悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
『日本国首脳陣の皆様、そして雷門イレブン諸君、こんにちは。私は吉良星二郎。吉良財閥を導く者です。本日は私からあなた方へとあるプレゼンテーションをさせていただきます』
プレゼンねぇ。どうせロクなものじゃなさそうだ。
吉良星二郎がそう言い終えると、いくつもの画面が空中に出現する。そこに映っていたのは雷門を蹂躙するエイリア学園『ジェミニストーム』の映像だった。
……これは私も見たことがある。当時は本当に驚いたよ。あの雷門がこんなにやられるなんて、て。みんなも当時の屈辱を思い出したのか、顔を歪めている。
『さて、今日はそんな謎に包まれたエイリア学園の正体についてお話ししましょう』
「正体……?」
円堂君が訝しげな顔をする。
吉良星二郎は実際ここにいないにも関わらず、その顔を待ってましたとばかりに十分溜めて、言葉を発する。
『彼らは自らを星の使徒と名乗り、その圧倒的なパワーで日本を脅かしました。しかしその正体は——実は宇宙人ではないのです』
「えっ……?」
その言葉は誰のものだったのだろう。そんなこともわからなくなるほど、私たちは動揺した。
困惑する私たちを吉良星二郎は待ってくれず、続けて話に入り始める。
そこから語られたのは衝撃の事実だった。
要約するとこうだ。
全ての始まりは5年前、富士山に巨大隕石が落下した日。その時その隕石から人間の身体能力を極限にまで高める物質が見つかった。
この『エイリア石』に目をつけたのが吉良財閥だった。彼らは極秘に研究を行なっていき、とうとうそれは完成した。そして吉良星二郎はその成果をもとに立案したあるプロジェクト『ハイソルジャー計画』を現在の総理大臣に提案した。
『ハイソルジャー計画』とは簡単に言ってしまえばそのエイリア石の力を使って軍事力を強化する計画だ。エイリア石に影響された人間は戦うだけのマシーンとなり、必ず対外政策において日本を優位にするきっかけとなるだろう、と。
しかし今の総理大臣は『正義の味方』と呼ばれることもあるほど正義感の強い財前宗助。当然のようにその計画は却下された。だから彼は、財前総理の好きなサッカーを使ってこの計画の有用性を証明しようとしたのだ。
そのために作られた組織が『エイリア学園』だった。
「……これが全ての真実よ。エイリア学園は宇宙人なんかじゃない。エイリア石で強化されたただの人間なの」
「なんてことを……サッカーをなんだと思ってるんだ……!」
歯が割れてしまいそうなくらい歯ぎしりをして、円堂君は宙に浮かぶ吉良星二郎の映像を睨みつけた。
今回は……私もちょっと胸糞悪いな。
強化人間の件はいい。私たちだって似たようなことをやってたし、どれだけ強化されても、それは試合が面白くなるだけでなんの問題はないというのが私の考えだ。
だけど、許せないのはサッカー以外のもののためにサッカーをしたこと。それはサッカーに対する冒涜だ。総帥はサッカーに復讐するのが目的だっただけで、その実何よりもサッカーのことを考えていた。だから私はついていったのだ。
政治の道具にされるようなサッカーは、サッカーじゃないんだよ。
『——最強の戦士『ザ・ジェネシス』の相手は雷門イレブンです。この試合をもって、この計画の素晴らしさをあなたは思い知ることでしょう。確実にね。これで私のプレゼンテーションは……』
「……反吐が出るよ」
意味がないと分かっていても、気づけば映像の頭部に向かって銃を撃っていた。それほどまでに今の私はイラついていた。
みんなもこの計画については怒りを露わにしていて、辺りは不穏な空気に満ちる。
そんな時に奥の扉が開いて、やけに顔色の悪いスーツを着た男が現れた。瞳子監督はその人を知っているようで、反応する。
