悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
富士山での決着から数時間後ほど。私たちはバスに揺られて到着を待っていた。話す内容はエイリア学園のこと。ジェミニを始め、今までの激闘を振り返るようなものが中心だ。
「そういえばみんなはこの後どうするんだ?」
「この後って?」
「だから、雷門中についた後だよ」
塔子の質問に円堂君が答える。やっぱりというか、追加されたメンバーは全員故郷に帰るようだ。一人ダーリンとお好み焼き屋する〜とか言ってる人がいたけど。
「塔子は?」
「うーん、リカんちの横で円堂とたこ焼き屋さんやろっかなー」
『えっ!?』
「冗談だよ冗談」
おおー、秋ちゃんと夏未ちゃんまた顔赤くしてるよ。やっぱいじりがいがあるなぁ。
と思ってたらボンッ! という小規模な爆発音が前方から聞こえてきた。そして急停止するキャラバン。
「あちゃー、ずいぶん無理させちまったからな。こりゃ修理が必要かもしれん」
まあろくに整備されてない道をあれだけ爆走したらね。その前に瓦礫を吹き飛ばす際に強くぶつけてるはずだし。
「お前ら、修理に時間がかかりそうだから外に出てていいぞ」
そう言われて窓を覗く。ちょうど真っ平らな芝生が広がっていて、サッカーをするには十分そうだった。私は弄っていたスマホの画面を消す。
「よしちょうどいいや。サッカーやろうぜ!」
その提案に全員が大賛成し、私たちはそこで一時間ほどサッカーをすることとなった。
♦︎
サッカーが始まって十数分後、円堂は少し離れた場所で座っている秋を見つけた。やかま……音無はともかく、あの夏未ですら芝生を駆け回っているのに。不思議に思い、彼女に話しかける。
「秋はやらないのか?」
「うん、私はいいの。ここでみんなを見てたいし」
そう言って笑う秋は本当に満足しているようだった。心配は杞憂だったようだ。休むのにちょうどいいタイミングなので、円堂も彼女の隣に座る。
「ほんと、色々なことがあったね……」
「ああ……」
二人は雲一つない青空を見上げる。
悲しいこと。悔しいこと。許せないこと。たくさんの悲劇があった。しかしそれと同じくらい、いやそれ以上に楽しいことや嬉しいこともあった。その例がチームメイトの仲間たちだろう。
「俺、思うんだ。エイリア学園とはたぶん誰かが戦わなくちゃならなかった。それが俺たちでよかったって。だって、こんなにもスゲー仲間に会えたんだから」
「……ふふっ。そうだね」
今度はサッカーをしている者たちに目を向ける。塔子、吹雪、小暮、リカ、立向居、ツナミ、なえ、そしてここにはいないがアフロディも。最初は衝突もしたが、分かり合うことのできた最高の仲間たちだ。
「来年のフットボールフロンティアはあいつらも出るらしいからな。くぅぅ! 今から楽しみでたまらないぜ!」
「なえさんは出れるかわからないけどね」
「それを言うなって……」
二人の焦点は現在弾けるような笑顔でボールを蹴っているなえへと当たる。捕まることが確定してるのにも関わらず、いつもと変わらず元気な彼女に少し苦笑いが浮かんだ。
「なんか、最初想像してたのとはずっと違ってたね。もちろん怖い時もあるけど、しょっちゅうドジ踏むし、なんだか憎めないって感じ」
「サッカーが好きなやつに悪いやつはいない。たとえ悪いとしても、きっと分かり合える。敵だったなえとジ・アースが撃てたってことは、あいつと心が繋がれたってことだろ? たぶんあいつは根はすごくいいやつなんだけど……ちょっと環境が悪かったから捻くれちゃっただけなんだって思うんだ」
円堂は続ける。
「俺、最近になってちょっとだけあいつの気持ちが分かるような気がするんだ。あいつはすっごくサッカーが大好きで、いっぱい練習して……それでも実力以外のことで上を目指せないってなったら、たぶんすごく悔しい思いをしたと思う」
「円堂君……」
円堂たちも一時期は試合の機会さえ与えられなかったが、それは単にあのころの自分たちがどうしようもないくらい弱小だったからだ。だけどなえは十分強いのに、性別が違うだけで世界一のサッカー選手という夢を奪われそうになった。そんなことになったら自分は怒りを抑えることができるだろうか?
