悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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想起

 7対6という大接戦で、カオス戦は幕を閉じた。

 私はみんなにもみくちゃにされたあと、現在胴上げをされている。

 いやー、おそらがきれいだなぁ……。

 

「うえっ、吐きそう……」

「どうして君は胴上げがそんな苦手なんだ……」

 

 はい、現在現実逃避中です。胴上げメッチャ怖い。正直今すぐやめてもらいたい。しかし嬉しそうな顔をしてるみんなに水を差すのもどうなのかと思い、我慢してるというわけ。

 自分で跳ぶ分にはいいけど、他人に飛ばされるのは苦手なのだ。

 

 しかしそんな苦痛にも似た時間は終わりを迎えた。

 グラウンドの中心にエイリアボールが落ちて、眩い白い光を放つ。その中から現れたのはヒロトもといグラン。みんなはあっと驚き、硬直する。

 ——そして受け皿を失った私は顔面から地面に激突する。

 

「もんぶらんっ!?」

『あっ……』

「『あっ』じゃないよ!? ちゃんと受け止めてよ! 今の私のトラウマ一覧に入ったからね!?」

 

 私の着地ミスのせいでシリアスな雰囲気が一瞬で消し飛んだ。グランなんてクスクスと小さく笑っている。

 笑うところじゃないぞ……!(円堂君風)

 

「ふふっ、ああごめん。あんまりにも面白い悲鳴でつい笑っちゃった。だからそんなに睨まないでくれると嬉しいな」

「よしグランよほど私のシュートをくらいたいようだね」

「勘弁してくれ。それに今日は残念だけど君たちに会いに来たわけじゃないんだ」

 

 グランはくるりと振り返ると、一気に冷たい目となって試合に負けて項垂れているバーンとガゼルを睨みつける。

 

「なに勝手なことをしているんだ……?」

「っ、俺たちは認めねぇ! お前がジェネシスに認められたことなど!」

「雷門を倒し、私たちがそれを証明してみせる!」

 

 突然のグランの質問にバーンだけでなくガゼルまでもが激昂した。しかし彼は冷えた視線で二人を見下す。

 

「往生際が悪いな。それに君たちはもう雷門に負けたじゃないか。エイリア学園で敗北は何を意味するか、わかっているな?」

『ぐっ……!』

 

 グランの言葉を聞いて、デザームの末路が頭に浮かび上がる。

 そうか、彼らもきっと……。

 楽しい試合だっただけに、少し悲しい気持ちが湧き上がったけど、それを表に出すことは決してなく、ことの成り行きを見守る。

 

 グランはエイリアボールを踏みつける。すると光を発して彼らの姿を隠し始めた。

 それを見た円堂君が慌てて彼を止めようとする。

 

「待て、ヒロト!」

「……それじゃあね、円堂君、なえちゃん」

 

 しかし間に合わず、円堂君の手がグランに触れるかどうかというところで、光が一層強くなって辺りを包んだ。眩しくて目も開けてられない。そして視力が回復したころには、エイリア学園の姿はなかった。

 

「次はいよいよ、か……」

 

 プロミネンスとダイヤモンドダスト。現在確認できている3つのマスターランクチームのうち二つを撃破した。彼らの口ぶりからジェネシスが最強であるのは確定しているし、それと並び立つことのできるチームはそう多くないだろう。つまり、次こそが最後の戦いである可能性が高い。

 

 そう思考していると、背後でドサッという何かが地面に落ちた音が聞こえた。急いで振り向くと、アフロディが倒れている。

 

「なっ、アフロディ!?」

「ごめんなえ……ちょっと限界……みたいだ……」

「っ、急いで救急車を!」

 

 春奈ちゃんが慌てて携帯を耳に当てる。

 耳を引き裂くようなサイレンの音が聞こえたのは、その数分後だった。

 

 

 ♦︎

 

 

 結論から言えば、アフロディは病院行きとなった。

 足の骨にヒビが入っているらしい。治すのには一ヶ月以上かかるので、ジェネシスとの決戦には間に合わないだろうというのが医者の見解だ。

 

 アフロディは松葉杖をついて歩き、ベンチに座る。

 今いるのはかつて染岡君とも話し合った病院の屋上だ。燃えるような夕日が美しい。しかしだんだんと太陽が沈んでいくのを見て、私の気持ちも暗くなっていく。

 

「……ごめんね。私がもっと攻撃に参加できてたら、そんな怪我しなくて済んだのに」

「君のせいじゃないさ。僕の実力不足だ。現に君はあのディフェンスを一度で破ってみせた」

「そりゃ、速さが取り柄のなえさんですから」

 

