天界の僕、冥界の犬   作:きまぐれ投稿の人

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新たなる絆

『ううーん……。

どうしたもんかなあ、コレ』

 

黒い球体にぱくりと食べられ、これはもう死んだだろうと覚悟したのだが、どうやら俺はまだ死ぬ運命にないらしい。……というと少しは格好良い感じに聞こえると思う。聞こえなかったらアレだ。個人差ということで。しかしどうも格好が付かないのは、今現在の体勢が原因だろうか。

 

“気が付いたら見知らぬ部屋にいた”という状況には、もう突っ込まないことにする。悲しいことに慣れてしまった。いろんな意味で、破天荒な王様や女神様方に鍛えられた成果だと思って欲しい。

 

『起きない、よな……』

 

ふわもこでもふもふな極上の毛皮の上に“青い頭”が乗っている。

腹に感じる重みは、幼犬である俺にはそれなりに辛いものだ。

あのギルガメッシュ王やイシュタル様でさえ認めたこの毛並みを枕にしたら、至高の眠りが約束されていることだろう。自慢の毛であると同時に、自分で堪能することが出来ないことがすごくつらい。

 

ベッドの上で丸くなった俺の腹を枕にしている不届き者の顔は、此方に向いているのでよく見えた。長い群青の髪に白い肌。その目は閉ざされているものの、形の良いパーツがベストポジションに配置されているのはわかる。

 

『それにしても、またまた幼児か』

 

今までの主を思い返すと、ギルガメッシュ王にはじめて会ったのは“少年”の時で、イシュタル様は“少女”の時だ。エレ様にスカサハ様、そしてこの子どもは“幼児”といえよう。

実年齢と外年齢が一致しているかは別の話として、俺の主平均年齢低すぎないだろうか。

 

この際何度でも言うが、幼児には微塵も興味がないし、俺の最近のブームは胸の大きい女性である。何故こんなにいろんな所に飛ばされているのかはわからないけれど、もうちょっと俺の希望を聞いてくれても良いと思う。

 

「う……」

 

そんな下らなく大事なことを考えていると、子どもが身じろいだ。

そろそろ目覚めが近いらしい。子どもがごろりと寝返りを打つと、その頭の動きに合わせて俺の内臓が動く。体つきを見るに、この子どもは男だろう。それなら、態々目覚めを待つような優しさは必要ない。そう思って子どもの頭の下から、体を抜こうとした時である。

 

『いっ!? イタッ!!』

 

ぎゅうう、とその小さな手が俺の尻尾を握り締めたのだ。

しかもまた幼児とは思えぬ力で、ぎゅううっと。

俺が普通の犬であったならば、胴体と尻尾がおさらばしていたのではないかと思うほどの怪力であった。

 

『やっやめてええっ! 千切れるっ、千切れちゃうっ!!』

 

きゃうんっと情けない悲鳴を上げながら、のたうち回りたいけれど、回れない苦しさに耐える。ばたばたと蛇の如く体をうねらせていると、煩いと言わんばかりに子どもの顔が歪み、ゆっくりとその瞳が開かれた。

 

―――ルビーだ。

ギルガメッシュ王のそれよりも色味が明るく、無邪気さを残した瞳は、ルビーそのものをはめ込んだようであった。

 

「……」

 

『……』

 

ぱちぱち、とゆっくりとその目が瞬くと、長い睫毛がふわりふわりと羽ばたく。

 

「……くわああ、よーく寝たぜ。

何だお前も起きたのかよ」

 

ぐっと伸びをした子どもは目を擦りながら欠伸をすると、俺の方を見た。

そうして、ぱっと目を輝かせたのだ。その表情があまりにもエレ様の“とある時”の顔と似ていたもので、反射的に尻尾が丸まり腰が引ける。

 

「昨夜は暗くて見えなかったが、お前イかす模様してるじゃねえか!