「だから俺、今回の旅で将来やりたいことができた。もちろんプロのサッカー選手っていうのは変わらないけど、性別に関わらず誰もが平等にプレイできるルールを作るんだ。そしたらなえが帰ってきた時も、また罪を犯さないで済むだろ?」
塔子やリカ、ウルビダなど、世の中には性別に関係なく強い選手がたくさんいることを今回の旅で知った。もしそんな選手たちが世界中にいて、一緒にサッカーできたらどんなに素晴らしいことか。円堂はまだ見ぬ強敵たちを思い浮かべて、武者振るいで勢いよく立ち上がる。
「性別に関係なくか……。じゃあいつか私が正義の鉄拳とか出す未来が来るかもね」
「ははっ、面白いなそれ! じゃあ夏未は……ローズスプラッシュとか出したりしてな!」
身近な人たちが次々と強力な必殺技を放つ姿を想像して、笑い合う。その後しばらくの間、そんな愉快な未来への妄想に二人は没頭するのだった。
♦︎
それから一日ほど経って、ようやく東京の雷門中にたどり着いた私たち。さすがに私の仮釈放猶予をこれで終了にするほど鬼瓦刑事は名前通り鬼ではなく、きちんとみんなでサッカーをするまで待ってくれることを約束してくれた。
……だけど、何かおかしい。
「……鬼瓦刑事。気づいてる?」
「当たり前だ。昼間なのに人気のいっさいねぇ校舎。それに何よりもこの雰囲気……気づかなかったらベテラン失格だっつーの」
根拠はないけど、本能が危険を感じ取っているのだ。私たちみたいな戦闘のプロではないみんなはキョトンと首を傾げているけど、私たちはその感覚を楽観視しなかった。
「お前ら。静かに俺の後をついてこい。殿は癪だがなえ、お前に任せた」
「私の方が戦闘は得意だと思うけど……まいっか」
私たちが銃を取り出すのを見て、みんなは息を呑む。ようやく事態を飲み込めたようだ。そうしてゆっくりキャラバンから降りて校庭に向かう。
昼間なのに……雲が分厚い。おまけに霧がかっていてどこか不気味だ。その霧が少し晴れ、見覚えのある人物が姿を現す。
「お待ちしておりましたよ雷門イレブンの皆さん」
「お前は……吉良星ニ郎の秘書の研崎! なぜお前がここにいる!?」
グラン以上に青白いその肌はよく覚えている。大仏のプレゼンの後、私たちに道案内をしたやつだ。私たちは銃を彼に向ける。
「おやおや困りますねぇ、そんなもの向けられちゃ」
「黙れ。ちょうどよかったぜ。研究所を彷徨っている時にお前が関与したであろう事件をいくつか発見した。大人しくついてきてもらうぞ」
「ふむ、貴方がいるのは予想外でしたが問題はありません」
パチンと研崎が指を鳴らすと、黒服の男たちが現れる。その中心に囲まれているのは雷門中の理事長だった。猿ぐつわを外され、見せ物のように前に突き出される。
「お父様!」
「すまないお前たち……」
「彼だけではありません。校舎内には大勢の生徒たちが捕まっています。もし私に手を出そうと言うのなら……まずは彼らから生贄になってもらいましょう」
「くっ、人質か……卑怯な……!」
悲報、雷門がテロに巻き込まれた件について。状況は最悪の一言だ。私たちは仕方なく銃を下ろした。
「どうしてこんなことをするんだ!?」
「どうしてか? それはですね、私が作り上げた最強のハイソルジャーの力を世に知らしめるためですよ!」
霧が徐々に晴れていき、研崎の背後に十一人の人影が一列になって現れた。その顔はフードで深く隠されており、得体の知れなさを感じさせる。
あの人数ってことは、相手が求めるものはサッカーの試合か。
「感謝してますよ。貴方たちのおかげであの無能……吉良星ニ郎を消すことができました」
「なんだって?」
研崎は不気味に笑うと、黒服たちから黒いケースを受け取って、それの中を私たちに見せつけてくる。紫色の光を放つ石。そんなものは一つしかない。
「エイリア石だって……!?」
「馬鹿な! エイリア石はあの爆発で消えたはずじゃ……!」
「ええ、原石はね。だから私はあらかじめ大量のエイリア石を別の場所に保管しておいたのですよ」
「そーゆーことね。あの自爆は貴方のせいだったってことか」
不自然だと思ってたよ。厳重に守られているはずの自爆システムが誤作動を起こすはずもない。誰かが裏で起動させたんだって。まさかこんなにも早く黒幕が出てくるとは思わなかったけど。
「あの老いぼれはエイリア石の使い方をなんにもわかっていませんでした。強化人間との訓練によって究極の人間を作り上げる? そんなことよりもエイリア石の力を何倍にも高める研究を行い、それを人間に直接与えた方が効率も性能もずっと上だというのに!」
「ふーん。で、その後ろの人たちが例のハイソルジャーってやつ?」
「そう! 私が作り上げた人間を超えた新人類! その名も『ダーク・エンペラーズ』です!」
フードを被っていた人たちが一斉にそれを取り払う。その下に現れた素顔はまさかの人たちのものだった。
「お前は……風丸!?」
「それにマックス、半田、影野……」
「少林、宍戸、栗松もいるッス!」
