悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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ファイアブリザード

再開はカオスのスローイングから。白髪の男ヒートが投げたボールをネッパーが受け取り、走り出す。

 土門が止めようとするが、ネッパーは眼中にないとばかりに鼻で笑う。そしてリオーネに横目を送り——少し遠くのバーラにパスを出す。

 

 ——それを予測していた私が、見事にカットしてみせた。

 

「なっ!?」

「反撃だ! 円堂土門、上がれ!」

 

 理解できないって顔してるね。それでいい。そのまま存分にリズムを乱してくれたまえ。

 

 鬼道君の合図を聞いて二人が前線へ出たか。なら、私は私の役割をこなすとしよう。

 十分に敵を引きつけ、金色のオーラを身に纏う。

 

「ジグザグストライク!!」

 

 残像が見えるほど神速のドリブル。近づいていた三人を派手に抜いてあげた。そのまま味方すら置き去りにして一人突っ込んでいく。

 もちろんこの状態を長く維持できるわけじゃない。それは前の試合を経験しているダイヤモンドダストのメンバーにはバレてしまっているのだろう。私のオーラが消えたと同時に、相手ディフェンスの巨漢ゴッカがこの試合で見たどれよりもキレのよいスライディングをかけてくる。

 

「真フローズンスティール!!」

 

 っ、想像よりもずっと速い。雪掻車が向かってくるようだ。

 回避は間に合わない。このままじゃ私の体ははねられ、宙を舞うことだろう。

 まあ、もちろんそんな目に合うつもりはないけど。

 判断は一瞬。私は後ろも見ずにヒールでバックパスをする。

 途端にゴッカは慌てて体を無理やり逸らし、スライディングが当たらないようにする。

 

「ぐっ……!」

「惜しかったねぇ。もう少しで当たったのに」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、ケラケラ笑って彼を見下ろす。

 ボールを持っていない相手にスライディングすれば間違いなくファールとなる。今回の場合は相手がスライディングするのと私がパスを出すタイミングがほぼ同時だったので、ファールになるかどうかは曖昧だが、たとえそうであっても相手はそのリスクを避けるはずだ。

 なにせ、ペナルティエリア内でのファールはPKのチャンスを相手に与えることになるんだから。

 だからゴッカは最悪の事態を避けてスライディングを中断したってわけ。我ながらあったまいいー。

 

 バックパスした先には鬼道君たちがいた。

 彼がボールを蹴り上げると同時に三人が跳び上がり、回転しながら三角形の魔法陣を形成。そして三人でボールを踏みつける。そこまでは同じだ。

 しかしボールは発射されず、闇色の巨弾となってその場にとどまった。鬼道君たちはそれを足場にさらに跳躍。縦に一回転して、再びボールを蹴る。

 

「デスゾーンが帝国の意思統一によって生まれた技なら、デスゾーン2は個性のぶつかり合い」

「デスゾーンが足し算なら」

「俺たちのデスゾーン2は——かけ算だ!」

 

 ハイそこ1×1×1は1だとか言わない。そもそもこの数値は人数ではなくそれぞれのキック力を表しているのだ。

 たとえば土門が3で円堂君が5、鬼道君が6とする。足せば14、かければ90。実際そこまで威力が上がることはないだろうけど、彼らが言いたいのはこんな感じのことだろう。

 

『デスゾーン、2ッ!!』

 

 紫電を発しながら巨弾が進んでいく。

 見るだけでデスゾーンとは比較にならないほどのエネルギーを秘めているのがわかる。

 敵キーパーのグレントが両手に炎を纏わせているが、このシュートを前にしては吹けば消えるロウソクの灯火程度の迫力しか感じられなかった。

 

「バーンアウトォォッ!! ——ごあっ!?」

 

 いや名前。

 チューリップ味方にも嫌われているのか。仮にも君らのキャプテンでしょうに。

 そんな色々突っ込みたくなる必殺技を放ったグレントだが、あっけなく吹き飛ばされ、デスゾーン2がゴールネットを大きく揺らした。

 

 ようやく1点返せたか。

 バーンとガゼルはわずかに顔をしかめるものの、それ以上表情を変化させることはなかった。『たかが1点』やら『マグレ』やら、そんな言葉が聞こえたので、あまり気にしてはいないのだろう。

 バカな人たちだ。サッカーにマグレなんてものはないのに。たとえ奇跡のように見えても、それは全員が必死になったからこそ起きた必然の現象なのだ。

 それを思い知らせてあげるよ。

 

 キックオフ早々、バーンは単独で上がっていき、雷門コートを半分ほどまで進んだところで跳び上がった。

 炎がボールを包み、太陽へと姿を変えていく。

 

