【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ある日、ジグラットに呼び出されたカルデア一行にかなりの無茶ぶりがあっさりと投げ渡された。
「仕事だ。貴様らは北壁に向かえ。イシュタルとティアマトの顔を拝んで来い」
『…………』
彼らが反論しなかったのは王自身が鬼のようなマルチタスクをこなし見るからに多忙を極めていたことも一因だったろう。カルデア一行から見てもギルガメッシュ王の代行を務めるより女神二柱を相手にする方が
なおそんな王の隣でアーチャーもまた政務に励んでいた。かなり気疲れして疲労が顔に現れていたが。
「……承知しました。ただ、アーチャーは返して貰いますが」
「構わんぞ。戻ったらまた使うがな」
「ハハハ、王よ。そろそろ真面目にストライキを考えても? 私、そろそろ限界なのですが」
「ガルラ霊殿のお陰で政務もかなり進みました。いかがでしょう、王自身もそろそろ休息を取られては」
「……む」
アーチャーの力量を惜しむギルガメッシュ王が往生際の悪い一言を吐くが、本人からのクレームとシドゥリの取り成しが入る。否と言えないギルガメッシュは思わず唸った。
「全力を出すために英気を養うのもまた大事かと。そして万全の王ならばいかなる困難も敵にあらず、でありましょう?」
「チッ、仕方あるまい。持っていけ」
「感謝します、ギルガメッシュ王」
腹心にそうまで言われればやむを得ないと言を翻す。オルガマリーもそこには言及せず大人しく一礼した。
「ところで女神たちについて詳しい話を聞いても?」
「見ての通り我は忙しい。レオニダスあたりにでも聞け。我を除けば奴が最も詳しい」
言葉通り粘土板片手に忙しげながらしっかり頼る相手の名を告げるあたり意外と面倒見のいいギルガメッシュ王だった。
「それと貴様の裁量で動かせる物資の目録を後でくれてやる。有効に使え」
「それは……いえ、ありがたく頂きます」
一瞬躊躇するもすぐに頷くオルガマリー。彼女はそれを賢王の好意と受け取ったが、続く言葉にすぐその考えを捨て去った。
「うむ、我が蔵から選りすぐりの宝玉だ。イシュタルめの目玉が飛び出る程のな! フハハ、奴の魂消る顔が見られぬのが惜しいというものよ!」
「……はい? 宝玉?」
「オルガ、後で説明します。とりあえずは何も言わず受け取って下さい」
そっくり返って得意げに笑うギルガメッシュ王。その言葉に困惑し、思わず聞き返したオルガマリーにアーチャーがそっと耳打ちする。彼女がイシュタルの嗜好とがめつさなど知る由もないのだから妥当な反応だった。
「とはいえ如何に我が秘蔵の財といえど奴を動かすのはそう容易くもなかろうが」
「……あの方は、一途で頑固な方ですから」
「だからこそタチが悪いのだ。冥界の、分かってはいようが」
「万事お任せあれ」
「うむ。
「承知」
重々しく告げるギルガメッシュ王の言葉に深々と頷くアーチャー。
次いで藤丸が手を上げて質問を投げ、マシュが続いた。
「ところで北壁の戦況はどうなんですか?」
「ティアマト神とイシュタル神がバラバラに攻め立てていると聞いていますが」
魔獣の女神ティアマトと天の女神イシュタル。
二柱の女神が互いに協力し合うそぶりはない。だがともに北壁、魔獣戦線バビロニアを容赦なく攻め立てているという。
「その通りだ。魔獣は昼に、イシュタルは
「イシュタル様の襲撃は不定期なのが不幸中の幸いですね」
「間隔が空くのは奴の気まぐれさ故だろうよ。あの女神らしいことだ」
呆れ果てたと頭を振るギルガメッシュ王と苦笑を零すシドゥリ。なお会話を続けながらも政務を処理する手際は淀みがない。マルチタスクが完全に熟練の域に入っていた。
女神二柱を敵に回して余裕のある二人へ向け恐る恐るマシュが尋ねた。
「あの、兵士の皆さんは大丈夫なのですか? 昼夜問わず攻められれば体を休める暇が」
ウルクの兵がいくら精強でも人間だ。適切な睡眠と休息を取らねば当然疲弊していく。
が、ギルガメッシュ王は当然の懸念にもフンと鼻息荒く鳴らした。
「ウルクを侮るな。レオニダスの薫陶を受けたあ奴らなら戦いながら休息する程度児戯のようなものよ」
「それに夜は
当然と語るギルガメッシュ王の横で補足するアーチャー。
が、それだけでは分からず藤丸が首を傾げると苦笑したアーチャーが言葉を付け足した。
「魔獣戦線では昼の戦いはウルクの兵士が、夜は我ら冥府の者達が担当しています。いかにイシュタル様が相手でもそう易々と落されはしません」
「? ……なるほど」
その役割分担は確かに尤もなように聞こえる。一瞬違和感を覚えたオルガマリーだがすぐに流して頷いた。
「本来ならば天命の粘土板を探しに行かせるつもりだったが……運良く冥府の者が見つけ、届け出たのでな。一手省けた」
「エレシュキガル様直々にお褒めのお言葉を頂き、奴も喜んでいましたな」
「我の言葉に喜びを見せなんだは不敬であるが、貴様の同類と思えば腹も立たん。功績分と相殺し、許す」
「まあ、なんと寛大なお言葉。王よ、いつの間に心を改められたので?」
「フハハ、シドゥリよ。貴様も中々言うではないか」
何時かのガルラ霊を思い出すかのようにピカピカと光っていた一体の死霊を巡ってにこやかな会話を交わす三人。王の機嫌を損ねれば即処断という綱渡りすぎるウルクジョークにカルデア一行の間でなんとも言えない空気が流れたのだった。