【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 イシュタルが生み出し、冥界が育て上げ、ネルガル神を相手に猛威を振るったグガランナマークⅡ。

 全ての片が付いた後、肉体の九分九厘が焼き尽くされる負傷を長い時間と莫大な魔力をかけて再生された。そして冥界へその身柄を迎え(強奪)に来たイシュタルを鼻息で吹き飛ばした彼は以来冥府の片隅でのんびりと過ごしていた。

 

「■■■……」

 

 天の牡牛の後継者に恥じぬ力を持ちながら、マークⅡ自身はのんびり屋で争いを好まない個体だったのである。今では意識を超小型の分体に移して冥界を散策するのが趣味という大変平和的な性格なのだ。

 

「■■■……」

 

 だが冥府の一大事となれば話は別。彼もまた冥府の一員、一朝事あらば昔取った杵柄で容赦なくその身に秘めた天災に等しい力を振るうメソポタミア最強の随獣なのだから。

 その小さな黒い躯体が上げた鳴き声に呼応するかのように重々しい咆哮が大地の下から響く。

 そして、

 

「■■■■■■■■■■■■――――――――!!」

 

 大山脈を打ち崩すようなとんでもない大震動と轟音とともに大地が割れ砕かれる。粉砕された大地の割れ目から冥府の天蓋にも届かんとする途轍もない巨体がその姿を現した!

 吹き荒れる粉塵混じりの豪風。轟く咆哮はメソポタミア全土の生命の度肝を抜き、大地を揺らす震動は遠いバビロニア城壁にも届くほど。

 天変地異にも等しきその暴威。実際彼が()()()()()()()で地上で地震が起きるのだから被害と面倒を嫌い自己封印するのもむべなるかなだ。

 

「■■■……!」

 

 天の牡牛は、猛る。

 こうして渾身を振るうのは冥陽開闢神話以来か。自らの強大すぎる力を好まぬマークⅡだが、同胞たるガルラ霊の要請ならば否はない。

 

「やれ、マークⅡ!」

「■■■……!」

 

 指示に応えてまず一蹴り、指定された位置を踏み砕く。

 冥府の天蓋に届く巨体から繰り出される()()()が地震となって四方を走り抜け、やがて()()()()という音が大きくなっていく。それは地が崩れる音。

 岩、落石だ。

 人間を優に超える大きさの岩が次から次へと降り注ぐ。そして更にその勢いは増していく! 

 事故? 否、これは人為的な落盤だった。

 ゴルゴーンの塒たる鮮血神殿で全長数十メートル級のマルドゥークの斧を地下深くの冥界から叩き込むためには、まずそれを通すための巨大な穴を開ける必要があった。

 

「共振と増幅の性質に特化した鉄杭型限定礼装百二十八本だ! 存分に揺らせ、マークⅡ!!」

 

 ガルラ霊達が人海戦術を駆使して円を描くように幾つも幾つも大地へ打ち込んだ杭を起点にマークⅡが大地を効率よく、ピンポイントで破壊していく。

 地上から冥府へ直通する長大な鉄杭型限定礼装、その総数なんと百二十八本。

 無論用意は簡単ではないが、大地に眠る金属と宝石を司る冥府の女神エレシュキガルに仕えるガルラ霊はその扱いに長けた一流の職人でもある。職人ガルラ霊を千騎程動員して不眠不休で働かせれば何ほどのこともない。

 

「――(ひら)けた!」

 

 否、彼らの積み重ねこそが道を切り拓いたのだ。

 ひと際巨大な、山と見まごうほどに巨大な落盤を以て作戦の第一段階は完了した。夜の冥府を拓かれた坑道から差し込んだ眩い光が照らしだす!