「研崎……」
「旦那様がお待ちです。私が案内いたします」
「……いきましょう、みんな」
「えっ? でもあの人敵じゃ……」
「大丈夫だ。吉良星二郎はジェネシスの相手は雷門と言っていた。それまで俺たちに危害を加えることはないだろう」
うん、私も響木監督の考えに賛成だ。それにこの施設かなり広そうだし、手助けなしじゃすぐに迷っちゃいそうだからね。
この考えを聞いてみんなも納得したようだ。研崎と呼ばれた男の後をついていくことに決めた。
そして歩くこと十数分。私たちはこの施設に似合わない和風屋敷と言ってもいい建物が建ててある空間に案内された。
うおすっごい、庭園までも完璧に整備されてる。そういえば映像の大仏も着物を着てたし、和風が好みなのかな。
その当の本人は縁側に立って、閉じていると思ってしまうほど細い目でこちらを見つめていた。
「久しぶりですね、瞳子。私のプレゼンの出来はどうだったでしょうか? あなたにもこの素晴らしさが理解できていればいいのですが……」
「お父さんは間違っています。今すぐハイソルジャー計画をやめてください!」
「……どうやら理解できていないようですねぇ」
やれやれとばかりにため息をつく大仏。
その後も瞳子監督は言葉をぶつけていくが、馬の耳に念仏ってやつかな。全然相手にされていない。
「私はお父さんを止めます。必ず」
「まったく、その様子じゃ気づいていないようですね。あなたたちも私の計画に加えられているということに」
「っ……どういう意味ですか……!?」
しかしその勢いも、大仏の一言であっけなくかき消されてしまった。動揺する瞳子監督に追い討ちをかけるように、彼は淡々と真実を告げていく。
「エイリア学園こと吉良財閥は巨大な組織です。その気になれば中学生のチームを一つ消すことくらい雑作もないこと。それをあえて見逃していたのはね瞳子、あなたたちがジェネシスの対戦相手として相応しくなるよう成長するのを待っていたからです」
「何ですって……!?」
「ジェネシスは強大です。しかし比べる相手が弱すぎては、他のチームとの力の差はわかりにくい。そのための雷門なのです」
要するに、私たちもプレゼンの資料の一つに過ぎないって言いたいわけか。人の努力を馬鹿にして……。
「感謝してますよ瞳子。あなたは予想以上に私の役に立ってくれました」
瞳子監督はそれがあまりにショックだったからか、膝をついて崩れ落ちてしまう。それを一瞥したあと、大仏は歩いて去っていった。
残されたのはピクリとも動かない瞳子監督と、私たちのみ。
その今まで見たこともないような居た堪れない姿に、みんなも声をかけづらいようだ。
まああれだけ何を犠牲にしてでも勝つってスタンス通してきたのに、それら全てが敵の思惑通りだったなんて知ったらね。なんのための犠牲だったんだって思うよ。瞳子監督、無表情なだけであってそういうの気にしないタイプじゃないし。
監督はしばらくした後、私たちに頭を下げてきた。
「みんな……ごめんなさい。私は今まで父を止めることだけを考えて、あなた達に辛いことを強いてきた。でも結局、利用されてしまうだなんて……これじゃあ私には監督の資格が……」
「——あのさぁ。あなたいったい何を見てきたわけ?」
「えっ……?」
私の唐突の質問に目を丸くする監督。
今の私はさっき以上に苛立っていた。監督がらしくなくなってるってのもあるけど、それ以上に、
「何で試合が始まってないのにもう諦めてるのかって聞いているんだよ!」
「っ……!?」
「私たちは何度だって絶望的な状況から逆転してここまでやってきた。それらは全部諦めなかったからだよ」
「……でもジェネシスはあなた達の力を完全に把握していて……」
「敵が私達よりも強いのなんていつものことだよ! 試合中に進化する、相手が強ければ強いほど同じくらい強くなっていくのが、イナズマイレブンってものじゃないの!?」
