【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
もう一度だけ繰り返そう。
カルデア管制室。
第七特異点、レイシフト前の最終ブリーフィングにて。
「……いよいよね」
オルガマリーが強い緊張を浮かべ、呟く。
はるか神代にして神話の舞台となった古代メソポタミアの大地こそが最後の特異点である。
「アーチャー、現地でのナビゲートをよろしくね」
「万事お任せあれ」
今回はアーチャーのホームグラウンド。有形無形の恩恵が多数期待できるだろう。
「藤丸、マシュ。万が一はぐれたらとにかく合流を優先。難しい場合はウルクで落ち合いましょう」
「はい!」
「マスターは必ず守ります!」
藤丸達も最後の特異点攻略に気合いを入れて応じた。
「気を引き締めて行くわよ。ここからが本番なんだから」
オルガマリーの号令にレイシフトチームが応える。管制スタッフもみな頼もしげにそれを見ていた。
◇
そしてレイシフト直後。
「な”ん”で”ま”た”こ”う”な”る”の”お”お”お”ぉ”ぉ”――!!」
例によって例の如く、特異点の乱れにより上空6000メートルから一人放り出されたオルガマリーが半泣きになって叫んだ。
「ロマニッ、大都市に出現ポイントを設定したんじゃないの!? 帰還したらいい加減とっちめてやるんだからぁ!!」
刻み付けられたトラウマにカルデアで指揮を取る男を名指しでなじるオルガマリー。
いつもの如く情けない反論が返ってくるかと思えば、
「……? ――ロマニ、応答して!? まさかカルデアとの通信が通じてないの!?」
これまでの特異点でもしばしばあったことだが、よりにもよって今この時に起きるとは。
頭が真っ白になりかけたオルガマリーだが、
「だ、大丈夫! こういう時は令呪でアーチャーを呼んで」
かつての経験を活かし最も頼りとするサーヴァントを呼び寄せようと魔力を励起する。
だが、
「なんで来ないのおおおぉぉ――!!」
オルガマリー、再び滂沱の涙を流す。
全くの想定外、右手に刻まれた令呪が幾ら発動しようと願っても魔力の欠片すら宿らない。
「も、もう地上があんな近くに……!」
今回は放り出された高度が第五特異点に比べて半分程度。落下までの猶予時間も相応に縮まった。
大地との熱烈なランデブーまでもう時間がない。
「――――」
死ぬ。そうと悟った躯体が千々に乱れた心を他所に十全の稼働を開始する。
顔から表情が抜け落ち、思考が加速する。
「身体強化、変性、重力軽減――」
身体強化で着地の衝撃に備え、変性魔術で脱ぎ去った上着を小型グライダーのように変形。落下速度を緩やかにする。更に重力軽減で落下速度と衝撃を軽減。
「――爆破!!」
最後の最後、地上に衝突する瞬間に最大規模の爆破魔術を大地にぶつけ、その余波を全身とグライダーで受け、落下の勢いを大幅に殺した。
「し、死ぬかと思ったわ」
着地後ゴロゴロと転がることにより、衝撃を全身に分散。
全身が泥と煤まみれ。いつもの貴族然としたスタイルが台無しであったが、そんな些事には構わずオルガマリーは全身で大地の感触を堪能した。
「もうやだぁ……私、カルデアに帰る」
挙句ひんひんと啜り泣いて弱音を吐くあたり相当な心理的ダメージを食らったらしい。
「…………」
そんな中、付近で凄まじく居心地が悪そうにしながら沈黙を続ける何者かの気配を感じ取る。
「……その、決して覗き見るつもりじゃ」
「死にたい」
オルガマリー、レイシフト早々に敵とは無関係にこの世の終わりの心地を味わう。
そこにいたのはたおやかで可憐、一見しては手弱女と見まごう緑の人であった。
◇
