを足で弄んでいる。

 グラウンドは百週したし、他の自主練もやったけどやっぱつまんない。そもそもトレーニング器具が少ないんだよここ。こうなったら今日はイナビカリ修練場にでも行こっかな……。

 そう思ってたらボールがこちらに転がって来た。

 

「円堂、手を使うなと何度行ったらわかる!」

「仕方ないだろ!? なんか自然に出ちゃうんだから!」

 

 これは円堂君たちのか。

 彼らは円堂君にシュートを撃って、それをひたすらヘディングするという練習をしている。しかし長年キーパーをやってた弊害で反射的に手が出てしまうようだ。

 うん、これだったら手伝えそう。スマホで部下に電話してあるものを用意させる。

 十数分後、校門前で受け取ったそれを引きずりながら彼らのところまで歩いた。

 

「調子はどーお?」

「なえか。いくら頼んでも初日ばかりは……なんだそれは?」

「円堂君の役に立つと思って」

 

 鬼道が戸惑う。私が持ってきたもの。それは積み重ねられて崩れないようにロープで固定された二つのタイヤだった。

 ほら、これを頭から被れば腕が使えなくなるでしょ。我ながらナイスアイデア。鬼道君もこの話を聞いて興味深そうに頷いてくれた。

 

「円堂、秘密兵器が来たぞ! これを使え!」

「秘密兵器って……ただのタイヤじゃん」

「むしろなんでタイヤなんだい? 腕を縛るだけならロープだけでも……」

「バカアフロディ! 円堂君と言ったらタイヤ、タイヤと言ったら円堂君でしょうが!」

「ご、ごめん……」

 

 タイヤ特訓しない円堂君なんて円堂君じゃないよ。まったく、そんなこともわからないなんて。円堂君ファンとしてはまだまだだね。

 ……なんかみんなの顔が引きつってるような……? まあいいか。

 

「と、とりあえずだ! せっかくだし、ありがたく使わせてもらうぜ」

 

 さすがに一人じゃ脇をたたんだままタイヤをかぶるのは難しいので、私たちが同時に持ち上げて彼にかぶせてあげた。

 

「うん、似合ってる似合ってる。かっこいいよ円堂君」

「そうかぁ……?」

「円堂、そいつの感覚がおかしいだけだ。騙されるな」

 

 ぶー。この泥臭い感じが最高なのに。

 円堂君はさっそく特訓を始め、豪炎寺君やアフロディの正確無比なシュートをヘディングで跳ね返すことに成功する。

 その光景を見てるとこう……ウズウズしてきちゃうよ。

 

「私もちょっとは……」

「却下だ」

「なんでぇ? 豪炎寺君もアフロディも撃ってるのに!」

「あいつらは手加減ができるからな。お前は事故を起こしかねん」

 

 失礼な。というか壊れたら壊れたで、やわな鍛え方をしたほうが悪いのだ。円堂君ならどうせそんなことにはならないだろうし、心配しすぎなんだよ。

 またやることがなくなってしまったので、暇つぶしに気になっていたことを鬼道君に投げかけてみる。

 

「そういえば立向居はなんの必殺技を練習してるの?」

「『ムゲン・ザ・ハンド』。体全体を目と耳にし、ありとあらゆるシュートを見切る技だそうだ」

「その極意は?」

「……シュタタタタタン、ドババババーン」

「はい誰か通訳さん呼んできてー」

 

 わかるか!?

 毎回思うんだけど、もはや日本語ですらないよね。その中でも今回は特に酷い。助詞すら入ってないんだもん。

 というか、さっきから反対側のゴールで立向居がなんか叫んでたけど、これのことだったのか。目を閉じながら大真面目に意味不明な言葉を叫ぶ様はかなりシュールであった。

 ……あ、顔面にボールがめり込んだ。完成はまだまだ遠そうだ。

 

 

 そんな風にして、日々はドンドン過ぎていった。

 この一週間はアジトで寝泊りして、練習に行く毎日だ。

 ……えっ? 円堂君ちに泊まってるんじゃないのかだって? ハッハッハ、人数制限だよクソッタレ! さすがの円堂君宅も全員を泊めるのは大変らしく、結果的に寝床を持ってる私がハブられた。その日の夕飯は肉じゃがとバーベキューだったらしい。ちなみに私はカロリーメイトでした。

 

 さて、今のところエイリア学園の動きはない。部下によると雷門潰しの準備をし始めているかららしい。

 今度こそ確実に、圧倒的に潰せるほどの戦力を。

 

 とはいえ、この一週間のおかげで円堂君の新必殺技は完成に近づいてきている。その完成度は私の特訓の参加が許されるほどだ。

 

「いくよー円堂君!」

「こい! たぁぁあああっ!!」

 

 私の足に当たったボールは一瞬その場で形を歪ませたかと思うと、次の瞬間には弾かれるように円堂君向かって飛び出した。弾丸が空気を突っ切り、ゴォォッ! という風切り音が鳴る。

