悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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お戻りですよ帝国学園

 めでたく円堂君が『メガトンヘッド』を習得した翌日。

 鬼道君は私たちにさらなる必殺技を習得する必要があると言ってきた。その鍵を求めて、たどり着いた場所は……。

 

「なーんでここなのかなぁ?」

「その言い方はないだろう。一応お前の母校なんだぞ」

 

 目の前にそびえ立つのは、まさに黒鉄の城。

 その外観と醸し出ているおどろおどろしさは、まるでRPGの魔王城を思わせる。

 はいそうです。帝国学園です。全国広しといえどもこんな特徴が一致するのはここしかない。

 

「今回習得する『デスゾーン』は帝国の技。なら帝国で特訓した方がアドバイスできる人数も増えていい」

「あんましここ寄りたくないんだけどね」

「……まあ、俺たちを裏切ったお前の気持ちがわからんでもない。しかし罰として受け取っておくんだな」

「ん? ああいや、そっちの気持ちも多少はあるかもだけど……」

 

 鬼道君には悪いが、私はこの学園にはあまりいい思い出がないのだ。主に事務関連で。

 総帥は知っての通り、他人によく仕事を押し付けてくる。その最もな被害者は私だったのだ。

 信じられるか? この学校、半分くらいは私が書類もろもろ管理してたんだぜ? 暗い廊下をエナドリ片手に走り回った記憶が……うえっ。

 えっ、帝国イレブンに対する罪悪感? あるわけないじゃん。弱いチームは淘汰されるのが世の常だし、そんなもんいちいち気にしてたら総帥の補佐なんてやれないっての。

 

 それはそれとして、鬼道君は今回覚えるのは『デスゾーン』と言ってたけど、正確には違うらしい。

 『デスゾーン』。言わずとも知れた帝国の連携シュートだ。ほら、初の雷門戦でも使った三人でグルグル回ってシュート撃つやつ。

 鬼道はこれの進化版を完成させたいのだそうだ。もう構想自体はだいぶ固まっており、あとは下準備だけなのだとか。そのための『デスゾーン』だ。

 ちなみに撃つメンバーは鬼道君、円堂君、土門らしい。

 最後そこは私だろと思ったが、鬼道君曰くこの技はフォワードが封じられた時に撃つものだから私が覚える必要はないんだと。

 それにしても土門か。あれがシュート撃ってるの見たことがないから意外な人選だ。

 

 と思ってたらグラウンドにようやく着いた。

 変わってないね、何もかも。いろいろ整備はされてるけど、それでも隠しきれないものはある。

 あっちの地面は私が大穴を空けた跡が僅かにあるし、こっちのゴールバーは薄くだけど私のシュートで焦げついた跡がある。あ、あれもあったしこれも……。

 

「……って、私の跡多すぎじゃね?」

「帝国グラウンドの傷は9割がどこかのバカがつけたものだ。ふっ、懐かしいな。いったい何個のゴールが入れ替えられ、そのたびに源田が娘を送り出すような目をしていたか」

 

 ああ、そういえばそんなこともあったね。側から見ると無表情なのに、目だけはすごい悲壮感が漂っていたのを覚えている。

 まあ反省せずに十数個そっからも壊したんだけど。

 改めて思うとあいつよく私に一度も突っかかってこなかったな。その精神力の高さをエイリア石の時にも発揮しろよ。

 

 私たちはベンチに荷物を下ろし、それぞれスパイクに履き替えたり、その他いろいろの準備をする。

 私もいつもの早着替えでユニフォーム姿になってフィールドに入ろうとすると、アフロディが声をかけてくる。

 

「一つ聞いてもいいかな。吹雪君だっけ? 彼はなぜ練習をしないんだい?」

「それは……」

 

 一瞬迷ったけど、どうせもうみんな知ってることだ。私はシロウが二重人格であることや、イプシロン戦で起きたこと、そしてそのせいでサッカーができなくなってしまったことなどを語る。

 彼は真剣な顔で相づちを打つように何度もうなずく。

 

