悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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究極奥義

「俺には父さんがいる! 父さんがいれば仲間など必要ない!」

 

 その父さんも貴方を道具扱いしてるんだけどなぁ。

 キックオフが始まると、そう叫んですぐにグランが飛び出してきた。どうやら円堂君の言葉によほど動揺したらしい。その勢いは苛烈で、どんどんディフェンス陣を突破していく。

 

もちもち黄粉餅!」

「くっ、この程度のもの……!」

「からのっ…スピニングカットV3!」

「なっ……ぐあっ!?」

 

 しかしどんなに勢いが凄くても、冷静さを失ってることに変わりはない。二重の必殺技はグランの動きを封じ、彼の足からボールを弾き飛ばした。

 

「鬼道く……ぐっ!?」

「お父様の邪魔はさせない!」

 

 この……!

 パスを出そうと足を振り上げた瞬間を狙ったのか、ウルビダが体全体を叩きつけるようにチャージをしかけてきた。片足じゃ到底踏ん張り切れず、勢いよく地面に倒れる。

 ボールはその後再びグランに渡り、ウィーズも合わせて彼らは宙へ跳び上がる。

 

スーパーノヴァ!!』

「くっ…… ムゲン・ザ・ハンドG2! ——ぐあぁぁぁっ!!」

 

 ムゲン・ザ・ハンドを破り、スーパーノヴァは進んでいく。しかしその先には円堂君が立っていた。その彼の額が気の光で輝く。

 

メガトンヘッドG2! であぁぁぁっ!!」

「進化しただと!?」

 

 彼の頭上に現れた拳はいつもよりも大きかった。そして二つの必殺技がせめぎ合う。

 

「ぐぐぐっ……負けてっ……たまるかぁぁっ!!」

 

 それでもスーパーノヴァは強力で、次第に円堂君が押されていく。しかし彼が雄叫びをあげると、拳の気が一瞬だけ増大し、爆発した。その衝撃波で円堂君とボールはそれぞれ逆方向に吹き飛んでいく。

 

「馬鹿な……! こんなことがあっていいわけがない!」

スーパーノヴァ!!』

 

 ボールは運悪くグランたちの元へ転がる。スーパーノヴァが止められたという事実に激昂し、彼ら三人は再びそれを撃ってきた。

 円堂君も私も間に合わない。立向居は自分の力不足を嘆き、そして迫り来る黒球にただ呆然としている。

 

「どうすれば……!」

「止めるんだ立向居!」

「円堂さん、でも俺……!」

「諦めるな! 雷門のキーパーはお前なんだ! 雷門のゴールを守れるのは、お前しかいないんだ!」

「っ……!」

「いっけぇぇ立向居!」

『立向居っ!!』

 

 円堂君や綱海の声に押されて、彼はうつむけていた顔を上にあげる。その顔にもう恐怖はない。

 

「みんなのゴールを……俺がっ、守るっ!! —— ムゲン・ザ・ハンド……G3!!」

 

 両手を合わせ、立向居の気が爆発したかのように増幅する。その背後からは、さらに二つ追加された計八つの光り輝く腕が伸びていた。そして立向居が手を伸ばすと、それを合図に手の群れが黒球を抑えこむ。やがてボールを覆っていた黒いオーラは消え去り、ボールは彼の手に収まった。

 

「やった! やりましたよ円堂さん!」

「ああ! スッゲーキャッチだったぜ!」

 

 まるで尻尾を振る子犬のように立向居は円堂とハイタッチする。というか嬉しすぎてそのまま抱きつく勢いだ。腐女子が喜びそうな展開は別にいいけど、勢い余ってボール落とすのは勘弁だよ。

 

 グランはあまりのショックに膝をついて「馬鹿な……」と呟いていた。隣のウルビダの表情も曇ってしまっている。

 勝利は目前。その事実に私たちの鼓動が高鳴っていく。

 しかし私は戦場の鉄則を一つ忘れていた。

 追い詰められた敵は、どんな戦術よりも恐ろしいということを。

 

『グラン、リミッター解除をしなさい』

「なっ!? で、でも父さんっ、そんなことしたらみんなの体が……!」

『怖気付いたのですか? 貴方には失望しましたよ。ウルビダ、貴方が指揮を取りなさい!』

「父さんっ!」

 

 こっちはこっちで捨てられた子犬みたいな顔してるね。まあ実際あのセリフじゃ捨てられたも同然だけど。グランは追い縋るように手を伸ばすも、大仏のご尊顔が映ってたビジョンは虚しく消えてしまった。

 それにしてもリミッター解除か。グランの反応を見る限りあまり良さそうなものじゃなさそうだ。周りを見渡せば、ウルビダの指示の下、選手たち全員がユニフォームの胸部分に付いているボタンのようなものを押しているのが見えた。

 

 立向居のスローを受け取り、円堂君が駆け上がっていく。私も彼の横に並び、パスをもらおうとして——気づいたらウルビダが彼の目前まで接近していた。

 

「えっ……?」

「なっ……!?」

 

 なにあの速度……!?