「どうせ止められやしねぇんだ! どこから蹴ろうが同じだよなァ! ——アトミックフレアV2!!」

 

 凄まじい熱気を放ちながら落ちてくる太陽。

 たしかに『マジン・ザ・ハンド』ではこの距離でも入れられてしまうことだろう。

 だけどね、彼らは知らない。試合の中でも常に進化し続ける雷門の底力を。

 

「見えた……聞こえた……!」

 

 立向居の両手が光を発しながら掲げられ、それが頭上で柏手を打つ。すると神々しい光が彼の背後に満ちた。その光は徐々に人の腕を形作っていく。そしてその中から四つの手が勢いよく伸びる。

 

「ムゲン・ザ・ハンドッ!!」

 

 手は細いように見えるのに、アトミックフレアをしっかりと掴んだ。太陽は突破しようともがいているように見えるが、手たちはびくともしていない。それどころかその手の凄まじい握力によって、太陽は次第に押し潰されていく。

 そうやってシュートはどんどん勢いをなくしていき、最後には立向居の手に収まってその動きを停止した。

 

「なんだと……!?」

 

 ふっ、見たかバーン。これが雷門の実力だ。

 立向居が嬉しそうにボールを掲げている途中で前半終了のホイッスルが鳴った。

 戦況はまだまだ不利。しかしみんなの目に不安はない。

 それを頼もしく感じながら、ベンチに戻った。

 

 

 ♦︎

 

 

「休止符?」

「音村風に言うのならば」

 

 ハーフタイム中、鬼道君はみんなを集めてさっきの逆襲劇のネタバレをし出した。

 彼は目をカオスのネッパーに向ける。

 

「あのミッドフィルダー。あいつはダイヤモンドダストのメンバーを完全に無視している。それによって二チームの間で亀裂が生じかけているんだ」

「えーと、じゃあ……どうすればいいんだ?」

 

 円堂君の質問に思わずズッコケる。

 

「つまりね、ダイヤモンドダストのメンバーは同じダイヤモンドダストのメンバーに、プロミネンスのメンバーも同じプロミネンスのメンバーにしかパスを出さないってことだよ」

「なるほど! じゃあその裏をかけば……!」

「そゆこと。ネッパーをカモにしてどんどん亀裂を広げていってあげればこの試合、勝てるよ」

 

 えげつない戦法とか言わないでよ。サッカーは戦闘。調整不足の武装で戦場に赴いてきた向こうが悪いんだから。

 これを聞いた一部の人は非難するかもしれないが、ここにいる全員は一流のサッカー選手。策があるのに使わないのは優しさではなく侮辱であることを理解しているらしく、反対意見は一つもなかった。

 

「後半は僕たちフォワードの出番のようだね」

「ああ。円堂たちに撃たせてばかりではいられない」

「ふふっ、負けないよー?」

「それと立向居も、ゴールは任せたぜ」

「はいっ!」

 

 ホイッスルの音がちょうど聞こえてきた。私たちはコートをそれぞれ入れ替え、ポジションにつく。

 そして試合が再開した。キックオフのあと、カオスはバックパスでネッパーにボールを渡した。さっそくチャンス到来だ。

 鬼道君がチャージをしかけに行くと、彼はすぐにパスをヒートに出した。すぐ近くにリオーネがいるにも関わらず。

 

「ふっ」

「なにっ!?」

 

 もちろんそれは私によって回収される。

 そのまま走っていると、バーラとクララの二人が近づいてきた。しかしタイミングはバラバラで、連携して動いている感じじゃない。まるで功を争っているようにも見える。

 そしてそこに隙がある。

 

「アフロディ!」

 

 私は素早く切り返して、逆サイドにいるアフロディにボールを渡した。バーラとクララはそれぞれ左と右のディフェンスなのだ。どちらか片側に偏れば、当然逆サイドに穴が空く。

 アフロディは神々しい翼を生やし、宙へ浮かぶ。そしてかかと落としをボールにくらわせる。

 

「ゴッドブレイク!」

「バーンアウト!」

 

 無駄だ。デスゾーン2の時と同様、グレントは弾かれて、ボールがゴールに入った。

 2点目。だけど雷門の勢いはそれで止まらなかった。次々とゴール前でシュートが炸裂していく。

 

「爆熱ストーム!」

 

 豪炎寺君の炎がゴールを燃やし、

 

『デスゾーン2!!』

 

 鬼道君たちの魔弾がネットを貫き、

 

「これでイーブン! ムーンライトスコール!!」

 

 私の光の雨が、試合を同点へと導いた。

 

