悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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一人の力

 なんか知らないけど幼馴染が覚醒した件について。

 ……冗談である。私もシロウが悩みを払拭したってことぐらいはわかっているつもりだ。

 それにしてもウルフレジェンドねぇ。まさかあんな昔の約束を気にしてただなんて。シロウらしいっちゃらしいけど。なんて思いながら、彼が投げ捨てたマフラーを拾う。

 

「ほら、大切な形見なんでしょ。もう投げちゃダメだよ」

「……いや、それはなえちゃんが持っててほしいな」

「へっ?」

「僕はもう一人じゃないから。今度は君を守っててほしいんだ」

 

 えーと? なんかよくわかんないけどこれは私が持ってていいらしい。アツヤの怨念が宿ってそうでちょっと嫌だなぁ。夢に出てきたらどうしよ。とはいえ彼はやけにスッキリしていて、一つも惜しんだりしてなかったのでもらっておくことにした。ベンチのバックに突っ込んで、再びグラウンドに戻る。

 

 ジェネシスボールから試合が始まる。グランを始めとした彼らは点を取り返そうと必死そうな顔をしている。

 

「一点取ったことは褒めてあげよう。でもこれでおしまいだ!」

 

 シュートブロックを警戒してか、グランはあえて塔子たちを抜いてからシュートの体勢に入る。

 

流星ブレード!」

 

 まずい、立向居一人じゃ止められない。と思ったけど、意外にも彼に不安そうな様子はない。そればかりか、やる気に満ち溢れている。

 

「俺だって……俺だって雷門のキーパーなんだ!」

 

 彼の背後に手が出現する。その数は彼の気迫に応えるように六本に増えていた。

 

ムゲン・ザ・ハンドG2!」

「なにっ……!?」

 

 それら全てが流星に襲いかかり、ボールの勢いを殺していく。そして光が収束していき、立向居の手にボールが収まる。

 立向居が、流星ブレードを止めてみせたのだ。

 

「よし!」

「やったじゃねえか立向居!」

 

 ツナミが立向居以上に歓喜の声をあげる。彼はムゲン・ザ・ハンドの特訓に誰よりも関わっていたからね。元々の兄貴的な性分も合わさって、自分のことのように嬉しいのだろう。

 攻撃と防御。二つの課題が同時にクリアされた。これなら、勝てる!

 

 勝利の兆しが見え、みんなの顔が明るくなってきたその時。

 ——グラウンド全体が揺れるほどの轟音が鳴り響いた。

 

「な、なんだ……!?」

 

 突然のことで私たちは慌てる。自然じゃ絶対に起こらないような音だ。裏工作も仕事のうちだった私にはわかる。これは……爆弾だ。しかも滅多に使わないほどの規模の。それが使われたということは、ただごとではないことが起きたのは確かだろう。

 

 しばしの沈黙。しかしそれを打ち破るように、機械で拡張された笑い声が聞こえてくる。

 

『残念でしたねぇ鬼瓦刑事。エイリア石をいまさら破壊したところで、ジェネシスの戦力は落ちたりしませんよ』

「鬼瓦刑事だって……!?」

「それにエイリア石の破壊だと?」

 

 円堂君と鬼道君がそう言った後、突然現れた大仏のホロビジョンを私たちは見つめる。

 どうやら鬼瓦刑事も仕事をしてたらしい。たしかにエイリア学園のパワーの源がエイリア石なら、それを破壊すれば戦力は落ちるのが道理。しかし大仏はまったく気にしていない様子だ。

 

『貴方たちはジェネシスがエイリア石のエネルギーによって作られた強化人間だと思っているようですが……そうではありません。それではエイリア石のエネルギーチャージが途絶えた瞬間に使い物にならなくなってしまう。ジェネシスとは、強化人間との激しい訓練によって生まれた超戦士、つまりは力を持ったただの『人間』なのですよ』

「なんだって……!? それじゃあこれが本当の実力だっていうのか……!?」

 

 驚愕の新事実に唖然となった。まさかあの異常な強さがドーピングではないと誰が予想できただろうか。

 強い敵と戦うことで自分も強くなる。合理的だ。実際雷門もそうやって強くなってきた部分もある。

 

「円堂君わかったかい? オレたちは汚い手なんて使ってない。これが俺たちの実力なんだよ」

「っ……それでも……それでも、その力を悪いことに使うのは間違っている!」

「悪いと思ってたらやってないさ。これがオレたちの正義なんだ」

「っ、立向居!」

 

