悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
ジェネシスの猛攻に雷門は防戦一方だった。
「キラースライ……」
「サザンクロスカット!」
「うぐあぁぁぁっ!!」
アークが加速し、一瞬で土門の横を通り過ぎる。次の瞬間、土門が立っていた地面からは十字に炎が噴き上がり、彼はそれに巻き込まれてしまう。それをカバーしようと鬼道君が飛び出すも……。
「スピニング……!」
「ライトニングアクセル!」
違う技でアークは鬼道君を難なく抜いてみせる。
というかライトニングアクセルか……。真・帝国にいた時に私の情報が漏れて、それで取得できたんだろう。厄介な。
そしてセンタリングがグランに向かって上げられる。だけどフィニッシュは誰が撃つのか分かってたので、私はあらかじめ彼をマークしていた。彼を超えるジャンプ力でボールをカットする。
カウンターだ。攻めていたせいで守りが薄くなっていたのを突いて、走り出す。しばらくすると最後のディフェンス三人が見えたので、黄金のオーラをその身に纏う。
「ジグザグストライク!!」
超加速。分身がいくつも見えるほどの速度で不規則に動き回り、ディフェンスを突破しようとして……瞬間、私の視界は反転した。
『シグマゾーンッ!!』
「がっ!?」
三人が三角形を描くように並んだ、と思ったら一瞬だった。
彼らは超高速で動き回る私の動きを予測してその三角形の中心に誘い出し、全員が同時に内側に向かって走り出し、すれ違い様にチャージを仕掛けてきたのだ。
味方に当たるか当たらないかというスレスレの技。それは成功すれば強力な威力となり、ほぼ一瞬で私の体に三回打撃を与えてみせた。そのせいでまだ体が痛い。
そして私からボールを奪い返したジェネシスのメンバーはまたグランにボールを出した。もう邪魔する者はいない。仮にいたとしても、身体的スペックの差でついていけない。
そしてとうとう彼にボールが渡り、二度目の彗星が流れる。
「流星ブレード!」
「させないよ! ザ・タワー!」
「壁山いくぞ!」
「はいッス!」
『ロックウォールダム!!』
塔子が塔を、その後ろに円堂君たちが巨大な岩の壁を作り上げるも、彗星はその全てをことごとく貫き、余波で彼らを吹き飛ばす。
『うあぁぁぁぁぁっ!!』
「ムゲン・ザ・ハンド!」
四つの手が彗星の進路を妨げる。ちょっとずつそれらにヒビが入っていくが、さっきとは違って彗星の勢いも目に見えて衰え始める。円堂君たちのシュートブロックが効いているんだ。
「ぐぅぅぅっ!! 円堂さんたちのためにも……入れさせるわけにはっ、いかないんだぁっ!!」
「……へぇ。やるじゃん」
徐々にボールが纏っていた光が消えていく。そして完全に失せたころには、ボールは立向居の手の中に収まっていた。
なんとか凌いだか……。軽くため息をこぼす。
しかしそれはただの一時凌ぎに過ぎない。この後、ジェネシスの攻めはさらに勢いが増した。
「オラ邪魔だ邪魔だぁ!」
『ぐああっ!!』
巨漢のウィーズの悪質なタックルで吹き飛ばされ、
「サザンクロスカット!」
『がぁぁぁぁっ!!』
地面から噴き出した十字の炎に身を焦がされ、
「流星ブレード!」
「ザ・タワー!」
『ロックウォールダムッ!!』
「ムゲン・ザ・ハンドォ!」
『うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
彗星の如きシュートによって倒れされる。
あまりに一方的な試合展開に、みんなはドンドンボロボロになっていった。
立向居はボールをキャッチし損ねて、ボールはラインを超える。そのおかげで生まれた一時の時間の間に、私は思考を加速させる。
どうする? どうすればこの状況を打開できる? 戦況は悪化していって、もはやシュートも撃てなくなってきたほどだ。ディフェンスの負担が大きすぎて、攻撃に回れない。かといって私や円堂君が離れたら一瞬で二点目を決められてしまうことだろう。
どうすれば……!
