悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
影山は立ったままモニターに映し出されている映像を見ていた。音はない。現地の騒音がうるさすぎるため、わざとそれだけ処理されているのだ。
ところどころが赤く染まったグラウンド。それだけでなく、熱で焦げていたり穴が空いている場所もある。
そのグラウンドの真ん中に、髪全てが紅に染まった少女の姿があった。
「RHプログラムが稼働して三ヶ月が経過。現在のメニューは四方計二十丁配置されたマシンガン、埋め込まれた数十の地雷、と天井から降り注ぐ手榴弾、それらを掻い潜ってシュートで巨大合金ブロックを崩す……耳が痛くなる内容ですねぇ」
「いいじゃないかヘンクタッカー君。おかげで必要なデータが全て揃った。これで電極によってデータを送信するだけで強化人間を作れるようになる。彼女には感謝しかないよ」
血塗れでなお走り続ける少女を眺めながら、椅子に座った男——ガルシルドが笑う。そこに微塵も少女への心配というものはない。完全にガルシルドは少女を道具として見ていた。
ガルシルドは視線を影山にやるが、無表情で一切の動揺が感じられないのでつまらなそうに鼻を鳴らした。
「それにしても意外だ。君は彼女をかなり気に入っていたと思っていたのだがね。心配ではないのか?」
「心配……? ク、ククク……」
「……何かおかしなことを言ったかね?」
突然不気味に笑い出した影山にガルシルドは眉をひそめる。失礼、と影山は非礼を詫びる。
「心配しなくとも死にはしませんよ。それにやつは……死にかければ死にかけるほど強くなる」
もう一度ガルシルドはモニターを見る。
赤髪になった少女は血を撒き散らしながら、ボールを蹴っている。しかしよく見るとその口が笑みを浮かべていることに気がついた。
明らかに正気ではない。獣のように雄叫びをあげながら合金ブロックを破壊した少女に、ガルシルドは本能的な恐怖を感じた気がした。
♦︎
沈む。沈む。沈んでいく。
血の海へ。暗い深淵へ。
いったいいつからここにいるのだろうか。もうずいぶん光を見ていない気がする。立ちあがろうにも立ち上がれず、体はどんどん血の底なし沼に沈んでいく。
ああ、眠いや……。
そう思った時、冷たいスコールが突然体中に降り注いだ。
「……ごぶぼっ! ゲホッ、ゲホッ……!」
「おやおや、ようやく起きましたか。困りましたよ、何をやっても起きないものですから」
「……最悪な目覚め」
目を開けてみればふっくらとしたヘンクタッカー君の顔が。彼の手にはバケツがあり、どうやら水をぶっかけられたらしいことがわかった。
「なんのよう……?」
「まずは
RHプログラム達成。そうか、私はあの地獄のトレーニングを乗り越えたのか。二ヶ月経った辺りからほとんど記憶がないせいで実感が湧かないや。もう二度とあんなインチキトレーニングマシンは使わないと心に誓う。
「……立てない」
「ああそうそう、影山総帥より伝言です。FFIアジア地区予選の開会式がもうすぐ始まるそうですよ」
「っ、それを早く言ってよ!」
寝てなんかいられるか! 勢いよく飛び起き、私は施設の出口を目指した。
残り時間は……あと三十分か。これはシャワー浴びてる余裕はないね。屋敷を出てから、車を待つ時間が惜しいのでそのままホテルに向かって走り出す。時差の影響で辺りはもうすっかり夜になっていた。
「……なるほど、これがRHプログラムの成果か」
その途中、明らかに私のスピードが上がっていることに気がつく。それも遥かにだ。今ならエイリア石ありの風丸を鼻であしらえるだろう。そう思わせるほどの上昇具合だった。
もはや車の速度を超えた私はすぐにホテルにたどり着いた。エレベーターも必要ない。螺旋構造になっている階段の真ん中に立ち、そこからジャンプして一気に十階にまでたどり着く。
……なんかマジで人間やめちゃってる気がする……。
そんでもってフライアウェイ! ドアを蹴破る勢いで中に転がり込み、床に落ちてたリモコンに飛びついた。
ピッ、という電子音が鳴る。
『全国サッカーファンの皆さん、おまたせいたしました。ただ今よりフットボールフロンティアインターナショナルのアジア地区予選開会式が始まります!』
「よし、間に合った……」
正直これだけは見逃しちゃいけない。なんてったって円堂君たちが出てくるんだから! 解説を聞いていると、どうやら日本代表はイナズマジャパンというチーム名らしい。でも三ヶ月も籠ってたせいで誰が選ばれたとか知らないんだよね。まあ円堂君とか豪炎寺君とかは確定だろうけど。
と思ってたら日本の選手入場が始まった。先頭は円堂君。どうやら日本代表でもキャプテンらしい。まあ彼ほど日本を率いるのにふさわしい人物はいないだろうしね。
その後も豪炎寺君や鬼道君なんかが続いて登場してくる。シロウやツナミなんかの地上最強チームのメンバーもけっこう入っていた。でも知らない人間も少しいる。レッドブルを飲んだのか、リーゼントから翼が生えてるヤンキーみたいな人とか、緑髪のポニテの人とか。
「あとは……プフッ!!」
選手の列の中で絶望的に馴染んでない人を見かけて、思わず笑ってしまった。
「アハハハハッ! 不動、なんでそこにいるんだよ!」
冬が寒そうな可哀想なモヒカンのスキンヘッド。さっきのヤンキーみたいな人よりもタチの悪そうな目。間違いなく真・帝国学園で一緒だった不動明王本人だった。しかもあいつ、エイリア石なくしたせいでモヒカンに白髪が混じっちゃってるし。
少し意外だったけど、ちょっと納得もした。あいつは性格は自己中の最低野郎だけど実力は鬼道君にも劣らないからね。それゆえに総帥に選ばれたわけだし。同僚の祝いとして、あとであいつにはプレゼントを大量に送り届けてやろう。
その後、財前総理による演説が終わって、開会式は幕を閉じた。そしてこの後日本対オーストラリアの試合をやるらしいので、そのまま見ていることにした。
結果は日本の勝利。敵の必殺タクティクス『ボックスロックディフェンス』を打ち破り、新必殺技が二つも決まった素晴らしい試合だった。
ただ……まだ荒削りだ。今の私じゃまだ物足りない。だから、私を楽しませられるよう頑張ってね、円堂君。
「……ん? 総帥からメール?」
ポケットに入れていたスマホから着信音が鳴ったので見てみる。
えーと……ふぁっ!?
