【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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神聖円卓領域キャメロット①

 

 聖都キャメロット。

 エルサレムの大地に突如として現れたアーサー君が治める理想都市。

 塗炭の苦しみを味わう難民たちが最後に行き着く先と噂され、安寧を求めた難民達がいた。

 

「太陽の聖剣よ、ここに」

 

 彼らを待ち受けていたのは非情なる慈悲の刃。

 聖()とはキャメロットに迎え入れるに足る、善なる魂の選別。

 そして聖()はそこから漏れた多くの難民を容赦なく殲滅する騎士の無道である。

 

「逃がすな、一人残らずここで討て!」

 

 太陽の騎士ガウェインが粛正騎士に指示を飛ばす。

 逃げ惑う群衆の命を粛正騎士の剣が、槍が、弓矢が容赦なく奪っていく。

 その暴虐を止める者はどこにもないと思われた。

 

「――アーチャー」

「はっ」

「間違いかもしれない。それでも付いて来てくれる?」

 

 否、

 

「ただお命じあれ。敵を討てと!」

「俺達も一緒に行きます!」

「はい!私の心も叫んでいます、こんなこと絶対に間違っていると!」

 

 ――ここにいる!

 

「報いの炎よ、荒れ狂え!」

 

 炎が燃え上がる。蛇の如くのたうつ炎が粛正騎士達を追い回し、悲鳴を上げる暇すら与えず焼き尽くす。

 熱砂の大地に倒れた難民が残した呪い、魂の熱量を飲み込んだ黒炎だ。その炎は執拗に怨敵へと絡みつく。

 

「ッ!? 何者か、名を名乗れ!」

 

 自身とは決定的に異なるどす黒い炎にガウェインが真っ先に気付き、誰何する。

 

「アーチャー、キガル・メスラムタエア。カルデアの長、オルガマリー・アニムスフィアのサーヴァント!」

「カルデア……王が語った星見の魔術師か!?」

 

 黒き炎を従え、堂々と名乗りを上げる弓兵の姿にガウェインが感嘆と驚きの籠った叫びを上げる。

 

「無辜の民を手にかける無道、見過ごしがたし。関わりなき身なれど止めさせて頂く」

「何を……! 王の決断を知らぬ身でっ!」

 

 騎士の無道を非難する言葉にガウェインが猛る。だがその横っ面を更に鋭い糾弾の声が張り飛ばした。

 

「ならば王の御心とは何ですか、サー・ガウェイン!」

「君は……」

 

 ガウェインがよく知る騎士に似た、見知らぬ少女の叫びに戸惑うガウェイン。

 マシュ・キリエライトの清冽なる瞳が騎士の心にわだかまる後ろめたさを射抜いた。

 

「王に誤りあればそれを糺す。それもまた騎士の責務であるはず! 円卓の第三位、太陽の騎士ともあろう方がこれはどういう了見ですか!?」

「そうか。君は主に応えなかったサー・■■■■■■の縁者か」

 

 剣を構えたまま瞑目するガウェイン。友との決別、過ぎ去りし決断の時が脳裏に過ぎる。

 だがすぐに目をカッと見開き、強すぎる意志を込めた炎のような視線をマシュに向けた。

 

「だが遅い。その問いかけは遅すぎる!我らは既に選んだのだ、王の選択に従い、外道に落ちることを!」

「!? これが、本当にアーサー王の意思だと言うのですか!」

「そうだ。王は聖断を下した。善なる魂に主の庇護を、それ以外の者へ慈悲の刃を! これ以外に人類を救う術はない!」

「そんな……嘘です! 円卓の騎士がこんな非道をするなんて……」

 

 あまりにも揺るがないガウェインに今度はマシュが動揺する。

 信じたかったのだ。彼らは騙されている、操られているだけだと。

 

「マシュ、下がって」

「アーチャーさん……」

「ここは私にお任せを」

「いえ、私が! 私がやらなければ……」

 

 マシュに力を託した英霊が叫ぶのだ。同胞の過ちを止めろと。

 