そんな時、ピィィ! と私の思考を切り裂くように、ホイッスルの音が鳴った。
「選手交代よ! 浦部リカに代わって背番号9番、吹雪士郎!」
……その手があったか。
私は表情を硬くしているシロウを見て、期待を寄せた。
♦︎
吹雪は戦況を震える手を抑えながらジッと見ていた。
恐ろしいのではない。ただ許せなかったのだ。仲間たちがボロボロになっていく中、ベンチに一人座り込んでいる自分が。
——染岡君は僕にフォワードを託してくれた。
——アフロディ君は足を犠牲にしてまで戦った。
——豪炎寺君はさらに強くなって帰ってきた。
——そしてなえちゃんは、一番ボロボロになりながらも足を止めたことは一度もなかった。
仲間たちの苦しみながらも戦う姿が頭を次々とよぎっていく。
こんなのでいいのか? このままでは同じじゃないか。何もできず、雪崩で家族を失ったあの時と……!
そう思った瞬間、彼は立ち上がり、フィールドに立っていた。
「悔しいけど、うちじゃ力になれんわ。あとは頼んだで!」
リカの思いを背に、彼女のポジション、すなわちなえの横に立つ。
彼女は心底嬉しそうな顔をしていた。自然とこちらもほおが緩んでしまう。
「期待してるよシロウ。頑張って」
彼女の言葉に頷く。
そしてコーナキックで試合が再開すると同時に、吹雪は前へ走り出した。仲間からボールがくると信じて。
高く上げられたボールめがけてマークを振り解いたグランが跳躍。しかしなえもそれに追いつき、二人はボールを間にしてヘディングをぶつけ合った。
「ぐっ……!」
「っ……くぅっ!」
衝撃が脳を揺らし、二人はバランスが取れなくなって落下。ボールは歪な方向に弾かれ……ウィーズの元に落ちる。巨体から繰り出されたシュートは強烈で、立向居は完全にキャッチできず、ボールは間一髪バーに当たって跳ね上がった。
そして両チームの真上に浮かんだボールを、炎の竜巻が包み込む。
「真ファイアトルネード!」
『なんと豪炎寺、この距離からファイアトルネード!? 超ロングシュートだァ! しかし、ジェネシスキーパーネロは余裕の表情で構えている!』
炎の弾丸がジェネシスの選手たちの頭上を超えて突き進んでいく。しかしそれはシュートのためではない。ボールの軌道の先には、吹雪が走り込んで来ていた。
キラーパスとも呼んでいいそれを受け取った瞬間、吹雪は自身のマフラーを強く握りしめる。
「この試合で僕は……!」
『俺は……“完璧”になってみせる!』
荒れ狂うブリザードが一瞬吹き荒れ、シロウからアツヤへと変わる。そしてボールを両足で挟んで回転させ、吹雪を巻き起こした。そこから繰り出されるのは、彼の代名詞。
「吹き荒れろ、エターナルブリザード……V3ィッ!!」
フィールドが凍てつくほどの冷気を纏ったシュート。
だが……。
「ハァッ! プロキオンネット!」
『キーパーネロ止めたァ! 吹雪でもこの牙城は崩せないのか!?』
「ぐっ……クソがぁ……!」
だがそれでも、ネロを破るにはまだ足りない。
余裕を見せる彼の表情に、なによりも点を取れなかったという事実に凄まじい形相で歯ぎしりをする吹雪。しかし試合はそんな彼の激情を置いて進んでいく。
「完璧に……完璧にならなくちゃいけないんだぁ!」
シロウに戻り、ボールを持つグランへ地面を滑りながら向かっていく。アイスグランドの体勢だ。地面に向かって踵を落とし、次々と伸びていく氷柱を発生させる。
「アイスグランド……!」
「……貧弱すぎる」
