天界の僕、冥界の犬   作:きまぐれ投稿の人

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迷いの森

天より照らす陽を受けて、緑溢れる大地を駆ける。

そういえばこの場所は、何処なのだろう。

セタンタは大きな城に住んでいたけれど、もしかしてギルガメッシュ王のように、身分の高い人間だったりするのだろうか。

 

城を、街を、走り抜けて森へと向かう。頬を掠める風はとても爽やかで心地良い。

ああなんて良いところなのだろう、と短い四肢を動かしていたのだがいくつか気付いたことがあった。

まず、すれ違う人々の顔が暗いのだ。

それも1人や2人ではない、ほぼ全員である。

そして、これは細かいことなのだが、熟しきった林檎が無数に地面に転がっているのが見えた。すごくおいしそうなのに、すごくもったいない。

これは何かワケありだな、と俺の中の直感が珍しく働いた。

 

『でもなあ……たとえなにかあったとしても、俺よそ者だし、それに言葉話せないし』

 

「おーい!! 待ってくれ! エオフ!」

 

『うん? あれ……』

 

そのようなことを考えながら走っていた為、気にもしていなかったのだが、そういえばセタンタの姿がなくなっていた。遥か後ろから声を投げられ、ぴたりと足を止める。

すると、群青の髪を靡かせながらセタンタが傍へと駆け寄って来た。

 

「はあ、はあ、あー……つっかれた……。

エオフ、お前……足、速えなあ……」

 

『……?』

 

「風みてえに走ってくから、驚いたぜ……。

まさか俺よりも……うんと速えヤツがいるとは、流石俺の相棒だなっ!」

 

『そ、そうかな……。そう言われると、なんか照れる』

 

人間の時は特別足が早かったわけではないので、もしかしたらこの体の恩恵だろうか。

地面に座って首を傾げる俺に、息を切らせたセタンタがにかりと笑った。

 

「そうだ……! エオフ、今から競争しようぜ!」

 

『へ?』

 

「此処から、この森を抜けた先にある川までな!

勝った方が負けた方の言うこと、何でも聞くってのはどうだ!

良いか? 良いな。それじゃあ……行くぜっ!!」

 

『ちょ、ちょっと、おい! セタンタ!

お前それ、反則ううう!!』

 

セタンタは、突然勝負を仕掛けて来た!……のは良いんだが、言うだけ言って駆け出すのはどうかと思う。しかも勝った方が言うこと聞くって、俺喋れないんだけど!

まず勝負におけるマナーは、“一通り人の話を聞いて”からじゃないとフェアじゃない。

 

ん?あれ? もしかして、セタンタも人の話を聞かない部類……。いやいや、そんなことはない。俺の相棒に限って絶対にない。第一俺は犬だし、犬相手に1から10まで説明する人間はいないだろう。それにそれに、俺も話を聞いてもらえるように努力するって誓ったのだから、諦めるわけにはいかない。

 

『でもスタートのタイミングは合わせよう、な!?』

 

足を縺れさせながら、セタンタの背中を追い駆ける。

花畑の広がる道を抜け、森へと入ると……思わず足を止めた。

道が3つに分かれているのだ。正面、左、右に道があり、その先もまた同じような景色が広がっているので、どうも先が見えない。まさか1本道ではなかったとは。……1本取られた気分である。

 

『セタンタ―っ!』

 

呼び掛けても、小さな背中は一向に見えない。

先に行ってしまったのだろうか。

当然ながら土地勘もなにもないので、分かれ道を1つ1つ覗き込んでみるが、さらにその先でまた道が3つに分かれている為、今見えるだけでも12通りの道があることになる。

何かおかしいと思いながらも、とりあえず適当に道を進んでみることにした。

 

『……、なんか……においがする。

なんだろう、血……っぽいような?』

 

青々とした草花の匂いに混じって、鉄のようなにおいが鼻を擽る。

例え形だけだったとしても一応は戦場を経験している身であるので、そのにおいは知っていた。背の高い草を掻きわけて、そのにおいのする方へと恐る恐る向かう。

がさがさと草を割っていくと、ぱっと視界が開けた。

 

『……木、?』

 

中央に大きく佇む1本の木が、姿を現した。

天高く伸びる高木はその幹も立派で、固そうな樹皮には縦に割れ目が入っている。

濃い緑色の葉は、先端の尖った細長い形をしていて少し痛そうだ。

一本の枝の両側に葉が付いた独特の形をしていて、所々に赤い実が付いているのが見えた。

ぷっくりと熟したその赤い実は、なんだかおいしそうである。

そういえばスカサハ様にもらった“あの林檎だと認めたくないけれど、味は林檎のような実”を食べて以来、何も口にしていない。というか、ギルガメッシュ王のもとを離れて以来ロクなものを食べていないような気がするのは気の所為ではない筈である。

 

