【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 北の方面軍にエリザベート・ロビン・エジソン・エレナ・李書文。そして藤丸とマシュを。

 南の方面軍にカルナ・ラーマ・ナイチンゲール・スカサハ。そしてオルガマリーとアーチャーをそれぞれ振り分けた。

 南の攻撃部隊に自身とアーチャーを割り振ったのは戦力上の問題もあるが、やはり狂王クー・フーリン・オルタのことがあった。

 本来の彼を知る一人としてあんな有り様の彼を到底放っておけない。これ以上の凶行に耽る彼を何としても止めねば。

 

「今回もよろしくね、アーチャー」

「委細お任せあれ、マスター」

 

 不安に震える声を何とか押さえつけ、傍らに立つ弓兵といつも通りのやり取りを済ませた。

 これより北米大陸を舞台に神話の如き大戦が到来する。オルガマリーが最も信頼するアーチャーですら大駒の一つに過ぎない、破格の規模の大戦争だ。

 

「……勝てる、わよね」

 

 気を抜けば震え出しそうになる身体を抑えつけ、独り言を溢す。

 これ程の大戦。総指揮官のオルガマリーが背負う重圧はどれほどのものか。

 アーチャーはそれが分かるだけに安易な気休めの言葉はかけない。

 

『所長一!』

 

 と、そこに藤丸とマシュが手を振りながら駆け寄ってくる。

 

「私達、出発前にお別れの挨拶をしようと⋯⋯」

「作戦が成功すれば多分次の再会はカルデアだものね」

 

 この斬首戦術が成功し、聖杯を奪取できれば恐らくそうなる。

 頷く二人と会話を交わす内に身体の震えが止まったことにオルガマリー自身も気付かなかった。

 

「藤丸、マシュ。そちらも簡単ではないと思うけど、頼んだわ」

 

 守りに向いたマシュらを南軍に振り分けるのは自然だが、半分は保険だ――オルガマリー達が倒れた時のための、人類最後のマスターとして。

 この作戦、どのボジションも簡単ではないが、それでも主戦力が集うだろう北軍の方が危険度は高かろう。

 

「大丈夫です!」

「所長こそお気を付けて!」

 

 元気溌剌な二人がオルガマリーヘエールを送る。その姿に不安は見られない。

 

「お気楽ね。羨ましいわ、ほんと」

 

 本音百%でボヤくオルガマリーにクスクスと笑う藤丸とマシュ。

 

「だって、ね?」

「はい! 分かります、先輩」

 

 見合わせ、パッと笑顔を浮かべた二人は異口同音にこう言った。

 

『二人ならきっと大丈夫!』

 

 根拠のない、気休めのような言葉。だがオルガマリーはそう思わなかった。

 それはきっと聖杯を巡る旅路の間、すぐ近くでオルガマリー達を見てきた二人だからこそ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()大丈夫だと、そう言っているのだ。

 

「あなたたちも、頼もしくなったわね」

 

 言いかけた言葉を飲み込んでオルガマリーは眩しそうに二人を見た。

 万が一の時は。そんな言葉、最後の最後、必要になってから言えば言えばいいのだ。

 

 ◇

 

 万が一があるかもしれない。

 そう危惧せしめる程にクー・フーリン・オルタは強かった。

 強力すぎるが故にその封じ込めに動いた遊軍のスカサハを彼女すら知らぬ絶技『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』で沈め、アルジュナとの戦闘中だったとは言えカルナを一撃で討ち取った。

 だがカルデア側とてやられるばかりではなかった。

 ラーマによってメイヴは討たれ、アルジュナもまたカルナの最期の言葉に動かされ『二十八人の怪物(クラン・カラティン)』を倒す宝具を放った。突如現界した二コラ・テスラの助力もあり、辛うじてだが勝利を収めたのだ。

 

「メイヴは倒した。あなたを強めていた聖杯の加護も切れたはず。終わりよ、クー・フーリン!」

 

 残るはクー・フーリン・オルタのみだ。

 

「終わりだと? 馬鹿を言え、俺がいる。王の首を討たずに勝ち名乗りなぞ片腹痛い」

 

 ボロボロの身体を引きずり、それでも傲然と立ち続ける狂王。

 アーチャー、ラーマ、ナイチンゲールに囲まれてなお冷たい闘志を込め睨みつけている。

 

「構えろ。最後の殺し合いだ」

「……もうメイヴはいない! あなたが戦う理由はないわ!?」

「メイヴが望んだ狂王(オレ)であれという願いを、今更なかったことにする理由はねぇ」

 

 オルガマリーの説得にも流れる血にもクー・フーリンは揺るがない。

 

「あの女はどうしようもない性悪だが、聖杯をただ俺の心を()るためだけに使いやがった。その心意気だけは買ってやる。最後まで王として果ててやる」

 

 ここで無表情から一転して()()、と頬を深く歪めるクー・フーリン。

 本来の彼を思わせる不敵な笑みだ。

 

「なにより、なぁ――食い甲斐のある敵を前に我慢しろたぁ、あんまりにもあんまりな話だろ?」

 

 メイヴが倒れたことによりその支配が緩み、本来の性格が僅かに表に出てきたのだ。

 それでも結論と行動が変わらないのは、クー・フーリンもまた生粋のケルト戦士であるということなのだろう。

 

「面白い女だ。敵に回すのも味方とするにも不足はねぇが、今回は敵だ。諦めな」

 

 アーチャーでも、ラーマでもなくオルガマリーこそを()()()と評するクー・フーリン。

 ある面では評価であり、賛辞だがオルガマリーは素直に喜べなかった。

 

「討ちましょう、オルガ」

「……アーチャー」

 

 そんな彼女の背中を押すのはやはり、彼女のサーヴァントだった。

 

「最早言葉は不要。矛を交わす以外に選択肢はありません。ならばせめて迷いなく」

「そういうことだ。来な、()()()()()()()()()()()()()()

 

 その呼びかけにオルガマリーは一度瞑目し――カッと意志を込めて目を見開いた!

 

「クー・フーリン」

「おう」

「あなたを倒すわ。今ここで!」

「それでこそだ。来い、カルデア!!」

 

 そして最後の決戦が幕を開く。

 

 




 いつも誤字報告ありがとうございます。

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