【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
ギルガメッシュ王が語った地獄。それは何の比喩もなく、唐突にオルガマリーの目の前に現れた。
「なん、て……」
「
ここはエリドゥ。
それはある意味でゴルゴーンの魔獣に食い荒らされる以上に酸鼻を極める光景だった。数に劣るオルガマリー達は身を隠しながら都市へ潜り込み、その光景を目の当たりにしたのだ。
「捕らえた人間同士を、殺し合わせてる……?」
「そして最後に残った人間は自らの手で殺す」
「……それもできるだけ苦痛が長引くように。なんなの? 一体あれに何の意味があるって言うの!?」
「オルガ、お静かに。恐らくアレに理由はあれど意味はないのでしょう」
声を潜めながら目の前の光景を語る主従。苦みを帯びたアーチャーの言葉にオルガマリーが信じられないとその顔を見た。
「理由? そんなの」
「
キガル・メスラムタエアは冥界の副王。死後の平安だけではなく、時に刑罰も司った過去がある。そして死者にはあらゆる人間がいた、善人も悪人も。平凡も、極めつけも。
こう言ってはなんだが目の前の光景も戦争期の古代世界なら洋の東西を問わずそれなりに見かけることがある。
「が、その中でもアレは極めつけです。奴らが抱く悪意には
だがそれでもラフムの異質さは群を抜いていた。アーチャーの顔が強張り、吐き捨てるほどに。
「過程?」
「私が見た凶行の多くはそこへ至る過程がありました。戦争がもたらす狂気が人を蛮行へと走らせるように。家族を殺された男が仇へ報いを与えるように。だが奴らはまだそんな経験はないはずだ」
ただ周囲に撒き散らされる方向性のない悪意。それがラフムの本質と言うべきだろう。その悪意は人間に似ているようで決定的に違っていた。
管制室のロマニも客観的なデータと目の前の光景を組み合わせ、合理的な推測を立てようと思考を回すが、その努力は実を結ばない。
『……理解できない。根本的に非合理的だ。ラフムは生命として完結している。食べることも戦うことも不要なんだ。なのにこんな』
絶句し、首を振る。ラフムの所業は人類側の理解を超えていた。
ラフム。節足動物とヒトデと人間の口を掛け合わせたような見た目の悍ましき獣達は、外見以上にその所業こそが醜悪だった。
ギリ、と隣から歯ぎしりの音が聞こえてくる。見れば悪党が裸足で逃げ出す凶相を浮かべたケツァルコアトルがその唇の端を嚙み切っていた。
「あ、ダメです。これダメ。……ゴメンなさい、オルガマリー。私、キレてしまいそうデース。ジャガーと蜘蛛以上に叩き潰してやりたいと思ったのは久々だわ」
「……いえ、気持ちは分かります。私もできるなら今すぐあそこへ飛び出したい」
普段から陽気に、賑々しく人類愛を謡うケツァルコアトルが静かにキレていた。
普段のオルガマリーなら怯えて距離を取っていただろうが、今はむしろ同調している。はやる二人をアーチャーが控えめな声音でたしなめた。
「お二人ともどうかご自重を。数が少ない我らは要所を見極め動かねばなりません」
「ええ。分かってる、分かってるわ……」
「……分かってマース。でも、先陣は譲りませんよ?」
「八つ当たりの的には事欠かないのだから喜んでお譲りしますとも。ともに手を取り合い――奴らを討ち、民を助けましょう」
敬意を払い、同時にラフムへの怒りと自負を込めて応じるメソポタミアの神性に自称頼れるお姉さんが
「ふふ、あなた
「ケツァルコアトル! 彼は私のサーヴァントです!!」
「うふふ、怒られちゃった。ざーんねん♪」
声を潜めて器用に怒るオルガマリーにケツァルコアトルはペロリと舌を出しておどけた。冗談と分かってはいてもアーチャーが絡むと冷静でいられないオルガマリーなのだった。
その小芝居で気分を切り替えられたオルガを見てアーチャーはケツァルコアトルに目礼。彼女もこっそりと手を振った。
「それじゃ位置に付いたら作戦開始。どちらがラフムを多く狩れるか競争ね」
「……あの、どちらが避難民を多く救出できるかではダメでしょうか」
そこはかとなく血臭が薫るニッコリ笑顔の提案をなんとか穏便な方向へ軌道修正を試みる。基本オルガマリーは血生臭い力比べや競い合いの類が苦手なのだ。
「ああ、そうね。全員救出するつもりだったから思いつかなかったけど、うん、そっちの方がいいわ。えらい、えらい」
「ちょっ、止めてくださいケツァルコアトル」
人類を愛する善神にとってオルガマリーの発言は中々のストライクだったらしい。うりうりと猫可愛がりに頭を撫でるケツァルコアトルはひとしきり愛でて満足すると手を振って所定の位置に
「我々も行きましょう、マスター」
「ええ、分かったわ」
頷き、静かに呼吸を整えながら不意にキングゥの顔を思い浮かべる。
「これが、本当にあなたの望んだ光景なの?」
ポツリと、誰にも聞かれないように密やかに呟く。そんなことはありえないと分かっていたが、言わずにいられなかったのだ。
だが結局はカルデア達が動く前に事態は急展開を迎える。
「なんだ、これは……何をしているんだ、お前たちは!?」
怒り、そして嘆きを込めた叫び声。その声に応えるかのように、天から無数の黄金の鎖が降り注ぐ。
串刺しにされたラフムがゴミを払うようにあっさりと消滅し、その絶大なる性能を見せつける。
現れたのは無論キングゥ。ラフム達のプロトタイプと言うべきはずの存在だった。