【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 聖都キャメロットの城壁に現れた白亜の騎士。

 獅子を模した兜を外した彼女の顔は、確かにアーチャーが知るアーサー王のものであった。

 

「獅子王! 何故御身がこのような場所に!?」

「太陽が黒く染まる変事だ。如何に腰が重くとも私が動くに足ろう。さて」

 

 狼狽するガウェインを軽く受け流し、透徹とした視線をアーチャーに向ける獅子王。

 

「客人よ。聖都キャメロットによく参られた。この都市の主として剣と槍を持ってあなたを歓迎しよう」

「……アーサー王、あなたに何があった?」

 

 凶悪な魔力を漂わせる槍を無造作に向ける城壁の獅子王へ訝し気に問いかける。

 

「あなたが纏うは神霊の気配。竜の化身と言えど故なくば神霊になど至るまい。なにより騎士王の称号を捨てるなど」

「随分と知ったような口を利く。もしや何処(いずこ)の聖杯戦争でアーサー王とまみえたか?」

「既に二度、これまでの特異点で矛を交えた」

「ほう。カルデアは随分とアーサー王と縁深いようだ」

 

 興味を惹かれた風な口調だがその実恐ろしく無味乾燥。それに遠いところを見ているような透徹とした目。人よりも神に近く、それでいて我欲は薄い。

 

(目……そうか、瞳の色も違う)

 

 これまで出会ったアーサー王の瞳は暗い金色。だが獅子王を名乗る騎士の瞳は黄色味の強い緑に近い。

 アーサー王と似て非なる別人。そんな印象を受ける。

 

「だがその程度の経験で”私”を語るに能わず。我は獅子王、人の身を超越し騎士王を超えた者」

「……私が見るに、道を外れたと言うべきかと思うが?」

「どちらでもよい。高みから見れば全ては言葉遊びだ」

「騎士”道”を奉じるあなたが言葉遊びだと?」

 

 アーサー王ならば絶対にしない物言いにますます違和感が深まる。

 

「……あなたの目的は?」

「人類の保全」

 

 簡潔な問いに明瞭な答えが返される。

 

「人類を愛している。人類が大切だ。故に善良にして無垢なる魂を我が聖都キャメロットに招き、保全する」

「そのためにそれ以外の全てを滅ぼしてもか!?」

 

 第六特異点は既に聖都キャメロットの存在で人理定礎が崩壊している。このまま事態が進めば待っているのは人理焼却の確定だ。

 

「そうだ。我が決定の他に道はなく、最早人類史に先はない」

 

 だが揺るがない。徹頭徹尾、感情が見えない。

 これまで矛を交えたアーサー王にはあった人間らしさが欠片もなかった。

 

「これ以上の問答は無益。後は互いの槍と弓で語ろうではないか――聖槍、抜錨」

 

 獅子王が総毛立つ程の魔力を湛えた聖槍を天高く投げ上げる。聖槍はロケットじみた勢いで雲の高さまで昇り――目が眩む程の光を放つ。

 一瞬後、巨大な光の螺旋からなる突撃槍が天空に現れ、その矛先をアーチャーへ向けた。

 

「ロンゴミニアドの真価を見るがいい」

 

 それは槍にあって槍にあらず。星のテクスチャを地表に縫い留める人理の錨。星が定める秩序の象徴。

 かつて聖都近傍に巨大なクレーターを穿った獅子王の聖槍が、その真の姿を現した。

 

「消し飛べ、太陽神。人類を守る私に敗北はない」

『令呪を以て命じる――』

 

 獅子王の勝ち名乗りとパスを通じてオルガマリーからのエールがほぼ同時に届く。

 遅滞なく展開した攻城弩弓(バリスタ)に極大の一矢を番え、マスターから供給される魔力をフルスロットルでぶち込む。

 瞬く間に輝きを増し、太陽と見まごう熱量を秘めた一矢を天上の突撃槍へ向けた。

 

『――そんな女に負けないで、アーチャー!』

「お任せあれ!」

 

 聖槍の女神と英霊にまで格を落とした太陽神がともに最大火力を遠慮容赦なく撃ち放つ。

 互いの霊基出力には大差あれど、令呪があればその差を埋めることは叶う。

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

偽・蒼天陽炎む災禍の轍(ニルガル・エラ・メスラムタエア)