「染岡君まで……!」
円堂君や豪炎寺君たちが次々と敵の名前を口にしていく。ダーク・エンペラーズの正体は入院していた雷門イレブンの一員だった。その他にも御影専農の杉森や木戸川清修の西垣、そして前に杉森と一緒に練習していたシャドウまでいる。
……アフロディはいないみたいだね。神のアクアの件で学習してさすがにエイリア石には手を出さなかったか。
彼らは全員が黒と青のスーツを身に纏っており、その姿は紛れもなくエイリア学園を連想させる。かつての仲間たちが今立ちはだかっているのを見て、みんなは困惑してしまう。
「久しぶりだな、円堂」
「……こんなの嘘だ! お前たちは騙されてるんだろ!? なあ!?」
「違う。俺たちは自分の意思でここにいるんだ」
風丸は紫色に妖しく輝くエイリア石がついたネックレスを見せつけるように取り出す。
「このエイリア石に触れた時、力がみなぎるのを感じた。求めていた力が……!」
「求めていた力……?」
「……俺は強くなりたかった。だが自分の力では超えられない限界を感じていた。でもエイリア石が、信じられないほどの力を与えてくれたんだ。そして俺のパワーとスピードは以前とは桁違いにアップした! この力を思う存分使ってみたいのさ!」
「ちょっと待てよ! エイリア石の力なんかで強くなっても意味がないだろ!?」
「それは違うでヤンス」
栗松が円堂君の言葉を否定する。
「強さにこそ意味があるでヤンスよ」
「俺はこの力が気に入ったぜ。もう豪炎寺にも吹雪にもなえにも負けやしねぇ!」
「俺たちは誰にも負けない強さを手に入れたんです」
「エイリア石の力がこんなに素晴らしいなんて思わなかったよ」
「いつまでも走り続けられる。どんなボールもさばくことができる」
「全身に溢れるこの力を見せてあげますよ」
「俺はもう影じゃない。存在感を示す時がきたんだ。ふふふっ……」
なんか最後裏切った理由がしょぼい気もするけど、それは置いておこう。
「円堂くん、貴方は太陽みたいに眩しい人だ。だからこそわからない。才能がなく、地上最強イレブンになれなかった者たちの悔しさが。だから私が力を与えてやったのですよ。彼らが望んだ力をね」
「そんな……!」
研崎の言葉にも一理ある。私たちは人間である以上、才能には個人差があるし、それによって実力にも差が出るだろう。私はもみあげが妙に長くなった染岡君に目をやる。
「染岡君、ちょっと見直してたんだけどなぁ。がっかりだよ」
「へっ、神のアクア使ってた連中のキャプテンやってたやつがよく言うぜ」
「そこじゃあないんだよ」
「あ?」
予想外の言葉だったらしく、染岡君が疑問符を浮かべる。
「別にドーピングを私は否定しないよ。どんな手段であれ強くなるならけっこう。……だけど、仲間を裏切るイナズマイレブンは許せない」
私も過去に帝国を裏切ったりもした。だけどそんな私に仲間の強さを、イナズマ魂を教えてくれたのが雷門だった。その雷門が裏切る姿なんて見たくもない。
彼らの言葉を聞いて、今まで抑えていた怒気が放出された。荒ぶる気の奔流は黒いオーラとなり、私の長い髪をたなびかせる。
「今日の私はちょっと怒っている。覚悟しろよ半端者ども。徹底的にすり潰してあげるからさ……!」
「ま、待てなえ! こんな状態のあいつらと試合なんて俺はしたくない!」
「そうだ、怒りに身を任せるなんてらしくないぞ。こんな試合、お互いに得るものなど何もない」
円堂君と鬼道君に諌められて、少し気の放出が弱くなる。
頭が冷えた。今の私は雷門なんだ。私一人で戦うわけにはいかない。
だけどその抑制は、次の瞬間弾け飛んだ。
「ほう、試合がしたくないとは。ならば仕方がない。風丸、校舎を破壊しなさい」
「はい」
「っ、やめろ!」
こいつら、どこまでも……!
あの中にはまだ生徒たちがいるのだ。校舎なんか破壊したら生き埋めになってしまう。それを事前に円堂君が静止したとはいえ、実行するそぶりを見せた風丸に腹が立った。
「どうします? 彼らは本気ですよ」
「さあ円堂、サッカーやろうぜ」
煽るように円堂君の言葉を使ってくる風丸。もう我慢できないよ。
「円堂君、これは世宇子の時と同じだよ。彼らを止めるには、彼らの考えが間違っていると力づくで証明しなきゃだめなの」
「っ……!」
円堂君は私たちの顔を見渡す。全員覚悟は決まったようで、声を出して反対しようとする者は誰もいなかった。響木監督が頷くのを見て、円堂君は返事をする。
「……わかった。お前たちの挑戦受けてやる。そして、試合でお前たちに本当のサッカーを教えてやる!」
「ふっ、そうこなくてはな」
風丸はそれ以上話すことはないとばかりに背を向ける。
かくして、雷門対ダーク・エンペラーズの試合が決まった。
出ました変態タイツ集団。略してへんタイツ集団。個人的にはアニメの染岡さんがモミ岡さんになってなかったのが非常に残念です。他のメンバーは変わってるのに、どうして染岡さんだけいつもと同じなんだ……!