崩れ落ちたオルガマリーもなんとか立ち直り、ようやく自己紹介が始まった。
「はじめまして。僕の名はエルキドゥ」
たおやかな緑の人が名乗るその名を聞いた時オルガマリーは再び大地に崩れ落ちた。
見事なorzの姿勢である。半泣きなあたりも芸術点が高い。
「なんで、なんで私はいつもこうなの?」
緑の人との邂逅は彼女の中でもうちょっとまともなものになると予想、いや希望していた。
最後の特異点がアーチャーと深い縁のある古代メンポタミアが舞台と判明した時点で主要な人物は一通り伝え聞いており、その中にはもちろんエルキドゥも含まれている。
その中でもひと際友情を込めて語られたエルキドゥとは是非とも仲良くなりたい。有り体に言ってアーチャーのマスターとして恥ずかしくないよう恰好を付けたかったのだ。
「あ、うん……気にしなくていいんじゃないかな?」
アルカイックスマイルを浮かべたエルキドゥはそう言うものの、ちらりと気まずそうな顔をしたのを見逃さなかった。オルガマリーの眦からもう一滴涙が流れた。
「改めてはじめまして、オルガマリー・アニムスフィア。僕は君をウルクへ導くため迎えに来た」
二人の間に流れた気まずい空気を押し流すように話を続けるエルキドゥ。
オルガマリーも気遣いに感謝しつつなんとか立ち上がって応じた。
「私の名前を?」
「目ざとい友人がいてね」
分かるだろう、と微笑むエルキドゥ。それでオルガマリーもピンと来た。
「なるほど、ね。納得がいったわ」
かの英雄王であればこの早手回しも驚くに当たらない。
きっとオルガマリーのピンチを察して助けの手を差し伸べてくれたのだろう!
「助けてくれてありがとう、エルキドゥ。私のことはオルガマリーと呼んでちょうだい」
「どういたしまして。これからよろしく、オルガマリー」
エルキドゥのアルカイックスマイルが人懐っこく緩む。真っすぐな好意にオルガマリーは我知らず彼/彼女に強い親しみを覚えた。
「ところでアーチャー、私のサーヴァントがどこにいるかは分からないかしら」
「アーチャー……ああ、彼のことか」
「ええ。アーチャー、キガル・メスラムタエア。あなたもよく知る《名も亡きガルラ霊》よ」
「キガル・メスラムタエア」
一応の確認がてら聞いてみると、帰って来たのは茫洋とした呟き。思いを馳せているような、心を滾らせているような、不思議な呟きだった。
「さて、生憎と僕にはなんとも。ただ彼が健在ならば必ずウルクへ向かうでしょう」
「そうよね。ならここはウルクでの合流が最善かしら」
口元に手を当てて選択肢を検討するオルガマリー。
そんな彼女をエルキドゥが黙って見守っていると――
二人が反射的に音がした方へ視線を向ければ、
『ガアアアあアアアアアアァァ――――!!』
茂みの奥から十数体もの巨大な魔獣が目を血走らせ、牙を剥きだしに飛び出してくる!
「ッ!? こいつら、かなり強い!」
流石は神秘が色濃く残る神代と言うべきか。
魔獣の一体一体から立ち上る魔力の力強さは西暦以降のものとは段違いだ。
「いえ、問題はありません」
警戒を露にするオルガマリーとは対照的にエルキドゥは涼しい顔だ。
落ち着き払った姿勢で大地から黄金の鎖を幾本も生み出し、静かに戦闘態勢を取る。
「少しお待ちを、すぐに片づけます。さて――どこを切り落とそうか」
ほんの一瞬、獰猛な笑みがエルキドゥの頬に浮かび、戦闘ともいえない虐殺は言葉通りすぐに終わった。
舞台は神代。神秘残る最後の時代。魔獣巣食うウルクの地で最大の悪が目を醒ます。
それは神と人が袂を別つ運命の特異点。
幼年期の終わりを迎える、子供たちの物語。
トータル46話分10万文字オーバー。
絶対魔獣戦線バビロニア、開幕。