 円堂君の声に応じて立向居からボールが投げ渡される。そしてその円堂君からすぐさまシロウへ。彼はすぐにボールを足で切り裂き、狼を召喚しする。

 

ウルフレジェンド! ——ウォォォォォッ!!」

 

 雄叫びを上げ、赤い光弾が空を切り裂き、飛んでいく。

 しかし私はネロの動きが先ほどまでと違うことに気づいた。

 

時空の……壁!」

「なにっ……!?」

 

 なんとウルフレジェンドはネロの手に近づくに連れて、徐々に減速していった。そして完全に手に触れるころには減速の域を超えて空中で停止してしまい、シュートとして成り立たなくなってしまう。ネロはそれを手の甲で殴りつけ、逆コートにボールを送り返した。

 

 パンチングとは思えない勢い。攻めていただけに雷門のディフェンスは甘くなっていて、簡単にグランにボールが渡ってしまった。そこにウルビダとウィーズが彼の左右斜め後ろに控え、紫色のオーラを発生させる。

 

「これが……ジェネシスの力だ!」

 

 彼ら三人は三角形を描くように立つと、その中心部分にボールが置かれる。そこでボールは闇色のオーラを纏い、空中に打ち上げられて、巨大な黒球と化す。

 凄まじいエネルギー量だ。見ているだけで鳥肌が立ってくる。

 

スーパーノヴァ!!』

 

 彼らの足からエネルギー波が放たれ、黒球が動き出す。その視界全てを覆ってしまいそうなほどの圧迫感に立向居は唾を飲む。

 

「ッ……ムゲン・ザ・ハンドG2!」

 

 進化したムゲン・ザ・ハンドが黒球を包み込もうとする。しかしその超質量にあっけなく腕は千切れ、立向居もろともボールはゴールに入った。

 

「かはっ……!」

「これでどちらが最強かわかっただろ?」

『ジェネシスこそ人類の真の形! 世界を支配する者たちなのですよ!』

「っ……これ以上俺たちの大好きなサッカーを汚すなっ!」

 

 再び点を決められてしまった。

 倒れ伏す立向居に円堂君は駆け寄り、大仏を睨みつける。

 

 はぁ……ジェネシスはともかく、やっぱりあの大仏の声は癪に触るね。でも私ですらこれなんだ。円堂君なんかははらわたが煮え繰り返る思いだろう。その怒りが爆発して、冷静さを失わせないか心配だ。

 

『ほう……どういう意味です?』

「サッカーで得た力は……人を笑顔にするために使われなくちゃいけないんだ! お前たちの力は偽物だ! たとえエネルギーをチャージしてなくても、エイリア石なんかによって得た力なんて俺は認めない!」

『ふっふっふ。忘れたのですか? 貴方たちもエイリア石によって強化されたジェミニやイプシロンと戦うことでパワーアップをしてきたということを。そう、エイリア石を利用したというのは貴方たち雷門も同じことなのですよ』

「ぐっ……!」

 

 やっぱりそこを突かれたか。財閥を動かしてるだけあって会話の矛盾点を探し出すのがいやらしいまでに上手い。円堂君も何も言い返せずに歯噛みするだけでいる。

 映像の中の大仏は私たち雷門全員の顔を見るように顔を動かしたあと、その不気味な笑みを浮かべたまま語り出す。

 

『雷門もメンバーがずいぶん変わり強くなりましたね。ですが、それは我々エイリア学園と同じく弱い者を切り捨て、強い者を取り入れたからこそここまで来れたのです。道具を入れ替えるようにね』

「なんだと……!?」

「仲間は道具じゃねえぞ!」

「ふざけるな! あいつらは弱くなんかない!」

 

 あんまりな物言いに他のメンバーもとうとうぶち切れたようだ。しかしみんなの罵声を浴びてもなお彼の口は止まらない。

 

『いいえ、弱いのです。弱いからこそ怪我をする。だからチームを去る。実力がないから脱落していったのです』

「違う!」

『彼らは貴方たちにとって無用の存在。価値がないのです』

「違う違う違うっ! あいつらは弱くなんかないっ!」

 