『ゴール! 同点、同点です! 雷門の怒涛の逆襲に、カオスはついていけていないィ!』

 

「戦況は5対5。残り時間もまだ半分残っている。十分勝てるよ!」

 

 ここでようやく勝てるという実感が湧いてきたらしく、みんなのほおがわずかに緩み始める。しかし私や鬼道君などの一部のメンバーは、今の戦況を楽観視していなかった。

 たしかに今のカオスはバラバラだ。突き崩すのは容易いだろう。だけど()()()()()が仲違いしていない。

 バーンとガゼル。炎と氷という一見性格も含めて相性の悪そうな二人には、予想外にも互いを責め合う様子は微塵も見られない。それどころか何か策を思いついたようで、二人は長年付き添った相棒のように横一列に並ぶ。

 

 私はなんとなくだけど、彼らが喧嘩しない理由がわかってしまった。

 要するに彼らも一流のサッカー選手ということなのだ。たとえ過去どんなに憎み合っていたとしても、同じユニフォームを着てフィールドに立ってしまえば私情を捨てて連携することができる。前試合でアフロディと私たちが協力したように。

 

 そしてそういう選手は例外なく強い。……あの厨二病二人組を認めるのはしゃくだけどね。

 だから私は、ホイッスルの音が鳴ると同時に飛び出して、青い衝撃波の壁を足から放つ。

 

「スピニングカットV3!」

 

 二人の姿はあっという間に見えなくなった。

 不意は突いた。これで吹っ飛んでくれればそれでいいんだけど……やっぱそう簡単にはいかないよね。

 青い壁は直後爆発するように消し飛び、奥から無傷の二人が歩み出てくる。

 

「おいおい、ずいぶん余裕がなさそうだな。ハナからこんなもんぶっ放してくるなんてよ」

「こんな小細工、通用すると思っていたのか?」

「いやー、なんかヤバげな雰囲気感じ取ったからさ。早めに潰しておこうかなって思って。いやー失敗失敗」

「……ムカつく女だが、やっぱテメェは面白ぇっ、ぜ!!」

 

 バーンが言い終えるよりも先に私は動いていた。

 ——『真クイックドロウ』。

 瞬間的に加速した私はボールを掠め取ろうとそれに触れようとし——二人の蹴りによって、体ごと後ろに吹っ飛ばされた。

 

 っ、不意打ちはもう通用しないってことねっ。

 空中で一回転して体勢を立て直したあと、両足と片手を同時に地面に着けて着地する。

 その時には、バーンは自分のボールを両足で踏みつけていた。

 

「フレイムベールV3!」

「ひょあっ!? ……あっぶなっ」

 

 他の人たちとは速度も大きさも違う火柱を、横に飛び込むようにしてなんとか回避する。

 反撃しようと前を見たところ、何故かバーンの足元にはボールがなかった。まさか……。

 

「ウォーターベールV3!」

「やばっ……!」

 

 あ、だめだわこれ。

 さすがの私も今回ばかりは避けられる体勢じゃない。高圧の水を全身に打ち付けられ、痛みとともに私は地面に転がる。

 その後も二人は荒々しくも完璧な連携で次々と雷門ディフェンスを突破していき、遂にはゴール前に並んでしまった。

 

「いくぞバーン!」

「おうガゼル!」

 

 ボールを天空に打ち上げると、二人は同時に天高く跳び上がり、横一列に並ぶ。

 まさか……!?

 バーンはその右足に荒れ狂う炎を、ガゼルは左足に吹き荒れる氷を、それぞれ纏う。

 そしてその二つの天災が、融合した。

 

「これが我らカオスの力!」

「宇宙最強チームの力だ!」

 

『ファイアブリザードッ!!』

 

 反動で体が半回転してしまうほど強く、同時に二人はボールを蹴った。

 瞬間、対極な二つのエネルギーが衝突し、衝撃波が辺りを襲う。それでも二つの属性は互いに打ち消し合うことなく見事に混じり合い、螺旋状にボールを覆いながらかつて見たことない勢いでゴールへと落ちていく。

 

「ムゲン・ザ・ハンド! ……うぐあぁぁぁぁぁっ!!」

「っ、立向居ぃぃぃ!!」

 

 立向居の『ムゲン・ザ・ハンド』が発動。しかし無意味。四つの腕は一瞬で砕け散り、立向居を容易に吹き飛ばして、破る勢いでゴールネットに突き刺さった。




 ファイアブリザードは個人的にトップクラスに好きな技です。なんというかこう……ロマンがありますよね。好き過ぎて3じゃストーリークリアする前に二人とも真に進化するほど使ってた記憶があります。
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