悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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さらば、エイリア学園

 ジェネシスとの死闘が終わり、勝利の余韻に浸っていた私たちの前に例の大仏が姿を現す。しかしその顔は前と打って変わって申し訳なさそうな表情をしており、覇気も消えていた。

 

「ヒロト、お前たち、今まで苦しめてすまなかった……」

「父さん……」

 

 大仏はグランに頭を下げる。この試合を見て何を感じたのかはわからないが、心境の変化があったのだろう。

 グランはその言葉を聞いて父の改心を悟ったのか、目を見開いたあと嬉しそうにほおを緩ませる。

 

「瞳子、私は間違っていた。お前たちに気づかされたよ。そう……ハイソルジャー計画そのものが間違っていたのだ」

「ッ!? ふっ、ふざけるな……!」

 

 背後で芝生が踏みしめられる音が聞こえた。振り向くと、ウルビダが鬼のような形相で大仏を睨みつけている。

 ……あー。こりゃ地雷踏んだっぽいね。やな予感がするよ。

 

「ふざけるなっ! これほど愛し、尽くしてきた私たちを、よりにもよって貴方が否定するのかぁぁぁぁぁッ!?」

 

 ウルビダは近くにあったボールに紫色のオーラを集める。

 —— アストロブレイク

 彼女の右足によって放たれたそれは、地面を抉りながら大仏に向かっていく。

 

「危ない、父さん!」

「っ!」

 

 しかしその直前、グランが大仏の前に出て彼を庇った。仮にもジェネシストップクラスが撃ったボールだ。その威力に彼の体は宙を舞い、背中から地面に激突する。

 

「ヒロトっ!」

「なぜだ……なぜ止めたんだ!? そいつは私たちの存在を否定したんだぞ! そいつを信じ、戦ってきた私たちの存在を!」

 

 円堂君に支えられるグランに向かってウルビダは叫ぶ。

 さっきまでお父様だったのにそいつ呼びになっちゃってるよ。よっぽどブチギレているのだろう。大仏はその言葉を黙って受け止め続ける。

 

「私たちは全てを懸けて戦ってきた! ただ強くなるために……そいつの望んだ通りに……! なのにそれを今さら間違っていた!? そんなことが許されていいのかグラン!?」

 

 ウルビダは裏切られたと感じているのだろう。なるほど、信じていた相手がそうしたのだったらショックを受けるのも当然だ。

 だけど、それは——

 

「——それは自業自得だよ」

「……なんだと?」

 

 思わず口を挟んでしまった。だってイライラするんだもん。射殺すかにような彼女の視線を受け流し、淡々と思ったことを話す。

 

「貴方は選択をしなかった。望みを叶えようとしなかった。何もしていない者が何もかも失うのは当たり前のことだよ」

「したさ! 私の望みはそいつの野望を叶えることだった!」

「それは貴方の望みじゃないよ。ただ選択肢を他人に委ねているだけ」

 

 まったく、試合前に言ったことを彼女にも言うハメになるとは。

 

「今ここで苦しむってことは、強くなるのは貴方の本当の望みじゃなかったということ。貴方も、彼らもどーせグランと同じでこの計画に内心じゃ賛成してなかったんでしょ。なのに貴方たちはハイソルジャーとなった。それが過ちなんだよ」

「黙れ……」

「自分の父が悪事を為そうとしているのなら、瞳子監督についていって止めようとすればよかった。幸いそこまで強くなれるんだったら実力が不足するなんてことはなかったはずだし。なのに貴方たちはそれをしなかった」

「黙れ……!」

「教えてあげようか? 貴方たちはただそこの男に嫌われたくないって理由だけで思考することをやめたんだよ。歩みを止めた者に訪れる幸せなんてあるはずがないの」

「黙れぇぇぇっ!!」

 

 耳を塞ぎたくなるほどの叫びが響き渡る。ウルビダは荒々しく呼吸をしながら憎悪の瞳をこちらに向けてくる。憎む相手は私じゃないでしょうに。とはいえこのままじゃ殴りかかってきそうな雰囲気だったので、スッと格闘技の構えを取った。

