悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
さすがにすぐに試合というわけにもいかず、研崎は30分ほどの猶予を私たちにくれた。その間にユニフォームやスパイクに着替えて、ベンチに集まる。
珍しいことに、臆病者の壁山が誰よりもいち早くベンチにいた。彼の手には身に覚えのないボロボロの木の板がある。しかし円堂君たちには見覚えがあったようで、彼に声をかけていた。
「壁山、それは……」
「みんな、忘れちゃったんスかね……」
彼の手にあるものを覗き込む。その板には『サッカー部』の文字が、かすれた墨汁らしきもので描かれていた。
察するに、これはみんなの思い出の品なのだろう。円堂君たちはかつての日々を思い出すかのように目を閉じる。
「……そうだ。あんなに俺たちはサッカーを頑張って続けてきたんだ。その日々が、エイリア石なんかに潰されるはずがない!」
「取り戻すぞ円堂、俺たちの仲間たちを!」
「あたしたちも手伝うよ。だってあたしたちも雷門だから!」
「豪炎寺、みんな……ああ!」
決意を新たに、私たちはグラウンドに足を踏み入れ、ポジションにつく。
瞳子監督がいないので、監督は響木監督がやることになった。とはいえ不安はない。あの人は私の世宇子を打ち破って日本一に雷門を導いた監督なのだ。きっと適切な判断を下してくれることだろう。
キックオフとなり、鬼道君はバックパスをする。それはディフェンスラインからいきなり上がってきた円堂君に渡った。敵の力量を測るために、なによりも円堂君に勝負させるためだろう。風丸もその意図を読んだのか、円堂君に向かって走り出す。
そして両者がすれ違い——ボールは一瞬で円堂君の足元から姿を消した。
「なっ!?」
「キーパーじゃなかったらお前も大したことないな!」
速い。ジェネシス以上の速度だ。だけど今の私なら……! そう思い、彼と距離を詰める。
その時、今度は彼の姿が文字通り消えた。
「真疾風ダッシュ!」
「……へっ?」
思わず間抜けな声を出してしまう。見えなかったのだ、この私が。疾風ダッシュは高速でジグザグにドリブルして相手を抜く技なのだが、私はそのドリブルすら認識できなかった。
ありえない。リミッター解除のジェネシス戦で私の動体視力は以前よりも上がっていたはずだ。それがこうもあっさり……!
「どうだなえ!? もうスピードはお前だけのものじゃない! 俺が、最速だ!」
「ぐっ、この……!」
その煽り言葉にプライドを逆撫でされ、私はすぐに彼の後を追った。だけど、追いつけないっ。まさか私がスピードで完敗するなんてっ。
「風丸さん……」
「邪魔だ!」
「っ、ザ・ウォール! ——ぐあああっ!!」
風丸は壁山が前にいるのに、躊躇いもせずシュートを撃った。それはザ・ウォールを容易に貫き、その背後に控える立向居めがけて飛んでいく。
「ムゲン・ザ・ハンドG4!」
十個もの御手が雨のように降り注ぐ。ボールはその威力を大きく殺され、立向居の手に収まった。しかし、彼の手からは黒煙が立ち上っている。
ただのシュートであの威力。ジェネシスを完全に超えたその力に、私たちはただただ驚愕するほかなかった。
「っ、豪炎寺!」
「いくぞ少林!」
「おお!」
立向居から回ってきたボールを、鬼道君が蹴る。その豪炎寺君の目の前には宍戸と少林が走ってきている。
宍戸は両手を組んで足場を作ると、そこに少林の足が乗る。そして一気に投げ上げられ、一度天空に達したあと、少林は重力を味方につけて隕石のように落ちてきた。
「シューティングスター!!」
「っ、ぐぅっ!」
豪炎寺君はなんとか避けようとその場を下がる。しかし結局、少林が地面に激突した時発生した衝撃波によって吹き飛ばされてしまった。
「動きが鈍くなりましたね豪炎寺さん!」
「栗松!」
宍戸から栗松へ。彼は風を纏い出し、走り出す。
「真ダッシュアク——」
「クイックドロウ」
しかしその前に、鬼道君が高速で加速してボールを掠め取った。
ダッシュアクセルはスピードに任せた突破力は高いが、そのスピードに即効性はない。車みたいに徐々にアクセルを上げていかなければならないのだ。その一瞬を鬼道君は突いた。
鬼道君は私にパスを出す。
「だったからこっちも! 真クイックドロウ!」
マックスはお返しとばかりに同じ技を、いや鬼道君以上の精度のものを使ってくる。風丸ほどではないが、これも凄まじい速度だ。
だ、け、ど。
「私にその技を出すのは迂闊だったね。——ジグザグストライク!」
瞬間、私の体は金色に輝き、容易くマックスをかわした。
クイックドロウは私の技でもある。その弱点は軌道修正のしにくさ。一度しか地面を蹴らないで加速するために方向転換できないのだ。しかし私の技はダッシュアクセルなんてしょぼい技と違って即座に、それ以上の速度で加速し、変則的に動き回ることができる。