 

 光渦巻く螺旋の槍と黒き太陽を宿す一矢がぶつかり合う。

 天が割れ、大地が悲鳴を上げた。

 

 ◇

 

 ひび割れ、乾燥したエルサレムの大地。

 その中でもひと際険しく、貧しい山の上に山の民が居を構えている。

 暗殺教団の長、歴代の山の翁が守護する村だ。

 紆余曲折有ってキャメロットの聖伐から逃れたカルデアと避難民一行はこの村に身を寄せていた。

 

「――以上がカルデアの状況です。獅子王打倒のため、協力を求めます」

 

 村のまとめ役である呪腕のハサンと彼を補佐する大英雄アーラシュを前にオルガマリーは理路整然と語る。

 

「私達だけでも、あなた方だけでも戦力は足りない。ならば手を取り、ともに戦いましょう」

 

 もうこれ以上苦しむ人々の姿を見たくない。

 そんな()()は押し込め、オルガマリーは敢えて淡々と語った。

 

「アーラシュ殿、これならば――」

「ああ、最大の難関はガウェインだったが――」

 

 オルガマリーの説得に囁き合うサーヴァント達。

 特にガウェインへの特攻戦力、令呪付きとはいえ獅子王の宝具と張り合った実績は彼らにとっても大きいらしい。

 悪くない感触にオルガマリーはもう一枚カードを切ることにした。

 

「私達は太陽王オジマンディアスと同盟を組んでいます。勝ち目は十分にあるかと」

「なんとっ!?あの恐るべきファラオとか!」

「そりゃあ大したもんだな、姐さん達」

 

 驚く呪腕のハサンと感心するアーラシュ。

 かのラムセス2世にしてメリアメン。世界史に燦然たる軌跡を残した偉大なるファラオの威光はこの特異点にも届いている。極めて物理的に。

 少なからぬ範囲がエジプト化し、そこら中をスフィンクスがうろつき回っているのだから当然だ。

 

「アーチャー、出会って早々義兄弟の誘いをかけられてたもんね」

「これは凄いことです。あのオジマンディアス王にこうも認められるなんて!」

「いえまあなんというか、身近によく似た神物(じんぶつ)がいまして。操縦法はある程度心得ております」

 

 縁の一つもないはずの義兄とそっくりパーソナリティを持つ太陽王。

 ある種自身の絶対性を失わない、気難しい王だがアーチャーにとっては慣れたものだ。

 驕らず、しかし遜らず。思うところあれば曝け出し、詰まらない世辞を避け、自身の力量を隠さず堂々と示す。

 後は見るべきところがあればかの王はそこを見誤ることはない。

 

「我が義兄とは絶対に会わせたくないところです。相性が極めていいからこそ最悪極まりない」

 

 無邪気に喜び称賛する藤丸、マシュとは対照的にアーチャーはやや重いため息を吐いた。

 そんな平常心で自然体な彼らに緊張の和らいだ視線を向けるハサン達。

 

「悪しき者ではない、か」

 

 ボソリと呟き、やがて意を決したように口を開いた。

 

「……正直、願ってもない申し出ではある。しかし幾つか条件がある」

「というと?」

「まず山の民はあくまで村々が繋がる緩やかな連合であり、各村落は歴代の山の翁がまとめてるのだ」

「それはつまり……」

「うむ。面倒をおかけするが他の山の翁達を説得頂きたい。紹介状は一筆認めさせて頂く」

「いえ、十分です」

 

 心苦しそうに頭を軽く下げるハサンへ首を横に振る。

 呪腕のハサンが同盟に前向きなのは確かな前進だ。オルガマリーはその事実をまずは喜んだ。

 

「他には?」

「実はこちらの方がより緊急だ。山の翁の一人、静謐のハサンが獅子王の軍に囚われている。その救助に協力頂きたい」

「そんな……」

「急がないと!」

 

 慌てだす藤丸とマシュを手で押さえ、呪腕のハサンが首を振る。

 

「落ち着かれよ。遠からず日が落ちる。静謐とて山の翁、一日二日救出が遅れた程度で音を上げるるほどヤワではない。まずは旅の疲れを癒し、万全の態勢で救出にあたる。如何?」

「……分かりました。それで行きましょう」

 

 互いに合意に至り、その日の会合はこれでお開きとなった。

 

 

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