「明日の昼にイタリアに行く!?」
早いよ、まだ観光すらできてないんだよ!? どんなブラック企業だよ……って、そうだここブラック企業だった……。
くそっ、こうなったら仕方ない。今日中に観光終わらせてやる!
私は急いで出かけるために、シャワー室に駆け込んだ。
♦︎
そっから日が上って、昼ごろ。
私は煙を巻き上げる勢いで空港内を疾走していた。
「ね、寝坊したぁぁぁぁぁっ!!」
だって仕方ないじゃん! 昨日出かけたの夜なんだよ!? 寝たのたぶん四時ごろだったし、あんだけトレーニングした後なんだからそりゃ疲労も溜まるって! 誰が悪いかって言うなら私じゃなくて休みを与えないこの組織が悪い!
「……来たか」
「ハァッ、ハァッ……来ましたよ……!」
「……それはなんだ?」
「……ふぅ、おみやげだよ」
「なぜスーツケースが五台もある?」
「? おみやげだからじゃん」
運び方は簡単。紐で体に結びつけてタイヤ特訓のように走るだけだ。体も鍛えられるし一石二鳥ってやつだね。
総帥は関わるのも面倒になったのか、そのまま無言で歩き始めてしまった。こんな外見だけならいたいけな女の子が五個もスーツケース引きずってるのに無視とか、相変わらずいい性格してるようで。まあどうせこう言う大荷物は乗る前に預けるだろうし、別にいいけどさ。
そうして手ぶらになった私は飛行機に乗りこみ、窓際の席に座った。その隣に空席を一つ挟んで、総帥が座っている。信じられるか、この人私とのスペースを空けるためだけにこの席買ったんだぜ?
「そういえばさ、なんでイタリアに行くの?」
私はトレーニングで忙しかったから今後の予定とか聞いてないんだよね。FFIに出させてもらえることは聞いてるけど、具体的にどうやるのか。
総帥は重要な話なので素直に教えてくれた。
「私はこれからRHプログラムの被験体を探しに行く。そして新たなイタリア代表を作り上げる。名前は……そうだな、『チームK』とでも名付けるとしよう」
「うわ、だっさい……」
「嫌ならいいのだよ。貴様の着るユニフォームはなくなるがね」
「嘘ですうわすんごいカッコいい名前だなー!」
試合に出れなくなるのはマジ勘弁してください!
でも正直この名前は名乗りたくないなぁ。チームKだよK。自分の名前の頭文字ピックアップしてつけるとか頭おかしいでしょ。
♦︎
「……ぶふぇくしょんっ!!」
「おや、ガルシルド様、風邪ですか」
♦︎
「で、そのチームKで何すんの?」
「決まっている。復讐だ。私は円堂大介と、その魂を受け継ぐイナズマジャパンを粉砕する」
その考えは相変わらずか。サッカーを嫌う男がサッカーを支配する。それが総帥の歪んだ喜び。
……って、今気になること言ってたような?
「円堂大介って……もう総帥が殺ったんじゃないの?」
「円堂大介は生きている。どうやらしぶとく田舎の国に引きこもっていたらしい。ククク、やつの率いるチームを引き裂く時が楽しみだ」
めっちゃ悪どい顔してるよ。
それにしても円堂大介が生きているなんてね。ちょっと驚きだ。本音を言えば、ちょっと会ってみたいかも。なんせ円堂君のおじいさんであり、伝説のイナズマイレブンを率いた名監督でもある。きっとすんごいサッカーの知識とかあるんだろうなぁ。
まだ見ぬ人物を想像して、胸が高鳴った。
♦︎
数日後、雷門中にて。
「不動くーん! お届けものが来てるわよー!」
「ああ? 俺にだと?」
「……うわぁっ、すごいッス! こんなにバナナがたくさん!」
「育毛剤もあるでやんすよ! しかもかなりの高級品!」
「誰だかわからないけど、よかったじゃないか!」
「あんのクソアマァァァァァァッ!!」