悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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サッカーサイボーグ

 眼下のサッカーグラウンドを見下ろす。

 そこには二チーム分の人影があった。

 

 半分は黄色が特徴的な、最近見たばっかのもの。

 もう半分は灰色で、前者とは真反対で地味な色合いをしている。

 

 彼らの左胸にはそれぞれ『雷門』と『御』の文字が刻まれていた。

 

「ファイアトルネードッ!」

「シュートポケット!」

 

 ボールを持った白髪の少年——豪炎寺君が足に炎を纏い、シュートを繰り出す。

 しかしボールはゴールに近づいた途端、急に失速して相手キーパーに止められてしまった。

 

 あれは『シュートポケット』。

 空気の壁を発生させてシュートを止める技だ。

 キーパーはボールをスローして前線へ投げ飛ばす。

 

 そこから先は一方的だった。

 灰色のユニフォームの選手たちは、まるで雷門の選手たちの動きが予測できているかのような正確な動きでグングンゴールまで迫ってくる。

 

 フォワードによるシュートが放たれた。

 雷門ディフェンスは壁となって立ちはだかるも、ボールは彼らの股を次々と抜けて、ゴールに突き刺さった。

 

 上に掲げられたパネルに4:0と表示される。

 

 その瞬間、ブザーのような音とともに機械質な女性の声がスピーカーから響いてくる。

 

『試合が終了しました。シミュレーションのデータを保存してください。試合が終了しました。シミュレーションのデータを……』

 

「ヒヒヒ、素晴らしいでしょ総帥? 我が校の誇るコンピュータシステムで管理されたサッカー選手たちは……!」

 

 薄気味悪く笑いながら、目の前の男は総帥に問いかけた。

 彼の名は富山新一郎。

 御影専修農業高校附属中学校、通称『御影専農』サッカー部の監督だ。そして態度から見ての通り、帝国の僕の一人である。

 

 液晶ビジョンに浮かび上がった『勝利確率99,99%』という文字に、総帥は満足げに頷いた。

 

「なるほど……プログラムデータ相手とはいえ、よく仕上がっている」

 

 プログラムデータ。

 つまり今グラウンドにいるのは円堂君たち本人ではなく、ただの実態のないホログラムなのだ。

 それだけでは質量がなくただの立体映像なのだが、御影専農の選手たちはバイザーのような専用の機械をつけることで脳にデータを送り、実際にホログラムに実態があるかのように錯覚させることで練習試合を実現させていた。

 

「面白い装置だね。うちにも一台欲しいくらいだよ」

「このプログラムは相手チームを完璧に分析しているのですよ。サッカーサイボーグとも呼べるこの選手たちが本番でも完全な勝利をお見せすることでしょう……!」

 

 雷門中はフットボールフロンティア地区大会一回戦で野生中を相手に勝利していた。

 二回戦、つまり次の試合に当たるのがここ御影専農だ。

 

 総帥の眉が不愉快そうに潜められる。

 

「勝利だと? 雷門を潰すなど、勝利のうちに入らん。ただの害虫駆除作業だ」

 

 うわぁ、出ましたわ総帥の否定から入るいびり。

 総帥もバカじゃない。雷門に秘められた力があることなどとっくに見抜いているだろう。

 だけど、プライドと雷門の看板が邪魔して素直に認める気にはならない。ってところかな。

 

 しかしそんな風に深読み出来るのは付き合いが長い私ぐらいのものだ。

 言葉の意味をそのまま受け取ってしまった富山は額に汗をかきながら、必死に総帥の機嫌を取ろうとゴマをすり始める。

 

 こんな大人にはなりたくないなぁ。

 そう思っていると、さっきからだんまりしていた鬼道君が目に映り、彼に話しかける。

 

「鬼道君はどう思う? このサッカープログラム」

「たしかに、精度は高い。だがサッカーはデータで決まるものではない。それを履き違えていなければいいのだが」

 

 彼の目線は御影専農の選手たちに向けられていた。

 彼らは全員無表情で、たしかにサッカーサイボーグと呼ぶにふさわしい雰囲気を纏っていた。

 

 彼らのコンピュータサッカーは完璧なように見えて穴がある。

 彼らのサッカーは正確だ。しかし正確すぎるが故に、一回でもイレギュラーが起きると簡単に瓦解してしまうような脆さがあるのだ。

 鬼道君はそのことを言っているのだろう。

 

 と思っている側から、鬼道君はこちらに背を向けて元来た道を引き返していた。

 

「どこに行くの?」

「なに、ちょっと余計なお節介をな」

 

 お節介……?