それ良いな。何の模様なんだ?」

 

『え?』

 

その言葉に首を傾げたと同時に、ぱっと視界が白んだ。

ふと見ると部屋にある窓の外から、光が入って来ているのである。

夜の帳を取り払っていくその光は……。

俺にとって随分と久しい―――太陽の光であった。

 

『ひっ、光だ……っ!!』

 

ベッドのすぐ横に窓があったので、窓辺に手を置いて覗き込む。

人間の肉眼で太陽を見るなど自殺行為にも等しいことだが、この目を通して見るそれは今までに見た何よりもうつくしかった。

 

「おーい、突然どうしたんだよ。

何か良いモンでもあるのか?」

 

後ろに回った子どもが不思議そうに問い掛けて来たが、幾千、幾万、幾千万年ぶりに浴びる太陽のぬくもりに浸っていた俺の耳には入らない。

 

「……? なんだよ、何もねえじゃねえか」

 

『わかってないなあ、この太陽のすばらしさたるや……!

ああ……湿ってじめじめした地面でも、何かヤバい色した空でもなく、青い空に輝く太陽……。

ああ俺は、この光が欲しかったのかもしれぬ……」

 

「どうした、犬コロ? お前もしかして……腹減ってんのか?」

 

『うう……。感動を腹減りと勘違いされるとは……。別の意味で泣ける』

 

「そんじゃ、釣りでも行くか?

今日も良く晴れそうだしなっ」

 

『やったー太陽最高っ』

 

噛み合っているようで噛み合っていない会話からすると、相手に俺の言葉は通じていないらしい。

俺の耳には自分の言葉が聞こえているのだが……。エレ様との契約が切れて、スカサハ様と契約するまでの間は、自分の言葉は全て犬のそれに変換されていた。だというのに、一体どうしたのだろう。

 

「よーし、そんじゃあ外行くか!

そうだ……お前、名前なんてーんだ?」

 

『ううん、……どの名前言えば良いのかなあ』

 

「空から落ちて来たっつーことは、神さんの遣いか何かか?

でもお前からは神気は感じねえんだよな。

それに、間の抜けた顔してやがるし……」

 

子どもは俺の首根っこを掴み上げると、くるりと自分の方へと向ける。

そうしてまじまじと俺の顔を見ると、ぶつぶつとそう言った。

いくら幼犬の体とはいえ、子どもの体と比べるとそれなりの大きさはあるのだが、こうも軽々と持ち上げられてしまうとその怪力を認めざるを得ない。片手で、しかも指2本で俺の体を持ち上げる剛力は、一体何処から来るのだろう。

 

「“犬コロ”だと、その辺のと変わらねえしな……」

 

うーん、と首を傾げながら俺の顔を覗き込む子どもを、俺もじっと見る。

太陽の光を受けて輝く白い肌と、赤い瞳は、中々に綺麗だ。これがもし女性であったならば、喜んで尻尾を振って付いて回るのだが……。残念なことに、男で幼児である。この残念さはギルガメッシュ王と並ぶ所があるな。というか、少年時代の王はあんなにも……。いやいや、王の性根は今も昔もちっとも変っていない。敢えて言うのならば、少年の頃の方が愛嬌があったということにしておこう。

 

「エオフだ」

 

『……はい?』

 

「なんかわからねえが、閃いた!

お前はエオフ! 今日から俺の……相棒だ!」

 

『あ、……あいぼう……!』

 

―――相棒。何処か懐かしい響きだ。

そう、かつて俺には親友という相棒がいた。

何時如何なる時も切磋琢磨し合い、共にギルガメッシュ王に仕えて来た掛け替えのない存在であった。……その話はもう良いって? そんなこと言わないで聞いて下さいお願いします。

ま、まあ何が言いたいかというと、俺にとって相棒とは、何時如何なる時も裏切らない同志のことを指すのだ。だから、この子どもが俺を相棒にするというのならば、それなりの覚悟を持ってもらいたいのである。

 

首根っこを掴まれ、ぶらりとした体勢のまま名付けられ、相棒とまで呼ばれてしまった俺は、なんだか複雑な気分になりながらも、わくわくとしている自分がいることに気付いていた。