 お互いに顔を見合わせ、ふっと微笑む。

 そういえば、二人っきりで話すのはもうずいぶんと久しぶりだ。会話が少なかったわけじゃないけど、いつもはみんながいたからね。そう思うと時の流れの速さを感じるよ。

 アフロディはFFの時からずいぶん変わった。唯我独尊で自分のことしか考えられなかったのに、今では誰かのために土だらけになってでも戦っている。

 

「ねえ、私って何か成長したと思わない?」

「うーん……残念ながら背も伸びてないしね」

「ぐぬっ、そういう意味で言ったんじゃ……」

「わかってるわかってるって」

 

 アッハッハと笑うアフロディに意地悪とほおを膨らます。

 

「むー、ほらなんかあるでしょ? 優しくなったとか、思いやりが持てるようになったとか色々」

「ないよ、僕の見た限りではね。大人しく見えるのは君が雷門にいて、敵に恵まれているからだよ」

 

 厳しいことを言うねぇ。でも、たぶん正しい。

 円堂君と行動してても殺人などに関する論理感も変わってない自覚があるし。

 今の環境が最高だったから、動く必要がなかっただけで、それがなくなれば私はまた暗部の活動に勤しむことになるだろう。

 ……そしてその日は近い、か……。

 

 おもむろに立ち上がる。

 

「そろそろ行くよ」

「ああそうだ。彼によろしくと言っておいてほしいな」

「彼?」

「吹雪君だよ」

 

 ちょっと目を見開く。彼からその名が彼から出たのが意外だったからだ。

 

「シロウとそんなに仲良かったっけ?」

「いいや。ほとんど話したことはないよ。ただ僕は彼の力がジェネシス戦では必要になると思うんだ」

 

 シロウとはイプシロン戦からはあんまり話せてない。あれ以降何故だか避けられてる気がする。いつもならそんなの気にせずグイグイ質問してるところだけど、私にも彼がああなった負い目があるせいで踏み込むのを躊躇ってしまうのだ。

 

「……立ち上がってくれるかな?」

「それはわからない。ただ、人は立ち上がるたびに強くなる。帰ってきた時の彼は数段強くなっているはずだよ」

「……そっか」

 

 さすが実体験のある人の言葉は重みが違う。

 なら私は信じるとしよう。私の友達がフィールドに帰ってくることを。

 ……その前に、まずは野暮用を済ませておかなきゃね。

 屋上から飛び降りながら、そんなことを思った。

 

 

 ♦︎

 

 

 彼がなえと会わなかったのは偶然だろう。

 彼は屋上へと続く階段を一つ一つ踏みしめて上っていく。

 なぜここに来たのかはわからない。ただ今日の試合を見て、このままではいけないと思った。そしたらいつのまにかここにいた。

 会って何を話せばいいのだろうか。気弱な彼は会話はあまり得意ではない。それでも、その不安を押し除けるように扉を開き——

 

 

 ——ベンチに座っている、そう思わせた本人に声をかけた。

 

 

 ♦︎

 

 

 ——さて、とある少年の話をしよう。

 彼は全国レベルのとあるサッカーチームに所属していて、そこのエースストライカーを務めていた。彼のおかげでチームは全国大会決勝戦へと駒を進めたと言っても過言ではないだろう。それほどまでに少年は強かった。

 ……敵チームの監督から疎まれるほどに。

 そして悲劇が起きる。

 決勝当日、応援に駆けつけた少年の妹がトラックに轢かれたのだ。

 当初は事故とされたが、のちにそれは紛れもない陰謀だったことが明らかになった。

 そして少女はその日からずっと眠り続け、責任を感じた少年はサッカーをやめることを決意した。

 

 ——そして私の眼下には、その『悲劇の少女』が横たわっていた。

 

「夕香、帰ってき……」

「やあ」

「……なぜお前がここにいる?」

 

 扉を開けたまま豪炎寺君は訝しげに見つめてくる。

 まあそんな反応するか。ここはエイリア学園に狙われていた夕香ちゃんを守るための、情報がシャットアウトされた病室だ。警備も厳重で部外者はまず立ち入りすることはできない。

 私はいつもみたいにヘラヘラして答える。

 

「そりゃ、私の前のお勤め先がどこなのか知らないわけじゃないでしょ?」

 

 適当にハッキングして情報抜き取って、あとは勝手に忍び込んだに決まってるじゃん。

 それを聞いた豪炎寺君は手を顔に当てて上を向いた。

 