 ウルビダは砂煙が巻き上がるほどのスピードで、雷門ディフェンス陣をどんどん突破していく。彼女の今の速度は先ほどまでの比じゃなく、明らかに異常だった。

 動揺してたせいで、思わず近くにいたグランに怒鳴りつけてしまう。

 

「グラン! 何したの!?」

「……リミッター解除さ……。人間の体に本来かけられている制限をこのスーツの機能によって無理やり解除させることで、限界を超えた力を引き出すんだ」

「馬鹿なっ! そんなことをしたら奴らの体が……!」

 

 真っ先に反応した鬼道君がそう叫ぶ。グランはその非難を避けるように苦い顔をしながら、走り去っていった。

 散々ドーピングしてないアピールしといて、最後はこれですか。いや、私が非難するのも筋違いだけどさ。

 ウルビダはグランとウィーズを左右に引き連れて爆走。そしてゴール前まで来ると、彼女の周りに見覚えのある動物が地面から顔を出してきた。

 

「あれは……ペンギン!?」

「これがジェネシス最強の必殺技! ハァァッ!!」

 

 宇宙服を身につけた奇妙なペンギンたちは、ウルビダのオーラで打ち上げられたボールを追尾していく。その先には例の二人が足を振り上げて待ち構えていた。

 

スペースペンギンッ!!』

 

 二人の蹴りを得て爆発的に加速するシュート。立向居の背中から無数の手が伸びてくるが……。

 

ムゲン・ザ・ハンドG3! ——なんだッ、この威力は……!? ぐあぁぁっ!!」

 

 そのことごとくをペンギンたちが貫き、ボールはゴールに突き刺さった。

 

『ムゲン・ザ・ハンド三度破れる! 恐るべしエイリア学園! 恐るべし、ザ・ジェネシス!』

 

「ふっ、これが……ぐあぁぁぁぁっ!!」

「な、なんだっ?」

 

 突然体を抱き締めて悲鳴を上げ始めたジェネシスの選手たちに、円堂君が戸惑いの声をあげる。

 

「人間の体にリミッターがかけられている理由、そんなもの決まってる。なければ体の筋肉がズタズタになって崩壊するからだよ」

「っ……ジェネシスですら道具なのかよ……!」

 

 例えるなら皇帝ペンギン1号を撃ってるようなものだからね。そりゃ叫ぶのも無理はない。うん、他に言い表しようがないほどにまで外道だ。うちの総帥といい勝負してるよ。

 グランたちはしきりに大仏のためにと呟き、体を引きずるように自陣のコートへ戻っていく。見るからに限界が近いことがわかる。

 

「……ねえ円堂君、鬼道君、こんなのはどうかな?」

「ん?」

 

 そんな彼らを見て思いついた作戦を、私は彼らに話した。鬼道君は神妙な面持ちで聞いて静かに頷く。

 

「なるほどな……皮肉だが、こういうことに関してはお前が誰よりも詳しい。全員に伝えてくるとしよう」

「ああ……あいつらに本当のサッカーを見せてやる!」

 

 一見強力に見えるリミッター解除。だけどそれにはもちろん穴がある。それは試合再開後すぐに露見するようになる。

 

 パスを出された円堂君に超スピードでウルビダが迫る。しかし円堂君はトラップもせずにダイレクトで他の仲間にパスを出してみせた。

 ウルビダはズザザッ! と芝生を少しの間滑り、急ターンする。

 

「おのれ小癪な……! コーマ! アーク!」

 

 ウルビダに負けないスピードで二人が鬼道君からボールを取ろうとするも、それも同じようにダイレクトで返すことで回避する。突然方向が変わったボールに二人はついていけず、急ブレーキでもかけたような音が芝生から聞こえた。

 同じように、私たちはワンタッチでパスを出し続け、ボールを運んでいく。ジェネシスのメンバーはスピードでは明らかに勝っているのに、それに追いつくことができなかった。

 

「なぜだっ!? なぜボールが取れない!?」

「簡単なことさ。貴方たちにその力は過ぎたものだったんだよ」

「なんだと……!?」

 