が、それはグランの回し蹴り一つで全て砕け散った。その余波をまともに受け、吹雪は無様に地面を転がる。
グランはその姿を一瞥すると、まるで眼中にないかのように進んでいった。
「僕の技が……何一つ通用しない……!?」
アツヤもシロウも通じない。その事実が忘れ去ろうとしていたあの男の言葉を思い出させる。
『お前はもう、必要ない』
「ぐぅぅ……! 僕はッ……僕はッ……!!」
息が苦しくなり、吐き気が込み上げてくる。頭がクラクラして意識が定まらない。吹雪はもはや立っているのが精一杯の状態となった。
周りが暗い。寒い。吹雪はいつの間にか闇に包まれた雪原に立っており、そこで雪に埋もれていた。
完璧になれないから必要とされないのか……? 完璧じゃない自分たちに価値なんて……。
自問自答。そんな思いが頭の中を延々と渦巻き続ける。
「シロウ!」
敵からなんとかボールを奪い取ったなえがパスを出す。しかし吹雪は意識が途切れていたことで反応が遅れ、ボールを受け止めることに失敗してしまった。
「っ……ごめん……」
ボールはラインを超えて外へ。ジェネシスからボールを取ることでさえ一苦労なのだ。そんなみんなの努力によって生まれたせっかくのチャンスを不意にしてしまったことがより一層吹雪の心を苦しめる。
しかしそんな彼の自責の念は、突然腹部に襲いかかってきた熱と衝撃によって消しとばされることとなる。
「ふぐっ! ゲホッ……! 豪炎寺君、何を……っ!?」
下手人は豪炎寺だった。彼がファイアトルネードを吹雪に撃ったのだ。突然の奇行に吹雪は抗議の声をあげようとするも、その鋭い眼光に怯み、口をつぐむ。
「本気のプレイで失敗するならいい。だが、やる気のないプレイだけは絶対に許さない。お前には聞こえないのか、あの声が?」
「声……? 声なんて……どこにも……」
吹雪はフィールドにいる選手たちを見つめる。しかし荒い息遣いや打撃音、爆発音などが聞こえるばかりでそんなものは聞こやしない。
『諦めるな!』
再び俯こうとした時、そんな円堂の言葉が頭の中に響いた。
彼の顔を見つめるも、口が動いている様子はない。なのにずっと耳の奥に聞こえてくる。
『俯いてたって、何も解決しねえんだよ!』
『ここはアタシたちが……!』
『俺たちが守る……!』
『パーフェクトタワーッ!!』
円堂だけではない。なえ、鬼道、土門、壁山、立向居、綱海、塔子、小暮。みんなの声が次々と聞こえてくる。
『グアァァァァッ!!』
『ロックウォールダム!! ぐあっ!!』
落ちてくる流星は塔を、壁を粉砕していく。しかしゴールにまで辿り着く直前、桃色の何かが立ちはだかった。
『負けて、たまるかァァァッ!!』
それはなえだった。彼女が振るった足は流星と衝突し、焦げくさい臭いと黒煙がたちまち発生していく。しかし彼女はその足を引っ込めることはない。その様子を見つめていると、ふと目が合い、彼女は笑いかけてきた。
そして、
『いっけぇぇぇっ!! シロォォォッ!!』
焼け焦げた足が振り抜かれる。その後、ボールは吹雪に向かって飛んできた。
それに触れた瞬間、この声の発生源がどこなのか理解する。
「ボールから……声が……!」
そうか。そうだったんだ。ボールはみんなを繋ぐ思いの塊。そこに込められた魂の声が聞こえてきていたんだ。
体が暖かくなっていく。日が差し込んできて雪が溶けていく。重くなっていた瞼を開け、見上げると、彼の周りにはみんなが笑顔で立っていた。