 私の脳裏にキャラバンを去っていった者たちの顔が浮かび上がる。

 染岡君は足の怪我で。風丸と栗松は力のなさを嘆いて。それぞれチームを去っていった。

 ……ああ、その通りだよ。憎らしいほどに。

 

 だけど円堂君はそんなの到底認められるわけがなく、しきりに首を激しく横に振って叫ぶ。その時の彼の顔はかつてないほどの怒りに染まっていた。

 

「俺がっ……俺が証明してやる!」

 

 キックオフと同時に円堂君は牛のような勢いで突進していった。その荒々しさにいつものプレーのキレはない。

 当然そんなのが通じるはずもなく、グランはあざ笑うかのようにボールを奪ってみせる。

 

「円堂君、キーパーに戻りなよ。君がゴールにいなきゃ張り合いがない」

「黙れぇっ!」

 

 これは……まずいかも。

 このチームの中心は紛れもなく円堂君だ。円堂君があきらめないからこそ、私たちは何があっても諦めずにやってこれた。だけど、だからこそ円堂君が負の感情を帯びた場合、その思いはチームに伝染しやすい。

 我を忘れる円堂君の影響で、みんなの動きは明らかに鈍ってしまっている。

 

 グランはウルビダたちと陣を組んで、また空中に飛び出す。その瞬間、私は雷門ゴールに向かって走り出した。

 あの技は立向居にはまだ無理だ。だったら……っ!

 

スーパーノヴァ!!』

パーフェクトタワー!!』

ムゲン・ザ・ハンドG2!!」

 

 放たれた黒球は巨大な塔を粉砕し、複数のまとわりつくついてくる腕を引きちぎって、ゴールを目指す。

 だけど威力は確実に弱まってるはずだ。そこを私のキック力で蹴れば……!

 

 轟音が鳴り響く。私の足と黒球が衝突を果たした。

 だけど……私の足は徐々に後ろに押し込まれていく。

 

「ぐぅぅ……! こ……のぉ……! まだ足りないって言うの……!?」

『ハァァァッ!!』

 

 襲ってくる衝撃に思わず苦言を漏らす。

 その時、私の左右からフォワードのはずの豪炎寺君とシロウが現れて、加勢するようにボールに足に蹴りを加えた。

 いける……これなら……!

 

『ウォォォォォッ!!!』

 

 私たち三人の雄叫びが重なり合う。そしてようやくボールは弾かれ、真上に飛ぶ。

 

 ——そのボールが一瞬、闇と炎と氷を纏ったのが見えた。

 

 ボールはそのままバーを超えて壁にぶつかる。

 なんとかセーブできた……。私たちは脱力して地面に倒れた。

 

「全員で守らなければならないゴールキーパー。君たちの弱点であり、敗因となる」

 

 そこでホイッスルが二度鳴った。前半終了の合図だ。

 命拾いした……。無意識に大きなため息が溢れた。

 

 

 ベンチに戻ると、みんなの視線をシャットアウトするように円堂君が頭からタオルを被りながら、激しく呼吸をしていた。

 ……もはやここまでなったら私なんかの声じゃ届きはしないだろう。何かキッカケがなければ。例えば豪炎寺君とか鬼道君とか。

 だけど予想外にも、彼の前に真っ先に立ったのは、瞳子監督だった。

 

「円堂君……」

「……風丸たちは弱くありませんっ。俺が証明してみせます……しなくちゃならないんだ……っ!」

 

 監督が話しかけているのに円堂君は目を合わせようともしないでひたすら俯き続けている。瞳子監督はそれでも円堂君に語りかけ続ける。

 

「……初めは私もそう思っていた。私一人の力で父の目を覚まさせようって。でも、できなかった」

「……監督?」

 

 突然の告白に円堂はタオルを落とし、戸惑いの表情で彼女の方を見る。

 

「人の考えや価値観を変えるなんて大変なこと。一人の力じゃ到底できるはずもないの。でも、みんなの力が合わさればそんな難しいことも成し遂げられる。それを教えてくれたのは円堂君、貴方たちなのよ」

「俺たちが……?」

 

 初め瞳子監督は冷たい態度だった。だけどみんなとの戦いを通して、成長して……その時にこの人も変わることができたのだろう。

 ——みんなの力が合わされば、か……。それなら変えることができるのだろうか。あの人の考えも。

 

 監督に同調して、シロウが声を上げる。

 

「そうだよキャプテン。僕を間違った考えから解き放ってくれたのも、雷門のみんなだ!」

 

