【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
太陽と金の鎖がぶつかり合った地点から遠く離れた場所で。
「いやぁ成功成功。我ながら中々見事な一芝居だったろう?」
花びらを舞い散らせながらマーリンが飄々と笑う。
「まさかあの太陽がマーリンの創り出した幻影だったなんて」
「どんなクズでも取柄の一つはあるということですね」
素直に感嘆するオルガマリーとあくまで冷淡に評するアナ。
だがどちらも心底マーリンの幻に舌を巻いていた。まるで世界そのものを騙したような解像度の高さ。巻き込まれた彼女達自身、未だに太陽の残影が瞼の裏に刻み付けられている程だ。
「先達として魔術の奥義を授けよう、カルデアの姫。それはね、嘘とハッタリさ!」
「その言い方じゃほとんど詐欺師ね」
「実際マーリンは詐欺師のようなものですから。いつも嘘つき、デタラメばかり」
自信満々なマーリンのロクでもない発言にドン引きするオルガマリーと嘆息するアナ。
(なんでそんな男と一緒にいるのか、とは聞かない方が良さそうね)
「……なんですか、その目は」
苦労しているのだろうな、と同情の視線を向ければそれを厭うようにアナはフードを被り直した。
「ともあれ君を回収できたのは幸いだ。君と君のサーヴァントを失えば戦略の立て直しは難しいどころじゃない」
「アーチャーは? どこにいるか知っているの?」
「いま古代都市ウルクで悲鳴を上げているよ。ちなみに藤丸君達も一緒だ」
「……無事、なのよね?」
「命の危険はないという意味ではイエスだね」
雰囲気どころか物言いすらふわふわとした男にイラッとしたモヤモヤが湧き起こるが、命の恩人という事実に押し殺した。
「なんだかロマニみたいな人ね」
「……………………」
どことなくカルデアのふわふわ男を思い出す言動に思った感想をそのまま口に出すと微妙な感情の籠る沈黙が返って来た。
「オルガマリー、僕は夢魔だが心が傷つくこともあるんだよ?」
「え、なにその評価。ロマニとあなたにどんな因縁があるの???」
その時のマーリンは珍しく額に皺を寄せ、困惑しているような悲しんでいるような顔だったという。
◇
レイシフトから三日後。
マーリンとアナとともに古代ウルクへ到着した。
なお、偽物を撒いた時点で妨害も解除され、カルデアとの通信も復旧した。
「やっと着いた……神代のメソポタミア、厳し過ぎるわよ!」
『ここまでお疲れ様でした、所長』
「現代のニンゲンは軟弱ですね」
「安心したまえ。ウルクは文明都市だ。これでベッドで寝れるし、食事の質も上がる。堪能してくれ」
マーリン達のサポートもあったとはいえ、毒虫や毒草、魔獣や悪天候と日常的に襲い掛かる脅威に苦労したらしい。げっそりした様子のオルガマリーだった。
『藤丸君達にも伝えておいたからそろそろ来るはずですが』
と、通信越しにロマニが話す傍ら、ウルクの城門から大慌てで駆けて来る二人の姿が映った。
「オルガマリー所長!」
「ご無事で何よりです!」
「藤丸、マシュ! 二人とも無事でよかったわ!」
ひとしきり再会を喜ぶ三人。特にマシュとオルガマリーは同性の気安さで親密にハグを交わしている。
「それでこちらの二人が」
「やあ久しぶりだねお二方。みんなの頼れるグランドキャスター、マーリンお兄さんだ。いや、有資格者だが冠位霊基ではないけどね」
「アナです。よろしくお願いします」
マーリンとアナを紹介すると二人は笑顔で挨拶を始めた。
特に第五特異点でマーリンに助けられた事実は大きいらしい。曇りのない笑みにオルガマリーとロマニは微妙そうな顔をした。
「はい、お久しぶりですマーリンさん! オルガマリー所長が大変お世話になったとか!」
「ありがとう! それに二人ともよろしく!」
「うん、よろしく頼むよ」
「はぁ……」
そうしてあっという間に仲良くなる二人。
この二人のこういうところだけは真似できないなと少し嫉妬しつつ感心するオルガマリーだった。
「おや、これはフジマル殿。そちらの方々は? 難民には見えませんが」
「俺達の仲間です!」
「オルガマリー所長です! それとアーチャーさんのマスターでもあります」
そう言ってウルクの門番とも親し気に話す二人の紹介で一行は何事もなく城門を潜り抜けた。
「三日程度で随分馴染んだわね、二人とも」
思わずオルガマリーは怪訝な貌を浮かべたが、
「はい! このウルクの住民の皆さんは素晴らしい人ばかりですから」
「羊毛刈り、楽しかったです!」
なにやら古代都市の生活をエンジョイした様子の二人だった。
何それ楽しそう、とは思いつつ何でもない顔を取り繕うオルガマリーである。
「不肖マシュ・キリエライト、オルガマリー所長にウルクを案内させて頂きます!」
「とにかく王様のところに行こう!」
「二人とも、ちょっと待って! アーチャーはどうしたの? まさか彼に何かあった――?」
アーチャーの性格上、真っ先にオルガマリーを出迎えるはず。いや、マーリン達に護衛を任せたのが既におかしい。
その考えから来た問いかけに、二人は顔を見合わせてああと頷いた。幸いそこにマイナスの感情はない。
「ご安心ください、所長。アーチャーさんはギルガメッシュ王のところにいらっしゃいます」
「アーチャーも物凄く所長と会いたがってたんだけど、いま王さまに捕まってて」
苦笑いを浮かべる二人だが、オルガマリーには訳が分からない。
『ああ、うん。あれはね』
『直接見に行った方が早いだろう。安心したまえ、ただちに危険性はない』
「ロマニはともかくダ・ヴィンチ? その言い方で安心しろって無理がない?」
なんとも微妙な言い草に顔をしかめたオルガマリーだったが、ともかく一行はウルクの中心部に向かって歩き始めた。