悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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氷の上の炎を消す

 炎と氷の螺旋が、ゴールをえぐった。

 逆転の兆しが差した矢先の出来事。円堂君によって起こされた立向居は幸い重傷を負ってはいないようだが、それでもその両手が痺れで震えているのが見えた。

 

「すみません、せっかくの逆転のチャンスだったのに……」

「また取り返せばいいんだよ。気にすんなって」

「……いや、どうもそう簡単にはいきそうにないようだよ」

「えっ?」

 

 みんなの問いかけを無視してカオスのメンバーの方を指差す。

 いがみ合っていたはずの選手たちも先ほどのシュートに驚愕したようで、皆呆然としている。もちろんその理由はこちらとは違うようだけど。

 

「バーン様とガゼル様が……」

「二人でシュートを撃った……?」

「俺たちは何をやっていたんだ……チームメイト同士で仲違いするなんて……」

 

 二人の協力する背中を見て、彼らも気づいたのだろう。もはやプロミネンスだとかダイヤモンドダストだとかにこだわっている場合ではないと。それよりも先にやるべきことがあると。

 彼らはそれぞれ無言で目線を合わせる。

 ……雰囲気が変わったね。

 

 雷門ボールでキックオフ。バックパスで鬼道君にボールを渡し、前へ出る。

 鬼道君は一之瀬にパスを回そうとする。

 が、今まで以上の速度で走ってきたドロルにカットされてしまった。

 それを見たディフェンス陣はすぐさまダイヤモンドダストのメンバーをマークする。だけどドロルがパスを出したのはネッパーだった。

 

「なっ!?」

「上がれネッパー!」

 

 まずい、見事に逆を突かれた。ネッパーはフリーのままだ。

 リズムが変わったと確信した時点で、私は踵を返して雷門コートへと走る。

 

 ネッパーの能力の高さを危険視したディフェンス陣が彼を取り囲む。しかし周りはまだ新しい敵のリズムを把握していないらしく、プロミネンスのメンバーだけをマークしようとする。

 

「ダメだ! ダイヤモンドダストをフリーにするな!」

「遅い! ……リオーネ!」

 

 鬼道君が忠告するも、間に合わなかった。

 またもやディフェンス陣は逆を突かれてリオーネにボールが渡る。その彼女もすぐさま上へ蹴り上げた。

 そこに待ち構えているのは、もちろんあの二人だ。

 

「もう1点目!」

「これで終わりだ!」

 

『ファイアブリザ——』

「させるかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 二人が跳び上がると同時に私も跳躍。雄叫びを上げて死に物狂いでボールに飛びかかる。

 ファイアブリザードを止めるのは現実的じゃない。ならば撃たれる前に止めるしか防ぐ手段はない!

 失敗したらあのシュートを超至近距離で受けることになり、さすがの私もただじゃすまないだろう。下手したら再起不能になるかもしれない。

 しかし私は、それでも、ボールしか見ていなかった。

 時間がやけにゆっくりしてるように感じられる。スリルの中で研ぎ澄まされ過ぎた感覚が一時的にそうさせているのだろうか。

 そんな考えは浮かぶと同時にすぐに消える。

 どうでもいいことだ。この体の奥底から湧き上がる熱に比べたら。

 

 一瞬彼らと目が合う。

 なにさ、そんな化け物を見た顔をして。

 なんで笑ってるのかだって? 

 ふふっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ。

 

 そうして、私の伸ばした足が、ボールを弾き飛ばした。

 

「アァフロディィ!!」

 

 もはやシュートのような勢いで、ボールは前線へ飛んでいく。それを見送ったあと、私たちはほぼ同時に着地した。

 二人の目つきは対照的だった。ガゼルは冷たく睨み付けてきており、逆にバーンは燃え盛る炎の如く顔を激しく歪めてこちらをガンつけてきている。

 

「予想以上に……狂っているな」

「月を見上げる兎とて、理性のない時もあるってね」

「テメェ……こんなバカげた真似、いつまで続けるつもりだ!?」

「いつまでもだよ。少なくとも、この試合が終わるまでは。私は貴方たちが空へ上がるたびに、そのことごとくを撃ち落としてあげる」

「上等だァ! 次はその生意気な面ごとぶっ飛ばしてやる!」

 

 私はまだ大丈夫だ。こうやって冗談が言えてるってことはまだ余裕がある証拠。

 