監督だったら私達を信じてほしい。だって、それが監督の一番大切な役目でしょ? それに相手が自分たちよりも強いから諦めるだなんて……そんなのイナズマイレブンの監督じゃない。
「なえの言う通りだ! イナズマイレブンをなめんじゃねぇ!」
「土門っ」
「そうだそうだ! 今さらそんなこと聞かされたからってビビってたまるか!」
「うちらだって覚悟してここまで来てんねん。諦めてるんやったらここに来てないわ!」
「塔子、リカ……」
そこを皮切りに、みんなからの声が一斉に溢れた。そのどれもが力強く、瞳子監督の心に響いていく。
最後に、円堂君が彼女の前に立つ。
「監督……たしかに俺たちはまだまだ弱いけどさ。それでも監督を信じたからここまで来れたんだ。だから、今度は俺たちのことを、信じてくれないか?」
「円堂君……みんな……私はまだあなた達の監督を続けてもいいの……?」
「当たり前だ! だって監督は俺たちの監督だから!」
「……ありがとう……!」
瞳子監督は偽りの空が張り付けられている天井を見上げる。隠そうとしていたみたいだけど、そのほおには雫が垂れていて、濡れているのがわかる。
やれやれ……ようやく闇が晴れたか。
これで監督はいつも通り、いやいつも以上になってくれることだろう。ようやく試合に集中できそうだ。
「まったく、手間のかかる人だこと」
「そう言ってやるな。選手とともに成長する監督、これはこれで素晴らしいもんだと思わんか?」
独り言のつもりで呟いたけど、響木監督に聞かれてしまったようだ。
響木監督は瞳子監督をじっと見つめながらそう言った。きっとこのグラサンの下で彼は温かい目をしていることだろう。実際にはわかんないけど、そう思わせる温かい口ぶりだった。
「……まあ、少なくとも思いやりもなんにもなく、選手を政治の道具と見なす監督よりかはいい」
「素直じゃないな、お前さんも。そういうところは師匠そっくりだ」
「頑固爺さんで有名なあなたに言われたくないよ。あと私は自分の欲望に誰よりも忠実だから」
だから断じて総帥と似てなんかいない。心の中でそう思った。
♦︎
場所は変わって、ここは選手控え室。私たちはあの研崎とかいう人に案内されて、ここに通された。
広くて白い空間を、これまた白くて温かい光が包んでいる。まるで天界にいるような心地よさを自然と感じた。
その雰囲気に円堂君がぽつりと呟く。
「似てるな、ここ……」
「似てるって、どこに?」
「ゼウススタジアムの控え室だよ。内装がそっくりとか、そういうんじゃないけど……なんというか、空気が似ているんだ」
円堂君の言葉にFFに出てたメンバーから納得の声が聞こえた。
うーん、私はそうは思わないけどなぁ。総帥の趣味で神話をモチーフにしたデザインだったけど、この無機質な部屋はそれとは比べ物にならないくらい神聖さを感じられる。
「それはお前たちが作り出している雰囲気だからだ」
響木監督はそう言った。
「俺たちが……?」
「絶対に負けられない。勝ってみせる。そういう覚悟を持った奴らが控え室に集まると、唯一の休息所であるここが何よりも心地よい場所に思えるんだ。俺にも何度か経験がある」
なるほど……。たしかに私はそうでも、世宇子のみんなは勝って当たり前って雰囲気だった。だからこの感覚を味わえなかったのか。
「その雰囲気を感じられるということは、お前たちがそれだけ勝ちたいと思っているということだ。その気持ちは必ず試合のどの要素よりも重要になる。だから胸を張って行ってこい。俺からの激励は以上だ」
響木監督の言葉を噛み締めながら、瞑想をする。
体は万全。気持ちは十分。完璧なコンディションだ。
「みんな行くわよ! 絶対に勝ってきなさい!」
『はいっ!!』
勢いよく立ち上がり、声を上げる。
さあ、