【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 ウルク中心部、巨大神殿ジグラット。

 市街を通り抜けた一行はマーリンの案内でその玉座の間に辿り着こうとしていた。

 

「とんでもない賑わいだったわ!」

「分かる。俺も初めて見た時は同じことを思いました」

「はい、このウルクは女神と魔獣の襲撃にも絶望せず、日夜戦い続けているのです!」

『正直交易で食っている都市と舐めてたよ……。完璧な都市計画に沿って建造された一級の戦闘都市だ。なんか敗北感が』

「ロマニ? なんであなたが悔しそうなの?」

「ハハハハハ、人には色々事情があるものさ。そうだろ、アーキマン?」

『そっちは気楽そうで羨ましいよ、黒幕気取り(キングメーカー)?』

 

 和やかなやり取りの裏で険悪な会話が丁々発止と交わされる。良くも悪くも遠慮のない二人にオルガマリーは首を傾げた。

 が、すぐに興味が別の対象に移る。

 

「それに正午近くだというのに、幽霊を時々見かけたわ」

「彼らはウルクと同盟を結んでいる冥府の女神エレシュキガルさんの眷属、ガルラ霊です。アーチャーさんの同僚ですね。彼らが本格的に動くのは夜ですが、一部は昼間もウルクに協力しているようです」

「こういうところは古代どころか神代だって実感するわね……」

「いやー。神代でもウルクはかなり特殊例じゃないかなって」

 

 古代都市とは思えない繁栄に驚きの声と嬉しそうな相槌が代わる代わる上がる。

 

「このジグラットもすごい高さね」

『古代都市とは思えない高度な建築技術だ。天才としても興味深い』

 

 何百段と続く玉座の間への道に驚きながらもさして苦労することなく登り詰めた。

 ようやく玉座の間に辿り着いたそこには――、

 

「何度も言わせるな! 戦線の報告は更新を怠るべからず! 細かな報告の分我が有益に使ってやる。分かったのなら下がれ!」

「はっ! 粘土板造りと運搬役を増やして対応します!」

 

 戦場に等しい熱気が渦巻いていた。

 苛烈な王気(オーラ)を纏う黄金の王が神官に指示を下せば、

 

「エレシュ市からの物資運搬に支障あり……魔獣ですね。巣を狩りだすために兵士20人の手配を。指揮は土地勘のあるテムン殿へ一任します」

「すぐに申し伝えます」

「よろしく。次の人、どうぞ――」

 

 その隣で見慣れた顔の弓兵(アーチャー)が同じように忙しなく次から次へと人を捌いている。

 口を動かしながら目は粘土板の文字を追い、手は別の粘土板に書き込んでいる。一人で三役以上こなすこちらも相当な手際だ。

 

「???」

 

 が、当然オルガマリーには意味が分からない。大量のはてなマークを浮かべて思わず首を傾げた。

 

「……ねえ、アーチャーは一体なにをしてるの?」

 

 そう疑問符が飛ぶのも当然だったろう。カルデアの最大戦力、オルガマリーが最も信頼を置くサーヴァントが社畜もかくやとばかりにこき使われているのだ。

 しかもその姿が異様に馴染んでいる。馴染みすぎてかえって違和感が目に付くほどだ。

 

「見ての通り、執務を執っておられます」

「シドゥリさん!」

 

 オルガマリーの呆然とした呟きに第三者の声が答えた。

 振り向いた先にはしとやかで落ち着いた雰囲気の美女。シドゥリと呼ばれた彼女はオルガマリーの前に立つと深々と頭を下げた。

 

「あなたは……」

「お初にお目にかかります、()()()と縁を紡ぎし異邦の魔術師殿。私はシドゥリ、ウルクの祭祀長を務める巫女頭です」

 

 穏やかな瞳の中に緩やかな好奇心が渦巻いている。発言のイントネーションからもアーチャーのマスターであるオルガマリーに並々ならぬ関心を抱いているのが見て取れた。

 