 そうやってしばらく睨み合ってたら、アフロディがボールを取られた。連携ができるようになったことで、攻撃だけでなく防御力も自然に上がったか。

 二人が動き出したのを見て、私は再度身構えた。

 

 

 ♦︎

 

 

「真イグナイトスティール!」

「真フローズンスティール!」

「うわぁぁっ!!」

 

 炎のスライディングを避けた先で氷のスライディングをかわしきれず、アフロディが吹き飛ぶ。

 それを為したのは二人の巨漢、ゴッカとボンバ。ゴール前で並び立つその姿は山のようで、とんでもない威圧感があった。

 

「アフロディ、大丈夫か?」

「あ、ああ……とんでもないスピードと連携だ。あれを破るのは容易ではないだろうね」

 

 豪炎寺がアフロディを引き起こす。

 彼は痛みに顔をしかめながらも、率直な感想を述べた。

 一つを避けても次がすぐに来る。しかもその時のタイムラグはほとんど一瞬だった。よほど互いの実力を把握してなければできない連携だ。二人は思わず今戦っているチームが果たして前半と同じものなのか疑いたくなった。

 

「そのディフェンスを崩せそうな人物に心当たりはあるんだけど……」

 

 ちらりと後方を確認する。

 ゴール前でちょうど三人が同時に跳び上がったところが見えた。

 なえは真っ先にボールに追いつこうと、他を差し置いてグングン上昇していく。しかしある一定の高さまでいったところで、ボールはなぜか急に勢いを失い、下へ落ちていった。

 

「っ、回転!?」

「遅かったな! しまいだ!」

『ファイアブリザード!!』

 

 とうとう必殺技が発動してしまった。

 しかしそれで諦めるなえではない。

 

「まだまだァァッ!!」

 

 インターセプトが間に合わないと見るが否や、すぐさま体を翻して全体重を込めたかかと落としを繰り出した。そして発射されてすぐのボールの真上に直撃。

 彼女は衝撃を受けて吹き飛んだが、コースがズレてシュートはポストに当たり、誰もいないスペースに弾かれる。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 なえは見るからに疲弊していた。美しかった髪は汗で輝きを失い、乱雑になっていて、顔からも玉のような汗を大量に流している。

 当然だ。()()()このようなことをしてピンチを凌いでいたのだから。

 

「……なえは無理だ。『ファイアブリザード』を防ぐのは、発射直前の大砲に近づいて導火線を消してるようなもの。そんなことを何度もやってたら、精神も体力も持たない……!」

「それに今彼女が守備から抜けたら、あの二人を抑えられる者がいなくなる、か……」

 

 アフロディはしばし目を閉じて熟考する。そして覚悟を決め、目を開く。

 

「僕がやろう」

「しかし……」

「なえの次に足が速いのは僕だ。難しいのはわかっている。でもそれしか方法はない!」

「……わかった。お前にボールを集めることにしよう」

 

 豪炎寺はうなずき、持ち場へ戻っていく。

 

「みんなも僕にボールを集めて欲しい! 必ずあの守備を突破してみせる!」

 

 現状打つ手がない以上、反対する理由はなかった。

 全員が了承し、試合が再開する。

 

「もう一点取ってみせる!」

「ザ・タワー!」

 

 スローイングからのボールを受け取ったリオーネに、塔子の雷が落ちる。そしてすぐに前線で待ち構えるアフロディにパスが出された。

 

「……行くよ!」

「真イグナイトスティール!」

「っ、ふっ!」

 

 迫り来る炎を右に避ける。そしてすぐに重心を反転させ、左に飛び移ろうとし——。

 

「真フローズンスティール!」

「がぁっ!」

 

 間に合わず、間髪入れずに繰り出されたスライディングに跳ね飛ばされた。

 

「アフロディ!」

「大丈夫だ……さあ次のボールを!」

 

 心配して駆け寄ってくる仲間たちを手のひらを向けて制し、立ち上がる。

 だが状況が簡単に好転することはなかった。

 

 アフロディは何度も突っ込んでいき、そのたびにボロボロにされていく。その悲惨な光景に静止しようとする者たちもいたが、アフロディの鋭い睨みに腰が引け、結局声をかけることはできなかった。

 アフロディはなおも、必死の形相でボールを蹴っていく。

 

(円堂君は僕を闇の中から引きずり出してくれた。ならば今度は僕が、彼らを助ける番……! そのために戻ってきたんだ……!)