 もちろんお前たち如きには無用の力だ、なんて意味じゃない。本当の意味で過ぎた力なんだ。あのリミッター解除ってのは。

 よく考えてみなよ。フルスロットルでレーシングカーがグラウンド中を駆け巡ってるような状態なんだよ? 曲がれるわけないじゃん。だからこそこうやって絶え間なくボールを高速で回していけば追いつかれることもなくなる。むしろ解除前の方が脅威に感じるぐらいだよ。

 この力が訓練を積んだものだったのならまだどうにかなるだろうけど、グランの反応からそれはないと断言できる。

 

「で、どんな気分かな? 安易な力に頼った末路は」

「きさぁまぁぁぁぁっ!!」

 

 吠えるウルビダを無視して私は駆け上がっていく。ボールはもうペナルティエリア内に入っていた。なら、私はそこにいなくちゃね。

 

「豪炎寺君!」

「吹雪、お前の魂受け取ったぞ! —— 爆熱ストームG2!!」

 

 豪炎寺君の技が進化。さらに激しく燃え上がった炎の竜巻がゴールに向かっていく。

 

時空の壁! ぐっ、止めきれ……ぎゃっ!?」

 

 時空の壁を炎が突き破る。しかしそこで力を使い果たしてしまったのか、ボールはネロに当たっただけで真上に高く弾かれた。

 グランと円堂君が同時にジャンプする。高度はややグランが優勢か? だけど円堂君は諦めずに叫んだ。

 

「壁山ぁぁぁ!!」

「はいッス!」

 

 なんとディフェンスのはずの壁山がここまで上がってきていた。そして彼の腹を踏み台にして円堂君はさらに高く跳び上がり、()()()にパスを出してくる。

 

「豪炎寺、吹雪、なえ!!」

「いくよ……二人とも!」

「ああ!」

「ここまでお膳立てされちゃあ決めないわけにはいかないね! 最高のシュート、見せてあげるよ!」

 

 私の左右に二人が並び立つ。最強のストライカーが三人もいるのだ。なんとかならないわけがない。

 

 私たちはそれぞれ闇、炎、氷を纏って空中に跳び出した。そしてボールを中心に✳︎を描くように交差する。その時に発生したエネルギーが吸い込まれていき、ボールは炎と氷の二つの輪っかを纏った黒球となる。

 

アスタリスクヘブンッ!!!』

 

 その黒球を、左右の蹴りに合わせて両足で踏みつける。

 瞬間、螺旋状に回る炎と氷を纏った黒い閃光が、解き放たれた。

 

 必殺技を出す間もない。閃光はあらゆるディフェンスをすり抜け、ネロを撃ち破り、ゴールネットすらも突き破って奥の壁に巨大なクレーターを空ける。

 しばらくの間、誰も息をすることすら出来なかった。私でさえそのあまりの威力に言葉を失っていた。しかしようやく実感し始めると、みんなから歓喜の声が湧き上がる。

 

『決まったぁぁぁぁぁ!! 三人のストライカーによるアスタリスクヘブンが、文字通りゴールを貫いた! 雷門、これで同点です!』

 

「これが……仲間の力……」

「だね。ハハッ、見たことない顔してるよなえちゃん」

「っ、ちょっと驚いただけだよ! なんというか、これほどまでなんて予想外で……!」

「何を驚くことがある。仲間の力を一つに結集すればどんな敵にも勝てる。それがサッカーだろ?」

「……そうだね」

 

 豪炎寺君に言われて、ようやくこの現象に納得できた。なるほど、そりゃ毎回こんな力出されたら勝てないわけだよ。雷門が強い理由、改めてわかった気がする。

 その後はみんなにもみくちゃにされながら、なんとか所定の位置までたどり着いてキックオフを待つ。

 

 ホイッスルが鳴った瞬間、二陣の風が左右を横切った。グランとウルビダだ。

 

「父さんの望みは俺たちの望み!」

「負けるわけには……いかないのだっ!!」

 

 リミッター解除はたしかに小回りが効かなくなるけど、ああやって最初からボールを持って真っ直ぐに突き進んでいくだけならば弊害はない。フェイントもクソもない、ただただ猪の如く直進する彼らのドリブルに、しかし私たちが追いつくことはできなかった。

 代わりにウィーズが追いつき、再びペンギンが空を舞う。

 

スペースペンギン!!』

 

 ジェネシス最強シュート、炸裂。シュートブロックも追いつかないその圧倒的な速度と威力を前に、立向居が両手を合わせる。

 