なえが笑みを浮かべながら手を差し伸ばしてくる。吹雪はそれをゆっくりと掴む。
——そして、世界が光に包まれた。
そういうことだったんだね、父さん。『完璧』になるっていうのは、僕がアツヤになることじゃない。
仲間と一つになること、一緒に戦うことだったんだ。
吹雪は迫り来るスライディングを、跳躍して避けた。その身のこなしは今までの比ではない。急に変わった彼の動きに、誰もが目を見開く。
そんな中、彼の中から声が聞こえてきた。
『そうだ。兄貴はもう一人じゃない。兄貴には仲間がいるんだ!』
ありがとう、アツヤ。今まで頼りない僕に力を貸してくれて。
もう大丈夫だよ。
もう力を貸してなんて言わない。ずっと一緒にいて欲しいなんて言わないからさ。だから安心して成仏してね。
僕はもう、一人じゃない。
吹雪はアツヤの魂が宿っていたマフラーを握りしめると、それを脱ぎ捨てた。そしてブリザードが吹き荒れ、中から髪が少し跳ね上がった彼の姿が出てくる。
アツヤの気配は消えていた。しかし寂しくはない。代わりに体から力が湧き上がってくるのを感じる。今まで自分が分けてきたアツヤの分の力が。
ふと視線を感じると、なえと豪炎寺が笑みを浮かべてこちらを見ていた。『行くぞ』という言葉が声なしで伝わってくる。
吹雪はそれに頷き、大きく一歩を踏み出す。
「っ、グラビテイション!」
「アステロイドベルト!」
「プラネットシールド!」
次々と発動される必殺技。しかし吹雪はそれらを一度の踏み込みだけで回避してみせた。そのまま雪原を走る狼の如きスピードで、グラウンドを進んでいく。
またもや敵が迫り来るのが見える。しかし吹雪に不安はない。すぐさまボールを豪炎寺に渡す。その豪炎寺がダイレクトでボールを返せば、素早く動きでなえが敵をかわしながら受け取って、吹雪に返した。
そのあまりにも整った連携プレーに、ジェネシスの選手たちはなす術がない。そしていよいよゴール前。吹雪の脳裏にとある記憶が蘇る。
『……新しい必殺技? エターナルブリザードじゃなくて?』
『もっとすげえ技だ!』
『こらこら。あれはアツヤのじゃなくて、
『ちぇ、わかってるよ兄貴』
『二人の必殺技ってこと? 見せて見せて!』
『今度見せてやるよ! それまで楽しみにしてろよな!』
『……うん、楽しみ! 約束だよ!』
「これが、僕たち二人の必殺技だ!」
ボールを引っ掻くように鋭い蹴りを入れる。
「ウルフレジェンドッ!!」
すると吹雪の背後に、気によって顕現した巨大な狼が現れ、雄叫びをあげた。それに呼応して三つの赤いエネルギー弾が飛んでいき、途中で一つに融合してゴールへと向かっていく。
「プロキオンネット! ……なにっ……ぎゃぁっ!?」
三つの星を繋いで生まれたネットが狼の気弾を受け止めようとする。しかし威力を殺しきれずにすぐさま千切れ、後ろにいたネロを吹き飛ばしてボールはゴールに入った。
『ゴォォルッ!! 吹雪の新必殺技ウルフレジェンドが、とうとう点をもぎ取ったァ!』
「……ずいぶん遅くなってごめんね。これが僕たちが編み出した必殺シュート『ウルフレジェンド』だよ」
「……うん、すごい技だね」
なえはあの約束を思い出してくれたのだろうか。彼女は満開の笑みで微笑んだ。
ああ、ようやく果たせた。様々な思いが雫となって溢れ出てくる。
——吹雪が、止んだのを感じた。
今回から必殺技は太字にすることにしました。これで多少は見やすくなってると嬉しいです。