「なるほど……そんなことが……にわかには信じがたい話だね」

「冗談とかだったらよかったんだけどね。実際アツヤになったシロウの性格はモノマネなんてレベルじゃない次元で本物そっくりなんだよ。あれを見せつけられちゃ信じるほかないよ」

「……そういえば、やけに彼について詳しかったけど」

「前に北海道出身って言ったでしょ。シロウは私の幼馴染みなの」

「……君、僕以外にも友達いたんだね」

「いるわ! 山ほどいるわ!」

 

 改めてFF開始前からの友人の数を数えてみる。

 鬼道君でしょ、源田でしょ、佐久間でしょ、その他帝国のメンバー……辺見は除くとして。あ、でも裏切っちゃったからカウントできないじゃん。私の脳内友達リストのほぼ全てが黒く塗り潰された。

 まっ、まだだしっ! 私には外国人の友達だっているんだよ!? うちの親組織唯一の常識人枠であるヘンクタッカー君とか!

 それを加味しても二人。世は無情である。

 

「俺と鬼道、土門、そしてなえはデスゾーンの練習をする。立向居とツナミはムゲン・ザ・ハンド。他のみんなもそれぞれ自分の練習をしててくれ!」

 

 た、助かった……。さすがは円堂君、マイホープ。偶然だろうけど助け舟を出してくれた。

 お呼ばれしたのを理由にそそくさとアフロディから逃げ去る。

 

「そういえばどうして私が必要なの?」

「お前はデスゾーンを使っていたからな。俺も合図はしていたが実際には撃ったことがないし、経験者として何か気づくことがあるのではないかと思って呼んだんだ」

「あ、そういえばなえもデスゾーン使えるんだっけか」

「佐久間と寺門が必要だけどね」

 

 あれが私の人生初の連携シュートだっけ。なんか無駄に言い争ってすごい時間を消費した記憶がある。まあ私もその時は若かったからなぁ。

 なんて物思いにふけてると、鬼道君がデスゾーンの説明をし出す。

 

「三人が同時に回転し、それによって生まれたパワーを集中させて撃つのがデスゾーンだ。この技は何よりも三人の息を合わせるのが重要になる」

「三人の……」

「息を合わせる……?」

「ねぇ君たち、なんで同時に私の方を向くのかなぁ?」

 

 なんか不満でもあるのか!?

 いやたしかに私も自己中であることは自覚してるけどさ! でもその冗談だろみたいな顔やめて! 地味に傷つくから!

 

「話を戻すぞ。まずは撃つ前のモーションだ。回転をして、俺の合図でボールを真正面から捉える練習から始めようと思う」

 

 基礎中の基礎だね。デスゾーンはまずこれができなきゃボールに力を注ぐことも、蹴ることもできない。

 しかしこれは基礎だが、その難易度は思った以上に高い。彼らはそれを思い知ることになるだろう。

 

 鬼道君は回っている際中に三からカウントダウンをし始め、それが切れた時に合図を出す。しかし土門も円堂君もボールがある方とはまったく違う方向に向いていた。

 対する鬼道君は一見成功したように見えるだろう。その体はボールへと向けられている。でも、私には彼の体が若干傾いているのがわかった。

 

「全員失敗だね。円堂君と土門はもう一度同じことを。鬼道君は数センチずれてる部分を調整しよう」

「鬼道のでも失敗なのか。本当にこんな細かい修正が必要なのか?」

「必要だね。デスゾーンは意思統一によって生まれるシュート。そのあり方は数学的で、少しでもデータが違えば全体の歯車が狂っちゃうようになってるの」

 

 だから個人的に言っちゃえば、雷門に最も似合わないシュートだと私は考えている。帝国の強みが組織化した連携であるとするなら、雷門は個性のぶつかり合いだ。デスゾーンはその強みを消し去ってしまう。

 しかしあの鬼道君のことだ。何か考えはあるのだろう。私が今すべきなのはただ見守るだけ。

 