ムゲン・ザ・ハンドG3!」

 

 八つの手がボールを覆う。その直後にペンギンたちがその手に刺さり、ヒビが入っていく。立向居の体は徐々に押されていき、しかし彼が諦めることはなかった。

 

「このシュートだけはっ、入れるわけにはっ……いかないんだぁぁっ!!」

 

 力を全部出し尽くすかのように叫ぶ。

 その時、なんと立向居の背中からもう二本の腕が伸びてきた。そして拮抗状態にあったペンギンたちを押し潰し、ボールを掴む。そこでシュートは威力をなくし、静止した。

 

 —— ムゲン・ザ・ハンドG4

 まさかの進化に、グランたちは痛みを忘れて唖然とする。

 

「なぜだ……なぜ決まらない……!?」

 

 そのウルビダの言葉は、ちょうど上でガラス越しに見えている大仏の気持ちを代弁しているかのようだった。私は我を忘れてガラスを叩くその姿を見上げる。

 

 ——貴方にはわからないでしょうね。円堂君たちのサッカーには——ハートがある。

 

「ツナミさん!」

「木暮!」

 

 立向居の手からボールが投げられ、それぞれの名前を呼びながらみんなが繋いでいく。その途中で光のようなものが発生し、それはみんなの足にボールが渡るたびに強く発光していく。

 鬼道君から私へ。触れてみるとボールからは暖かさを感じた。

 ボールからみんなの思いが伝わってくる。ここにいる人たちだけじゃない。アフロディ、染岡君、帝国のみんな……サッカーを愛する者たち全員の心がボールという結晶に詰まっているんだ。

 その時、決戦前のバスで聞いた円堂君の話を思い出した。

 

『ああこれ? 最強の究極奥義『ジ・アース』。チーム全員の心が一つになった時にできる技なんだって』

 

 ——そうか、これが、そういうことなのか。一度も試したこともなく、撃ち方すらわからないはずの技なのに、今ならあれが撃てる気がした。

 

「円堂君!」

 

 この思いよ届け。そう念じ、彼に向かってボールを蹴る。そして彼が触れた途端、輝きは最高潮に達する。その側には豪炎寺君とシロウが。

 三人がボールと向き合い、祈るように手を合わせると、私たち全員の力がその中心に吸い込まれていく。そこで集まったエネルギーが大樹のように上に伸びていき、どことなく地球にも似た青い球体が実を結ぶ。円堂君たちはその真上まで跳び上がると、一つの隕石と化してその地球に衝突した。

 

ジ・アースッ!!』

 

 瞬間、地球が破裂し、十一の光の矢となってジェネシスコートに降り注ぐ。誰もそれらを止めることはできない。選手たちは次々と跳ね飛ばされ、ゴール前についた時にそれらは一筋の閃光となってネロの横をすり抜ける。

 あわやゴール。という時に最後の壁としてグランとウルビダが蹴りを放った。

 

「お父様のために……!」

「止めてみせる……!」

 

 そう叫ぶ二人。しかしジ・アースを止めることは叶わず、二人は大きく弾かれ——

 

「……そうか、これが……!」

 

 ——ゴール。閃光がネットを射抜いた。

 同時に試合終了のホイッスルが鳴った。私たちは即座に円堂君たちのもとに駆け寄る。

 

「勝った……のか……?」

「……ああ!」

『円堂君(さん)\キャプテンっ!!』

「どわぁっ!?」

 

 むぎゅっ、壁山押すな!

 私たちは円堂君の胴やら足やらを持ち上げる。勝った時にやることなんていったら胴上げしかないでしょ。というわけで円堂君を空の旅にごしょうたーい!

 

『え・ん・ど!! え・ん・ど!!』

「俺たちは……勝ったぞぉぉぉっ!!」

 

 空中で拳を突き上げ、円堂君は叫ぶ。

 その眩しいばかりの笑顔に、私も自然と笑みを浮かべていた。




 というわけでジェネシス戦完結です。
 普段なら点差をいじったりするんだけど、ラスボス? なだけあってこの試合だけは逃しちゃいけないシーンが多く、あまり試合の流れを変えることはできませんでした。
 そんでもって『クロスファイア』の上位互換『アスタリスクヘブン』です。モーションは空中でクロスファイアになえちゃんのドロップキックを追加した感じをイメージしてます。まあ言っちゃえば『カオスブレイク』の闇版ですね。技名はこれが作者の限界なので勘弁してください。

 それでは最後に、メリークリスマス。
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