 シロウの視線につられて、円堂君は私たちの方を向いた。

 

「みんな……」

「円堂、怒っているのはお前だけじゃない」

「それでも俺たちは仲間たち全員の思いを背負っているつもりだ。だから一人で抱え込むな」

「……ああ!」

 

 豪炎寺君と鬼道君の言葉を聞いて、ようやくいつもの円堂君に戻ったようだ。彼はようやく笑みを見せた。

 この試合、絶対に勝ってみせる。

 たしかにあの大仏の言う通り、彼らは弱かったのかもしれない。だけどサッカー選手でもないやつが、私の認めた選手を侮辱するなよ。それだけは許しちゃおけないんだ。

 改めて、心の中でそう誓った。

 

「よし、行くぞみんな! 後半戦の始まりだ!」

『おうっ!!』

 

 意気揚々とフィールドへ戻っていく。なぜかな、彼の笑顔を見ているだけで力が湧いてくるよ。やっぱり円堂君はすごいや。

 

 

 後半戦が始まり、私たちは円堂君を先頭に勢いよく前に進んでいく。

 そこにグランが立ち塞がる。

 

「ヒロト……!」

「君にオレは抜けないよ」

「だったら、()()()で戦うまでだ!」

「……っ!?」

 

 突然の円堂君のパスに意表を突かれたのか、グランは目を見開いて硬直した。その隙に鬼道君がボールを拾い、グランの横を抜けていく。

 

「なるほど、前半とは違うわけか。だがその程度で我らに敵うと思うな!」

「それはどうかな?」

 

 ウィーズの強烈なスライディングを、鬼道君は私にパスを出すことで避ける。その私にも敵が来たけど、同じように間髪入れずにすぐにパス。その相手も、そのまた先も、次々とテンポ良くパスを出していく。

 

『おおぉっと雷門、高速のパス回し! 相手を確認してもいない! まるで空中から見下ろしているかのようなプレーにジェネシスついていけてないぞ!』

 

「ぐっ……なんだこのパス回しは……!」

 

 そう、いくらジェネシスが速いと言ってもボールが飛んでいく速度を上回ることはない。今の私たちはいちいち確認しなくても出したい相手の場所、距離、呼吸の間隔さえ手にとるようにわかるようになっていた。

 

 必殺技を出させる間もない。次々と敵を抜き去り、あっという間にゴール前にたどり着く。

 

「俺には仲間がいる。ここまで一緒に戦ってきてくれた仲間がいる。新しく加わってくれた仲間がいる。いつも見守ってくれてた仲間がいる。俺たちの強さは、そんな仲間たちと共にあるんだ!」

デスゾーン2ッ!!』

 

 円堂君、鬼道君、土門が回転しながら跳び上がり、三角形の魔法陣を形成。そこから紫色の巨球と化したボールを真下に叩き落とす。

 

「遅れたら許さないからね!」

「言われなくても!」

ホワイトダブルインパクトッ!!』

 

 —— シュートチェイン

 そこへ、私とシロウが吹雪を纏いながら回転。そして二人同時にボールを蹴り、氷を纏ったデスゾーン2はウルフレジェンドを超える勢いでゴールへと放たれた。

 

時空の壁! ……なにっ!?」

 

 ネロが展開した不思議な空間によって、シュートはどんどんその速度を落としていく。しかしネロの手にたどり着く前にボールは息を吹き返したかのように勢いを取り戻し、彼を吹き飛ばしてゴールに入った。

 

『時空の壁破れる! 雷門追いついたァ!』

 

「よっしゃっ!」

「馬鹿な……ジェネシスが2点も失うだと……?」

「ヘヘ、仲間がいればパワーは何十倍も何百倍にもなるんだぜ」

「っ、くっ……!」

 

 ここに来てようやくグランは顔を歪ませた。それは後がないという証拠。相手もなりふり構わず攻めてくることだろう。ここからが正念場だ。

 さあ、もっとサッカーを楽しもう……!

 




 エイリア石の原石破壊されたらその後の計画全部おじゃんじゃんとか言ってはいけない。もしかしたらこの後にとある変態タイツ集団を率いることになる人みたいにエイリア石を別で保管してるかもだし……。
 そして久しぶりのホワイトダブルインパクト君の登場。エターナルブリザードだってモーション省略できるんだし、チェインしたって別にいいよね。
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