悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
前半で2点を失ってしまった雷門。その後も状況はどんどん悪くなっていった。
風丸がまたボールを奪い、前線へ上がっていく。スピードじゃ追いつけないのは明白だ。だったら予測で上回るしかない。
相手フォワードはシャドウと染岡君。だったら……!
シロウに目を合わせると、彼は何も言わずに染岡君のマークについてくれた。なのでシャドウをマークすることにする。
「半田、マックス!」
しかし、風丸がパスを出したのは全く別の人物だった。
っ、逆を突かれた!
彼らは互いの両腕を握ると、遠心力を利用してコマのように回り出す。そうやってボールに竜巻を纏わせると二人は跳び上がり、同時にそれを蹴りつけた。。
『レボリューションV!!』
「ムゲン・ザ・ハンドG4!」
竜巻を纏ったシュート。シンプルだが、威力は抜群だ。その証拠にムゲン・ザ・ハンドが破られてしまった。そのままボールは立向居の横をすり抜けて進んでいき——
「メガトンヘッドG2!」
円堂君のセーブによって防がれた。ボールは斜め前を飛び、ラインを超える。
「っ、あいつらあんな技を……って、そうだ! 大丈夫か立向居!?」
「ええ……まだ、やれますっ!」
「……そうか。ならゴールは頼んだぞ!」
「はい!」
円堂君の視線が一瞬だけ下を向いたのを私は見逃さなかった。その先にはボロボロで壊れかけているキーパーグローブが。このダメージ、明らかに大丈夫で済むものじゃない。
円堂君も気付いているはずだが、彼は立向居の意志を尊重して何も言わなかったのだろう。私もその判断を信じて試合に意識を再集中する。
再開はスローインから。それを先読みしてカットし、駆け出す。普通に撃ってもだめだ。だったらギリギリまで敵を引きつけて……今だ! センタリングを上げる。
「円堂君!」
「おう!」
「させるか! 分身ディフェンス!」
またあの分身技だ。円堂君はなす術なくボールを奪われてしまう。しかし運良く前半終了のホイッスルが鳴ったことで、ピンチは去っていった。
「ふん。命拾いしたな」
風丸がそう言って去っていく。
命拾い。そう命拾いだ。今回はたまたま助かったに過ぎない。悔しさを抱えたまま、私たちはベンチに戻っていった。
♦︎
「ダメだ、どう攻めても止められちまう……!」
円を描くように地面に座り込んで、私たちは作戦を考えていた。
とは言ってもできることはそう多くない。どんな手を使おうにも最終的に読まれてしまうからだ。
「みんな今までずっと一緒にサッカーやってきましたからね……」
「動きや癖を完璧に覚えているんだわ」
音無ちゃんと秋ちゃんがそう言った。
そう、最大の問題点がこれだ。私たちのメンバーの大半は昔からの雷門、それ以外もほぼ全員が何回かは一緒にプレーしたことがある。そのせいで動きが読まれてしまうのだ。いくら強くなってても根本の動きというものはそう変わることはない。
だったら私たちも相手の動きを読めばいいのかもしれないが、エイリア石のせいで強化されたみんなはかつての雷門の時とは別物で、予測しづらいのだ。走り方が変わっているのもその例だ。
「だったらどうすればええねん……?」
「それを逆手に取るんだ」
リカの問いに響木監督が答えた。
「動きが読まれるからこそ、お前たちが動けばやつらも動く。それを繰り返し、生まれたスペースに別のリズムを叩き込んでやれ。鍵はツナミだ」
「お、俺ぇ?」
いきなり話を振られてツナミがうわずんだ声を出したけど、一部はそれに納得した。ツナミを積極的に使うアドバンテージ、それは——
「……そっか。誰も俺のこと知らねえのか」
「そういうことだ」
そう、このメンバーで唯一彼だけがプレイを読まれずに行動できるのだ。おまけに彼は攻守万能な変則的な選手だ。敵の隙を突き、引っ掻き回すには適任だろう。
鬼道君が響木監督のアドバイスを整理して、私たちに指示を出す。
「フィールドに波のようなリズムを作り出すんだ」
「へっ、波か……じゃあ引いた時がチャンスってわけだ」