「ぐあぁぁっ!!」

 

 背中から地面に落ちる。もはや限界だ。そんなのは見れば誰にでもわかる。しかしアフロディはゆっくりとだが、震える四肢を支えにして立ち上がる。

 

(諦めない……っ! 円堂君はこれ以上に痛かったはずだ! なえは今も恐怖と立ち向かっている! なら、僕が立たなくてどうする……!)

 

 助けたいと初めて思ったんだ。君が僕にしてくれたように。だから走る。立ち止まってなんかいられない。

 そして地面が砕けるほど強く、地を蹴った。

 

「恩返しもできないんじゃ、神以前に人として失格なんだっ!!」

「知るか! 真イグナイトスティール!」

「っ!」

 

 ほとんどスピードを落とさず、曲がることもなくスライディングを回避する。ほぼ真横を通り過ぎた時の余波で半身の表面が焼けたような錯覚を覚えたが、止まることはなかった。

 そして二陣目。氷のスライディングが、完璧なタイミングででアフロディを襲う。

 

「真フローズンスティール!」

「っ!?」

 

 ダメだ、ターンが間に合わない。見ている全員が思った。

 しかしこの時アフロディは、自らの限界を少しだけ超えてみせる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

 

 獣のような咆哮が響いた。それはあのアフロディの口から出たもの。彼らしからぬその叫びに応えるように、ほんの僅かにだが彼の速度が上がる。

 そして凍てつく風に半身を凍らされながらも、とうとうスライディングをかわしてみせた。

 

 喜ぶ余裕も残っていない。軋む体に鞭を打って背中から翼を生やし、空へと飛び立つ。

 その後間もなく、天空から光が落とされる。

 

「これで……同点だぁっ! ——ゴッドブレイク!!」

「ぐぅぅぅおぉぉぉぉっ!!」

 

 神々しい光を帯びたボールはグレントに両手をすり抜け、ゴールに突き刺さった。

 

 

 ♦︎

 

 

「バカな……!」

「ぐっ……! なんでだ!? 俺たち二人が組んだカオスは最強のはず!」

「勝ちたいのがっ……そっちだけなはずっ……あるか……っ!」

 

 息も絶え絶えで喋るのもつらい。でも目の前にいる二人に言ってやらなければ気が済まなかった。

 

「貴方たちは確かに強いよ……! 技術もパワーも連携も、何かもが高次元だ……! だけど貴方たちは戦う理由がしょうもない!」

「しょうもない……だとぉ!? テメェに何がわかる! ジェネシスの称号は——」

「わかりたくもないね! 貴方たちはその称号ばっかり見てるせいで、私たちのことがまるで見えてない! 今の貴方たちの敵は誰だ!? ジェネシスか!? いや違う、私たちだ! あと先のことを考えるな! 今この時だけは、私たちを全力で潰しに来い!」

 

 私の叱責に二人はたじろぐ。

 前々から気に入らなかったんだ。勝って当然だというその雰囲気が。

 弱いのは罪だ。それで舐められるならいい。だけど追い上げてきてもなお、彼らは身内に目を向けることはあっても真の意味で私たちを目に入れることはなかった。

 でなかったらアフロディの成長だって頭に思い浮かぶこともできたはずだ。私たちはこの試合でも散々、進化していく姿を見せたのだから。

 

 言われて気づいたのか、二人はずっと俯いたままでいる。しかししばらくして、弾かれたかのようにバーンが自陣のコートに向かって走り出した。

 

「ぐっ……やりゃいいんだろやりゃ!」

「バーン!?」

 

 ボールの行方を目で追うと、再びアフロディが持っていた。

 一度成功した時に感覚を掴んだらしく、二つのスライディングを危なげなくかわしていく。

 そしてゴール前にたどり着いて、シュートを撃った。

 

「ゴッドブレイク!」

「バーンアウト! ぐおおおおおっ!!」

 

 さっきの再現のように、ゴッドブレイクがグレントの技を撃ち破る。しかし違っていたのは、バーンがゴール前に立っていたことだ。

 彼はゴッドブレイクの高度に合わせるように跳躍し、逆さになる。

 そして——。

 

「勝つのは、俺たちだァ! ——アトミックフレアV3ィ!!」

 