 はて何のことやら。

 総帥のことならだいたいわかる私でも、さすがに鬼道君のことまでは読み通せない。

 だけどここで富山のあくびが出るような世辞を聞いているよりかは面白そうなのは理解できた。

 

「待ってよー。私も行くー」

 

 総帥を置いてけぼりにして、私は鬼道君を追いかけることにした。

 

 

 歩くこと十分近く。

 鬼道君が足を止めたのは御影専農の校門前だった。

 もう夕方になっており、赤色の空が黒に侵食されつつある。

 

「こんなところで何か起きるっていうのさ」

「黙っていろ。もうすぐ目標が来る」

 

 言われて校門の奥を見る。

 校舎のからちょうど出てきた二人の人影が見えた。

 

 トゲトゲの見たこともない超次元ヘアーと、私の髪の色にも似たピンク色の短髪。

 たしかゴールキーパーの杉森とフォワードの下鶴だったはずだ。

 

 彼らが校門を出ようとしたときに、鬼道君は話しかける。

 

「よおサッカーサイボーグ。調子はどうだ?」

「帝国の鬼道……それに白兎屋か」

「ちょっと、私のこと白兎屋って言うのやめてほしいんだけど」

「問題ない。我々はすでに雷門のデータに勝っている」

「無視すんなー!」

 

 うがー、と声を荒げたところで鬼道君から無言のチョップが頭に振り下ろされた。

 い、痛い……これは黙ってろってことなのかな。

 

「ふっ、シミュレーションは完璧というわけか。だが所詮はデータの再現に過ぎないな」

 

 鬼道君は嘲るような笑みを浮かべながら、杉森たちへと近づいていく。

 

「お前たちの持っていないデータを提供しよう」

「……目的はなんだ?」

「確実に雷門を潰してほしいだけだ。とにかくやつらは普通じゃない」

 

 嘘おっしゃい。

 鬼道君はプライドの高いサッカープレイヤーだ。

 本当は他人ではなく、自分の手で潰したいと思っているはず。

 つまり今言っていることは全て方便で間違い無いだろう。

 

 でも、ここでそれを口にしても面倒になるだけなので、黙っておくことにした。またチョップをくらわされても嫌だしね。

 

「やつらは……バカなんだ」

「バカ? それがデータか?」

「いやもうちょっと言い方なかったの?」

「ああ。実は俺もうまい説明が見つからなくてな。自分の目で確かめることを勧める」

「無視はよくないと思うなー」

 

 鬼道君は私に目を合わせようともしない。

 こやつ、完全に私を空気扱いする気だな……! 

 

「そうだ、ゴールキーパーの円堂守。やつはとびっきりの大バカだ」

 

 それを最後に、鬼道君は歩き出してしまった。

 跡を追おうとしたとき、杉森たちの言葉が耳に入る。

 

「バカと大バカか……」

「たしかに、インプットされていないデータだ」

 

 ブフォッ! 

 それを聞いて思わず噴き出してしまった。

 

「プフフッ、鬼道君、彼らには全員意味が伝わってなかったみたいだよっ、アハハッ!」

「元から今のあいつらに俺の言葉が理解できるとは思っていない。だが円堂との試合を終えた後なら、きっと理解するはずだ」

 

 要するに鬼道君は伝えたかったんだ。

 サッカーの楽しさというものを。

 円堂君ならばきっと、彼らの冷めきった心にも火を灯してくれるだろう。

 そう信じて。

 

「優しいね、鬼道君は」

「優しくなどない。帝国と関わっているチームが弱くては困るだけだ」

「十分優しいよ。私なんか利用することばっかで、御影専農の選手たちのことなんてこれっぽっちも考えてなかったもん」

「……」

 

 ゴーグルのせいで直接は見れないが、なんとなく同情的な目で見られているのがわかった。

 

 長年総帥といたせいか、私の思考は大半が利益のことばっかで埋め尽くされている。

 そこに道徳なんてものはなく、使えないと思ったら切り捨て、使えると思ったら積極的に取り入れ、また捨てる。

 そんな毎日だ。

 

 もしかしたら私も機械みたいなものなのかもしれないね。

 自嘲的な笑みを浮かべながら、私は御影専農を去っていった。

 

 

 ……その後、二人で総帥のことを忘れていてダッシュで戻ったのはいい思い出である。

 




御影の正式名称長っ!?
あんだけメカメカしいのに、農業系の学校なのは驚きですよね。たぶんよくCMで出てくるキャベツみたいに、洗わなくても食べれる用な野菜を室内で作っているのでしょう。

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