悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:キメラテックパチスロ屋
それは突然のことだった。
帝国学園での練習中、太陽の光に照らされて何かが一瞬輝く。それがなんなのかと目を細め——そして見開いた。
グラウンドの中心に
いきなりの出来事で全員が目線を集中させる。
私には何が落ちてきたのか見えていた。
——赤と青のエイリアボール。
『我らはカオス!!』
「猛き炎『プロミネンス』と——」
「深淵なる冷気『ダイヤモンドダスト』の融合チーム!」
砂煙を吹き飛ばし、現れたのはバーンとガゼル。二人はそれぞれのイメージカラーを組み合わせたようなユニフォームを身にまとい、並び立っている。
それに続いて、ダイヤモンドダストとプロミネンスらしきメンバーが同じものを着て現れる。
「マスターランクチーム二つの……混成チーム!?」
「俺たちの勝負を受けろ雷門中!」
「宇宙一が誰なのか決めようじゃないか!」
「っ……監督!」
円堂君は瞳子監督の指示を仰ぐ。彼女は数秒間目を閉じたあと、静かに頷いた。
了承か。やるしかないのはわかってるけど、予告もなしに突然来るなんて迷惑なやつらだ。
……まあ、面白そうだからいいけどさ。特に、ガゼルには前回の借りを返すチャンスだ。
「それにしてもバーン、意外だね。あなたはもっと自分に自信があるタイプだと思ってたんだけど」
「悪りぃがこっちも手段を選べなくなっちまってな! 仕方なくってやつだ!」
「おいバーン、あまり喋りすぎるな」
仕方なく? 彼らも手を組むのは不本意ってことか。どうやらやっこさんの組織でも変化があったようだ。
こういう暗部組織でよくある理由の一つとしては……。
「——リストラとか?」
「っ、テメェ!」
「アハハハッ、図星なんだ! 道理で頭のチューリップが元気ないと思った! アハハッ!」
「俺の頭はチューリップじゃねぇ!」
可哀想に。とうとう切り捨てられてしまったのか。私は思わず涙を拭った。笑いすぎて流れてしまったのを。
「落ち着けバーン。相手はお前を怒らせて情報を得ようとしているだけ。今はこいつらを打ち砕いてジェネシスの称号を奪うことだけを考えろ」
「……ジェネシス? グランのチームのこと?」
「ガゼル、テメェもペラペラ喋ってんじゃねぇか……」
前回の試合では熱くなりすぎるあまりポカしてた印象の凍てつく闇さんだけど、別に冷静な時でもドジらないというわけじゃないらしい。
なんかそう思うとチューリップの方がマシな気がしてきた。
それはそうと、彼らはジェネシスの称号を奪う、と言っていた。
そのジェネシスってのがグランのチームのことなら、彼らはもしかしてグランと戦おうとしているのか? んで、私たちはその前哨戦だと。
むーん、これ以上情報を集めるのは難しそうだ。
「改めて、勝負だ雷門中!」
「ああ! ダイヤモンドダストだろうがプロミネンスだろうが、まとめて勝ってやるぜ!」
円堂君が啖呵を切って見せる。
その後全員が準備を整え、それぞれのポジションについた。
今回は円堂君のリベロ運用初の実戦だ。
とはいえ、彼については特に心配はない。強いて言うならスタミナ切れにならないかというだけだけど、走り込みは散々やってたし、大丈夫だと思おう、
それよりも心配なのは
そう、デスゾーンを進化させたあの技はもう完成している。威力も私や豪炎寺君に並ぶもので、撃てれば点を決めることもできるだろう。
相手は一度戦ったダイヤモンドダストが合併されているので、間違いなく私たちフォワード陣の動きは読まれる。そうなれば彼らが頼りだ。
私のキックオフ。アフロディにボールが渡り、試合が始まる。
「一之瀬君!」
「塔子!」
囲まれないようにパスを回しながら前へ進んでいく。
塔子は目の前にいるのがドロルであると見るや、突っ込んでいった。
前回の試合のデータから、自分でも抜けると思ったのだろう。実際私もその判断を下し——直後、それが間違いであることを悟る。
