【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)

 イシュタルが誇る必殺の宝具からバビロニア城壁をマシュが全力で守っても崩壊する可能性はかなり高い。そうなれば数多の魔獣の侵入を許し、人類として敗北に大きく近づくだろう。

 

(あちらからの助太刀は……難しいな)

 

 一方魔獣の女神を相手取るレオニダスと牛若丸らを横目で見ると彼らも苦戦していた。

 

「クハハ、どうした! 大口を叩いてその程度か、英霊! 多少名が知れていようが所詮人間では程度が知れると言うものよ!!」

 

 見れば牛若丸と弁慶もまた魔獣の女神を前に防戦一方。

 時に女神の髪にして生きた蛇である蛇身すら足場に縦横無尽に駆け回り、隙を伺っているようだ。一寸法師の如き身軽さ、あるいは燕の早業か。

 兵達もディンギルを主軸にロングレンジからの砲撃を盛んに仕掛けているが、今のところ痛打となっている様子はない。

 戦力比を考えれば驚異的な奮闘だったが、こちらに手を割く余裕はなかろう。

 

「……手はある、()

 

 あるが可能な限り使いたくない禁じ手だ。イシュタルの放つ必殺宝具を前に一秒、悩むが

 

(――いいわ、使いなさい)

「エレシュキガル様!?」

 

 脳裏に響くエレシュキガルの声が後押しした。

 メソポタミア全土の地下にまで領土を広げたエレシュキガルにとって地上の動向を観察し、声を届ける程度玉座に腰掛けたまま片手間に成せる雑事に過ぎないのだ。

 そしてこの手を打つにはエレシュキガルの意思が必要不可欠。

 

「アーチャー! 手があるなら言って、もう時間がないわ!」

 

 焦りに満ちた声に押され、アーチャーはカッと目を見開いて真剣な顔でマスターを見つめた。

 

「……オルガ、令呪を」

「分かった! 宝具を使うの? それとも――」

「はい、私に――――と」

「……え?」

 

 勢い込んで問うオルガマリーの顔が困惑に染まる。それほど予想だにしない要請だった。

 

「お早く!」

「わ、分かったわ。令呪によって命ずる――」

 

 オルガマリーは手の甲に刻まれた令呪を掲げ、命ずる。彼の言葉を一言一句違わず繰り返して。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!!」

 

 令呪の絶対命令権は普通なら不可能な結果すら掴み取る。適正クラスへの一時的な変性程度造作もない。

 刮目せよ、そして忘れるな。

 かつての《名も亡きガルラ霊》の原点にして()()()()()()()()()()霊基、『最弱』のキャスターが古代メソポタミアの大地に再臨する。

 

 ◆

 

 夜闇で染めたように真っ黒なフードを深く被った、顔を隠した青年。それがキャスターとなったキガル・メスラムタエアの姿だった。

 その手に水晶の大弓はなく、フードから覗く手首に巻かれた美しく繊細に形作られた宝石細工が唯一のアクセントだ。

 

「……アーチャー?」

 

 そしてなにより吹き付けるような死の冷気。側にいるだけで凍えるような寒気が漂ってくる。物理的な温度変化ではなく、冥府の眷属が持つ死の気配がキャスター霊基となったことで更に強められたのだ。

 アーチャー霊基の時とは明らかに異なる気配にオルガマリーがその顔を伺うも、深く被ったフードに籠る闇に視線を遮られた。

 

「ご安心召されよ、オルガマリー殿。霊基が変われど私はあなた方とともに旅をしたサーヴァントなのです」

 

 僅かに覗いた口元が緩く笑みに形取られる。

 謹厳さと堅苦しさの増した口調。マスターへの呼びかけもどこか余所余所しい。だが彼女を気遣う響きは十分に感じられた。

 

「何のつもりか知らないけど――もう遅い!」

 

 だが女神イシュタルにとって関わりなき事。彼女はただ赴くままに己が全力を容赦の欠片もなく叩き込む!

 

「喰らいなさい――山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)!!

 

 そして放たれるヴィナス・ブラスター。この神をも恐れぬ女神の所業は地球に悲鳴を上げさせ、山脈を消滅させる程の代物。

 最早マシュの宝具すら間に合わないとオルガマリーが目を閉じた瞬間、

 

「護りしは人、招きしは主。いま呼び起こすは冥府の息吹。人とともに歩もう。故に―――都市の守護者(ブレス・オブ・バビロン)

 

 詠唱、そして発動。

 轟く。黒い風が轟々と、どこからともなく吹き荒れる。キャスターを中心に、さながら火山の噴煙の如く噴き出していく黒き風が撃ち出されたヴィナス・ブラスターと激突し――()()()()()()()()()()()()()

 

「そんな、勝てないの……?」

「いえ、見てください!」

 

 否、吹き散らされたのではない。そもそも激突の影響を受けていないかのように黒き風は広がり続け、イシュタルを飲み込み魔獣の女神を飲み込んでいく。黒き風は広がり続け、一定の範囲に達したところで……止まった。そのまま真っ黒な天幕が建てられたかのように佇み続けている。

 この時、俯瞰視点から観測していればまるでバビロニア城壁周辺がすっぽりと黒い繭に包まれたように見えたはずだ。

 

「これは、まさか、()()()の――!?」

 

 ただ一人、苦い記憶を思い出したイシュタルだけは血相を変えた。

 そして迫りくる金星の弾丸は――、

 

「ッ!?」

「すっご……!」

「なんて堅固な――!?」

 

 バビロニア城壁を瓦礫すら残さず消し飛ばす砲撃がバビロニア城壁を残らず覆い尽くす真珠色の大結界に激突。

 その堅固なる守りをギシギシと容赦なく軋ませ――その果てに余波で千を超える魔獣を消し飛ばしながらついに、その守りを破ること能わず、力を失った。対して不朽の加護は健在のまま、揺るがずにあり続けている。

 女神が誇る矛と冥府の眷属が掲げた盾の激突は、盾が勝ったのだ。

 

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