「はじめまして、私はオルガマリー・アニムスフィア。カルデアの所長であり、彼らの上司にあたります」

「はい、どうぞよろしくお願い致します」

「それで、何故アーチャーがこのウルクで執務を……?」

 

 改めて本題に入る。

 ちょっと意味が分からない。経緯が行方不明すぎる事態に詳しい説明を求めた。

 

「ウルクの民以外にはほとんど知られておりませんが、あのお方はかつて王の影武者としてウルクの玉座を預かった経験がございます。いわばこの危急に王が二人に増えたに等しいのです。これぞ天の助けとウルクの民一同あの方の帰還を寿いでおります」

 

 英雄王が賢王へ至る過渡期。不死を求める旅路の間、アーチャーは影武者としてウルクの玉座を預かっていた過去がある。要するに昔取った杵柄だ。

 

「そんなことが! でも史料のどこにもそんな記録はないはずよ」

「はいっ! 《ギルガメッシュ叙事詩》や《冥界の物語》にも記述のない秘事と思われます! 改めてウルクと冥界の強い繋がりを感じますね」

 

 《冥界の物語》のファンであるマシュが嬉しそうに頷く。ある種のマニアである彼女は世に知られぬ物語の裏側を覗けて楽しそうだ。

 

「シドゥリ! 戯言を抜かすな、この珍獣が幾ら増えようと我が代役は務まらぬ。しかし手数は幾らあってもよいのでな、こうしてこき使ってやっておるのだ」

 

 和やかな空気の中雑談を交わしていた一行だが、聖徳太子もびっくりな聞き耳で聞き咎めたギルガメッシュ王から鋭い叱責が走った。

 

「申し訳ございません、王よ。失礼ついでにカルデアの皆様をこのままご紹介させて頂いてもよろしゅうございますか?」

「うむ、許す。者ども、近う寄れ」

 

 真摯に頭を下げつつギリギリを攻める返答にも王は鷹揚に頷いた。

 あるいは単に忙しすぎていちいち細かいことを責めている余裕がないだけかもしれない。

 

「オルガ! ロマンから聞いていましたが、ご無事で何よりです。お顔を見れてホッとしました」

 

 一方玉座の間へ辿り着いたオルガマリーに気付き、ホッとした顔で出迎えるのはアーチャーだ。

 殺到する周囲の人を抑え、執務椅子から立ち上がると周囲のウルク民もさりげなく道を空けた。

 だが決して無関心ではありえず、()()()……と周囲の視線が一斉にオルガマリーを向いたのだ。

 

「あの方がガルラ霊殿の……」

「うむ、中々の面構え。一本芯の通った女傑に違いあるまい」

「そうか? 俺にはいささか頼りないように見えるが」

「エレシュキガル様はいま何を……? できるだけ接触を遅らせねば」

 

 ヒソヒソと下品にならない程度に隣の人間と世間話を交わすウルク民。

 ここで周囲の失望を買うことは出来ない。オルガマリーはキリッと顔を引き締め、賢王の眼前へ一歩踏み出した。なお完璧な外面の裏側で彼女の胃はシクシクと泣いていた。

 

「うむ、貴様がこの阿呆の(マスター)だな? 早速だが――」

 

 時間が惜しいとばかりにギルガメッシュ王が口火を切った。

 その瞬間、ジグラットを揺らす轟音と振動が走り抜け、玉座の間に巨大な鏡台が突如出現した。

 

『くぉら金ピカ、なにサボってんの!? うちの子達が纏めた資料と物資は揃ってるんだから後はあんたの許可さえあれば――ってあら、その娘は……』

 

 突然の出来事に目を白黒とさせるオルガマリーを他所に、鏡台から遠慮のない怒声が迸った。

 苛烈なりしギルガメッシュ王に唯一対等の立場で物申せる女神の声だ。アーチャー、キガル・メスラムタエアの妻にして冥府の支配者。ウルク最大の同盟者たるエレシュキガルがそこに映り、オルガマリーを睨みつけていた。

 

 

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