【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 時は戻りバビロニア決戦。

 両軍が睨み合う一触即発。開戦の火蓋が切られるキッカケを今か今かと伺う緊張感。切れかかる蜘蛛の糸を見守るような張り詰めた空気を――、

 

「さて、僕もいい加減働かなくてはね」

 

 キングゥがあっさりと切り捨て、開戦の狼煙を上げた。

 黄金の鎖を伴に、空を翔ける。

 魔獣軍の先陣を切り、バビロニア城壁向かって時速五〇〇㎞でカッ飛んでいくキングゥ。凄まじい飛翔速度、瞬きの間に城壁へと迫る躯体そのものを弾丸として迫る。

 そのままバビロニア城壁を根底から破壊せんとする黄金の鎖だが、

 

「あらあらあら? 私がみすみす見逃すとか思っちゃいました?」

「噂は本当だったか。貴女程の女神がまさか人類に付くとはね」

 

 闘争の女神ケツァルコアトルが迎え打つ! 古き中南米の主神、人類を愛してやまぬ故にいじり甲斐があると評する神性である。

 キングゥが振るう光の刃とマカナ――黒曜石の刃を埋め込んだ木剣がぶつかり合う。繰り出される斬撃の嵐。瞬きの間に数十合、火花が散る程の勢い。両者とも流石の力量だった。

 

「藤丸君と話し合(ルチャ)った結果、絆されちゃいましタ! あれだけ燃える闘魂をぶつけられたら仕方ないですネ!」

「たかだか一介の人間に? 裏切者と呼んでもいいかな?」

「仕方ないじゃない? だって私、女神なんですもの! 人を愛し、人に愛されるのが大好き! こうしてぶつかり合うのも、ね!」

 

 激突、轟音。

 南米の主神が両手の大上段から振るうマカナが大地から生み出された黄金の盾とぶつかり合う。城壁を揺らす規模の激震が戦場を駆け抜け、キングゥの顔が苦悶に歪んだ。

 

「ッッッ! 馬鹿力め!」

「フフ、この特異点では女神としての霊基をある程度保ったまま現界できましたからネ! 都市一つをぶん投げることだって余裕デース!!」

 

 力比べを嫌ったか、音速に迫る高速機動戦闘へステージが移る。遠方の城壁から見守るウルク兵すら姿を捉えるのが困難な程速く、激しいぶつかり合いが続く。その最中でも問題なく会話が続くのは流石と言えた。

 

「そう、私は人間を愛している。だからあなたのことも嫌いじゃないわ、キングゥ。()()を見る時のあなたの瞳は、とても人間らしいから」

「……見透かしたようなことを言う。実に不快だね」

 

 慈母の如き微笑で己を見る女神へ向けてスッと眦を細めるキングゥ。明らかに纏う空気が冷え込み、全身から滾る魔力の奔流がより一層勢いを増した。

 黄金に輝く武器が無数、大地から生み出され、その矛先をケツァルコアトルへ向ける。

 

「あらら、怒らせちゃったかしら?」

「仮にも女神。これ以上手加減は抜きだ――全力駆動(フルスロットル)でいこうか」

 

 困ったような笑みを浮かべる女神を冷たく無視し全力駆動、そして全砲門射出へ至る。

 輝くような黄金の雨が戦場へ降り注ぐ。

 偽りの《天の鎖》、そして南米の主神がぶつかり合う激闘はいまだ続く。

 

 ◆

 

 女神、(ソラ)より来たる。

 大戦争の気配を嗅ぎ付けた輝ける金星の女神がマアンナを駆って天を飛翔する。彼女の職掌には戦争と混乱もまた含まれる。揉め事の気配を嗅ぎ漏らすことはまずない。

 

「見つけたわよ、キガル・メスラムタエア――!!」

「ここで来られるか。ならば手加減は無用!!」

「当然! 手加減なんて舐めた真似をしたらそれこそギタンギタンにしてやるわ!」

 

 なにより目立ちたがり屋で意趣返しの大好きな彼女がこの絶好の機会を逃すはずがないのだ。

 城壁に立つアーチャーへ向けて挨拶代わりの魔力砲が雨の如く降り注ぎ、黒き炎の結界が女神の瞋恚を尽く防いだ。

 

「ここ数日、張ってた甲斐があったわ。この私にそんな鈍くさい真似をさせた無礼、思う存分痛めつけることで憂さを晴らさせてもらうわよ!」

「ご勘弁ください。いえ、本当に」

 

 ニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべるイシュタル。流石はその横暴さを神話に刻まれた女神。理不尽すぎる暴言の数々が口を突いて出まくっていた。

 アーチャーが肩を落としてため息を吐いたのもむべなるかなだ。

 