 

「……もうそこまででいい、白兎屋君」

 

 そこに割って入る影があった。大仏だ。彼は転がっていたボールを拾い、ウルビダのもとに投げ、そして無抵抗の意思を示すように両腕を広げる。

 

「さあ私を撃て! これで許してもらおうなどとは思っておらん! しかし少しでもお前の気がおさまるなら、存分に私を撃つがいい!」

「父さん! ……ぐっ!」

 

 グランはそれを止めようとするけど、痛みで動けないようだった。あの様子じゃたぶん肋骨が折れてるね。鍛え上げられたグランですらそれなのだ。一般人の大仏なんかに直撃したら……最悪死が待っている。

 ウルビダは少しの間目を見開き、やがて鋭い目をして足を振り上げる。

 

「撃つも撃たずも自由。だけど今度こそよく考えなよ、貴方の望みを。ここで嘘ついたら多分一生後悔するよ?」

「……私は……私は……っ、できない……!」

 

 ウルビダは地面に崩れ落ちた。掠れるような嗚咽が聞こえる。

 

「私はっ、本当はっ、前のあの優しいお父様と一緒にいたかっただけなんだ……!」

「ウルビダ、グラン……。私は人として恥ずかしい。こんなにも私を思ってくれている子供たちを、道具にしてしまうとは……」

 

 ウルビダだけじゃない。グランや他のジェネシスの選手たちも、ウルビダの告白につられて泣き出した。大仏はその光景を見て空をあおぐ。

 これで大部分は片付いたか。あとは私個人としては今回の騒動の理由なんかも聞きたいんだけど……。

 

「話してくれませんかね吉良さん。なぜハイソルジャー計画なんて企てたのか。どこで道を誤ってしまったのか。巻き込んでしまったあの子たちのためにも」

 

 そんな問いが聞こえてきた。振り向くと、そこにいたのは——。

 

「げぇっ!? 鬼瓦!?」

「何が『げぇっ!?』だこのバカモンが!」

「もんぶらんっ!?」

 

 ぐぉぉぉ……! 頭が……! 総帥にもぶたれたことないのに! まあ、明らかに殴られる以上のことはされてるけど。

 というか今までどこに行ってたんだこの人。エイリア石壊してからけっこう時間が経ってるはずだし、その後音沙汰なかったことを考えると……。

 

「……迷子になってた?」

「やかましいわ! この研究所をトラップだらけの迷宮にしたやつが悪い!」

 

 あ、お疲れ様ッス……。

 鬼瓦刑事はクソッタレと吐き捨て、地団駄を踏む。怒髪天を衝くとはまさにこのことだろう。衝く髪が少ないのはともかく。しかしそれを言ったら大仏の前に私がお縄についちゃいそうなので黙ることにした。幸い今は鬼瓦刑事も私よりそこの大仏の方が気になるみたいだしね。

 

「……私には一人息子がいた。名をヒロトという。そこのグランとは違う、血の繋がった実子だ」

「戸籍情報にもありましたね。ただ今はもう……」

 

 鬼瓦刑事はそう言って目を伏せる。それだけで何か悲しいことがその『ヒロト』に起きたのがわかった。

 

「ヒロトはとてもサッカーが好きな子で、将来の夢はプロのサッカー選手でした。しかしサッカー留学をした海外の地で少年犯罪に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまった……」

「ちょっと待ってください。データじゃ交通事故ってことになってますが……」

「事件にその国の政府要人の息子が関わってたとかで揉み消されたのですよ。私も何度も警察にかけあったが無駄だった。あの時の悔しさ、喪失感は今でも覚えている。おひさま園にいたお前たちがいなければ私はどうにかなっていただろう。お前たちには本当に感謝しかない」

 

 しかし、と大仏は続ける。

 