 

「晴天の青か、幸先がいい」

 

 拓かれた天蓋の向こう側を仰ぎ、その美しい青にため息を吐くガルラ霊。

 激烈な規模の地形破壊。修復しなければ後々の歴史に必ず刻まれるだろう大破壊の後始末を、今だけは見なかったことにして彼は雄大な自然への畏敬を表した。

 

「では、次だ」

 

 冥府から鮮血神殿への道は曲がりなりにも拓かれた。ならば後は届けるのみ。

 そしてその役割を果たすのは動力、グガランナマークⅡ。そしてそれを最大限に生かすのはマークⅡに比肩するほど巨大な冥界式投石器(カタパルト)だ。

 

「もう一度頼むぞ、マークⅡ!」

「■■■……!」

 

 冥界式投石器(カタパルト)。その原理は地上のものとなんら変わりはない。

 単純なてこの原理に精密な投擲精度を実現する調整機構を組み合わせ、さらにグガランナマークⅡの渾身を動力に変換する魔術礼装とそれに耐えうる超級の頑強性を持つ()()の代物だ。

 もちろん西暦に生きる魔術師たちがその一片だけでも手に取れば泡を吹いて卒倒するような狂気の作り込みであることは言うまでもない。

 

「■■■■■■■■■■■■――――――――!!」

 

 落盤を起こすためのささやかな足踏みではない。都市一つ分の重量を投擲するために必要な、全力に近い踏みつけ(スタンピング)

 一蹴りで地震を起こす程の莫大なる膂力をガルラ霊謹製の魔術礼装が効率よくマルドゥークの斧を投擲する動力へ変換、てこの一端へと伝わり――長大な投石器が勢いよく振りぬかれる!

 

『仰角よし、投擲速度も想定内!』

『投擲の軌道も理想値から誤差コンマ一%以下!』

『ぶっつけ本番でしたが、想定以上の成功です!』

 

 リアルタイムで思考を同調する荒業を以て投石器に繋がる無数の魔術礼装で精密な調整をこなすガルラ霊達。

 どんなに事前に準備を重ねても結局は伸るか反るかの一発勝負。だがなんとか勝てたようだと隊長格のガルラ霊はほっと胸を撫でおろす。

 ()()()()()()終わりだと。

 

「スマンが最後は任せたぞ、白亜の時代の翼竜。遠き地の女神の眷属、()()()()()()()()()よ!!」

KYREIEEEE(キリィイイイイィ)―――!!』

 

 ガルラ霊の言葉に応えたのか、彼方から複数の翼竜が甲高い咆哮で響く。晴天覗く大穴を見上げれば巨大な影が幾つも空を舞う姿が視界に移る。

 それは幻獣、あるいは神獣に等しき霊格を持つ幻想種。竜種の一角たるケツァルコアトルスだった。

 女神ケツァルコアトルがマルドゥークの斧を輸送するために遣わした眷属を、彼女の許可を得てこの投擲にも協力してもらったのだ。

 遠方十数キロからの大投擲。しかもテストなしのぶっつけ本番だ。

 狂気と執念でこの短期間に計算上誤差一%にまで収める精度に作り上げたガルラ霊達だったがもちろん完璧ではない。というか誤差一%では普通に数百メートルはズレる可能性があるのだから性能不足にも程がある。

 

『……まあ、霊格が一割ほど落ちるかもしれませんが仕方アリマセーン』

 

 そこで最後の最後、自らの力不足を受け入れたガルラ霊達は投擲位置の微修正をケツァルコアトルスに頼ることとしたのだ。

 流石にいつもよりテンション低めであったが、勝利のためならばと受け入れたケツァルコアトル。

 ガルラ霊は気前のいい女神へ流石は中南米の主神よと持て囃しながら数多の貢物を送ったとか。彼らはエレシュキガルに忠実だが、一方でいいものはいいのだと雑に受け入れる柔軟性も持ち合わせているのだ。

 

「ま、最後に手を借りたのはちと恰好が付かんがこれぞ”善し”というものよ」

 

 そう一人ごちるガルラ霊。

 広がり、繋がり、支えあう。それこそが冥府が”善し”としたあり方だ。最後の最後で頼りにするのが異邦の女神というのはやや忸怩たるものがあるが、この任務を成功させることに比べれば全ては些事だった。

 

「さて、副王殿。地上の英霊、人類たちよ――()()()()()()?」

 

 そう言ってニヤリと笑うガルラ霊。懐かしく、魂の滾る思い出を振り返ったが故の不敵な笑みだ。

 後は任せた。そう言ってネルガル神を相手に玉砕して時間を稼いだ古強者である彼は、冥界の勝利によって報われた。ならば今回もそうなるのだと確信していたからこその笑みだった。

 

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