マックスを抜けた先にはキーパーの杉森と影野。だけど影野の位置どりが変だ。まるでもう一人のキーパーとでも主張するように、杉森の真横に立っている。
まあなんでもいいや。得点のチャンスだ。
「ムーンライトスコール!」
天空に浮かび上がった黄金の月にかかと落としをくらわせ、光の雨を降らす。並のディフェンスならシュートブロックにすら持ち込めない弾幕砲撃。しかし杉森と影野は降り注ぐ雨を避けながら全身し出した。そして光の雨のうちの一つに狙いを定め——
『デュアルスマッシュ!!』
左右からの飛び蹴り。その間に光は挟まれ、威力を殺される。そして弾かれたボールを杉森が軽々とキャッチした。
ああもう、最近は決まらないことが多いなぁ! 私のムーンライトスコールは光の雨を降らす技だけど、そのほとんどがエネルギーだけでできたダミーだ。本物のボールは一つしかない。だけど落ちてくるスピードも量もすごいから今まで問題にならなかったんだけど……まさか見破れる者が出てくるとはね。
「新しい技みたいだけど、大したことないねぇ」
「この程度ならいくらでも止められるぞ!」
むかっ! こんのぉ……調子乗ってくれちゃってぇ……! 決めた。あいつら風穴空けてやる。絶対風穴空けてやる。
私のシュートが軽々と止められたことに土門が言葉を漏らす。
「これがエイリア石の力なのかよ……!」
「いや、それだけじゃない。みんな本当に強くなってるんだ。たぶんエイリア石なしでも」
「ああ、まさかこんな場面で体感することとなろうとはな」
「それが……どうしてエイリア石なんかに頼っちゃったんだ……!」
敗者の気持ちなんて考えたって無駄だよ。負け犬は負け犬。そいつらにしかその気持ちはわからないし、円堂君には必要のないものだ。……いや私も彼に毎回負けてるって意味じゃ負け犬だけどさ。ドーピング抜きにしても、ここまでプライドを捨てたやつらなんかの気持ちなんてわかりたくもない。
「うおぉぉぉぉっ!!」
染岡君が雄叫びを上げながら走ってくる。そこまではいいけど、そのエイリア走り絶対似合ってないからやめたほうがいいよ。
「そこまでだ!」
「ここを通すわけにはいかないッス!」
「円堂に壁山か。ハハッ、無駄なことを! 今の俺にはどんなディフェンスを無力だ!」
しかし、その力は本物だ。ただのタックルだけで、円堂君はともかくあの巨漢の壁山をぶっ飛ばしてみせた。
あの突破力は厄介だ。だから、対策を取らないとね。
「もちもち黄粉餅!」
「ぐっ、こんなもの……!」
私の餅の鞭が染岡君の両足に絡みつく。人間は歩く時も走る時も、両足を交互に出さなくちゃいけない。だからこうしてボールを狙わずに直接拘束してるってわけ。しかしさすがは強化人間と言ったところか、早くも餅は千切れようとしていた。
しかし、そのくらいは予想済みだ。
「アイスグランド!」
「っ!?」
シロウのアイスグランドが炸裂。身動きの取れない染岡君は避ける間もなく氷付けとなり、シロウはその間にボールを円堂君に渡す。
「染岡君、僕は忘れてないよ! 君がどんな思いで僕にあとを託したのか!」
「一応、約束だからね。悪いけど、倒させてもらうよ」
「……ちっ、覚えてねぇな」
……円堂君みたいにいかないか。染岡君は少し眉をひそめただけで、私たちから離れていってしまった。
「染岡君……」
「言葉はダメか。ならやるしかないね。勝つよ、シロウ」
「……うん。このままでいいわけがない……!」
シロウがそう誓ったところで、場面は円堂君に切り替わる。彼は左右に鬼道君と土門を引き連れてゴール前にまで接近していた。デスゾーン2の陣形だ。
「スピニングカットV3!」
それを邪魔するように衝撃波の壁が発生した。円堂君たちはそれを突き破ることができず、弾かれるように倒れてしまう。それをした下手人は西垣だ。
「西垣、こっちだ!」
「させないよ!」
「ふっ、無駄だな」
風丸の前に私が立ちはだかるが、彼はその圧倒的なスピードで容易くマークを外してみせた。逆に私の前に回り込み、空中でボールをもらう。そこで彼はペナルティエリアまでボールを蹴り上げる。
「シャドウ!」
「ダークトルネード改!」
黒い竜巻が立ち昇る。
豪炎寺君のファイアトルネードを模したような、それでいて威力は遥かに上のシュート。それをシャドウが放った。
「闇に呑み込まれてしまえ!」
「闇なんてここにはねえよ!」
『パーフェクトタワー!!』
それを止めようとしたのはツナミ、木暮、塔子だ。
巨大な塔が建設され、その上から足に雷を纏ったツナミと木暮が落ちてくる。そしてその飛び蹴りは黒い竜巻と衝突し——彼らが吹き飛ばされた。
……っ、まずい! ボールが彼らを巻き込んだまま進んじゃってる! あれじゃあ立向居の邪魔になる!