「……御身が三女神同盟に組した理由はエレシュキガル様ですか?」

 

 なんとか気を取り直してイシュタルへ問う。するとイシュタルは後ろめたいことなど何もないと言わんばかりに腕を組み、傲然と胸を張った。

 

「当ったり前じゃない! あんの馬鹿姉、後先考えずにウルクへ肩入れしまくるなんて何を考えてるの!? あいつが禁を破って勝手に落魄(おちぶ)れようがどうでもいいけど……いいけど! 私を巻き込むなぁ――!!」

「懐かしや……変わっていませんな、イシュタル様」

 

 神代ぶり二度目の懐かしい怒声であった。相変わらずのツンデレ節に懐かしさで思わずホロリと涙が流れるアーチャーである。

 

「……ですがだからといって積極的に三女神同盟に与するのは本当にどうかと。シドゥリ殿も嘆かれておりましたよ」

 

 が、それはそれとしてクレームは入れる。

 この戦乱が始まってからイシュタルへの信仰はガタ落ちだ。彼女を崇める祭司長の立場にあるシドゥリも肩身が狭そうにしている事情は是非伝えておきたいアーチャーであった。

 

「うっさい! 私が()()したいと思ったから()()するの! それを妨げるのは神だろうと許しておくものですか! ……まあ、シドゥリにはほんのちょっと悪いことをしたと思ってるけど」

 

 傲然と我欲を貫く宣言は実にイシュタルらしい。なお最後の最後でそっぽを向いてバツが悪そうに呟くあたり更にイシュタルらしかった。

 いつも通りのイシュタル節にこれならば説得の目もあるかと口を開く。

 

「一応聞きます。人類(こちら)側へ付いては頂けませぬか? 御身がお味方となればウルクの民の士気は天を衝きましょう。元々今の立ち位置は不本意なもののはず」

「ハ? なにそれ不愉快。私が言葉一つで易々と立ち位置を変えるとでも?」

 

 言葉通り不快そうに眉を顰めるイシュタル。相変わらずプライドが天元突破していた。

 が、それも続く言葉に雲散霧消する。

 

「加えてこちらにはギルガメッシュ王より預りし財宝蔵の鍵をお渡しする準備があるのですが」

 

 いっそ清々しいくらいに露骨な買収であった。が、それを聞いたイシュタルの目の色が変わる。

 

「え? なにそれ聞いてない。いくら? 非課税よね? 私が宝石魔術に使っても有り余るくらいあったりしない――ってダメよダメ! 誘惑に乗るな、頑張れイシュタル(わたし)!!」

 

 宝石が大好きなのに宝石に縁がないイシュタル。これまでは信者に貢がせていたのだが、魔獣戦線以降そのアテもなくなり深刻なキラキラ成分欠乏症にかかっていたのである。

 それにしてもうっかり財宝の誘惑に乗りかけるあたりイシュタルは本当にイシュタルだなぁと妙な感心すら抱くアーチャーであった。

 

「こ、この私を甘言で弄しようなどと不敬の極みよ! 罰として全額没収してやるわ!!」

 

 挙句の果てにアーチャーへ指を突きつけ、とんでもないことを言い出した。これには流石のアーチャーも目を見開き、彼女を諫めるために口を開く。

 

「……イシュタル様。物言いが最早賊そのもの。どうか御身の品位を貶めるような真似は謹んで頂きたい。御身の義兄からの切なる願いです」

「うるさ――い、私相手に義兄(アニキ)面するな! いま降参するなら金額は応相談にしてあげる!」

 

 ギラギラと物欲に瞳を輝かせ、マアンナに”矢”をつがえるイシュタル。交渉前よりヒートアップした様子に失敗したかと反省しつつ、アーチャーもまた攻勢端末を展開した。

 天の女主人と冥府の太陽がシュメルの大地でいま互いの弓を比べ合う。

 

 ◆

 

 天の鎖と南米の主神、そして天の女主人と冥府の太陽もまた戦場を空中へ移した。

 しかし二対の戦いが如何に華々しくともやはり鍵を握るのは主力同士のぶつかり合い。

 神話の如き絢爛豪華な光景の下、人々が生きる地上でいまこのバビロニア決戦の主戦場の幕が開かれようとしていた。

 

「各々方――ここが人類の最前線! 今こそ我ら英霊の意地を見せる時! 奮闘を、期待します!!」

「貪れ、喰らえ、玩弄せよ。愛しき仔らよ、我が憎しみを人類へ叩きつけよ!」

 

 炎門の守護者レオニダス王を主将とし、数多のサーヴァントが控える軍勢が鬨の声を上げる。

 同時にゴルゴーン率いる魔獣軍が次々と不気味な咆哮を上げた。

 いま、バビロニア決戦が幕を開く。

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