「5年前に見つかったエイリア石の原石。これを研究しているうちに私はその恐るべきパワーに取り憑かれていった。しかし同時に今まで抑え込んできた復讐心が込み上げてきて……私は他国への復讐しか頭に浮かばなくなってしまった」

 

 それもエイリア石の力だろう。私の組織でも多少は研究させていたのだけど、あの石には所有者の精神を侵す効果があることが明らかになっている。源田や佐久間がおかしくなったのはそのせいだ。まあ、佐久間はちょっとアレだけど……。

 

「……悲しい、話ですね」

「どんなに理由があろうとも、私のしたことは決して許されるべきではない。みんな、本当にすまなかった……」

「吉良さん……」

 

 大仏は膝をつき、頭を下げる。

 とその時、鬼瓦が使った爆弾とはレベルの違う爆発音が、研究所内に響き渡った。

 

「っ、吉良さんこれは……!?」

「まさか……誰かが自爆スイッチを押したのでは……!?」

「なんでそんなものあるの!? センスまで一緒じゃなきゃいけないの悪の親玉って!?」

 

 総帥のバカヤロー!

 いつかの潜水艦の自爆に巻き込まれたトラウマが蘇る。いやマジで洒落にならんよそれは。最悪死ぬ。いや絶対死ぬ。

 

「みんな出口に急げ!」

 

 鬼道君がそう言った矢先に、瓦礫で出口が塞がれた。

 鬼道君のバカヤロー! だいたいそういうののお約束っての知らないの!? 一人でフラグ立てて高速で回収するんじゃない!

 と思ったら瓦礫が吹き飛び、そこからイナズマキャラバンが姿を表した。操縦しているのはもちろん古株さんだ。

 

「みんな乗るんだ! 早く!」

 

 来た、メイン盾来た! これで勝つる! 途中で私はここに残るとかなんとか言い出した大仏を殴って気絶させ、無理やり乗せる。

 イナズマキャラバンは出口に向かって走り出した。だけどヤバい。爆発の炎が一気に噴き出してきて、今にも追いついてきそうだ。

 

「うおォォォォォォっ!!」

 

 古株さんの叫びに応えるかのようにイナズマキャラバンは炎の追跡を振り切って研究所から脱出し、もときた道を爆走していく。

 瞬間、背後から耳がちぎれんばかりの大轟音とともに衝撃波がキャラバンを揺らした。それでもキャラバンは進み続け、数分後私たちはようやく安全な場所まで避難できた。

 私たちは外に出て、その強者どもが夢の跡を様々な思いで見つめる。

 

「……終わったんだね」

「ああ……」

 

 それ以上は何も言う気になれなかった。

 泡沫夢幻。死闘を繰り広げたフィールドも何もかもも、全て夢の如く消えてしまった。そのせいだろうか、なんか実感が持てないや。

 

 ——こうして、私たちの戦いは終わった。

 

 

 ♦︎

 

 

「さあ行きましょう」

 

 数十分後。何台ものパトカーや護送車などが駆けつけてきて、辺りは騒然としていた。

 聞き耳を立てていると、どうやらジェネシス以外のエイリア学園のメンバーも無事保護されていることがわかった。デザームのやつの姿を思い出し、ふっと顔を綻ばせる。

 エイリア学園が起こした事件では、幸い犠牲者が出ることは奇跡的になかった。未成年ということもあり、彼らは事情聴取だけしてのちに釈放されることだろう。

 

 鬼瓦刑事に連行されて、大仏がパトカーに入ろうとする。その後ろ姿をグランが呼び止める。

 

「父さん、俺待ってるから! 父さんが帰ってくること、みんなで待ってるから!」

「ヒロト……ありがとう……」

 

 その一言を最後に、男の姿はドアで遮断されて見えなくなる。グランたちは遠くなっていくパトカーを消えるまでずっと見つめていた。

 

「さあ君たちもだ」

 

 今度はグランたちの番だ。護送車に彼らは次々と乗り込んでいく。

 しかしグランだけはこちらに振り返ってきた。

 