 低空ながらも、己の必殺技でゴッドブレイクをはじき返した。

 予想外の出来事に全員が固まる。その間にも、太陽はドンドンフィールドを進み続け——ガゼルの待つペナルティエリアまで来る。

 

「ガゼル!」

「ノーザンインパクト……V3!!」

 

 シュートチェイン。燃え盛る太陽を凍てつく冷気が包み込む。

 その速度と感じられるパワーはファイアブリザード並だ。私も必殺技を放とうとしたけど、間に合わずに素通りさせてしまった。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!」

 

 四つの御手がシュートを掴む。

 まずい。残り時間的にもここで逆転されたら勝ち筋がなくなる。なんとしてでも防がなきゃ。

 しかし徐々に、徐々に亀裂が走っていく。立向居は必死に堪えようとしているが、それを止めることはできない。そしてとうとう手たちは砕け散り、ボールは立向居の横を通過した。

 

 終わった。と、誰もが思った。

 彼の、あのたくましい声が聞こえてくるまでは。

 

「まだまだっ、まだだァァァッ!!」

「ザ・ウォール!」

 

 バーンがそうしたように、立向居の後ろにはいつのまにか円堂君と壁山が控えていた。

 出現した大岩がシュートを食い止めようとするが、それでもまだ足りないのか、ドンドン岩が削れていく。

 その時、円堂君が突然両手でゴッドハンドを発動させ、本体の手を壁山の肩に置いた。するとゴッドハンドの力が流れ込んでいき、ドンドン岩は巨大化していく。

 

『ロックウォールダム!!』

 

 最後の仕上げ時ばかりに二つのゴッドハンドで岩を押し広げると、城壁と言っても過言ではない壁が出来上がった。

 立向居のおかげでパワーダウンしているのもあり、今度はヒビが入っていくことはない。ボールは見る見る回転速度を落としていき、最後には弾かれて円堂君たちの足元に転がった。

 

『……と、止めたァァァ!! 円堂と壁山、土壇場の新必殺技によって、ピンチを救いました!』

 

「まったく……円堂君にはいつも驚かされるよ」

 

 呆れたような口調だけど、自然と笑みが溢れる。

 やっぱり彼はサイコーだ。私の予想を何度も覆してくれる。改めてそう思った。

 

 円堂君は私にパスを出すと、グッとサムズアップする。

 

「背中は俺たちにズバババーンと任せておけ! だから、最後は任せたぞ!」

「……うんっ!」

 

 くふふっ、そんなに期待されちゃ動かないわけにはいかないでしょ!

 私は守ることをやめ、前線へ向かって全力で走り出した。チラッと時間を見れば、今はロスタイムに突入中。たぶんこれが最後のプレーになるだろう。

 迫り来るカオスの選手たちをかわす、かわす。時には堅実に、時にはアクロバティックに、そしてまた時にはこの圧倒的なスピードで。まるで全員を抜くかのような勢いだ。

 

 そうしてたどり着いたゴール前。そこにはアフロディを負傷させた二人のディフェンスが待ち構えている。

 

「真イグナイトスティール!」

 

 迸る炎のスライディングを、私はボールを両足で挟んで、まるで水に飛び込むように体を地面と平行にして飛び越えた。

 

「真フローズンスティール!」

 

 直後に迫るのは氷のスライディング。しかしあれだけ見たんだ。そんなもの通用しないよ。

 私は両手を地面について一瞬逆立ちし、勢いを利用して腕の力で体を跳ね上げた。ハンドスプリングというやつだ。そして氷のスライディングをも軽々と乗り越えてみせる。

 残ったのはカオスゴール。その前に立っているグレントがやけに小さく見える。

 

「いい試合をありがとう。——ムーンライトスコール」

 

 閃光の雨が降り注ぐ。グレントはボールに触れることもできず、それらに圧倒されていき、倒れふす。

 そして一際大きな一筋の光がゴールを撃ち抜き、同時に試合終了のホイッスルが鳴った。




出ましたロックウォールダム。何気にゲームの両バージョンのopに登場してたのに、結局アニメでは使われることがなかった不遇技の一つですねをまあゲームでも使用条件が特殊で扱いづらかったりするんですが。

 そしてアトミックフレアとノーザンインパクトのチェイン。一度はやったことないですかね? ちなみに作者はゲーム3でこれをやって、オフサイドになった記憶がありますw 違うんや、明らかにオフサイドなのにチェインのメニューが出てくるゲームのシステムが悪いんや!
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