悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
グラウンドに出た私たちに襲いかかってきたのは、眩い光だった。
全面青白い壁に、目も眩むほどの数のスポットライト。周囲にはカメラなんかの機械類も大量に見られる。これからスポーツをするって雰囲気じゃないね。あくまで私たちはプレゼンの資料ってことか。分厚いガラスで仕切られた部屋の中でこちらを見下ろしている大仏を睨みつける。
そしてそんなSFチックな世界に無理やりぶち込んだかのように、サッカーグラウンドは設置してあった。
「絶望的なまでに似合わないね」
「うっひゃー! あちこち機械だらけだぜ! 弄りがいがありそう! うっしっし」
「セキュリティ固そうだからやめといた方がいいよ。下手に触ったとたん、どこからともなく砲身が現れてズドンなんてこともありえそうだし」
「げっ……それだけは勘弁だな」
自分の体に穴が空く姿を想像したのか、小暮は顔を青ざめながらカメラへ伸ばした手を引っ込めた。
とその時、グラウンドの中央に白い光が溢れた。それが消えていくと、その中から一つのサッカーチームが姿を表す。
フィクションの未来人が着てそうな白いスーツを身に纏う選手たち。ジェネシスだ。その中にはよく出会う赤髪の少年もいた。
「グラン!」
「やあ円堂君、なえちゃん、それに雷門イレブン。元気そうだね」
「ふふっ、わかる? 実はようやくジェネシスと戦えると思って、さっきから胸の高鳴りが収まらないの」
「そう……だけどそれはすぐに収まることになると思うよ。ジェネシスの真の恐ろしさを知ってね」
グランは不敵に微笑んだ。その佇まいからは最後のチームに相応しい王者のオーラとでも呼べるようなものが感じられる。
「俺は勝つ。それが父さんの願いだから」
「父さん?」
「ヒロトって名乗ってた時の苗字を思い出してみなよ。同じ『吉良』……つまりグランは吉良星次郎の息子なんだよ」
「正確には養子なんだけどね。だからこそ、オレは父さんへの恩を返す。父さんの望みはオレが叶えてみせる!」
君にもわかるだろう、とグランは私に言ってくる。
私の過去をどこで知ったのかはともかくとして、なるほど……拾ってくれた人への恩か。脳裏に黒グラサンの悪魔が浮かび上がった。
私たちは似た者同士なのかもしれない。もちろん私はグランほど総帥を敬愛してはいないけど、少なくとも尊敬はしている。そしてその尊敬によって闇へとどっぷり浸かることにもなった。
だけど、私たちには絶対に違う部分が一つある。
「グラン、あなたはそれで楽しいの?」
「……なんだって?」
「あなたはさっきから他人の話ばっかで、自分が何をしたいかなんてちっとも話してない」
「だから、俺の望みは父さんの……」
「それはあなたの望みじゃないよ」
きっぱりと断言した。
見てればわかる。グランとして私たちの前に現れていた時は、形だけの笑みを浮かべるばかりで楽しそうな雰囲気なんて微塵も感じられなかった。
私はもちろんそんなのじゃない。私が暗部に身を落としたのは、全てはサッカーのため。燃えるような勝負を味わうためだ。
そこが、私と彼との違いだ。
「あなた、本当はこんなことしたくないんじゃないの?」
「っ、何を根拠に言っているのかな?」
「さあね。ただの勘だよ。ただその様子を見る限り、間違ってはいないと思うけど」
表情は動かなかったけど、目が揺れ動いたのは見逃さなかった。無理もない。この歳でポーカーフェイスを学んでいる方がおかしいのだ。
「グラン……いやヒロト。それは本当なのか?」
「……」
「お前はなんのためにサッカーをするんだ? そんな嫌なことのためにサッカーをしたって、そんなのちっとも楽しくないだろ!」
「……楽しさなんて必要ない」
「大ありだ! 楽しくなくっちゃ前に進めないだろ! サッカーって、楽しいからやるんじゃないのか!?」
円堂君に反論しようとするも、うまい言葉が見つからなかったのかグランは開けた口をすぐにつぐんだ。しかしそこで彼に助け舟が入ってくる。
「グラン、何を遊んでいる。さっさと配置に付け」
「ウルビダ……」
グランに冷たい声をかけたのは青髪の少女だった。
スマートな体型に、クール然とした佇まい。その目は氷のように冷たい光を宿している。ただそれ以上に、ジェネシスのユニフォームのせいで強調された胸に目がいってしまう。私の手は自然に自分の胸へと伸びていた。
いっ、いやっ、私は決して小さいわけじゃないし! この子が異常なだけで、私だってBぐらいはたぶんあるし!