寄せては引いて、寄せては引いてを繰り返す。そうやってプレッシャーを徐々に与えて、荒波に飲み込まれた魚のように相手を前線まで引き寄せろってことか。そしてツナミのカウンターと。
ホイッスルが鳴った。ハーフタイム終了だ。私たちは立ち上がって、ポジションについた。
そして後半が始まる。
「真疾風ダッシュ!」
「っ!」
ボールは相手から。風丸が凄まじいスピードで私を追い抜く。
落ち着け。まずはボールを奪うことからだ。風丸の前にみんなが立ちはだかる。
「旋風じ……!」
「真疾風ダッシュ!」
「ボルケイノカット!」
「はっ!」
「そこ! もちもち黄粉餅!」
「ぐっ、くそっ!」
疾風ダッシュで急加速している時にボルケイノカットの壁。止まり切ることは困難だと判断したのか、彼はジャンプでそれを乗り越えた。
だけど、空中じゃ疾風ダッシュは使えない。そのタイミングを見逃さず、伸ばした餅がボールを絡め取った。
「いくよみんな!」
今だ! 私たちは全員で前線に上がっていく。
イメージするのは動く『鳥かご*1』だ。全員で取られないことを重視にひたすらパスを回しながら前へ進む。そして敵が近づいてきたところで、そのまま『鳥かご』を続けながらゆっくりと後退していく。これを繰り返していくことで、ダーク・エンペラーズのほぼ全ての選手を雷門コートにまで引き寄せることに成功した。
「円堂君!」
「ツナミ!」
「塔子!」
「ハッ、攻めてくる余裕もないか! もらった!」
「っ、しまった!」
風丸の足が塔子に届くはずだったボールを叩き落とした。
とうとう『鳥かご』が破られてしまった。それを好機と見たのか敵選手たちは一気に上がってくる。ここを凌げれば……!
円堂君と私は言葉も交わさず、横並びで風丸の前に立つ。
『ここは通さない!』
「邪魔だっ!」
円堂君と私は同時に突っ込んだ。風丸は忌々しそうにそれを避け、突破しようとしてくる。しかしどちらも成功することなく均衡状態がしばらく続いていく。
風丸の疾風ダッシュはたしかに強力だ。しかしあれは消えてるように見えても瞬間移動しているわけじゃない。走るだけの十分なスペースが必要なのだ。
だから私たちは体が触れるほど近づくことで、そのスペースを殺すことにした。
「ぐっ……しつこい……!」
「あいにくと、諦めが悪いのが私たちでね!」
「そうだ! 何度だって食らいついてやる!」
もちろん振り払われそうな時もあるけど、私は数手先を読む技術で、円堂君は根性でそれを補い、何度でも彼の前に立ちはだかった。
永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほどの攻防。我慢の限界が来たのは……風丸だった。
「どけぇぇぇっ!!」
「がはっ!?」
「なえっ!」
風丸はなんと私に向かって強力なシュートを撃ってきた。ボールがお腹に突き刺さり、体内の空気が吐き出される。
だけど……ボールを手放したねっ。私は笑みを浮かべた。
「もらっ……たァッ!!」
「ナイス根性だなえ!」
思いっきりボールを蹴り飛ばす。そのキラーパスはダーク・エンペラーズのディフェンスの間を次々と抜けていき、ツナミに渡った。
カウンターだ。
「ツナミブースト!」
水流の流れに乗ったシュートが、ゴール前に戻ろうとする影野の横を通り過ぎる。これでデュアルスマッシュは使えない。
だけど杉森は両腕を前に突き出すと、そこから拳の形をした気の塊を二つ発射してきた。
「ダブルロケット!」
ロケット拳が進化したであろうそれは、ボールを容易く弾き返す。
だけどロケット拳を予想していた以上、パンチング技なのは想定内だ。
私は限りなく全力で疾走してゴールに近づいていた。腹筋が悲鳴を上げて鈍痛がはしるが、それを無視してボールに飛びつく。そしてオーバーヘッドキックを決める。
「真ダークサイドムーンっ!!」
モーションをできるだけ省略。蹴った瞬間に多少威力が落ちた黒月が放たれる。杉森は技を出した直後で動けず、それはゴールに突き刺さった。
「よしっ! ……いててっ」
「ハッハッハ! よくやったぜ!」
ごぶほっ!? ちょっ、ツナミさん背中叩かないで! 衝撃が伝わって腹筋が捩じ切れちゃうから!
