【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
初手、必殺。
『不夜』と『暴走』の二重の祝福を授かりしガウェインは躊躇なく最強の手札を切る。
「この剣は太陽の写し身。あらゆる不浄を清める
柄に擬似太陽が納められた日輪の剣がその真価を解放する。
不浄を焼き祓う聖なる炎が刀身から怒涛のように迸った!
「――
それはまるで炎の大津波。
ランクA+の対軍宝具、軍勢を塵も残さず消し飛ばす業火が地を舐め尽くす勢いで迫り来る。
「
だがアーチャーとて慣れたもの。
無数の攻勢端末を無数の正六角形に配置した陽光吸収陣を展開し、味方への余波を含めほぼ完璧に防ぎ切った。
にもかかわらずその顔は険しい。
「なんという
蝋燭が最後に放つ輝きにも似た、圧倒的なまでの
その神格から光・炎・熱に強い耐性を持つキガル・メスラムタエアをすら害さんと牙を剥く凶悪な炎だ。
「最短手順での勝率はどう?」
「五割を切ります。今の奴に正面衝突は分が悪い」
「なら
「承知」
その上で冷静に判断を下すオルガマリーにアーチャーが諾と頷く。円滑な
「我が炎に抱かれて燃え尽きろ!」
「ハッ、真正面からならともかく防ぐだけならこの程度!」
距離を取り、無数無量の太陽光線でガウェインを牽制。
ついでに粛正騎士を焼き払いつつ、太陽の聖剣の余波から味方を守る。
「どうした!? 逃げるだけではその名が泣くぞ、キガル・メスラムタエア!!」
「元より泣くような武名にアテはない。私が求めるのは主に捧げる勝利のみ」
どう見ても己の打倒に主軸を置いていない消極的な戦い方に焦れ、ガウェインが叫ぶ。
アーチャーもその焦りを見透かした上でニヤリと露悪的に笑った。
「それとも長引けば困るのか?」
「……ッ! 分かっていて嬲るか、弓兵!?」
「敵の最も嫌がることをする。戦闘の基本を忘れたか、円卓の騎士!?」
『不夜』と『暴走』の二重の祝福などという無茶がそう長く続くはずもない。
この一戦で自身の霊基を使い潰す覚悟でガウェインはこの戦いに臨んだのだろう。故に遠慮なくその弱みを突く。
「生憎だが元は騎士道や華麗な勝利に縁がない冥府の亡霊だ。華々しい決闘など期待するのは止めてもらおうか」
陽光吸収陣を盾に炎の雨を降らしながらアーチャーが冷厳と拒絶する。
何時だって必要だから戦ってきた。そこに意気を挟む余地はあれどまず第一は勝利のために。全ては勝ってからの話だ。
「ならば最早遠慮は不要! 悪く思わないで頂こう、カルデアの長よ!」
その宣言を受け、ガウェインもまたなりふり構わずアーチャーの弱点である
触れれば一瞬で焼き尽くされる炎の濁流が容赦なくオルガマリーの眼前に迫る。
「うわっ、ひゃっ、ヤダッ!? アーチャー、ちょっと助けてアーチャー!?」
「無論」
情けない悲鳴を漏らしたオルガマリーが恥も外聞もなく助けを叫ぶ。もちろんアーチャーもいつもの如く答え、炎を払うが、
「とはいえ自力でなんとかなるものはお任せします」
「――もう!? 頼むわよ、本当に危ない時は任せたからね!?」
ある程度は任せると突き放され、半ギレ混じりに更なる悲鳴を上げた。
「その代わり、しっかり
「お任せあれ、我がマスター!」
突き破られた正門は敵味方が入り混じる一番の激戦区だ。
基本的にはアーチャーがオルガマリーを守るが、時折そこから零れる余波があり、炎の一片であっても普通の兵達には致命傷だ。
「主を放って雑兵にかかずらうとはそれでもサーヴァントか、不忠者!?」
「ここに雑兵など一人もいない。ただ生きたいと願う一人”達”がいるだけだ!!」
余波に巻かれる兵士達の命を手の届く限り拾っていく。
命の重さに違いはないなどと綺麗ごとを吐くつもりはない。オルガマリーが死ねばアーチャーは現界できないのだから、そこには厳然とした差がある。
「そも主を信じて任せることに、何の不忠があるか! 言ってみろ、忠義の意味を履き違えたド阿呆が!?」
「ッ! 屁理屈を!?」
「覚えておけ。ただ愛するだけが、従うだけが忠義にあらず!」
だが命は命だ。失われれば取り戻せない輝きだ。
その輝きを取りこぼさないための多少の無茶をこれまでのカルデアは押し通してきた。そしてこれからもそれは変わらない。
「主は従者を、従者は主を信じる! 同じ方向を向き、ともに歩む! どうだ、お前と獅子王は同じ景色を見ているのか!?」
「……騎士に意志は不要なり! 主が望むのならいかなる醜行にも手を染めよう、剣を預けるとはそういうことだ!」
対極の忠義を貫いた二人が目の前の男には負けられないと吼えた。
感じ入るものはあれど相容れぬと理屈抜きに思うのだ。
その気炎に応じるように黒と白の炎が噴き上がり、互いを食らい合うためにぶつかり合った。
