【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
そして時が経ち、カルデアは遂に聖都キャメロットとの一大決戦に臨む。
この第六特異点でも他の特異点に劣らず、いやそれ以上に多くのトラブルに見舞われた。
静謐のハサンの救出に始まり、その過程で遊行のサーヴァント玄奘三蔵、俵藤太と合流。
遊撃騎士モードレッドによる西の村の襲撃と撃退。
アーチャーの提言を受けて向かったアトラス院で獅子王の目論見とマシュに力を貸すサーヴァントの真名が判明。
『世界の果て』である聖槍=キャメロットにより、特異点は少しずつ崩壊しつつあった。
アトラス院遠征で手薄になった本村で起きた悲劇、『反転』の
次いで聖槍ロンゴミニアドの砲撃を命懸けで相殺したアーラシュの『
聖都攻略のためオジマンディアスの領域へ赴いた際にランスロットと邂逅、マシュによる説得(物理)でこちら側に引き込むことに成功する。
そして今、山の民の連合とランスロット率いる軍勢、さらにスフィンクスの群れをまとめた混成軍がまさにキャメロットへ攻めかからんとしていた。
「いよいよ決戦ですね」
「うん、俺達はべディと獅子王の下に向かう」
藤丸とマシュ、それにべディヴィエールの対獅子王チーム。
「そして私とアーチャーはガウェインを倒す」
「できるだけ早くそちらの援護に向かいます。無理はしないよう」
オルガマリーとアーチャーは敵陣で最も強力なガウェインを担当。
だが相性の関係上高い勝率が見込めるだろう。
「正門は私が開いてあげる。主に拳で!」
「やれやれ。拙者は三蔵のお守りだ。適当にこなしておく故安心されよ」
「トリスタンは我ら山の翁にお任せあれ。暗殺者の矜持とともに奴の首を掻き切ってみせましょう」
「アグラヴェインは私が討つ。彼奴こそ獅子王を誑かした佞臣に違いない!」
各々のサーヴァントもそれぞれ気炎を上げている。
「それじゃあ、始めましょう」
オルガマリーの言葉を皮切りに、軍勢が動き始めた。
◇
キャメロット正門に仁王立ちする不動の守護者たるガウェイン。
その聖剣からは既に業火が吹き上がり、吹き付ける熱波がジリジリと皮膚を焼く。
「来たか、黒き太陽の神」
「来たぞ、太陽の騎士」
軍勢の一番槍として突貫したオルガマリーとアーチャーがかつて矛を交えた仇敵と睨み合った。
忘れ得ぬ虐殺の日、あの悲劇の下手人と今度こそ決着を付けるべく、主役たちが舞台に上がる。
「あなた方だけは通さない。たとえ何を犠牲にしても」
「ならば力尽くでそれを為せ。今まで通りにな」
「ああ、そうさせてもらうとも!」
その言葉を皮切りに二騎のサーヴァントから燃えるような熱波が噴き出す。太陽の権能と加護をそれぞれ全力で行使しているのだ。
天より地上を見下ろす太陽の輝きが一層強まり、熱波は最早常人を蒸し殺す勢い。
「やった、太陽が黒く染まっていくわ!」
だがすぐに天秤は一方に傾く。
かつてと同じく天に座す太陽が闇色に変じ始めた。当然のこと、太陽への干渉力という点でガウェインはキガル・メスラムタエアに及ばないのだから。
「よっし。それじゃ気合い入れて行っくわよー!!」
アーチャー達がガウェインを抑え込む間に玄奘三蔵が動く。
固く閉ざされたキャメロットの正門はただの堅固な障壁ではない。邪悪なる者を拒む至聖の結界にして破邪の門だ。
「善なるものしか通さぬのなら、慈悲の
だが未来仏たる栴檀功徳、高僧少女・玄奘三蔵ならば話は違う。彼女の功徳は釈迦如来も認めるところ。
そしてその拳の重さは
「破山一拝、釈迦如来掌! 木っ端微塵に反省なさ―――い!」
五行山・釈迦如来掌。
覚者の力を借り受けた掌底の一撃が、邪悪なる者を拒絶するキャメロットの城壁を力づくで打ち砕く!