「お前の力は知ってるんだよ!」
「ほう、是非とも教えて欲しいな」
「っ、速っ!?」
塔子はフェイントをかけようと一瞬だけ足を緩める。その時にはもうドロルは塔子の間近にまで肉迫していた。
彼女は驚きで動きを止めてしまい、その隙にあっさりボールを取られてしまう。
「な、なんで!? 前はこんなに速くなかったのに!」
まずは落ち着かなきゃ。
ディフェンスがボールを失ってしまったのは痛い。このままでは一気に攻められてしまう。
しかし元ディフェンスというのもあってか、予想以上に土門の戻りが早かった。その長身でプレッシャーをかけながら、タックルをしかけようとし——流れる水のような動きで股の間を通り抜けられた。
「な、なんだよあの動き……」
「間違いないっ。やつら、以前よりパワーアップしているぞ!」
マジかー。歓喜とともに冷や汗が背中を流れる。
強いのは歓迎するけど、問題はそっちではなく強くなる速度だ。あれから少ししか経ってないはず。いったいどんな鍛え方をしたのやら。
……いや、エイリア石か。あれのエネルギーを使ったのなら全ての辻褄が合う。
「行かせないッス!」
「ガゼル様!」
「逆……!?」
ドロルは壁山を引きつけたあと、前線に上がってきていたガゼルにパスを出した。
だけど、それくらいは見越してるんだよ!
全速力でガゼルに追いつき、その勢いのままスライディングをする。
トラップをしようと体の動きを止める一瞬がチャンス。
しかしその機会は訪れることはなかった。
なぜならガゼルがボールをダイレクトで撃ち返したからだ。
「へっ、テメェにも見せてやるよ! 紅蓮の炎ってやつをなぁ!」
その軌道の先にはバーンが。
裏の裏を読まれた……!
もはや間に合わない。ボールが上に打ち上げられ、そこで太陽にも似た炎の塊が開花する。
バーンはそれをオーバーヘッドキックで雷門ゴールへと落とす。
「アトミックフレアV2!!」
凄まじい勢いで燃えるシュートが放たれる。
沖縄で見た時よりもパワーアップしている。チリチリと熱で焼ける肌と炎の大きさからそれを悟った。
「真マジン・ザ・ハンド!!」
円堂君のとは違った、青色の魔神が出現する。
円堂君がキーパーをやっていた間、立向居も頑張っていたのだ。その成果がこのマジン・ザ・ハンドと言えるだろう。
だけど、バーンの相手をするには荷が重すぎた。
魔神は焼き尽くされ、あっさり消滅。そして遮るものが何もなくなったシュートがゴールネットを焦がした。
『ゴォォォォル!! 開始数分で先制点はカオス! なんという強さだァ!!』
「まあ、ざっとこんなもんよ」
「ぐっ……! 皆さん、すいません……!」
彼は沈んだ表情で俯いてしまっている。フォローは円堂君に任せるとしよう。彼ならきっと元気付けられるだろうし。
問題はどうバーンに、いやバーンとガゼルの二人に対抗するかだ。
たぶん二人は同じくらいの強さと思っていいだろう。つまり今の立向居じゃどうやっても二人のシュートを防ぐことはできない。
一応『ムゲン・ザ・ハンド』にすがるって手もないわけじゃないけど……練習でできないことを本番で期待するのは愚かってものだ。そんなことができるのは円堂君ぐらい。
「いいか、シュートを撃たせるな! ガゼルとバーンは徹底的にマークするんだ!」
鬼道君の指示が飛んでくる。
どんなに強力な大砲でも弾がなければ撃つことはできない。それと同じで撃たれる前に封じてしまおうって寸法か。
正直難しいと思うけど、やるしかないか。
二回目のキックオフ。今度は最初から全力で行く。豪炎寺君とアフロディにアイコンタクトを送り、私たちは同時に走り出した。
『雷門中、スリートップの華麗なパス回しが光る! カオスの選手を全く寄せ付けていないッ!!』
「フローズンスティール!」
「なえっ!」
ドロルが『フローズンスティール』を!? あいつ、前の試合じゃ使ってこなかったのに!
