【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
見渡す限りの視界を埋め尽くすガルラ霊の群れ。万を超える群衆がオルガマリーの名前を叫んでいる光景は控えめに言って狂気の沙汰であった。
「……………………」
絶句。否、ドン引きしていた。当然だろう。
「あー……いえ、その、なんと言いますか」
見るからに
なおギルガメッシュ王はこの馬鹿騒ぎを見るや否やゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。笑いのツボが常人から斜め45度程ズレている王様なのだ。
なんとか正気に戻ったオルガマリーは勢い込んでアーチャーへ問いかける。
「アーチャー?
「……冥府との連携のために到着早々私から分離した同胞を何人かこちらに送っていたのです。どうもそこからカルデアの情報が漏れていたらしく」
無駄に発展した技術力を持つ冥界だ。ガルラ霊同士の記憶を共有するなど造作もない。
そこからカルデアとオルガマリーの噂が爆発的に広まり、こうなったらしい。
「だからってなんでこんな! 私、冥府に来るのは初めてなんだけど!?」
「まあ予想はできてたというか。冥界の連中は私と似ているところがありまして」
「……アレと? アーチャーが? どういうこと?」
アレ。控えめに言って気が狂っているとしか思えない熱狂の渦にあるガルラ霊達を見ながら信じられないと首を振る。それを見たアーチャーも苦笑して頬を書いた。
無理もない。アーチャーも長い長い時を過ごしたことですっかり落ち着いたが、根っこの部分は変わらない。アーチャーを筆頭としたガルラ霊は基本的に頭バーサーカーな危険物揃いなのだ。
「オルガはどこかエレシュキガル様に似ていますし、さらに我がマスターであり……それとは別に一つ、冥界としても捨て置けない要素があるのですよ。それに元々お祭り好きな奴らです。半分は騒ぐ口実でしょう」
「捨て置けない要素? それって一体――」
「ちなみに重要度は前から一番目二番目三番目です」
「……そう」
真面目に質問しようと思ったら果てしなくどうでもいい情報を与えられスンッと真顔になるオルガマリー。この時点で問い詰める気力が尽きていた。
「……まあいいわ。いえ、よくはないけど置いておくわ」
「その方がよろしいかと」
「それより…………どうすればいいのかしら? いえ、本当にどうすればいいのっ!?」
これまで幾つもの特異点を超えてきた経験の持ち主といえど、流石にここまで斜め上の事態への耐性はなかった。
わたわたと慌て、身を乗り出して解決策をアーチャーに問い詰める。それだけ混乱している証拠だった。
(オルガは可愛いなぁ)
どこか懐かしい光景にほっこりとするアーチャー。こいつもこいつで主をダシにしていい空気を吸っていた。
「ご安心ください。我に秘策あり、です」
なお顔だけはキリッと真剣な風を装っているのだから始末が悪い。外面と内面の両方を千里眼で見通しているギルガメッシュ王がさらなるツボに入り、腹を抱えて地面を転げ回っていた。
こっちもこっちで何とかならないかなぁ、とジトリと湿った感情の籠った目で見下ろすオルガマリー。彼女もまた順調に古代メソポタミアの風に染まっていた。
◆
いまオルガマリー達はガルラ霊を見下ろせる高台の位置にいる。
その端に立って堂々と胸を張り、ガルラ霊達を見下ろして静聴せよと片手を上げるべし。それがアーチャーの言う秘策だった。
ただそれだけでどれほど意味があるのかと半信半疑だったが、
『……………………』
効果は絶大。冥府中に鳴り響いていたシュプレヒコールが止み、代わりに
ちょっとどころではなく怖かった。なんなら戦場に立つより怖かった、と後にオルガマリーは語った。
(一瞬で静かになったわ!)
(統率だけなら三千世界のいかなる陣営より勝る自信があります)
ニッコリ笑顔で仲間との絆を誇るアーチャー。なお実態は同じアイドル推しの連帯感というかもう少し生暖かい感じの何かである。
ともあれオルガマリーが一席ぶつ準備は整った。
動揺しっぱなしの内心を上手く押し隠し、ばれないようにゆっくりと深呼吸。辛うじて冷静さを保てているあたりオルガマリーも成長していた。とはいえ痛いほどに高鳴っている鼓動までは抑えられていなかったが。
(オルガは可愛いなぁ)
もちろんアーチャーにはバレバレであり、似たような女神を長年崇めてきた冥府のガルラ霊達もなんとなくその内心を悟ってほっこりしていた。
「歓迎、ありがとう。私はオルガマリー・アニムスフィア。あなた達の副王のパートナーです」
マスターではなくパートナーと呼んだのは仮にも副王の地位にあるアーチャーを下げるような物言いは慎むべしと考えたのと、彼女としてもアーチャーは主従と言うよりもっと特別な何かだったからだ。
だがその瞬間、ガルラ霊達が
「私はエレシュキガル神に招かれ、冥府に参上しました。まずは彼女に謁見を願わねばなりません――」
その反応に内心首を傾げつつも見かけだけは胸を張って堂々と言葉を続ける。
「その後、時間があればゆっくり交流しましょう。私もアーチャーの
集ったガルラ霊一騎一騎に向けて語り掛けるつもりで言葉を紡ぐ。
正直言ってシュプレヒコールされたのはひいたし、ジッと見つめられた時はビビったし、なんだったら今も苦手意識がちょっとあるが。
それでもオルガマリーは《冥界の物語》の愛読者であり、そこに登場するどこかユーモラスで、ハチャメチャで、人情深いガルラ霊達に親しみを持っていた。
何時か憧れた物語の登場人物達に出会いを喜ばれ、嬉しくないわけがなかったのだ。