「円堂君、なえちゃん。また会えるよね?」

「もちろんだ! サッカーを続けていれば、俺たちはいつでも繋がっている。だからまた戦おうぜ!」

「今度は私ももっと腕を磨くから、覚悟しといてね。リミッター解除ありだったとはいえ、スピードで負けたのはショックだったんだから」

「……ああ!」

 

 私と円堂君はグッと親指を突き立てる。それを見たグランは笑ってサムズアップ仕返した。

 サッカーをしてれば会えるか。たしかにその通りだ。これが最後じゃない。今度会った時は今日以上に素晴らしい試合に出会えることだろう。

 さようならは言わない。またいつか会える日まで、グラン。

 

 

「……何言ってるんだ? お前も来るに決まってるだろ」

 

 ガチャンという音が聞こえた。下を向いてみれば、私の手首には手錠がかけられてあった。

 

「……嘘だと言ってよバーニィ」

「誰がバーニィだ。というか当然だろ。今回の件は俺たちじゃ手に負えないと判断したからお前をしばらく野放しにしてたんだ。見事役目を果たしたから減刑は当然されるだろうが、お前が立派な犯罪者であることには変わりない」

 

 おいおいおいおい!?

 だからって感動的な別れシーンを台無しにする必要ないでしょ!? どんなタイミングだ! 円堂君やグランもあまりの超展開に驚きを通り越して呆れた目してるし!

 

「くそっ、こうなったら煙幕で……って、ない!? 嘘!?」

 

 太ももをまさぐろうにも、感じられたのは汗で濡れたズボンの感触だけだった。

 しまったぁぁぁぁっ!! ユニフォーム姿だから隠してた武器ねぇぇぇっ!!

 ダラダラと汗が流れ落ちてくる。

 

「ね、ねえ? 無事エイリア倒したんだし、私にも報酬が必要じゃない?」

「減刑でそれは支払われてるだろ」

「お願い! せめて一日、一日だけ! 最後に円堂君たちとサッカーしたいの!」

「とは言ってもなぁ」

 

 この石頭が! 鬼瓦刑事は悩んでいるようだが、私を離すそぶりは見せない。あともう一つ、もう一押しなんだけどなぁ。

 

「ま、まあいいんじゃないですか。俺たちもなえとサッカーしたいし」

「円堂……ちっ、しょうがねえな。一日だけ仮釈放を認めてやる。こいつに感謝しろよ」

「円堂ぐぅ゛う゛う゛ん!!」

「のわっ!? 泣きながら抱きつくな!」

 

 君なら助けてくれるって信じてたよ! さすが円堂君! 教祖様! 神! 

 手錠が外されたあと、あまりの嬉しさに押し倒す勢いで彼に抱きついてしまった。おっ、秋ちゃんと夏未ちゃんが顔を熟れたリンゴみたいに真っ赤にしてるぞ。意地悪い笑みを浮かべて、抱きつく力を強める。

 

「スキンシップはそこまでだ。こいつは俺が責任持って監視してやる」

 

 しかし至福の時間は長く続かず、私は俵でも担ぐみたいに胴体を鬼瓦刑事に持ち上げられた。

 ゴホッ、肺部分に肩がっ。絶対狙ってるだろこのジジイ!

 

「げっ、もしかしてついてくるつもり?」

「円堂たちじゃお前さんを止められそうにないからな。逃げ出さなきゃいいだけだ」

「へいへい。何もしませんよっと」

 

 さすがにこんな警察だらけの場所は部が悪い。しばらくは大人しくしておくしかないだろう。

 そうこうしているうちにイナズマキャラバンにみんなで乗り込んでいく。そういえば、瞳子監督はグランたちのためにここに残るそうだ。お別れの言葉は短かったけど、彼女は今までにないくらい晴れやかな顔をしていた。……相変わらず目に光が宿ってなかったからちょっと怖かったのは内緒だ。

 そんなこんなでキャラバンは走り出し、私たちは背中を見送ってくれる富士山に別れを告げた。




 大仏ェ……。
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