【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 夢を見ていた。

 不思議な夢、懐かしい夢、大好きな人の夢、”友”の夢。

 何かがオルガマリーの中に混ざり、違和感なく溶け込んでいく。

 

(……誰? 女の人と戦ってる?)

 

 始まりは戦いだった。

 天翔ける女神の御座船(マアンナ)に乗り、地を耕す勢いで怒涛の魔力砲撃を叩き込む天の女神とオルガマリーは戦っていた。

 

(……アー、チャー?)

 

 混乱するオルガマリーの視界にチラリとちっぽけな霊魂の姿が映り、その全く違う姿の彼が彼女のサーヴァントであることを何故か確信する。

 

 これが始まり。自分ではない自分の生を俯瞰する夢の旅だ。

 

 夢は続く。

 オルガマリーは度々冥界に赴き、小さな霊基をしたアーチャーと話した。少しずつ仲は深まっていった。

 夢は続く。

 イシュタルが天の牡牛を駆ってウルクへ攻め寄せて来た。

 そこに望まない援軍が来た。参戦すれば十中十、消滅すると予測した小さな友達が来てしまったのだ。

 消化しきれない思いを友にぶつけ、そして友からもぶつけられた。

 

『俺にお前を助けさせてくれ、エルキドゥ』

 

 その日オルガマリー(エルキドゥ)は初めて自分と対等であろうとしてくれた友を得た。

 そして天の牡牛を打ち倒した闘いの果てに呪われた。

 

『この痛みは……』

『神々の呪いだ。最早我ですら解くことは叶わぬ』

 

 そして友を、紡いだ全ての絆を失おうとしていた。

 最期にせめてと願った友との別れの場で、

 

『みんなと、もっと会いたい。もっと、話したかった…っ!』

 

 隠しようのない思いを、どうしようもない願いを赤裸々に吐き出した。

 その願いの中には彼/彼女自身は認めがたい()()も含まれていた。

 

()

 

 視点の主が抱いた思いに強烈に共感するオルガマリー。

 それ故に気付いた。

 

()()()()()

 

 気付いてしまった。

 己の醜さと残酷な現実に。彼女がこれまでの旅路に抱いていた思いに。

 

(楽しかった)

 

 そうだ、楽しかったのだ。

 聖杯を巡る旅路(グランドオーダー)はこれ以上なく楽しかった。嬉しかった。誇らしかった。

 いつも助けてくれる彼女のサーヴァントがいて、彼女が力を振るえる機会があって、彼女を受け入れてくれるカルデアのみんなやサーヴァント達がいた。

 

 だからこそ未来を取り戻すの(人理の救済)ではなく、終わらない今日を彼女は望んでしまった。

 

 魔術王の底知れない脅威に絶望した。目を瞑り、耳を塞いで、その足を止めてしまったのだ。

 その心の隙をソロモンに突かれた。

 嫌というほど理解(わか)る。目が背けたくなるほど醜い願いは故にこそ強く、強くオルガマリーを縛り付けるのだ。

 

『Gyurururururururururu……!』

 

 遠くから微かに響くのは影の声か。

 オルガマリーの心が怠惰と安寧の闇に傾いたことで影がオルガマリーへの支配力を強めたのだ。

 

(あの影に捕まれば……私はずっと”夢”を見る。楽しい()()の、空っぽな夢を)

 

 それは終わらない今日を願うソロモン王が与えたせめてもの慈悲か。

 だがオルガマリーにとってこれ以上なく致命的な誘惑だった。

 

(……無理よ、ここから抜け出せない。()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女は自分の弱さを嫌という程知っている。そしてこの願いはオルガマリーの弱さをこれ以上なく肯定するものだ。

 その弱さを断ち切る強さなど自身のどこをひっくり返しても出て来るはずがないと、彼女は悪い意味で自信があった。

 

(これで終わり……。でも、私らしい終わりなのかも)

 

 夢は終わった。オルガマリー(エルキドゥ)はその生涯を終え、周囲は闇に閉ざされた。

 遠くに蠢く影が追い詰めるように囲いを狭めていく気配を感じ取る。

 これが終わりだとせめてもの安寧に浸るため、暗闇の中で膝を抱えて丸まろうとし、

 

『友を助けるのに理由が必要かい?』

(え……?)

 

 夢が、続いた。

 闇の中から再びヴィジョンが現れる。

 死したエルキドゥは英霊の座から呼びかけに応え、再び現世に降り立ったのだ。友の宝具によって仮初めの躯体を得て。

 

『君に任されたこの三〇〇秒、仮初の命を賭して食い止めよう』

 

 戦っていた。

 太陽神ネルガル。威風堂々たる神威を漲らせた神代の大神を相手に必死で時間を稼いだ。友のために。

 その果てに、

 

『選手交代だ』

 

 信頼する友へバトンを繋いだ。

 バトンを繋がれた彼は自らの終わりを知っていて、それでも全てを終わらせるために戦い――ネルガルに勝利した。

 

『君はいま、幸せかい?』

『……俺は誰より幸せなガルラ霊さ。お前のお陰で、な』

『そうか。それは、良かった』

 

 そしてその最後に、幸福な別れがあった。

 笑って、泣いて、死に別れた果ての再会を約束して別れることが出来たのだ。

 

(――)

 

 その全てを見届けたオルガマリーは知った。

 別れの後も旅路は続く。

 例え避け得ぬ別れを経ても再会することはあるのだ。

 

嗚呼(ああ)

 

 出会いがあれば別れがある。それは避けようのない運命だ。

 だがそんな出会いと別れが紡ぐ奇跡こそが運命(Fate)――愛と希望の物語なのだ。

 

(まるで星の瞬き。なんて、綺麗)

 

 その輝きに惹かれ、眼が吸い寄せられる。

 全ての事物は始まった時から終わりへ向かっていく。

 だが終わりとは、別れとは……決して絶望では”ない”。

 

(なら、私は――もっとみんなと一緒にいたい!)

 

 オルガマリーはカッと目を強く見開いた。その魂の輝きに圧され、影が再び遠ざかっていく。

 

 幼年期の終わり(Childhood's End)

 

 終わらない今日を望むオルガマリーの願いは新生し、彼女を縛る軛は砕けた。最早悪夢が生み出す影にオルガマリーを捕らえる術はない。

 オルガマリーはゆっくりと立ち上がる。知らぬ間に高くなった視点に違和感を覚えぬまま、前へ向かって歩き出した。

 

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