「むっ、ムゲン・ザ……ぐあぁぁぁぁぁっ!!」
立向居が必殺技を出そうとする。しかし迫り来る仲間の背中に動揺したせいで、その初動は遅かった。そのせいで間に合わず、黒い竜巻は三人を巻き込んでゴールに入った。
『ゴール! 先制点はダーク・エンペラーズ! 雷門、とうとう決められてしまったァ!』
やられたっ。しかし一点ぐらいは覚悟の上だ。そう言い聞かせ、沈み込みそうな気持ちに発破をかける。
「エイリア石の力は素晴らしいィ! もはや勝ち目は火を見るより明らかだ!」
ああもう、うるさいな!
研崎のやつは唐突に体を抱きしめたり、ゲロを吐きそうな変顔を晒しながら高らかに笑う。たぶんエイリア石で頭がやられちゃってるのだろう。
試合が再開。私に再びボールが回るが、
「分身ディフェンス!」
「っ、そんなのありなの!?」
なんと風丸が三人に分裂して、襲いかかってきた。しかもあの凄まじい速度でだ。
私は一か八か限界まで高く跳び上がる。さすがにこの高度までは追ってこなかった。その位置でパスコースを探し、シロウにパスを出す。
「甘い!」
そこに風丸が割り込んできた。こいつ、初めからパスカットが狙いだったのか! 彼はその後栗松にボールを渡す。
「クイック……!」
『トリプルダッシュ!!』
「なにっ……がぁっ!?」
先ほどと同じように鬼道君はボールを奪おうとした。しかし相手は同じ技じゃなかった。栗松の後ろ左右に宍戸と少林が控えていて、三位一体とでも言うように加速したのだ。
その速度は一人の時よりも上だ。おまけにクイックドロウはすれ違うように相手のボールを奪う技。サイドに密着するように敵がいてはぶつかってしまう。そして実際、鬼道君はあの電車のような勢いの塊にぶつかり、跳ね飛ばされてしまった。
栗松たちはそのままドンドン進んでいく。一度加速に乗ってしまえば止めようがなく、雷門ディフェンスはその突破力に次々と弾き飛ばされていった。
「こっちによこせ栗松! 今度は俺が決めてやる!」
その指示に従い、栗松はパスを出す。それを染岡君が打ち上げると、翼が生えた竜がどこからともなく顕現した。エイリア石で強化された影響なのか、記憶の中では青い光を放っていたはずが紫色が混じっている。
「ワイバーンクラッシュV2!!」
「染岡君!」
青い光を纏ったボールを蹴る直前、なんとシロウが彼の前まで来て同じように蹴りを放ったのだ。両方向からの衝撃を受け、ボールは一時停止する。
シロウ……無茶しちゃって……!
「染岡君! 僕と一緒に風になろうって言ったじゃないか! 忘れちゃったの!?」
「だから……覚えてねぇって言ってんだろっ!!」
「ぐっ、ぅぅぅぅっ!! がぁっ!!」
諦めじと声をかけるシロウ。それを一蹴し、彼ごと押しのけてワイバーンクラッシュが放たれた。
「ムゲン・ザ・ハンドG4!」
数多の御手が伸びていく。しかし竜の進撃を止めることはできず、彼の者の牙がゴールネットに突き刺さった。
染岡君が高らかに笑う。
「ハハハッ! どうだ、これが俺の力だ!」
0対2。
戦況は大きくダーク・エンペラーズに傾いた。
♦︎アニメしか見てない人用
『トリプルダッシュ』
山属性最強のドリブル技。2登場のくせに3でもその事実は変わらない。正直言って栗松にはもったいなさすぎる技。技の概要は、言ってしまえば三人でダッシュアクセルしているようなもの。