【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 本日5話分一気に投稿につきご注意ください。




 

 冥府の女神エレシュキガル。

 言わずと知れた古代メソポタミアでも屈指の大女神であり、彼女と《名も亡きガルラ霊》が紡いだ軌跡を記した《冥界の物語》は現代に至っても人々から愛読される叙事詩だ。

 

『じ~……』

 

 半目になって睨むエレシュキガルと名も亡きガルラ霊(キガル・メスラムタエア)はともに艱難辛苦を乗り越え、その果てに結ばれたメソポタミアでも屈指の夫婦神(カップル)であった。その彼女から見た、(アーチャー)の主人は果たしてどう見えているのか。

 

(に、睨まれてる……! やっぱりアーチャーのこと!?)

 

 心当たりのありすぎるオルガマリーはエレシュキガルと真っ向から視線を合わせながら内心は大慌てだ。

 オルガマリーがアーチャーを見る目は複雑だ。

 頼りになる父や兄のように慕っているが、男性として意識している部分も……ないとは言えない。ただ人理修復中にそんな浮ついた考えは、と敢えて封じ込めていた。

 

「おお、エレシュキガル様! 今日もお美しゅう。流石は我が妻たる女神!」

『……はい、はい。相変わらずね、私のアナタ。背の君が壮健で私も嬉しいわ』

 

 そこに空気を読まず口を挟むは何時になくテンションの高いアーチャーだ。神話に刻まれた愛妻家なだけあり、恥ずかしげもなくエレシュキガルを褒め讃えた。

 自然女神の視線はアーチャーに向かい、驚くほど優しく愛おし気な伴侶を見る目に変わる。さっきまでの厳しい目つきが嘘のようだ。

 

「……」

 

 見つめ合う二柱の姿を見たオルガマリーの胸の中がモヤッとしたものが立ち込める。思わず額に眉を寄せ、頬を膨らませながらアーチャーを睨んだ。

 

(それはまあ、私とアーチャーはマスターとサーヴァントであって別になんでもないけど。そもそも彼は既婚者なのだし?)

 

 分かってはいるが、腑に落ちない。だが飲み下すべきだ。そんな感覚に苦しみながらもなんとかオルガマリーは平静を取り戻した。

 また、エレシュキガルも鏡の向こうで間を仕切り直すように移動し、豪華絢爛なる玉座にゆっくりと腰かけた。

 

『それであなたがオルガマリー・アニムスフィアね。カルデアの長であり、我が背の君のマスター』

 

 オルガマリーの様子をそっと観察していたエレシュキガルが口を開く。

 この特異点に召喚された分霊(サーヴァント)である彼女はカルデアのオルガマリーの存在を伝え聞いてはいても直に見聞きするのは初めてだ。

 興味深げな視線を向けながらも、幸いそこに険悪な色はない。

 

『メソポタミアの大地へようこそ。どうかしら、この地を訪れた感想は?』

「……率直に申し上げて、よく世界が滅んでいないなと」

 

 一呼吸分返答に迷い、結局は素直な気持ちを口にする。

 魔獣の女神に加え、さらに二柱の女神まで。ギルガメッシュ王のカリスマにエレシュキガルの加護もあろうが、いまこの瞬間に辿り着くだけでも並大抵の苦労ではなかったろう。

 

『現状認識に齟齬はないようね。結構、大甘に甘く採点してあなたを私と話すに足ると認めましょう』

 

 鏡の向こうで玉座に腰かけたエレシュキガルがゆっくりと足を組む。怜悧にして峻厳な威厳を纏う冥府の女神が下知を告げた。

 

『今すぐでなくても構わないわ。いずれ冥界へ我が夫とともに顔を出しなさい。これは私がカルデアに協力する条件と思うがよい』

「め、冥界へ?」

 

 オルガマリーは露骨に怖じ気づいた。

 冥界。文字通りの黄泉の国。死して向かう最後の地へ来いとは一歩間違えれば「死ね」と言われるのに等しい。

 だがその肩をアーチャーがポンと軽く叩く。

 

「ご安心を、オルガ。神代は地上と冥府の境界が曖昧な時代です。我ら冥府の眷属が知る道筋さえあれば辿り着くのはさして難しくない。冥府に満ちる死の空気からの保護は必要ですが」

『一応はあなたのマスターだもの。その程度は私が請け負うわ』

(つまり彼女の機嫌次第で私、一巻の終わりってこと!?)

 

 悪い方に取ればそうなる。

 表面上は口元に手を当ててエレシュキガルの要請を思慮深げに検討している風に俯きつつ内心は嵐の如く荒れ狂っていたのだが、

 

(所長、大丈夫です! その時は私達もご一緒します!)

(彼女はアーチャーの奥さんです。きっといい人ですよ、女神様だけど)

(あなた達の心臓って鉄でできてるの? どんなシチュエーションなら怖じ気づくの?)

 

 オルガマリーの耳にヒソリと囁いた二人の言葉に覚悟を決める。

 キッと俯いていた顔を上げ、声を張った。

 

「承知しました。女神エレシュキガルの協力が得られるのならば是非もありません」

『よろしい。では、私との問答は一旦ここまでとします。ギルガメッシュ、悪かったわね。急に割り込んで』

 

 そう、元々はギルガメッシュ王との謁見に臨むはずだったのだ。そこにエレシュキガルが突如現れたからこそついそちらを向いてしまったが、本命はそちら。しかも相手は世界最高峰の暴君だ。

 オルガマリーが慌てて玉座に向き直るとそこには退屈そうに欠伸を嚙み殺すギルガメッシュ王の姿があった。

 

「全くだ。座興の一つも期待していればつまらんやり取りで終わりおって。身体を張って我が無聊を慰めんとする気概はないのか貴様」

『あんたちょっとは礼儀ってものを覚えなさい。さもなきゃこのジグラットをあんたごと地の底に引きずり落とすわよ!』

「ハッ、望むところだ。やってみろ! 何時になるかは知らんがな」

 

 そして何故か始まる王と女神の下らな過ぎる舌戦。ギルガメッシュ王の唯我独尊っぷりに青筋を立てたエレシュキガルがキレかける。

 ともに玉座を立って鏡台越しに睨み合う両者が暴れ始めれば誇張なくウルクに存亡の危機が始まるだろう。

 危機管理能力の高い一部のウルク民が素早く逃走経路を確認し始める。その手慣れた様子は最早熟練の域にあった。

 

「まあまあ。お二方ともどうかお静まりあれ。カルデアの衆が驚いております」

「同意致します。王と女神におかれましてはいつものじゃれ合いでございましょうが、遠方からのお客人にとっては中々に肝が冷える出来事かと」

 

 だがすかさず緩衝材担当のアーチャーとシドゥリが割って入る。

 恭しく、しかし緊迫した空気を和らげるような絶妙さ。揃って浮かべた苦笑には何とも言えぬ『慣れ』を感じ、カルデア陣営は思わず同情の視線を送った。

 

「この女神相手にじゃれ合いなどありえんわ。勘違いするな、シドゥリ」

『あなたの顔に免じて退いて上げるわ。シドゥリに感謝しなさいよね、金ピカ』

 

 彼らが本気で仲が悪いのは確かだが、同時に互いを必要としているのも確かだった。

 なんというか腐れ縁なのだ。両者の間に立って取り持つ者がいなければ破綻する類の繋がりだが、幸いなことに王と女神は縁に恵まれていた。

 

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