……やめとこ。なんだか虚しくなってきた。誰に言い訳してるんだか。幸い円堂君はそんなの目に入ってない様子だったので、私も気にしないことにした。
「ふんっ、さんざんちょっかいをかけに赴いた結果がそれか。まさか情に絆されるとはな」
「……まさか。オレはジェネシスのキャプテン、グランだ。任務は必ず遂行する」
「それでいい。わかったならさっさと戻れ」
それだけ言うと、彼女は去っていった。グランは冷静さを取り戻したようで、今度はこちらと語ろうともせずに彼女の後をついていく。
「……なんと言おうが、オレは父さんの願いを叶える。止めると言うのなら力づくでしてみなよ」
「ああ。オレの大好きなサッカーで、お前を止めてみせる!」
グランが円堂君の言葉を聞いてたかどうかはわからない。円堂君はあの決勝で私に言った言葉をグランにもかけた。
彼が去っていったところで、ちょうどいいタイミングと見たのか瞳子監督が私たちに集合の合図を出した。そして控え室で教えられた通りのメンバーで、ポジションに着いていく。
スリートップと言っても、シロウはまだお休みだ。ただ、この試合のどこかで彼は投入されるだろうと私は確信している。だって彼の目は以前とは違って闘志に満ちているんだから。
試合開始のホイッスルが鳴った。
ボールはジェネシスから。ヒロトからバックパスされたボールをミッドのコーマが拾う。そこから素早いパス回しでどんどん雷門ゴールへ彼らは迫っていく。
カオスと比べてもやっぱり速いね……でも追いつけないほどじゃない。私はボールの流れを読んで、アークに渡るはずだったボールをカットした。その後すぐリカに繋ごうとする。
「リカ!」
「ふっ、甘い!」
しかしパスは彼女に渡る前にカットし返されてしまった。それを為したのは先ほど見たウルビダ。背番号10番というキーナンバーに相応しく、彼女は他の選手よりもできるようだ。
ウルビダはその冷静な瞳で私たちを捉え、ディフェンス陣の穴を突くような正確で速いパスを出した。そこには巨漢のフォワード、ウィーズが待ち構えている。
「一点もらいだ! 食いやがれ!」
彼が某有名バトル漫画のように両手をガッチリと合わせると、そこに紫色のエネルギーが集中しだす。そしてそれが十分に溜まった瞬間、彼の手のひらから光線のようなものが飛び出した。
「ガニメデプロトン!」
あーうん、イプシロンの時に言ったと思うからもう突っ込まないぞ。
かめは●波もといガニメデプロトンがゴールへ迫っていく。
「させるか!」
しかしここで円堂君が立ちはだかった。
彼が吠えると、頭上に拳の形をしたエネルギーの塊が出現する。
「メガトンヘッドォッ!」
円堂君のシュートブロック技、メガトンヘッドが炸裂した。その威力はガゼルやバーンの必殺技にも対応できるほど。ガニメデプロトンはあっという間に打ち消され、ボールはシュートとは反対方向へ飛んでいった。
そのリカバリーをするように鬼道君が受け取る。
「イリュージョンボール改……!」
「うおっ!?」
トラップした瞬間をミッドのコーマが狙ってたようだけど、鬼道君の方が一枚上手だ。トラップとほぼ同時に出現した幻影のボールにコーマは惑わされ、鬼道君はその隙にその場を突破した。
そして私にボールが回される。
「なえー! 今度こそこっちやー! うちの新必殺シュート見せたるで!」
「いつの間にそんなのを……まあいいか」
ちらりと視線を横に向けた先では豪炎寺君がマークされていた。好奇心も相まって、私は敵のスライディングを避けたあと、彼女にパスを出すことに決める。
「いっくでー! ——通天閣シュート!!」
リカは大きく振り上げた足で、天を蹴る勢いでボールを蹴り上げた。そのボールは空中でエネルギーを溜めたあと、重力に導かれて敵ゴールへ落下していく。
たしかにリカが撃ったのは新必殺技だった。しかしそれはここでは通じるものではなかったらしい。敵キーパーのネロは、その小柄な体型からは見合わぬジャンプ力でボールに飛びつくと、あっさりボールをキャッチしてしまう。
「なんでやねん!?」
あーやっぱ無理だったか。だいたいこういう新必殺技が出た時は決まる流れがあるんだけど、敵さんはそんな空気微塵も読んでくれなかったね。まあ現実はそんなに甘くないってことか。
「もちもち黄粉餅!」
だったら、私のはどうかな?
