【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 敵は強大、まさに絶望の具現化だった。今までの特異点で乗り越えた障害の数々が遊びに思える程に圧倒的。比喩抜きに世界を滅ぼせる原始世界の神が相手だ。

 

『…………』

 

 流石のカルデアの者達もあまりの強大さに顔が強張り、緊張の孕む沈黙が下りた。

 そこにパンと甲高い柏手の音が鳴った。自然、柏手を打ったアーチャーの元へ視線が集まる。

 

「暗い顔をしてばかりもいられません。幸い、冥府から良い知らせが届きました。多少は気を軽くして戦えるかと」

「そういえばさっきガルラ霊達と話していたわね。アーチャー、良い知らせって?」

 

 緊張に張り詰めた空気を解きほぐすように明るい話題を上げるアーチャー。たとえ気休めでもここまで暗いニュースばかりであったから一同も思わずホッと一息をついた。

 

「現状の敵戦力から市民の防衛は不可能と判断し、生き残った者達を順次冥府へ避難させる準備を進めています。ご安心を。これは天地冥界の均衡を崩す一大事。エレシュキガル様に大事はありません」

「うむ、迅速な初動大儀である。褒めて遣わす」

『……裏はないって分かってるのにアンタに言われると何故か腹が立つわね』

「理不尽か貴様!」

 

 いつものウルク漫才を挟みつつ安全な避難場所の準備が整いつつあるという吉報に藤丸とマシュが顔を綻ばせる。が、すぐにはてなと首を傾げた。

 

「避難、ですか? 生存者を冥府へ? それは……大丈夫なのですか?」

「疑問は尤も。まず生者より魂を抜き出し、槍檻に収め保存します。肉体も冥府の一角に安置すれば数日は保つでしょう。その間に全てを片付け、後は魂と肉体を解放すれば」

『魂を抜いた肉体は生き返るというワケ。本当ならこんな裏技あまり良くないんだけどね。洒落抜きに世界滅亡の危機だから仕方がないのだわ』

 

 言葉だけ捉えると大変尤もなマシュの問いかけに深々と頷いてアーチャーが答える。肩をすくめたエレシュキガルが言う通りこれは世界滅亡の時でもなければ本来あり得ない裏技なのだ。

 

「尤も全てはこの異変が片付けば、だ。みな心せよ。ここから先一人たりとも無駄にしていい戦力はない。死ぬのならば己の霊基の一片に至るまで振り絞ってから死ね」

「……もうちょっと素直に激励できないの、アンタ。相変わらずの王様節なんだから」

「いえ、イシュタル様。ここはこう言うべきかと――これでこそ、ギルガメッシュ王であると」

 

 ある意味では極めて非情(シビア)な発言にイシュタルが呆れかえる。世界滅亡の時にも変わらない王様っぷりだったが、だからこそ頼もしいとシドゥリが密かに楽し気に応じる。奉じる女神がウルクに帰還したことも彼女の機嫌がいい原因だろう。

 

「ええい、気楽な女どもよ。だが許す! 我は寛大だからな。それよりもドクター。当面の敵であるラフムについて解析結果を言え。こちらも捕らえたが、すぐ泥となって消え去った。情報はそちらの方が多かろう」

『了解した。分かった範囲だけだがまず伝えよう』

 

 そうしてロマニから改めて伝えられた情報は覚悟を決めた面々すら青ざめるほど絶望的だった。

 総数は最低一億、現在も増加中であること。

 高性能な肉体を持ち、一体一体が理論上ウガルを上回ること。

 その肉体は神代の土と砂……万態の泥から生まれたいわばエルキドゥの量産型であること。

 

「万態の泥……確か冥界もその技術を持っているはずでは?」

「ええ。ですがあくまでエルキドゥの躯体を解析・再現した劣化コピーに過ぎません。魂の形を再現する機能を重視し、出力や戦闘にはまるで割り振っていませんからね」

 

 シドゥリが問えばアーチャーが頷く。

 元々が冥界に落ちた魂魄が肉体を得るための量産型、いわば民生品だ。過度な戦闘能力などあってもかえって困るというもの。

 

「それはいい。貴様らが知る万態の泥に弱点はないか?」

「……残念ながら。万態の泥はこれまで伝えたような機能を持つ材料に過ぎません。泥そのものに弱点や欠陥はない。でなければ神々もエルキドゥを最高傑作とは呼ばなかったでしょう」

「だろうよ! ちぃ、分かってはいたがタチが悪い」

 

 ひと呼吸ほど考え込むが、すぐに首を振る。

 親友の完成度の高さを誇りつつもその量産型が敵に回った時の厄介さに悪態を吐く王。相変わらず複雑なメンタリティだった。

 

「そもそもティアマト神を討とうにも情報がありません。恐らく黒化した海のどこかにいるのでしょうが……」

『現状では手の打ちようがない。捜索も難しい以上現実的にはウルクの防衛と生き残った人間の保護が次善策かな』

「腹立たしいが妥当だな。善し――指示を与える。聞け」

 

 王が号令を下せばピンと空気が張り詰め、視線が向けられる。全員が心服しているはずもないが、ごく自然に周囲を従わせる威は流石ギルガメッシュ王であった。

 

「戦力を分ける。イシュタル、マシュ、ジャガーマンはウルクの防衛に付け。キガル・メスラムタエアとケツァルコアトルはエリドゥへ向かい民を誘導せよ。後続で兵も送る。避難民をそやつらに引き渡した後はすぐここへ戻れ」

 

 空から地を狙い撃ちにできるイシュタル、守りに優れたマシュ、都市という密林を最大限生かせる身体能力を持つジャガーをウルクの防衛に。

 機動力と射程に優れたアーチャーとライダーを民の避難と遅滞戦闘に当たらせる。

 さらにカルデアのマスターを二手に分け、主導権を取らせることで癖の強い神霊達を制御する狙いもある。相変わらずの名采配であった。

 

『ギルガメッシュ王。我ら北壁は? 現状では我らが遊兵となってしまっている。効率的とは言えません』

「いや、北壁は維持し一部の避難民を送る。現状あそこが冥府の次に堅牢だからな。冥府に全てを集中すれば万が一が起きた時に取り返しがつかん」

『あら、心外ね。ラフムとやらがたとえ一億来ようが纏めて薙ぎ払ってあげるわよ』

「ラフムだけならな。ティアマト神の侵攻を受け、さらに民草を守り抜く。至難の業ぞ」

 

 偽りを許さないとギルガメッシュ王が見つめればエレシュキガルもため息を吐き、やむを得ないと頷いた。

 

『……ま、確かにね。いいわ、夜が更ければガルラ霊達も動けるしそちらに幾らか回しましょう』

『それは心強い。頼りにしていますよ、女神エレシュキガル』

『ええ、こちらこそよろしくね。レオニダス王』

 

 かくして指令は下され、全員が動き出す。

 オルガマリーもまたアーチャーとともにケツァルコアトルの翼竜に乗ってエリドゥへ飛んだ。そこで彼女を待ち受けるのは果たして――。

 

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