【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 今のクー・フーリン・オルタは満身創痍だ。加えて三対一という数的不利。

 だがまだ狂える勇士には切り札がある。

 

「折角の祭りだ。派手に行くぞ――来い、軍魔ハルファス」

 

 メイヴに託された聖杯を励起し、魔神柱を()()()()()()()()召喚する。

 単純に魔神柱を呼び招くのではなく、夢幻召喚(インストール)のそれに近い。

 

「テメェにこの霊基(カラダ)をくれてやろうかと思ったが、ヤメだ。お前のあり余る兵器を俺に寄越せ」

 

 浸食する。無理やりねじ込まれた魔神柱が召喚主の霊基を加速度的に歪めていく。

 恐ろしい程の激痛が走っているはずだが、クー・フーリン・オルタの表情はさざ波程の動きもない。

 

『空虚な獣よ、汝が望む欲望を告げよ』

「闘争」

『あまりに愚か。最早理解は彼岸の果て。だが叶えよう――我は闘争を与えし者なれば!!』

 

 七十二柱の魔神が一柱。序列三十八。軍魔ハルファス。

 人間を闘争に駆り立てる権能を持つ魔神であり、狂王の望みはまさに彼の在り方に沿うもの。

 ハルファスがクー・フーリン・オルタの呼びかけに応え、その霊基に己が権能を降ろしていく。

 

 メキメキメキィ……! と鳴ってはならない音がクー・フーリン・オルタの肉体から響く。

 

 宝具『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』に似て、しかし決定的に異なる。

 魔獣の外骨格が全身を覆うところまでは同じ。だが鎧と魔槍の各所に魔神柱を思わせる赤黒い目玉が幾つも覗き、無数の触手が蠢いていた。

 

「な、なんなのあれは……!?」

「知らぬ。が、なんであれロクなものではあるまい!」

「お下がりを、オルガ。危険です」

「極めて危険なドーピングと判断。早急に彼の病を治療すべきですね」

「婦長はお願いだからもう少し動揺して!?」

 

 そんなやり取りを交わす内に蠕動が終わる。

 そこに立っていたのはクー・フーリンの面影を残す人型の魔神柱とでも言うべき異形だった。

 

『フシュウウウウウウゥゥゥ…………』

 

 獣が荒げた息に似た、鋭い呼吸音が異形から吹き出す。

 肉体の調子を確かめるようにぺキぺキと手足の骨を鳴らした。

 

『悪くねぇ。さて、早速だが――死ね』

 

 大地が爆発する。

 否、クー・フーリン・オルタを中心に無数の棘持つ魔槍が大地を突き破り、浸食を始めたのだ。

 

「これは、ヴラド三世の『極刑王(カズィクル・ベイ)』!?」

 

 かつて第一特異点で矛を交えたサーヴァントの宝具を思い出すオルガマリー。確かに大地から無数に槍が突き出す光景はかの王を彷彿とさせる。

 

「いえ、ハルファスとゲイボルグの合わせ技でしょう。ハルファスは武装を供給し、城塞を造り出す権能の主」

「魔槍が奴の武装であり、奴が生み出す地形こそが城塞という訳か!?」

「ちょっと、槍はもう目の前よ!」

 

 頷き合う二人を他所に侵食する槍の群れが地響きを上げて迫り来る。

 

「攻勢端末を展開します。各々飛び乗られよ! オルガはこちらに」

 

 と、オルガマリーを横抱きに抱えるとともに水晶の大弓から分裂した攻勢端末が宙を飛んだ。

 更に六基一組の塊となって互いを繋ぎ合い、()()()()からなる正六角形の足場を無数に作り出す。

 

「友よ、助かる!*1

「協力に感謝します」

 

 アーチャーの攻勢端末を足場に空中へ避難し、地を埋め尽くす槍の波濤から逃げ延びた。

 

『逃げ切れたと思ったか?』

「「「「ッ!?」」」」

 

 だが追撃が容赦なく見舞われる。

 地から突き出たゲイボルグから新たなゲイボルグが生み出される。植物が枝葉を伸ばすが如く、死の棘が空中のサーヴァント達を追いかけ始めた。

 

『俺がいることも忘れるな』

 

 更にゲイボルグを蹴って空へ跳んだクー・フーリン本体が追撃をかける。

 真っ先に狙われたのはリーダーであるオルガマリーと彼女を抱えるアーチャーだ。速度に劣るアーチャーは執拗な追跡から逃げられられない。

 

「チッ!」

 

 充填、収束、放射。

 並みのサーヴァントなら容易く貫く太陽光線を数多放射するが、クリードの鎧と突き抜けた耐久力で堪え強引に魔爪を振るう。

 

「させん!」

 

 そこにラーマが攻勢端末を蹴り、クー・フーリン・オルタへ斬りかかる!

 流石のクー・フーリン・オルタも魔性を討つ聖者の剣を恐れたか、狙いを変えて魔爪でもって迎撃した。

 空中で両者が剣と爪を斬り合い押し合い、拮抗する。

 

『邪魔だ、小僧』

「ならば力で押し通れ!」

『そうするぜ』

 

 地を突き破る針山と空を翔ける攻勢端末を足場に空中戦が始まった。

 

「ラーマ殿、援護を!」

「頼む、友よ!」

 

 そこにアーチャーが無数の太陽光線を放ち、クー・フーリン・オルタを牽制する。ナイチンゲールは無理に参戦せずに機を伺っていた。

 理想的な前衛と後衛のコンビネーションがしばし暴力の化身と拮抗した。

 

「ッ! つくづく、怪物だな!! 余をもってして――」

『消えろ、小僧。王を名乗るにはお前は少しばかり非力すぎる』

「非力とけなすか、このラーマを!?」

 

 だが拮抗はすぐに崩れた。

 今のクー・フーリン・オルタの戦闘力は異常の極み。全ステータスがB以上と高水準を誇るラーマすら対抗できず、強引に押し込まれていく。

 

『あばよ。それなりに楽しめたぜ』

「ガハァッ!?」

 

 左の爪で剣を弾き飛ばし、右の拳を振り抜いた衝撃でラーマを針山になった大地に叩きつける。

 地に突き立つ幾本ものゲイボルグがラーマの肉体を貫き、癒えない呪いの傷を残した。

 

『まずは一人だ』

 

 ゲイボルグの先端に飛び乗り、悠々と呼吸を整える狂獣。

 とんでもない化け物だ、それもとびきりの。ヘラクレスですらこの暴力の前に霞むだろう。

 

「この霊基出力、正しく人型の魔神柱という訳か!」

 

 魔神柱の霊基出力を人型サイズに押し込め、それを操るのはケルト最強たるクー・フーリン。

 ともに超級英霊の域にあるラーマとキガル・メスラムタエアのコンビですら押し負けるのも納得の、反則級の戦力だった。

 

*1
愛妻家、善性、神霊(の化身)という共通点とシータとの再会に全面協力した経緯からラーマはアーチャーを友と呼ぶ

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