 円堂君たちは再び回転を始め、そしてカウントダウンが繰り返される。

 3……2……1……。

 ゼロになった時、鬼道君以外はまたもや別の方向を向いていた。

 やはり一回や二回じゃ無理か。でも難しいのはわかってたことだ。今はただ数を重ねるのみ。

 

 

 こうしてこの練習は一時間ほど続けられた。

 進捗はだいぶ良くなっている。まだまだ荒削りだけど、帝国が完成に一ヶ月かかったことを考えれば出来過ぎなくらい上出来だ。

 

「3……2……1……0!」

「よしっ」

「おととっ……どうだ!」

「おまけの合格ってところだな」

 

 円堂君が若干ふらついてたけど、角度はしっかりしているしまあ大丈夫だろう。鬼道君と土門は言わずもがなだ。鬼道君は苦笑して合格を告げる。

 あとは実際に撃つのみだ。

 

 不意に気配を感じて振り返る。見覚えのある人たちがこちらに歩いてくる。

 

「やってるな鬼道」

「佐久間、源田、それにみんな……来てくれたか」

「なんで帝国のみんなが?」

「俺が頼んでおいたんだ」

「ああ。デスゾーンを完成させるんだろ? 俺たちにも協力させてくれ」

「っ!? 佐久間が普通に話してる……!?」

 

 あのヤクチュウ佐久間が!?

 ババっと源田の方に振り向く。彼はグッと親指をサムズアップして、やり切ったような顔をする。

 

「ああ! 最新のリハビリとたゆまぬ努力によって、佐久間はペンギン中毒から脱したんだ!」

「すごーい! 最新リハビリすごーい!」

「……お前たちは俺をなんだと思ってたんだ?」

「ヤクチュウ」

「短気矛盾厨二病ヤクチュウ障害者」

「後者が酷すぎる!?」

 

 ガクリと崩れ落ちる佐久間。

 いや、今までの行いを自分の胸に手を当てて振り返ってみなよ。私ですらドン引きしたんだからね? そりゃ源田の反応もこうなる。

 

「おい……俺たちに何か言うことがあるんじゃねえのか?」

「あれ辺見、生きてたの? てっきり死んだものだと」

「勝手に殺してんじゃねえ!? ていうかあれわざとか!? 俺の怪我だけ源田レベルで重傷だったの絶対わざとだろ!?」

「ちっ、バレたか。こうなったら山に埋めるしか……」

「本人の前で殺害計画立ててんじゃねえ!」

 

 まったく、相変わらずうるさいやつだ。バカは叩いただけじゃ治らないらしい。そういう意味じゃボロいテレビ以下だね。

 

「なえを前にしても意外に冷静なんだな」

「ああ。正直俺たちはもうそれほどなえを気にしてないからな。あいつの性格はわかってるつもりだし、チームに引き止められなかったのは現状に心のどこかで満足して停滞していた俺たちの責任だ」

「佐久間……」

「試合を見ればわかる。あいつが身を粉にしてプレイするなんて滅多にないことだ。やっぱり雷門はいいチームだな」

「……ああ」

 

 なんか鬼道君たちが気になることを言ってる気がするけど、目の前の辺見がうるさくて聞き取りづらい。いい加減煩わしくなってきたのでボディブローを叩き込んで眠らせておいた。

 

「んで鬼道君。なんのために帝国のみんなを?」

「ふっ、試合さ」

「試合?」

「そうだ練習試合だ。時間がないのもあり、デスゾーンは実戦形式で習得することにした」

 

 実戦とはこれまた急だ。でもこのデスゾーンが完成したあとにもう一段階レベルアップさせることを考えればたしかに時間は惜しいのかもしれない。

 しかし土門は不安げな顔をする。

 

「おいおい、大丈夫なのかよ。いきなり実戦だなんて」

「本当の試合じゃなきゃわからないこともあるさ。それに俺、帝国のやつらともう一回試合できるって、スッゲーわくわくしてんだ!」

「おっと言い忘れていた。ここにいる全員は帝国側に入ってもらう」

「へっ?」

 

 それから数分ちょっとあと。

 グラウンドには帝国ユニフォームに着替えた私たちがいた。

 