「適材適所。あなたの盾は守るためにこそ輝く。難民の護衛をお願いします」

「……はいっ!」

 

 アーチャーの言葉に一瞬迷い、しかしすぐに駆けていくマシュ。

 カルデアー行が引き起こした混乱によって聖伐の包囲に穴が開き、多くの難民が逃げ出しつつあるそこへ向かった。

 

「こちらが黙って逃がすとでも?」

「私が指をくわえて行かせるとでも?」

 

 ガウェイン率いる粛正騎士の隊の前にただ一騎立ち塞がるアーチャー。

 傍から見れば無謀な戦力差に神妙な顔でガウェインが告げる。

 

「ただ一人殿を務める勇気、見事。このガウェイン、全力で向かわせて頂く」

「外道に堕ちた身で意気を語るとは笑わせる。英雄王に做えば腹筋大激痛という奴だな」

「……ならば最早言葉は不要!」

 

 剣から太陽の業火を吹き散らし、気炎を高めるガウェイン。

 

「聖者の数字。太陽が天に輝ぐ時、我が力は三倍近く高まる。そして王より賜りし『不夜』の祝福(ギフト)!」

 

 日が落ち、夜の帳に包まれたはずのキャメロットの直上に暴力的なまでに眩い太陽が現れる。

 その輝きを受け、ガラティーンから吹き出す炎が一段と激しく燃え上がった。

 

「『不夜』の祝福ある限り、我が剣は無敵なり!」

「無敵? 借りものの加護を悪戯に見せびらかすとは太陽の騎士の名が泣いていよう」

 

 ガウェインを前にアーチャーが怯むことはない。

 確かに強い。恐ろしい程に強い。だが、アーチャーとは致命的に相性が悪い。

 

「もう一度名乗ろう。我が真名はキガル・メスラムタエア。《冥府(キガル)》の《太陽(メスラムタエア)》なり!」

「冥府の太陽、だと!?」

「気付いたか、太陽の騎士? 我が権能の下に命じる――太陽よ、陰れ。騎士の誉れは既に亡く、汝輝くに能わず」

 

 現れ出ずるは黒き太陽。

 真昼の如く周囲を照らしていた純白の太陽が急速に黒く染まっていく。アーチャーがその権能を以てガウェインが呼び出した太陽に干渉しているのだ。

 

「私とは比べ物にならない干渉力……まさか真正の太陽神か!? これほどの格持つ神霊が何故サーヴァントなどに!?」

「相応しからざる者に太陽の加護は不要なり。さて」

 

 両者の間に立ち塞がる、太陽と親しき者としての圧倒的なまでの格の差。致命的な事態にガウェインは驚愕の表情を浮かべた。

 対照的に冷徹な殺意を込めてアーチャーは自身の”弓”を展開する。

 

「まさか加護なくば戦えぬとは言うまいな。円卓の騎士」

「……無論! 例え格で劣ろうと私は円卓の騎士。聖都キャメロットの門を守る守護者なり!」

 

 太陽と比べた蠟燭ほどに儚い、だが揺るぎない輝きの炎を宿す聖剣を構えたガウェインが叫ぶ。

 己が頭上に太陽の輝きがなくとも、退けない場所に彼はいるのだ。

 

「そうか。ならばその素っ首叩き落して頂いていく」

「望むところ。だがこの首懸けてキャメロットの門を押し通れると思うな、キガル・メスラムタエア!」

 

 気炎万丈。燃え盛る闘志と闘志がぶつかり合う。

 剣を構え、弓に矢をつがえる。二騎の英霊がぶつかり合わんとしたその時、

 

「――いや、下がれ。サー・ガウェイン。貴公には少々荷が重い相手のようだ」

 

 聞き覚えのある声がアーチャーの耳に届く。

 声を追って視線を上げればキャメロットの城壁に立つ白き甲冑の騎士があった。

 かつて特異点Fと第四特異点で干戈を交えた忘れられぬその声を間違えるはずもない。

 

「アーサー王!」

 

 聖都キャメロットの主がそこにいた。

 


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