「夕香には何もしてないだろうな?」

「まさか。ちょこっとお話ししただけだよ。思いの外盛り上がったから疲れて寝ちゃったけど」

 

 最初は不審者ということで警戒されるかもと思ってたのだけど、雷門の試合をテレビで見てたから私が雷門メンバーであることに気づいたらしく、すぐに打ち解けることができた。

 

「それで、なんの用だ?」

「うーん、なんて言えばいいかな。今日は改めて謝りに来たんだよ」

「……夕香の事故のことなら影山の仕業だと聞いている。補佐とはいえ、お前に責任は——」

「——たとえそのトラックを手配したのが、私であったとしても?」

「っ……!?」

 

 私を気遣うような言葉が途切れた。

 豪炎寺君はその瞳に炎のような鋭い光を宿して、私を睨みつける。

 

「……なぜ、それを今?」

 

 当然の疑問だろう。今はジェネシス戦を控えている時期。普通ならここで真実を告げるのはただの自己満足でしかない。

 

「ケジメだよケジメ。たぶんジェネシス戦はみんなの心が真の意味で一つにならなきゃ勝てない。それには私のプレーだけでなく、私自身をみんなが信じてくれるようにならなきゃダメなの。あとは……もう今回を逃したら、当分は謝ることができなくなるから」

「それは……」

 

 どういう意味だと問いただそうとして、すぐにその口をつぐむ。

 賢い彼のことだ。私の事情を察してくれたのだろう。

 

「……お前のせいで夕香がどれだけ傷ついたかわかっているのか?」

「うん。謝っても許されることはないのも理解してる。だけど言わせて」

 

 ゆっくりと私は両膝を地面につけ。

 そして額を床にこすりつけた。

 

「——申し訳ございませんでした」

 

 静寂が室内を支配する。

 豪炎寺君はしばらくの間微動だにしなかった。私はその間ずっと額で冷たい温度を感じ続けた。

 やがて彼は絞り出すように、一言。

 

「……謝る相手が違うだろう」

 

 そうしてベッドを指差す。

 見上げると、眠っているはずの夕香ちゃんが心配そうな目で私を見つめていた。

 

「あはは……夕香ちゃん、もしかして全部聞いてた?」

「……うん」

「こりゃ参ったなぁ……気配察知は得意だったんだけど……」

 

 私も人の子ということか。緊張するあまり周りが見えなくなるなんて。

 夕香ちゃんは声を震わせながらも、ゆっくりと口を開く。

 

「……とても怖かったの。横からピカッて何かが近づいてきて……死んじゃうって思った」

「うん……」

「……でも、お兄ちゃんにはお姉ちゃんと仲良くしてほしいな」

「っ!?」

 

 予想外の言葉に戸惑う。

 改めて夕香ちゃんを見つめる。彼女の目には憎しみも何も映っていなくて、ただ透き通っていた。

 

「だって、お姉ちゃんはすごいサッカー選手だもん。私、何度倒れても立ち上がるお姉ちゃんを見て勇気をもらったの! だからリハビリだって頑張れるんだよ!」

「……」

「前にお兄ちゃんが言ってたの。サッカーが上手な人に悪い人はいないって。だって悪い人だったら一生懸命頑張れないもん。だからお姉ちゃんは悪い人じゃないって、夕香は思うんだ」

「私を……許してくれるの?」

「うん!」

 

 迷いなく夕香ちゃんは首を縦に振った。

 豪炎寺君は目を閉じ、しかし口は優しく三日月を描いている。

 ああ、この子はなんて優しいのだろうか……。

 胸に湧き上がる熱いものを隠すように、私は背を向けて戸を開ける。

 

「ありがとう夕香ちゃん……」

 

 私は見せられなくなってる顔を向けることなく、外へと出ていった。

 

 

 

 




 ちょこっと更新遅れました。
 11月もどうやら本当に忙しい時期が続きそうです。たぶん今月中では投稿できてあと1、2回ぐらいでしょう。
 とまあそれを置いといて、作者が書きたかった豪炎寺君への謝罪。正直言って夕香ちゃんの話は初期に軽く出ただけなので覚えている人は少ないと思いますが、それでも今後の豪炎寺との関係上無視するわけにもいかず、書きました。
 そしてアフロディの脱退。これ正直超悩みました。でもチームの構成を考えるに、アフロディを残すと一之瀬をベンチに下げなきゃいけなくなるんですよね。ジェネシス戦では連携での新技が多いので、どうしても外せないキャラが多いのです。さすがにそれはまずいと思って、結局抜けさせることにしました。
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