実は高い場所にあるので、普通にジャンプしても届かないだろう。それなら、頭突きでもして木を揺らすかと、頭が痛い考えに辿り着く。

そして覚悟を決めると、ええいままよとばかりに地を蹴った———。

 

「うおっ……!?」

 

『わわっ!? に、にんげん……!?』

 

勢い良く飛び込んだ先には人間がいた。

全く気付かなかったのだが、木の下で座り込んでいたらしい。

それはもうすんごい吃驚して緊急停止を試みるも、それは心の中だけで終わった。

急に止まるなんて高度な機能、俺には存在しなかったようである。

 

『ぶふっ!?』

 

見知らぬ人間に頭突きをかますことだけは避けようと、体を捻った結果……。

鼻先からその人間の腹部に突っ込むことになった。俺のこの地味な努力を誰か褒めて欲しい。

 

―――ねとり、と生温かな何かを感じると同時に、先ほど感じた鉄のにおいが猛烈に鼻を突き刺した。

 

『な、なんだ……?』

 

鼻先に触れるその嫌な感触から逃れるように、ばたばたと藻掻く。そうして勢い良く頭を上げた瞬間であった。

 

『うえええっ!? に、にっがっ!!

なんだこれっ、めっちゃにがっ!?』

 

舌いっぱいに強烈な苦みが広がり、ぐわりと体中が熱くなる。鼻先を上に持ち上げた時に、歯の隙間からそれが入って来たらしい。

 

苦い。とにかく、にがい。

 

「っ、おい、大丈夫かっ!」

 

とてつもない苦さであったので、舌を出してぺっぺっと飲み込んだそれを吐き出そうとしていると、上から声がした。顔を見る余裕はないけれど、ひどく焦った男の声である。

ということは、俺は男の胸に飛び込んだということだろうか。なんということだろう。

その声の主は、別の意味で気分が悪くなってきた俺の顔を覗き込む。

 

『……くそ、……コイツも顔の良い分類の男か……』

 

「飲み込んじまった、のか?

……ああくそ、最後に、悪いことしちまったなあ」

 

『な、なにこれ、なんなのちょうにがい……!?』

 

「すまねぇな、わん公。

……今オタクが飲み込んだのは、俺の“血”だ。

たっぷりと“毒”の入った、最高の逸品だぜ。美味いだろ」

 

『はああっ!? な、な、なんだってー!?』

 

ちょっと気取った言い回ししてんじゃねえよこのイケメンが、と罵声を浴びせたくなるのをぐっと堪える。イケメンだからこそ許せるものがあると、イシュタル様の言葉が頭を過ったのだ。だがこんなとばっちり過ぎる死因はごめんである。全力で拒否させてもらいたい。

しかもなんで俺が、この野郎の胸の上で死なねばならんのだ。それだったらちょっと薄いけどイシュタル様とかエレ様の……。止めを刺されそうなのでやめておこう。スカサハ様も以下同文だ。

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

『……』

 

「い、いやいや、なんで死なないんですかねえ!?」

 

『え、こわい。なんでそんな怒られ方しないといけないの』

 

無言で見つめ合う俺と見知らぬ野郎の間に、一陣の風が吹き荒れた。

野郎は、心底不可解だというように俺に掴み掛って来たのだ。なにこれ理不尽。

 

「……オタク、もしかして毒耐性とか持っちゃってる系?

まさか俺の特製品が効かないとか?」

 

『その“うわ、コイツめんどくせ”みたいな顔やめて傷付く』

 

大して確認もせず勢いのままに飛び込んだ俺も、まあ悪い。

そこは認めよう。自分の悪い部分を認めるのが真の男だと、“朝から晩まで背中を付け狙われた挙句刃物を持ち出されて脅されたことにより、何故か愛が芽生えたとほざいた”同志の1人が言っていた。ちなみにその後無事に卒業を迎えたらしい。この件について俺はまだ納得がいっていない。

 

話が脱線したが、俺の非はそこだけなのだ。

ダイブした先は野郎の血まみれの胸で、しかもその血には毒が含まれていて、さらにそれを俺は飲み込んでしまったとか、一生のトラウマ……いや、人生で5本の指に入るであろうトラウマでしかない。

 

「瞳孔の白濁なし、手足の痙攣もなし、嘔吐もみられない……。

完全に効果ねえな……オタク。なにモンだ?」

 

『っというか、お兄さんこそ大丈夫なんですかねえ』

 

大体予想が付いているので絶対に下に視線はやらないけれど、胸から大量に血を流している。傷口からは毒が入っているだろうし、この野郎こそ死んでておかしくはないだろう。

 

緑色のフードをすっぷりと被っているが、俺の位置からだと顔がはっきりと見える。

ギルガメッシュ王のような派手さはないけれど、充分にというか腹の立つほど良い顔立ちをしていた。

 

「……まあ、何にせよ。無事で良かった」

 

軽いノリの男かと思いきや、ぼそりと呟かれたその声は心からの安堵が含まれていた。

重みを感じるその言葉に、何か深いものを感じて思わず口を噤む。

 

「見たことがねえ顔だが、オタクも森の住人かい?