ともあれ、これでようやく一点だ。
風丸が「ありえない……!」みたいな顔でこっちを凝視してたので、不敵に笑いかけてやる。
「ふふっ、いいパスだったよ」
「っ、貴様ぁ……!」
試合再開。風丸は速度に任せて私の方に突っ込んできた。
逃げてたまるか。試合中に相手を痛めつけるためだけにボールを捨てる。それはサッカーすらやめたということだ。そんなやつから逃げてたまるか……!
私は黄金色のオーラを纏い、走り出す。
「真疾風ダッシュッ!!」
目の前から風丸の姿がかき消える。
まだだ……まだ足りない……!
全筋肉を、全集中力を注ぎ込め……!
限界なんて、ぶっ壊せ……!
——瞬間、私の体から桃色の光が溢れた。
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
「馬鹿なっ……ぐっ、ゥォォオオオオオオッ!!」
私たちの足が激突し、衝撃波が吹き荒れる。いや、それはもはや紫の光と桃色の光の衝突と言った方が正しい。
ありったけの声で叫ぶ。全力の力を足に込める。
そして桃光の奔流が、紫の光を突き破った。
「ガッ……ハッ……!!」
「豪炎寺君! シロウ!」
一気に前線へ。邪魔する全ての敵を通り越し、あっという間にゴール前にたどり着く。そこまでで桃色のオーラは消えてしまっていた。
豪炎寺君とシロウとともに跳躍。空中で✳︎を描き、ボールは炎と氷の輪っかに囲まれた黒い月となる。そして左右の蹴りと同時に私が両足で踏み抜けば、螺旋状の回る氷炎に包まれた黒い閃光が放たれた。
『アスタリスクヘブンッ!!』
『デュアルスマッ——がァァァッ!?』
杉森と影野が蹴りで挟み込もうとするも、そのあまりの威力に弾き飛んだ。そして二点目が決まる。
「ふふっ、これで二点目。これで……」
「なえちゃん?」
……っ、なんだか前が見づらくなったな。視界が鮮明になったり薄れたりで定まってくれない。動きにくくもなったような……?
まあいいや。今は試合だ。もう一点決めてみんなを安心させなくちゃ。
「……っ、俺たちの力がこれだけだと思うなよ。染岡、マックス!」
『おうっ!!』
キックオフ直後、風丸は二人を引き連れて走り出した。明らかに私がいる真ん中は避けられてるね。左サイドのディフェンスが突破され、三人は難なくゴール前にたどり着く。
「これが最強のシュートだ!」
ボールを取り囲むようにして、三人は同時にボールを打ち上げる。するとボールは紫色の炎を吐き出し、みるみると不死鳥へその姿を変えていく。
三人はそれを、オーバーヘッドキックで解き放った。
『ダークフェニックス!!』
禍々しい不死鳥が飛び立った。その風圧と熱だけで見ているこちらがやられてしまいそうだ。
「ムゲン・ザ・ハンドG4!!」
それを食い止めようと無数に手が伸びるが、停止どころか減速すらしなかった。彼の顔面に不死鳥のくちばしが直撃し、ゴールネットに後頭部が押し込まれる。その後数秒ほど磔にされてようやく、彼の体は地面に落ちた。
「っ、立向居っ!」
今度は円堂君だけじゃなくみんなが駆け寄る。
最悪だ。あの威力のシュートをもろに顔面にもらってしまった。立向居は鼻や口から血を流しながらも、意識はまだ保っているようだった。
「大丈夫か立向居? 手を貸すぞ」
「いえっ、大丈夫ですっ。俺はまだ……やれますっ!」
立向居は自力で立ち上がってみせるも、その足は産まれたての子鹿みたいに震えている。意識も途切れ途切れになっているようだ。
明らかに危険な状態。しかし本人はそれでもまだ戦うつもりだ。なら私から言うことはない。
「……わかった。お前を信じる」
しばらくの葛藤のあと、円堂君は立向居を続けさせることにした。
とはいえ、止めれたとしてもあと数回ほどだろう。シュートをバカスカ撃たれたらとても止められそうにない。
特にあのダークフェニックス……。あれだけは絶対に撃たせちゃだめだ。私はそう決意した。