敵ディフェンスのゾーハンからすぐにボールを奪い、天めがけて跳び上がる。
「ムーンライトスコール!!」
天空に出現した黄金の月が、私の踵落としで破裂。そして数え切れないほどのレーザーの雨がゴールに降り注いだ。
さすがにこれならと思ったけど、直後私は目を見開くことになる。
「プロキオンネット!」
ゴール前に球状のエネルギー体が三つ出現。そしてそれらをつなぐように光が紡がれて、三角形状の巨大なネットができあがる。
驚いたことに、それはレーザーのほぼ全てを受け止めてみせた。穴一つ空いていない。完璧なセーブだ。
「……マジ?」
「そんな……ムーンライトスコールが決まらないなんて……!」
これにはさすがの私もびっくり。口調では平静を装ってるけど、内心はそれほど穏やかじゃなかった。
マズイ。自慢じゃないけど、私のムーンライトスコールはこのチームの中で一、二を争う威力のシュートだと自負している。それが止められたってことは、豪炎寺君の爆熱ストームやデスゾーン2が通じない可能性が出てきた。
冷や汗が流れる。しかし本当の最悪を知ることになるのはもう少し先だ。
グランは投げられたボールを受け取ると、小さくつぶやく。
「そろそろだ。本当のジェネシスの力、見せてあげるよ」
その言葉のあと、みんなの視界からグランが消えた。いや消えたように見えるだけで、実際はものすごい速度で走っているのだ。今までとは雲泥もの差があるそのスピードにディフェンス陣はついていけず、どんどん抜かれていってしまう。
「旋風……うおっ!?」
「くそっ、いきなり速くなりやがって! 何しやがった!?」
ツナミが悪態をつく。
私は急いで雷門ゴールへトンボ帰りした。その途中でようやくグランに追いつき、彼の前に立ちはだかる。
「通させてもらうよ!」
「無理だね!」
槍のように素早く足を突き出す。グランはそれをかわそうとしたけどし切れず、ボールは彼の後方へこぼれた。
取った——と思った時、彼の後ろからウルビダが現れてリカバリーしてしまい、隙ができた私はそのまま容易く抜かれてしまう。
「しまっ……!?」
ウルビダはそのままドンドン進んでいくと、ゴール手前でバックパス。受け取るのはもちろんグランだ。彼がボールを空中でボレーシュートすると、ボールは爆発を起こし、一筋の彗星となって煌めく。
「流星ブレード!」
陽花戸中でシロウを気絶させた必殺シュート。その威力は計り知れない。立向居は顔を強張らせて両手を合わせ、四つの手を背後に出現させる。
「ムゲン・ザ・ハンド! ぐっ……止め切れ……ないっ!?」
その御手がボールに張り付くも、徐々にヒビが入っていく。そしてガラスが割れるような派手な音を立てて手は砕け散り、彗星がゴールに突き刺さった。
「貧弱すぎる……」
「っ、立向居!」
吹き飛ばされた立向居を心配して円堂君が駆け寄る。幸い怪我はないようだ。でも単独でムゲン・ザ・ハンドを破るなんて、威力はあのファイアブリザードに勝るとも劣らないと言っていいだろう。こうもあっさり破られてしまったことで、みんなの顔も暗くなってしまっていた。
この雰囲気を払拭するにはどうにか一点を決めるしかない。ただネロのプロキオンネットは正攻法じゃ破れないだろう。デザームの時みたいに工夫してやるしかないか。
ホイッスルと同時にドリブルで駆け上がっていく。相手側も本気を出したとはいえ、スピード勝負じゃまだまだ負けていない。次々と襲いかかってくるディフェンスをいなし、前へと足を踏み出していく。
そうやって目立っていれば他の人のマークも薄くなっていくため、そこを突いて豪炎寺君へパス。彼は受け取ると、炎の魔人を呼び出しながら宙に浮かび上がる。
「爆熱ストーム!!」
「プロキオン……なにっ?」
爆熱ストーム炸裂。螺旋状に進んでいく炎の竜巻はネロへと迫っていき……彼をスルーしてその真上を通過した。その先にあるのはバー。ガァァンッ!! と鈍い音を立ててボールが跳ね返る。
豪炎寺君がシュートを外した? いや、これは……!
「うぉぉぉっ!! メガトンヘッド!!」
跳ね返ったボールの先にはいつの間にか円堂君が駆け寄っていた。そしてメガトンヘッドで追い討ちをかけるようにシュートする。
私の十八番、バー当てだ。
完全な不意打ち。ネロもこれには反応が少し遅れたようだ。
「っ、プロキオンネット……ッ!!」
だけど、あと一つ足りなかった。プロキオンネットはボールがゴールを通過するギリギリで展開され、その威力を受け止めた。
たぶん跳ね返すようにシュートを撃ったことでスピードがちょっと減少してしまったのだろう。
「ごめんっ! 決め切れなかった!」
「いや、読まれないようにアイコンタクトだけで合図してたのが仇になった。俺の責任だ」
ただ問題はこれからだ。今やった不意打ちは二度と通じないだろう。おまけにフェイントを一度仕掛けたことから、敵キーパーの警戒心も高まってしまっている。この最悪な状況をどう切り崩せばいいのか……。
ああ、絶対絶命だ。思いつく策も特にない。
だから、最高に楽しいや。
私は薄ら笑いを浮かべた。