悪いねえ。森、汚しちまって。

許してくれとは言わねえ。でも、頼むからこの先の村にはちょっかい掛けないでくれると助かるんだが……」

 

『別に怒ってないし、……まあ死ぬほど苦かったけどさ。

それよりも、手当しないと』

 

普通に話しているようにみえるが、顔色は青白く、声に力が感じられない。

こうしている間にも、その呼吸は段々とか細くなってきているのがわかった。

 

いくら初対面の野郎とはいえ、目の前で死なれるのは御免だ。

どうにかしようと周りを見回すと、少し離れたところに金色に光る丸いものが目についた。

それはとても美味しそう……じゃなかった。とても神々しい。『あれなら何とかなるかもしれない』だなんて、自分でもよくわからない勘が働いたのはその時であった。俺でもわかるくらいの“力”を秘めたそれなら、もしかしたらと思って金色に輝くそれに駆け寄ると、それは“桃”であった。

 

すごくすごく美味しそうではあるけれど、仕方ないから今回は譲ってあげよう。

うむ、仕方のないことだ。でも、ちょっとだけ毒見、いやいや齧りかけを渡すなんてそんな。

 

「なんだ……戻って来たのかよ。

村娘をナンパするのは好きだが、犬相手じゃねえ……。

ちなみにオタク、メス?」

 

『お、おまえ……この期に及んでそれかよ……!

もう怒った! これでも食らえっ!』

 

「なっ……。ふぐっ!?」

 

我慢に我慢を重ねて運んだ桃を渡す前に、そんな失礼なことを言われて腹が立たないわけがない。なので、その憎たらしい口目掛けて桃を突っ込んでやった。

果汁を絞って傷口に塗りたくってやろうかとも思ったが、それは桃に失礼であるのでやめておく。

 

「むぐっ、……なんだこれ!?

めっちゃ、うま……っ」

 

『そうだろうそうだろう、これでマズいとか言ったら……!!』

 

「ワン公、アンタこれどこから採って来たんだ?

この森に桃なんてなかった筈だぜ?」

 

『うん? そこら辺に沢山落ちてると思うんだけど……』

 

野郎が首を傾げても可愛くもなんともないけれど、その動きにつられて首を傾げてしまうのはこの体の性なのかもしれない。

“見渡す限り何処にでも”とまではいかないけれど、点々と同じような金色の光が見えるので、見当たらない筈がない。

 

『うーん……。もしかして、俺にしか見えないってヤツなのかな?

何か本格的に、人間を卒業したような……。いやまさか卒業する前に卒業したとかそんな』

 

「おい、……おい、ワン公!

聞いてんのかよ」

 

『な、なんだよ。どうせお前にはわからないやい。

俺だってなあ!!一度で良いからギルガメッシュ王みたいに、綺麗可愛いお姉さん方に囲まれてみたかったんだよ……!』

 

「うおっとぉ! な、なんだよ急に吠えるなって……!」

 

『そうだよ、いつだって寄って来る異性は……動物のメスだけよ!!

まあそりゃあ可愛い動物にモテることに不満はないけど、違うそうじゃない……!』

 

「ほら見てくれよ。すっかり治っちまった!

まあ荒っぽい食わされ方だったけど、一応オタクのおかげってことになるだろ?」

 

『わあああっ!? なんてものを見せるんだ……!?

うう、折角見ないようにしていたのに……』

 

ぼろぼろに破れていた布を取り払い、赤い何かで真っ赤に染まった胸元を見せて来たのだ。

傷口が治ったといったが、赤い塗料の所為でもう何が何だか良くわからない。具体的に言うと全年齢という穴を抜けてしまうので、詳しく聞かないで欲しい。

とまあ、こんな感じで流れのままに人助けをしてしまったのだが、そろそろセタンタを探しに戻らなければ。治ったなら良かったな、じゃあ。と背を向けようとすると……。

 

「ちょっと待った!!」

 

『ギャン!?』

 

ぐいっと尻尾を引っ張られ、前に倒れ掛かりそうになった俺は抗議をしようと後ろを振り返った―――。

 

……それにしても何故皆尻尾を引っ張るのだろう。そろそろ千切られそうでこわい。

 

 

 

 

 




血の味(物理)
この主人公、建てられたフラグに全力で蛇行しながら突っ込んでいくタイプである。
話の進行が遅くてすまない。次は視点が変わる予定。
そしてそろそろ女の子出したい…!
以下、呟き





そろそろアマテラス、チビテラス(主人公)のスキルとか宝具を考えたいこの頃。
主人公が宝具使う時はもう、アマテラス(全盛期)が出てきて大暴れすれば良いと思うよ!もう慈母1人で良いんじゃないかな……!

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