きっとこの子どもの相棒になることは、とっても楽しいのだろう。俺の勘がそう言っていたから。

 

「俺はセタンタってんだ。よろしくな、エオフ!」

 

にかりと笑ったその顔は、おひさまのようにキラキラと輝いていた。

主従関係ではなく相棒として結んだ契約(きずな)は、こそばゆくもあたたかなもので。

きっと俺は力強く『わんっ!』と鳴いたのだろう。

 

『セタンタ、頼むからずっと、ずっと相棒でいてくれよ!』

 

―――頼むから、今はなき友のように俺を置いていかないでくれ!

そう哀願(ねがい)込めて、俺は新しい相棒(セタンタ)に言うと、何故だか彼は照れたように笑った。そして、ぽぽんと、何かが軽く弾けたような音がしたかと思うと、淡い桃色をしたピンクの球体が俺の目の前に現れたのである。

 

『わっ! な、なに……これ』

 

その玉の真ん中には、“幸”という文字らしきものが書いてある。

はじめはそれが何なのかすらわからなかったが、次第に“幸福”の“幸”であることがなんとなくわかった。そういえば、“さらなる力を求めるならば、『幸』を求めろ”と誰かに言われたっけ。もしかして、コレがそうなのだろうか。

 

「エオフ? どうした? とっとと行くぜ」

 

『あっ、待ってセタンタ……!』

 

その玉は、ふと桃色に光るとそのまま消えてしまった。

なんか良くわからないけれど、これで良かったのだろうか?

そうこう考えていると、いつの間にかセタンタは服を着替えて、手に釣り竿を持っていた。

釣り竿といっても、その体に合わせた小さめのサイズであったので、中々可愛らしい感じになっている。

 

とん、床に着地を決めた俺は、迷うことなくその背中を追い駆けたのであった―――。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「―――消えた」

 

はじめから存在しなかったように、消えてしまった。

吹きかけた息によって消えた、蝋燭の灯のように。

 

「……」

 

ただの犬だ。しかも、爪牙を持たぬ、獣というにはあまりにもお粗末な犬。

そのようなもの、この地では何の役にも立たず塵と消えゆくのみ。

その弱さは、生まれ落ちてからずっと女王として、門の守護者として、ここに在る私を苛立たせるものでしかなかった。

 

「……ルグ」

 

気紛れに与えた名を口ずさむものまた、気紛れでしかない。

その名をつけたのも、そうただ気紛れに触れたあたたかさが“光”を連想させたから。

だが実際は、甘い、甘い、未熟な子犬そのものであった。

一瞬にして失せた興味に、犬もまた引き下がった。

 

「……まだ、甘い。だが」

 

未だじくじくと痛む腹を擦る。はじめて、守られた。しかも何回も。

腹に頭突きをされて突き飛ばされるという、何とも荒っぽい守り方をしてくれたものだが、悪くはない。血気盛んなケルト……。いや、この国の番犬には相応しいともいえよう。

主に牙を剥く獰猛さがあった方が、好みである。

 

「ふむ。……確か、冥界には番犬がいると聞いたな。

―――ケルベロスと言ったか」

 

ぐっと手に力を入れると、切れていない“契約”が形となり姿を現す。

ルグ、などと生ぬるい名前よりも、もう少し血生臭い名にしておけば良かったかとも思ったが、アレはアレで不思議なほど似合う名であるので、良しとしよう。

 

「良いか、ルグ。お前の主スカサハが命じよう。

お前が“強靭な牙”と“鋭利な爪”を手に入れ、それらを以て“血の味を憶えた時”……。

我が元へと戻ることを許す。……ただし」

 

脳裏に浮かんだ間抜け面に、ふと笑いがこみ上げる。

 

 

 

 

 

「私の気は、そう長くないぞ」

 

 

 

 

 




相棒ゲットだぜ!
ということで、やーっと旅が始まります。
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