【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ギルガメッシュ王とエレシュキガルが角を突き合せたあの後。
結局とっちらかった空気は戻らず、カルデア一行は無造作に玉座の間から追い払われた。
「しばらくはウルクで大人しくしていろって……そんな暇なんてないってギルガメッシュ王もわかってるはずなのに」
身を焼く焦燥感につい爪を噛むオルガマリー。
興が削がれたという顔で手をひらひらと振ったギルガメッシュ王が告げた言葉が彼女を打ちのめしていた。
「……歯痒いわね。私達にもやれることはあるはずなのに」
エルキドゥの偽物の脅威に加え三女神同盟の存在。一刻の猶予もない状況だというのにあっさりと追い払われた事実が堪えていた。が、ここでウルクとの協力関係を断ってカルデア独力で特異点解決を目指すのは悪手だ。
『まあまあ、抑えて。ギルガメッシュ王の言葉も間違いじゃない』
『戦力は然るべき時期に活用してこそ有効たりうる。戦略眼であの王様の右に出る者はいないよ、残念ながらね』
「そうかもしれないけど……それに結局アーチャーも取り返せてないし」
『王様とアーチャーから揃って言われたからねぇ。カルデアとしてはやむを得ない判断さ』
「……分かってるわよ、そんなの」
唇を尖らせてこぼす不満の通り、馬車馬の如くこき使われていたアーチャーはいまだ玉座の間で軟禁中だ。
いつも傍らにあったアーチャーの不在は知らず知らずオルガマリーに心労を強いていたのかもしれない。大きく息を吐きだした後、無理やり気分を切り替えた。
「それにしても『死ぬな』って……結局なんだったのかしら」
退出間際にかけられたギルガメッシュ王からの忠告にオルガマリーは首をひねる。
当たり前と言えば当たり前すぎる忠告だ。臆病で慎重な彼女は言われずとも自ら危険に近寄る気などない。
「今は所長のそばにアーチャーがいないから気を付けろって言ってくれたんじゃないでしょうか」
「私もそう思います!」
無邪気にギルガメッシュ王の善性を信じる藤丸達だがその他の者たちは懐疑的だ。
『いやぁ、それはないと思うなー』
『言い切るね、ロマニ』
『だってあのギルガメッシュ王だよ!? ウルク民の誰に聞いてもそう言うね、賭けてもいい』
うんうんと頷くロマニにだからなんでお前はそんなに詳しそうなんだと首をひねるオルガマリー。実はギルガメッシュ叙事詩のファンだったろうかと記憶を探るが、オルガマリーに覚えはなかった。
「ともかく私達は与えられた宿舎に行きましょう。案内してもらえる?」
「お任せください! いつオルガマリー所長が来てもいいようにピカピカに掃除しておきました!」
「マシュが頑張りました!」
「そんな、先輩の方が――」
「いつも仲が良くて羨ましいわ、二人とも」
奥ゆかしく手柄を譲り合う二人に生暖かい視線を向けるオルガマリー。
「それとギルガメッシュ王が召喚された牛若丸さんや弁慶さん、レオニダスさん達も紹介しますね! みなさん、とても良い
「……本当にいるのね、賢王が呼び出したサーヴァントが。アーチャーから聞いていた以上のトンデモぶりだわ」
時代と聖杯に呼ばれた野良のサーヴァントではなく、賢王がその叡智で招いたウルクと人理の守護者達。偶然と世界に頼らず人為的に用意された英霊という戦力はこれまでのレイシフトではありえなかった奇跡だ。
その奇跡を成した賢王へ向けてオルガマリーは呆れと感嘆が等量混じった呟きを漏らしたのだった。
◇
それから一週間。
神代の過酷すぎる特異点にも負けない逞しい二人に導かれ、オルガマリーはウルクに馴染んでいた。
「羊毛の刈り取りに、解体処理に、ビールの仕込み! 瓦礫の撤去に資材の搬入、武器の輸送まで! 何時からカルデアは何でも屋になったのよ!? ほんと埃臭くてたまらないわ!」
もちろん相応の苦労と引き換えに。
心なしか身に着けた所長服がくたびれたような気配を零しつつ、オルガマリーは気炎を上げていた。
「でも所長も楽しんでましたよね?」
「はい、先輩! 時折愚痴を呟いていましたがウルクの皆さんからお礼を言われて嬉しそうでした!」
「そ、そんなことないわよ! 私、泥臭い労働とは無縁のエリートですし?」
『いや、オルガマリー所長って育ちは貴族でも根っこが小市民でしょ』
『そこが彼女のいいところじゃないか、ロマニ』
「ロマニ! 帰ったら減給三か月! ダ・ヴィンチ、あなたには死ぬほど詰まらなくて非生産的な書類の始末を押し付けてやるわ! 私の仕事をね!」
プリプリと怒っているがそこはかとなく悲しい発言が飛び出してくるあたりがとてもオルガマリーらしい。
なんだかんだで口に出さないが、彼女もウルクでの暮らしに大きな充実感を覚えていたのだ。
プリミティブな労働の喜びとでも言うべきか。
生きるために働くのは楽ではないが楽しく、たとえ苦しくとも喜びがあった。ウルクの民は誰もが生きる喜びを謳歌していた。その輪の中に飛び込んだ彼女達も自然と同じ喜びを共有したのだ。
(少しだけ、偽物が言っていたことも分かるわね……)
故にエルキドゥの偽物の発言にも少しだけ共感してしまう。
かけがえのない騒がしくも充実した時間だった。だからこそ悲しい。
ウルクは素晴らしい都市だ。オルガマリーは心からそう思う。
(ウルク第一王朝は滅びる。たとえこの魔獣戦線を乗り越えても必ず)
それが人理定礎に刻まれた事実だ。たとえギルガメッシュ王だろうとその事実を曲げることはできない。曲げようとも思わないだろうが。
(この人たちは……みんな、いずれ死ぬのね。ううん、これまでレイシフトで出会ってきた人達もみんなそう)
素朴で善良なウルク民達と触れ合うことでこれまで目を背けていた事実を突きつけられ、オルガマリーの良心が痛んだ。