「なんというか……似合わないね円堂君」

「今思えばなえもあんま似合わないな。主に髪の色とか顔とかがさ」

「むぐっ、地味に気にしてたことを……」

 

 帝国のユニフォームは渋い深緑色だ。それに派手な私のピンク髪が混ざると……なんというか、残念美人に見えるらしい。

 ちなみに土門は見事に着こなしていた。あのヒョロガリで悪役っぽい体と顔が見事にベストマッチしている。さすが元スパイ。

 んで、肝心の鬼道君はトレードマークの赤マントを付けている。以前なんでマントの色を変えたのか聞いたら気分だって言われたのを思い出した。

 

 フォーメーションは、佐久間と寺門の位置に円堂君と土門を入れたようなものだ。佐久間はまだ怪我が治ってないらしく、プレイは無理らしい。そこに関しての責任は彼自身にあるので仕方がないだろう。

 

 試合が始まった。隣にいる円堂君からのボールをバックパスし、鬼道君に渡す。そして帝国イレブンは彼を中心に走り出す。

 一方雷門側では一之瀬がブロックしに上がってくる。

 

「一度君とは本気でぶつかってみたかったんだ鬼道! ——フレイムダンス!」

 

 妙な逆さ踊りから発生した炎の鞭が伸びる。

 それに対して鬼道君は——視線も合わせずにアウトサイでの横パスを出した。そこにちょうどいいタイミングで洞面が走り込み、一之瀬を突破する。

 

「相手も見ずにパスをした!?」

 

 一之瀬が驚いてるけど、別に不思議なことじゃない。

 鬼道君には帝国イレブンのすべての情報が頭に入っているのだ。そこに彼らとの絆があれば、あんなプレイもたやすい。

 

 洞面は円堂君にパス。しかしそれを塔子がカット。その後息つく間もなく、辺見がマシンガンのように何度も足を突き出しながらスライディングをする。

 

「キラースライド!」

「うわっ!」

「ナーイス辺見! こっちこっち!」

「ちっ、おらよ!」

 

 辺見からのパスを受け取った私は一気に駆け上がる。

 嫌な言い方だけど、今の雷門に私を止められるディフェンスはいない。私は持ち前のスピードでグングン雷門コートに侵入していき、あっという間にコーナ近くまでたどり着いた。

 しかし、これはあくまでも実戦形式の『練習』だ。横に視線を向ければ、鬼道君たちが三角形状に並びながら上がってきていた。

 

「今だよみんな!」

「いくぞ、デスゾーン開始!」

 

 鬼道君がボールを蹴り上げると同時に三人は跳躍。空中で同じ速度で回転し、紫色のエネルギーを生み出していく。そして三人が踏みつけるようにシュートを放つ。

 しかしボールを覆っている紫のオーラは、途中まで進むと煙のように掻き消えてしまう。

 

「シュタタタタタン、ドババババーン!!」

 

 うん、ださい。

 立向居は目を瞑っていながらも、その手をシュートに向けてキャッチすることができた。

 だけどあれは……必殺技じゃあない。立向居曰くムゲン・ザ・ハンドは心眼……つまりは目で見ずにボールを見切る力を習得する必要があるとのことだったけど、どうやらそれだけじゃダメなようだ。

 

 そして円堂君たちの方も問題が発生している。

 私が見る限り、さっきの回転の連携は今までで一番いいものだった。タイミングもバッチリ。なのにデスゾーンが発動していない。

 鬼道君にもわからないのか、理由を聞かれてもだんまりとしているままだった。

 

 結局その後、何度も彼らはデスゾーンとムゲン・ザ・ハンドを試していったが、一向に成功せず、そのまま前半が終了してしまった。




 はい、久しぶりの辺見登場です。やっぱいじりがいのあるキャラは書いてるだけで楽しいですね。

 そしてご報告です。諸事情で10月の中旬あたりまで投稿をお休みします。まあ諸事情と言っても、これからしばらくリアルが忙しくなるというだけなんですが。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
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