悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
では、円堂守世代最後の章です。お楽しみください。
RHプログラム『プロトタイプ』
ブラジル。言わずとも知れたサッカー王国。そこの一等地に建てられている、宮殿のような屋敷の中を私と総帥は進んでいた。
奥が見えないほど長い廊下に、金の刺繍が縫ってある赤い絨毯。左右の壁には一目で高そうだとわかる絵はもちろん、武器や鎧、その他の芸術品が規則正しく飾られている。
「ふん、ずいぶん自己顕示欲が強い家だ。持ち主の性格が透けて見える」
「……それツッコミ待ち?」
「なんのことだ」
どうやら本当に気づいていないようだ。私から見たらどっちも五十歩百歩だってことに。
ゼウススタジアムじゃ空中要塞のくせして機能性のない外観にこだわったり、真・帝国学園だって見にくる客もいないのに観客席を作ってた。特に真・帝国の件は絶対に許さん! あの無駄なこだわりのせいで予算が足りなくなって、私の潜水艦が作れなくなったのマジで忘れないからな!
しばらく進むと、上品なスーツを着た小太りの男が私たちを待っていた。彼はうやうやしく私たちに頭を下げてくる。
「ようこそいらっしゃいました影山総帥。ガルシルド様がお待ちです」
「ヤッホー、ヘンクタッカー君。お久しぶり」
「ええ、お久しぶりでございます」
彼はラボック・ヘンクタッカー。今から会うとある人物の秘書をしている男だ。まあ言ってしまえば私と似たような立ち位置の人だね。同じ使用人として彼も苦労が絶えないらしく、そんなところで気が合う、数少ない私の友達の一人である。
……まあ彼明らかに二十代なんですけど。
ヘンクタッカー君に案内されて、たどり着いたのは大扉の前だった。入ると、帝国学園の総帥室を思わせるような内装が目に入る。その奥の玉座にも似た席で、そいつはこちらを見下ろしていた。
「……お久しぶりです、ガルシルド様」
「よく来たな影山総帥。歓迎しよう」
あの総帥が敬称をつける人物。
そう、この男こそが
今ここで疑問に思ったかもしれない。総帥に上司なんていたのかと。実はいるのだ、この男さえも手玉に取れるほどの巨悪が。
時は遡ること四十年前。あの伝説のイナズマイレブンのバス事故の件だ。冷静に考えてみれば当時の総帥は中学生、そんな大それたことをしでかし、さらにはいきなり帝国学園のナンバー2になんてなれるはずもない。つまりその時の助力をしたのがこの男ってわけだ。
まあ、言ってしまえば総帥はチェーン店の店長で、ガルシルドが本部の社長ってことだね。
「今日呼び出したのは他でもない。三ヶ月後に開催を予定しているフットボールフロンティアインターナショナルのことだ」
フットボールフロンティアインターナショナル。略してFFI。少年サッカー世界一を決める、私にとっても夢の舞台だ。しかしそんな大会にも裏がある。この男が主催者なのがいい例だ。
ガルシルドは世界大会で各国の関係を悪化させ、それによって戦争を起こすことで自身が独占している石油を高く売りつけようとしているのだ。スポーツ一つでそこまでなるかとも思うけど、サッカーは確実にこの世で最も人気があるスポーツ。その影響力はたまに政府にも通じるほど。それを火種にして、別の問題を世界中で起こしていけば数年で戦争になるのもありえる。
……ま、私にはどうでもいいけどね。世界がどうなろうがサッカーができればそれでいいし。
ガルシルドと総帥は淡々と今後行う悪事に関しての話を進めていく。私とヘンクタッカー君は無言でそれを聞いている。
どうやらガルシルドは神のアクア、エイリア石をもとにRHプログラムという人間を強化するものを作ろうとしているらしい。そのプロトタイプが最近できたのはいいらしいんだけど、プログラムの負荷があまりにも強すぎて実験材料がすぐに壊れてしまい、まともなデータが取れなくて困っているようだ。
「ふーむ、どこかにいないものかね。頑丈で実験データを取ることができるサッカープレイヤーは……」
「そんな便利なモルモットがいれば、すぐに実験は完成に近づくでしょうな……」
二人はそう白々しそうに言うと、ジッとこちらを見つめてくる。
……いやなんだこの空気。お願い、誰か会話して。悪魔二人分の重圧がかかってきているようで気まずくて仕方がないんだよ。そう願うも、沈黙を貫き続けるお二方。
……くそっ、これ以上は耐えられない……!
「……私?」
「おおっ、白兎屋君やってくれるのかね!? さすがは影山総帥の秘書だ!」
「え、あの、いや、私まだやるなんて一言も……」
「こうしてはおれん! ヘンクタッカー君、急いで彼女を実験室に案内してあげなさい!」
「はい、仰せのままに」
えぇぇぇぇっ!?
いや、私もこうなることは予測してたよ!? 予測してたけど……いくらなんでも展開早すぎでしょ!? 私まだ返事すら言ってないよ!
あんまりな展開に必死に声を上げる。
「ちょっ、ガルシルド様! せめて実験の成功率とか、そういうのは教えてくれないんですか!?」
「君を怖がらせたくないと思ってね……残念ながら、現時点での死亡率は100%だ」
「あ、死んだわこれ」
何が怖がらせたくないだ! だったら最後まで教えるなよそんなクソ情報!
最後の頼みとして総帥の方に助けを求める。しかしあの人はクックックと悪どい顔で小さく笑っていた。
悪魔に魂売ったなこいつ……!
