【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
冥界下りを遊興と言い切ったギルガメッシュ王に目が点になる一同。恐らく冥界をリゾート地代わりにする王など古今東西ギルガメッシュ王だけだろう。というかギルガメッシュ王以外いられても困るのだ、主に冥界が。繰り返すが冥界はリゾート地ではないのだから。
「王よ、流石にそれでは分からぬかと。なんと申しますか……昔から王は玉座に座っているのに飽きると羽を伸ばしに冥界へ行くのです」
「私が言うのも口幅ったいですが、冥府は私と仲間が手塩にかけただけあり中々に快適な地なのです。欠点は生者が赴けないということだけですな」
慣れたシドゥリとアーチャーが苦笑交じりに説明を続けた。片方の発言は一部誇大広告と言うべきかもしれないが。
風光明媚な温泉もあれば(たまに溶岩直通の鉱泉もあるが)、美しい庭園もあり(大半は冥府でしか咲かない不吉な花々だが)、活気のある街並みもある(住人は残らず死者とガルラ霊達だが)。
一般人には決してウケがよくないのだが、ギルガメッシュ王には中々刺さったらしい。
「うむ、よくぞあれほど見事な世界を作り上げた。我が足を伸ばす甲斐があるというものよ。褒めて遣わす」
『間違ってもあんたのためじゃないから。調子に乗るんじゃないわよこの金ぴか』
満足げに頷くギルガメッシュ王に向けて冷たい視線を浴びせながらエレシュキガルがツッコミを入れる。エレシュキガルはこいついい加減痛い目に遭わないかなとささやかな呪詛をかけた。
「フハハ、ここは歓喜に咽ぶところだぞ。この我が直々に称賛をくれてやっているのだからな。それとも照れ隠しか?」
「いえ、それは天地がひっくり返っても無いかと」
なお堪えたり反省した様子は欠片もない。アーチャーが思わずマジレスを入れるくらいに自由すぎる王様だった。
他の一同は呆れの目を向けるかいっそ尊敬するか非常に複雑な感情を込めた十人十色の視線を向けていた。
「いえ、しかしこの危急の時に――」
王様のせいであっという間にシリアスが粉砕されてしまったが、生来生真面目なオルガマリーはつい真正面から反駁してしまった。そもそも彼女の性格上この事態に安穏と遊興にふけられるほど神経は太くないのだ。
「だからこそだ。そもそもオルガマリー、貴様も冥界に向かうことを約していたであろう。ここから先真実正念場よ。故に今を除いて約を果たす機会はないと知れ」
「う……そ、そう言われると」
が、ここでエレシュキガルと交わした約束を持ち出され、言葉に詰まった。言っていることは滅茶苦茶なのだが約束を守れと言われると彼女も弱い。
「所長、所長」
「俺達なら大丈夫ですから」
と、ひそひそとオルガマリーに耳打ちする藤丸達。王や女神などよりよほど人間ができていた。
「それにギルガメッシュ王がこんな時に無駄なことをするとは思えません」
「俺もそう思います。何か必要なことをやりにいくんじゃないでしょうか」
「……そうかしら? いえ、そうかも?」
善性で人を信じる心に満ちた藤丸達の言葉に反対、否定から半信半疑にまで持ち直す。半信半疑で留まっているのは王様の人柄故だろう。
端的に言ってギルガメッシュ王は凄いし偉いし尊敬できるが、かといって心から信じて付いていけるかというとまあ、うん……というような心境だったのだ。
実に人を見る目がある。かつてのアーチャーのように内心ツッコミを入れつつ受け入れるべき点だけ受け入れた方が建設的だし、実のところ王様好みなのだ。
「……分かりました。お伴させて頂きます」
『そう。あまり手が足りないようなら流石に自重しようと思っていたけど、二人がそう言うなら遠慮なく招かせてもらうわ』
「安心しろ。ウルクは常に手が足りておらんが、不足しているなりに回す体制は整えた。我と民どもを倍ほども酷使すればなんとかなるわ!」
文明の闇が深すぎる発言に一同はドン引きした。流石は四大文明の一角を代表する王。なおドン引きしつつも自分達も同じように酷使されるのだろうと予感していたため同情はしなかった。
かくしてギルガメッシュ王とオルガマリー主従は突然の冥界下りと相成ったのだった。
◆
両端が切り立った断崖である長い長い一本道を歩いていく。
道幅は十分に広いとはいえどこまでも闇が蟠り、足元が覚束ない分慎重に歩を進めていく。
「ふむ。もう少しだな」
「でしょう。この辺りの地形は見覚えがあります」
慣れた様子で頷きあうギルガメッシュ王とアーチャー。本当に地上と冥府を頻繁に行き来しているのだなとおかしな感心を覚える。
こんな王様は古今東西ギルガメッシュだけだろう。冥府の者達はギルガメッシュ王だけで十分と言うだろうが。
そしてほどなくして冥界下りは終わる。薄暗く、長い一本道を抜けたそこで待っていたのは――、
『オ・ル・ガ! オ・ル・ガ! オ・ル・ガ! オ・ル・ガ! オ・ル・ガ!』
熱狂的なシュプレヒコール。
いや、身も蓋もなく言えばアイドルに熱狂するドルオタじみたガルラ霊達だった。
「え、ちょ……なにこれ? いやほんとなんなのこれっ???」
驚きに目が点になるオルガマリー。本日二度目の可愛らしいびっくり眼であった。