「今だ!」
「行きましょう!」
「総員、突入せよ!」
木っ端微塵に大粉砕。
三蔵がこじ開けた正門を混成軍の軍勢が次々とくぐり抜けていく。
「キャメロットもこれまでだな、ガウェイン」
正門を破られる間もアーチャーの牽制に一歩も動けぬガウェイン。
悔しさに歯噛みしながらも彼が諦めることは決してない。彼が生前全うできなかった忠義の道を、今度こそ貫き通すために!
「いいや、これからだ! 私は言ったぞ、
ガウェインは直観していた。アーチャー、キガル・メスラムタエアは獅子王に届きうる危険分子。故に必ず討ち取らねばならぬと。
自身に活を入れたガウェインが破滅的なまでに強力な魔力を滾らせる。その目、鼻、口から鮮血が噴き出し、ガウェインの騎士然とした容貌を赤く染めていく。過剰な出力を無理やり行使したことによる
「そんな、太陽が元に戻っていく……こんなことがありうるの?」
真っ黒に塗り潰された太陽を再び白が浸食していく。
目に痛い程の眩い白の輝きを取り戻した太陽を見上げ、呆然と呟くオルガマリー。
「普通ならばありえません。が、奴をよく見てください、見覚えのあるあの輝きを」
「これ……まさか、『暴走』の
ガウェインに目を向けると、そこにはまるで命を燃やし尽くすような勢いで魔力を吹き出す姿が。
既視感のある光景にオルガマリーはアタリを付けて叫ぶ。
そのデタラメな脅威はよく覚えている。自身の生存をかなぐり捨て、一振りごとに宝具を振り回すモードレッドの姿を。
「違います、オルガ。奴は付け替えたのではなく」
「二つ目の祝福を授かった、が正しい表現です、レディ。それでは夜に攻め込まれた時あなた方に為す術がなくなってしまう」
血濡れの鬼じみた様相ながら冷静で紳士的な言動は崩さないガウェイン。
だがその行いは狂気そのものだ。
「なんて無茶を……あなた、モードレッドのことを知らないの!?」
血相を変えて問いかけるオルガマリー。
脅威とともに『暴走』がもたらす破滅的な影響もまたよく覚えている。宝具を一振り放つごとに霊基が削れていくような無茶だったはずだ。
「無論、承知しています。その上で、この程度の無茶を通さねばあなた達との決闘の場に上がることすら叶わない。それだけのこと!」
「……獅子王はなんて言ったの?」
「なにも。あの方はただ我が覚悟を汲み取って下さった」
「敢えて聞くわ。……それは、ただ利用されているだけじゃないの?」
アーチャーの視界越しに見た獅子王の非人間的な貌を思い出す。アレにガウェインが言うような人間味は感じられなかった。必要ならば忠義の騎士ガウェインすらも使い潰しかねない。
「だとしても構わない。私は今度こそ王に忠を尽くす。ただ迷わず敵を討つための剣となる!」
「ふざけないで……そんなものが、アーサー王の望む騎士であるはずがないでしょう!?」
オルガマリーは怒りで両手を握り締め、強く否定を示す。この場にマシュがいれば彼女もまた同じことを叫んだろう。
親友の気持ちを慮り、頑迷な
「かもしれません。ですが、私は決断した。ならば後は我が騎士道に殉じるのみ!」
だがガウェインは苦笑とともに首を振り、決意を以て剣を構える。幾ら問答を重ねても、最早彼の忠義が揺らぐ余地はないのだ。
「オルガ、これ以上問答は無用」
「アーチャー、でも」
「忠義。奴の行いは非道ですが、その一点において糺すべきことは何もない。これより先交わすべきは言葉ではなく、剣と弓の他ありません」
頑迷で盲目的なまでの忠義の心は、アーチャー自身歪んだ鏡を見ている気分だった。それだけにガウェインが折れることはないと理解している。
「その通りです、カルデアの長よ――もう一度言いましょう。私は
「ならば私はこう返そう。たとえ私が辿り着かずとも、私の信ずる仲間達が獅子王を打ち倒すと」
語るべき言葉は既に尽くされた――互いに王を、朋友を信じる戦いが幕を開ける。
原作本編と比べて色々時系列が前後したり伏線ペタリとしていたり。
改めての注意書き。
本作は原作を相当に都合よく解釈したオリジナル設定が入り込みます。気になる人はごめんなさい。