そんな、神話的な闘争が繰り広げられる中、
「――覚悟」
乱戦に紛れて粛正騎士の一騎の振るう剣がオルガマリーに迫る。
魔術師と言えど人間に過ぎないオルガマリーにとって十分な脅威だ。
「主を放っておいて良いのですか、キガル・メスラムタエア!」
「それこそまさか! 我が主を舐めるなよ!」
今は互いが互いの相手に手一杯のアーチャーとガウェイン。至近距離で太陽と太陽がぶつかり合い、極大の熱波が周囲を干上がらせていく。
「終わりだ、カルデア!」
「
カルデア職員礼装にも刻まれた魔術を
「ガンド」
更に体勢を崩した粛正騎士へ右手の指先を揃えて狙いを付け、呪詛の弾丸を続けざまに叩きこむ。
ヘヴィー級ボクサーのフィニッシュブローを無防備な生身で食らってもこれほど派手に吹き飛ばないだろう。それほどの勢いで重装備の粛正騎士が
「ッ!? 見事!」
アーチャーと鍔迫り合いながら一部始終を見ていたガウェインが驚愕に顔を歪めて叫ぶ。
粛正騎士も決して弱くはない。円卓の騎士が手足として率いるだけあり兵としては極めて精強。
その粛正騎士を瞬く間に処理した辺り、戦闘者としてのオルガマリーは(人間基準で言えばだが)かなり上位に位置する。
「ッッッ!? あっぶな! いまほんと危なかったわよアーチャー!? 何してるの!」
なお本人の気質は御覧の通りだ。
諸事情によりオルガマリーの肉体を構成する『継承躯体』は本来の機能をほぼ果たしていない。だが躯体に宿る戦闘経験は別だ。本番に弱いオルガマリーの気質を補い、鮮やかな戦闘行動を取る補助輪として十全に稼働している。
「どうだ、我がマスターは。中々面白いお人だろう?」
アーチャーがニヤリと笑い、自慢げに評する。
特異点Fで失われたオルガマリーの肉体を再現するために費やされたキガル・メスラムタエアの『継承躯体』、実に3%。
「確かに。貴殿の主は支え甲斐がありそうです」
その
劣化したとはいえ
「アーチャー、そんな奴早くけちょんけちょんにしてやりなさい! じゃないと危ないじゃない、私が!?」
「ハハハ、オルガ。すいませんがこの男を相手にそれは無理です。もう少し自力で頑張ってください」
全くもって命を獲り合う戦場に似つかわしくないやり取りだ。
「フ……」
思わずガウェインの頬が苦笑に緩むくらいには。昔日の円卓を思い出すくらいには。
己が間違っていたとは思わない。だが何よりも、互いを信じ一瞬たりとも揺らがないその絆をこそガウェインは羨ましく思った。
◇
太陽の加護享けしガウェインは日中に受けるあらゆる攻撃、特に炎に対し耐性を持つ。
単純に固い。最早人間とは思えないくらいに頑丈だ。更にアーチャーの冥府の業火も通じない。
「ここまで、か……」
故に全身が血まみれになり、その血が焦げ付きるまでガウェインを傷つけたのは彼自身、『暴走』と『不夜』のギフトがもたらした反動に他ならない。
「運命は繰り返すのか。私は……
がっくりと膝から崩れ落ち、力なく目を伏せたガウェインの肉体から陽炎が立ち昇る。その肉体に籠る熱は最早人のものではありえず、まるで人型の炎のよう。力なく大剣を握る腕は崩れ落ちつつあり、明らかな
「
「戦いは終わったわ。獅子王は私の仲間が倒した」
キャメロットの中心部、獅子王が政務を執る王城で極大の魔力がぶつかり合った。
眩い程の光の突撃槍と清廉たる白亜の城の幻影が競り合い、その後突撃槍が力を失った光景をアーチャー達はしっかりと見ていた。
「あなたは強かった。最後まで私達を獅子王の下へ辿り着かせなかった」
ガウェインを倒すため、これまでの特異点で積み重ねた経験が磨いた心技体の全てを用いた。
令呪は切らず、宝具を開陳することもなく。相手の自滅を待つという最も勝率の高い策を綱渡りすることなく着実に実行し、
「お前は騎士として獅子王に尽くした」
円卓の騎士、その第三席。太陽のガウェインがなりふり構わず振るった死力に負けず、
「そうか……そう、か。私は今度こそ、忠義を貫けたのか」
ガウェインはいままさに力尽きようとしている。
だがその過程に不足はあれど不義はなく、彼はやっと力を尽くした”果て”に辿り着いたのだ。
「おさらば……おさらばです、カルデアの善き主従よ。我が亡骸を踏み越え……どうかその志を貫きたまえ」
最後の最後、ガウェインは
ただそれだけが事実だった。
このBGM聞いててトラウマ蘇ったの俺だけじゃないだろ(確信)
追記
4月から職場が変わったのと、資格試験があるのでまた期間が空きます。
気長にお待ちいただけると幸いです。
……24365のシフト制から平日日勤になったお陰で健康にはいいんだが、執筆時間は減ったんですよね。夜勤の暇な時間でこっそり執筆したりもしてたし。
色々妥協点探しつつ頑張ります。