どうやらパワーアップしているのは身体能力だけじゃないらしい。この分じゃ他のメンバーも技を習得していると見ていいだろう。
しかし豪炎寺君は冷静にスライディングが来る前にパスを私に出した。
「イグナイトスティール!」
「っ、こっちもかっ! ——アフロディ!」
受け取ろうとした瞬間、大きな眼鏡とリボンをつけた小柄な少女——バーラが火を噴きながらスライディングしてきているのが見えた。
フローズンスティールと対をなす技か。
仕方がない。胸トラップを諦め、その場でバク宙。そしてスライディングを避けると同時に逆さになりながらアフロディにパスを出す。
彼の前のディフェンスは少ない。チャンスだ。
アフロディは自身の十八番の技を見せつけるように、手を高く掲げる。
「ついてこられるかな? ——ヘブンズタイム」
アフロディの指が鳴らされる。
瞬間、世界は停止した。
そして気がついた時、目に飛び込んできたのは——膝をついているアフロディと敵チームの男——ネッパーがボールを持っている場面だった。
「なん……だ……!?」
「へっ、神ってやつも大したことねぇな!」
「っ、アフロディ! この!」
何が起きてるのかわからなかった。
ヘブンズタイムが破られた? どうやって?
その困惑が私の動きを遅らせる。
——『もちもち黄粉餅』。
そう叫ぼうとした瞬間には、あいつは自分のボールを両足で踏みつけていた。
「フレイムベール!」
「きゃっ!」
炎の火柱が連鎖的に噴き上がり、私は餅の鞭ごと燃やされる。
しまった。動揺しすぎた。私が行動不能になってしまったら、あの二人に歯止めが効かなくなるっ。
ネッパーのボールはバーンへ。そしてバーンはさっきのお返しとばかりにガゼルにパスを出した。
彼が刺すような笑みを浮かべ、フィールドが凍りつく。
「今度こそ教えてやろう。凍てつく闇の恐怖を! ——ノーザンインパクトV2!!」
空気すらも蹴り砕きそうな回し蹴りを受け、ボールは青い光弾となって飛んでいく。
やっぱりガゼルの必殺技も進化していたか。
立向居は再び魔神を出すも、先ほど同様なんの抵抗もできずのあっさりと吹き飛ばされる。
二失点目。ここまで十分もかかっていない。
「強い……」
思わずそう口にしてしまった。
ここまで手も足も出ないのは久しぶりだ。鬼道君もいい作戦が思い浮かばないのか、苦い顔つきをしている。
そこから先は終始カオスペースだった。
フォワード陣がボールを奪われ、バーンかガゼルにシュートを撃たれる。そして失点。これの繰り返しだ。
そして気がつけば前半残り15分で5点もの差をつけられていた。
「ダメだ……これじゃあ立向居がもたないよ!」
塔子が悲痛な感想を漏らす。
立向居はあの二人の強烈なシュートを何度も受けており、もうボロボロだ。このままじゃ確実に潰れてしまう。
そう思ってても虚しく、ボールは再びバーンに渡る。
「これで終わりだ! ——アトミックフレアV2!!」
「っ、このまま好き勝手させてたまるか!」
せめて立向居の負担だけでも減らしてみせる!
