【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ヤバいくらい可愛いので本編にも登場させてみました。
冥界の王宮とその周囲を囲う首都、冥祭都市クルヌギア。
何もない平野を宮に、空を天蓋に見立て虚ろの玉座と自嘲したのも昔。今はガルラ霊達の働きによってウルクにも劣らぬ城塞都市として静かな繁栄を享受していた。
招かれた王宮の一角、巨大な塔の屋上にオルガマリー達は通され、もてなしを受けていた。巨塔の屋上は下階の天井部分を床にしたルーフバルコニーのような作りになっており、見た目以上に広々としている。
「凄い人出なのに騒がしくない……ウルクとは全然違うわ」
「エレシュキガル様は静謐と安寧こそ尊ばれるお方故。結局のところ冥府は”次”へ向かう繋ぎの地でしかなく、地上に勝る繁栄などかえってよくないのですよ」
巨塔からは眼下のクルヌギアがよく見渡せた。
静かな活気と言うべきか。真っ黒な人影の姿をした住人達が都市の中をゆっくりと、だが盛んに行きかっている。争いはなく、整然と、だが笑顔に溢れているのが遠目からでもわかる。
ウルクの方が活気盛んだがトラブルも多い。逆に冥界は秩序だって運営され、安寧を享受しているように見えた。どちらが良い悪いではなく、都市の方向性が違う故か。
「そういうものなのね。でも都市そのものはウルクに似ているような……」
「それは当然よ。なにせガルラ霊どもに都市設計を仕込んだのは我だからな」
そう、クルヌギアはウルクに範を求め設計された都市計画に沿って作り上げられた。
偉そうに腕を組んでドヤ顔のギルガメッシュ王だが実際偉いので仕方がない。懇切丁寧なやり方ではなかったが、ギルガメッシュ王がいなければ今日のクルヌギアがなかったことは事実なのだから。
「そして一から作り上げたのは私の眷属。恩があるのは百歩譲って認めてもいいけど、自分の手柄みたいにゆーなこの金ぴか」
「エレシュキガルか。遅かったな」
「仮にも女王だもの。客人に会うための準備にも時間がいるのよ? 女心を知らない奴ね」
ドヤ顔のギルガメッシュ王をチクチクと言葉で刺しながらエレシュキガルが颯爽とした足取りで登場する。
「おおっ」
アーチャーが感嘆の声を上げる。着飾った妻の美しさに見惚れたのだ。その声にフフンと胸の内だけでドヤるエレシュキガルであった。
赤を基調にした肩だしのショートドレス。肩にふわりと揺れるショールをかけ、黒のタイツが美脚を引き立てている。
ここが社交界なら国中の男を虜にする華と讃えられても違和感のないエレシュキガルの艶姿だった。
「流石はエレシュキガル様! まさに冥界に咲く華! 今日は一段とお美しい!」
「気合いを入れすぎだ馬鹿者。座の本体から余計な知識まで受け取りおって」
テンション高めでウキウキのアーチャー。対照的に冷めた目でツッコミを入れるギルガメッシュ王。
二人の両極端な反応に一瞬だが見惚れていたオルガマリーが我に帰る。着飾った女神の美貌、女のオルガマリーですら見惚れるほどの魅力があった。
「直接顔を合わせるのは初めてね、オルガマリー。今日はよろしくね?」
「女神、エレシュキガル……」
「この場はエレシュキガルでいいわ。身内しかいないのに肩肘張ってもね」
冥界の女神、地の女主人。そしてキガル・メスラムタエアの妻。
対するはカルデアの長でありアーチャーのマスター、オルガマリー・アニムスフィア。
一人の”男”を挟んで複雑な関係である二人の”女”が顔を合わせた。
「それよりお茶に手は付けないの? 一応言っておくけど毒なんて入れてないし心配しなくていいわよ」
ガルラ霊によりテーブルの上に薬草茶らしき飲み物が饗されていたが、オルガマリーは口にしていなかった。
毒以外にもヨモツヘグイ、冥界の食べ物を口にした者は冥界の住人になるというルールは世界中で散見される。まっとうな感覚の魔術師ならば警戒して然るべき事柄だったが、
「あ、いえ。そういう訳では。頂きます」
と、促されれば流れのままカップを取り、口を付ける。薬草茶を飲み込む時にちょっとだけ顔をしかめたのはご愛嬌だろう。
なんのことはない、単にオルガマリーが薬草茶の匂いを苦手にしているだけだった。
「あの女、警戒心が薄すぎんか? あれでよくこれまでの特異点を潜り抜けられたな」
「基本繊細な割にうっかりなのです。可愛らしいでしょう?」
「……前から思っていたのだが、貴様意外と女の趣味が悪いな?」
「そうですか? 自分ではそう思いませんが」
「筋金入りと来たか。よい、勝手にせよ。我は知らん」
こそこそと内緒話に励む男性陣を他所にエレシュキガルもまた薬草茶を一口。彼女はその独特の香りを好むのか美味しそうに器を傾けている。
和やかな空気が流れたのを見計らい、絶妙なタイミングでギルガメッシュ王が席を立つ。アーチャーの肩に手を置きながら。
「さて。では我とこやつは席を外すぞ。後は貴様らで好きなだけ語り合うがいい」
「? いえ、私はここに残りますが――」
「いいから来いド阿呆。久しぶりに我が付き人としてこき使ってくれるわ」
女主人”達”が同席する空間から離れる訳にはいかないと生真面目に返すアーチャーだったが、額に青筋を浮かせたギルガメッシュ王によって問答無用でグイグイと引っ張られていく。
「行くぞ、伴をせよ! でなければ宝具針千本の刑と心得よ」
「あ、王よ!? ……仕方がない。申し訳ありません、しばし席を外します」
頭を下げるアーチャーへ快く許可を与える
「大丈夫よ。こっちには気を遣わないで」
「仕方ないのだわ。あの金ぴかを野放しにする方が危険だしね」
間。
『…………』
奇妙なわだかまりが潜む、ひと呼吸分の沈黙が流れた。
「それではお二方、私はここで」
「……………………ハァ。行くぞ、馬鹿者」
奇妙な空気に頓着せず未練たらたらな表情のアーチャー。控えめに言って目が曇っていた。
その顔を見て
そしてその背が見えなくなってからしばらく経ち、
「それじゃあ、
そう言ってニッコリと笑い、エレシュキガルは談笑へ誘う。
「……はい。よろしく、お願いします」
オルガマリーも固い笑みを浮かべつつもその誘いに応じた。