 円堂君はそれを恐れもせずに立ち向かい、頭を突き出す。衝撃が伝わり、耐えきれずに彼の顔が後方へ吹き飛ばされそうになる。

 その時、彼の額に黄金のエネルギーが集中していくのが見えた。するとエネルギーは拳を形作り、瞬く間に私のシュートを後ろへ弾き返した。

 

「っ、この……感じは……!」

「鬼道君、これって……」

「ああ。円堂、今度はタイヤなしでやるぞ!」

 

 タイヤが外され、身軽になった円堂君は肩を回してストレッチをし始める。ずっと腕たたんだままだったから、すごいボキボキって音が鳴ってる。

 その間に私たちは何を撃つかで相談することにした。

 

「どうする? できれば必殺技を撃ちたいところだけど……」

「未完成の状態で全力は出せないよね。だったらゴッドブレイク、爆熱ストーム、ムーンライトスコールは除外して……」

「……ファイアトルネードでは威力が少し足りないな」

「なら、あの技はどうだ?」

「あの技?」

 

 鬼道君が提案したある技に私たちはなるほどとうなずく。たしかにこれなら威力はバッチリだ。あちらも準備ができたようだし、さっそく私たちは必殺技の陣形になる。

 鬼道君を真ん中に、私と豪炎寺君がその前方に左右に並ぶ。

 円堂君や他のメンバーの一部はこの陣形を見て驚嘆の声をあげた。私たちが何をするのかわかったのだろう。

 

「こいつを跳ね返せるほどの威力があれば本物だ。いくぞ円堂!」

「おうっ!」

 

 鬼道君は息を大きく吸い込み、指笛を吹く。すると地面から数匹のペンギンが顔を出した。

 そのボールを蹴り出しながら、彼は叫ぶ。

 

「皇帝ペンギン——」

『——2号!!』

 

 鬼道君のキラーパスをスイッチにペンギンが飛翔。そして左右にいる私たちが同時に蹴って加速させることで、ペンギンはミサイルのように円堂君に向かって飛んでいった。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

 

 円堂君の雄叫びをあげると同時に、彼の体から気が溢れてきて、頭上で拳を形成していく。

 それは正義の鉄拳に瓜二つだった。見た目も、感じるエネルギーも。

 

「うぉぉぉっ!!」

 

 円堂君が頭を振るうと気の拳が凄まじい勢いでボールにぶつかる。しかし拳の勢いに衰えた様子はなく、いまだに回転し続けるボールを無理やり押し込んで逆方向に送り返した。

 弾かれたそれが私の横でバウンドする。

 とたんに見ていた全員から歓喜の声が上がった。

 

「で……できた!」

「究極奥義に完成なしか……。たしかにその通りだったな。まさか派生させるとは」

「技ができたんなら名前考えなきゃね。……うーん、何にしよ?」

「閃きました! 僕は『メガトンヘッド』という名前を提案します!」

「はっ? 何私の前で勝手に決めちゃってんの?」

「うっ……だ、だったら何か代案でもあるんですか!?」

「ぬっ……」

 

 そう言われると弱いな。私がつけたかったけど、用意してるかどうかと言われると……。こうなるんだったら何か考えとくべきだった。

 えーと、うーんと、その……。

 

「……ロケットヘッドバット?」

「メガトンヘッドか。いい名前だな!」

「えちょ待って冗談だってだから私を無視して決めないでー!」

 

 円堂君の服にしがみついて抗議する私。しかし健闘虚しく、必殺技の名前はメガネ案の『メガトンヘッド』で決まってしまった。

 くそ、許さんぞあの眼鏡……! って、名前が一緒だからややこしいなこれ。

 

「というかなえさん、もうちょっとマシな名前なかったんスか? 『ダークサイドムーン』とかはカッコいいのに」

「おい壁山、それは……」

「うるさいうるさい! 私の必殺技は全部総帥が名付けたんだよ! 貴方たちまで私のセンスをバカにするの!?」

「ひえっ、お助けをー!」

「えっ、壁山君っ、なんで僕のところに走ってくるんですか!? ——わぁぁぁああああ!!」

 

 あのグラサンめぇ! 私が命名した全てをことごとく笑いやがって!

 思い出したらなんかイライラしてきた。なので逃げる壁山とメガネ君を追いかける。

 ふふっ、拳をブンブン振るだけで悲鳴とスピードがあがるから、ちょっと楽しくなってきた。

 彼らはもちろん全力だが、私にとってはランニング感覚だ。捕まえそうで捕まらないギリギリの距離を保っていく。

 このあと滅茶苦茶走った。

 夕方の雷門のグラウンドには、干からびたような二人が転がっていたという……。




 豪炎寺のセリフが少ないと思う方もいるかもしれませんが、それは仕様です。アニメとかだってメインキャラとは思えないほど少なかったですし。まあ背中で語るタイプなんで、致し方がないんだろうけど。
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