「さあ、いきましょうか」
「ヤメロー! 死ニタクーナイ! 死ニタクナーイ!!」
とっさに叫ぶも助けは来ず、私はヘンクタッカー君に引っ張られてていく。ぐぬぬ、なんという馬鹿力! この私が身動きも取れないなんてぇ……!
なんとなく感じた死の気配に、私は人生で初めて十字を胸で切るのだった。
♦︎
「RHプログラム、正式名称
ヘンクタッカー君が説明しながら進んでいく。私はげんなりした顔でその後についていく。ここまで来てしまえば諦めがつくってものよ。
「要するにエイリア石みたいなやつってことでしょ?」
「はい、そうです。しかしあれほど簡単に強化するのは目標であり、現時点でのRHプログラムによる強化人間の作り方はかなり違いがあります」
途中で現れたエレベーターに乗り込み、地下へと向かっていく。ガルシルドの持ってる土地はバカみたいに広く、屋敷の庭に別館として研究施設が作れるほどだ。私たちは現在そこにいる。
ポーン、という音がしてドアが開く。エレベーターから出ると金網を踏んづけたような音が聞こえた。どうやら足場はずいぶん薄いようだ。その理由はヘンクタッカー君が見下ろしている景色を見ればわかった。
「……これは、サッカー施設? それにしてはやけに物騒なものがいっぱいあるね」
そこにあったのはいくつもの人工芝のサッカーグラウンドだった。それだけならナニワ修練場の例があるからさほど驚かないんだけど、気になるのはそこに数十は置かれている、明らかに火薬の臭いがする兵器たちだ。
「ではご説明いたしましょう。現在におけるRHプログラムとは、我々の有するスーパーコンピュータによって対象の潜在能力を極限まで引き出す訓練メニューを作成し、それを完遂させることで強化人間を誕生させるというものになっております」
「……なんというか、すっごいフツーの特訓だね」
神のアクアとかエイリア石とか見てきたから、てっきりなんの苦労もなく力を得られる類だと思ってたけど、案外まともに見える。
私の呟きを聞いてヘンクタッカー君はとんでもないと大袈裟にリアクションを取った。
「用心しておいた方がいいですよ。実際、ガルシルド様のおっしゃる通り、現在の死亡率は100%ですから」
「それ、おたくのコンピュータが壊れてるんじゃないの?」
「いえいえ。ただ言い訳をさせてもらうなら、人間は脆いのです。いくらコンピュータがその人の限界を見極めて訓練メニューを作っても、人間は精神が揺らぐだけで力が発揮できなくなります。そのズレによって怪我をし、最終的には……」
死、か。
はぁぁぁ。ちょっとこれは洒落にならんよ。まあ総帥が引き受けさせたんだからたぶんクリアできるだろうけどさ。
心の中で何度も文句を言っていると、あれやあれやとプログラムの準備が整ってしまった。私は別のエレベーターで例のグラウンドに降りる。足元には普通のサッカーボールが転がっている。
壁に設置されているスピーカーからヘンクタッカー君の声が聞こえてきた。
『まずはドリブルとシュートです。グラウンドに引いてある赤いラインまで進んでいき、そこからゴールにシュートを撃ってください」
「いやゴールって言われても……私の目には鉄の壁みたいなのが見えるんですけど」
無駄にピッカピカに磨かれてて、表面がキラキラしてるね。ちょっと斜めに見るとその後ろにたしかにゴールがある。同時に鉄壁の厚みは二メートルほどだということがわかった。もうこれ壁じゃなくてブロックじゃん。正方形だし。
私の気持ちを知ってか、おちょくるようなトーンで声が聞こえてくる。
『しかもただの金属ではございません。強度を限界まで高めた超合金です。やりがいがあるでしょう?』
「これをただのサッカーボールで貫けたら、もうその時には人間やめちゃってる気が……」
『強化人間ですから』
「あ、はい」
とりあえずやるしかないか。世界大会は三ヶ月、一分一秒惜しいんだから。見たところ障害物は見当たらない。なので私はまっすぐドルブルすることにする。
その数秒後、足元が赤く輝き——爆発した。
「がぁっ!? ……ゴホッ、ゲホッ……!」
これはっ……地雷……!?
あまりの痛みに叫ぶ気力もなくなる。火で炙られたように体中が熱い。しかしこうして地面に転がっている暇もないようだ。横になった私の目は壁から見覚えのあるL字型の機械が出てくるのが見えた。
『左右二丁、ゴール側から二丁、計四丁のAIが操る
「こ……の……くずやろう……!」
文句を言う時間もない。自動的にこちらに向けられたら銃口を見て、咄嗟に横に飛び退いた。そしてさっきまで寝ていた場所にいくつもの小さい穴が空く。本格的に命の危機を感じた。
やるしかない……! やらなきゃ死ぬ。ようやくそれが本能で理解できた。覚悟が決まり、私は弾丸に当たらないよう全速力でジグザグに走り出す。が、
「っ、がぁぁぁぁっ!!」
マシンガンによって作り出された弾幕に逃げ場をなくし、数え切れないほどの衝撃が体中を抉った。そして倒れた場所が赤く光出す。
今度は悲鳴すらあがらない。凄まじい熱と衝撃波によって、私の体は玩具のように宙に放り出された。
だんだん意識が薄れていく。スピーカーから聞こえてくる雑音が煩わしくて仕方がなかった。
ヘンクタッカーの年齢はオリジナルです。ガルシルドの私設サッカーチームなら中学生である必要はないし、秘書もこなしているということで大人だと判断しました。……まあなえちゃんは中学生なのに総帥のお付きやってますけど。
RHプログラムの正式名称も予想です。どこを探しても正式名称がわからなかったので自分で考えましたが、たぶんあってると思います。