そう決意して太陽のシュートの前に立ち塞がり、餅の鞭をぶん回す。
「もちもち黄粉餅! ——くぅぅぅぅっ!!」
「ハハハッ、無駄無駄ァ! その程度で紅蓮の炎が止められるかよ!」
「——っ、あぁぁぁっ!!」
餅を持つ手が熱い。腕に全体重を込めて踏ん張っていたけど、耐えきれず吹き飛ばされる。
まだダメだ。威力は減少させられたけど、それでもまだ足りない。
立向居が痺れている手を構えようとする直前、一つの人影がボールの行先を遮った。
「メガトンヘッドォッ!!」
円堂君の『メガトンヘッド』が炸裂。巨大な拳は太陽に鉄拳を食らわせ、そのままもろともに砕け散った。その時の衝撃波でボールはライン外まで飛んでいき、円堂君も後ろに2、3回転して倒れる。
もともと未完成の状態でもガゼルのシュートを防げるほどの威力はあったんだ。いくらアトミックフレアが進化しているとはいえ、私が弱体化させたそれを弾けないはずがない。
でも、代償も大きい。円堂君は額を抑えたまま立ち上がろうとしない。たぶん強烈な衝撃を頭部に喰らったせいで一時平衡感覚が麻痺してしまっているのだろう。
このように、『メガトンヘッド』でのシュートブロックは円堂君にもかなりの負荷がかかる。連発するのは難しいだろう。
「円堂さんすみません、俺……」
「いてて、なーに気にすんなって。全員で守って全員で攻める。それが俺たちのサッカーだろ?」
「……はい!」
円堂君のこの根性のプレイに、みんなの瞳に闘志が宿ったのを感じる。
このチームの起点はいつだって円堂君だ。彼のプレイ一つで流れが変わる、なんて場面を私は何度も見てきた。
そして今も、風向きが変わったのを感じている。
『攻めるカオス! しかし凌ぎます雷門! バーンとガゼルを集中的にマークし、空いたスペースを円堂と白兎屋のリベロ二人が埋めることで、戦況を維持している!』
「ちっ、離れやがれ!」
「フィニッシュが分かりきっているなら対策もできるんだ!」
「俺たち雷門をなめんじゃねえぞ!」
土門、ツナミがしがみつくような勢いでバーンをマークし続けている。その動きには絶対にボールを渡さないという強い決意が込められてるのを感じる。
「っ、ヒート!」
「もちもち黄粉餅!」
餅の鞭がパスされたボールを見事に絡めとった。
すかさず前へと蹴り上げるが……。
「フローズンスティール!」
「っ、またか!」
これだ。相手の守備が固くてフォワードにまで繋がってくれない。それに円堂君や土門が防御に参加してしまっていることで責める人数が少なくなり、攻撃力が足りないのも問題だ。
だけどここで円堂君を抜いたら間違いなく今の守りのリズムは崩壊する。
「うおぉぉぉっ!」
円堂君の気合いが入ったスライディングがドロルからボールを弾く。しかし奪うまでには至らず、ボールはラインを割って出ていった。
「ハァッ、ハァッ……!」
「円堂君、大丈夫?」
「あ、ああ……まだまだいけるぜ……!」
そう言ってニカっと笑いかけてくるものの、明らかに空元気だ。
円堂君のリベロ運用には、少しだけ欠点がある。それは円堂君の前のポジションがキーパーだったということだ。
もちろん円堂君は体力作りをサボったことはないだろう。しかしキーパーは本来ゴール前で立っているもの。他のフィールドプレイヤーと比べるとあまり走らない分どうしてもスタミナ不足になってしまうのが常だ。
もちろん瞳子監督はこのことについても知っていて、必殺技の特訓の合間に円堂君に体力作りをさせていた。しかし慣れないポジションで動き回るというのは精神ともかなり疲弊してしまう。それが円堂君の体力をガリガリ削っているのだ。
長くは持たない。どうしたら……?
そう考えていると、鬼道君がこちらに歩いてきた。しかもさっきまでとは打って変わって不敵な笑みを浮かべている。
「見つけたぞ。十二分の一の休止符を」
それが何を意味するのかは私たちにはわからない。しかしその言葉を聞いて、反撃の狼煙が上がったのだと悟った。
というわけで予告もなしにはた迷惑な勢いで始まるカオス戦です。ダメGK四天王の一人が生まれた伝説の試合でもありますね。
あと前半終了近くで本来なら10点取られているのですが、なえちゃんがいることで守備が強化されて5点にまで抑えられています。
その割には今日あまり活躍してなかったな、なえちゃん。