【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 時は少し遡る。

 たった一人の新人類、キングゥ。天を漂い、高みからメソポタミア世界を観察する彼はいま困惑のただなかにいた。

 

(目覚めたはずの母が復活しない……どういうことだ? それにラフム達が無軌道すぎる。あんなものが僕の兄弟だと?)

 

 キングゥが張り巡らせた策謀は成就した、はずだった。だが求めた結果に繋がらず、キングゥは母を求め各地の様子を探っていたが目に入るのは忌々しい光景ばかり。

 ラフム。母が生み出した獣達ははっきり言ってゴルゴーンの魔獣以下としか思えなかった。見た目ではなく、その所業こそが悍ましい。

 

(アレではまるで……人間のようだ。それもとびきり救いようがない塵屑以下の)

 

 特に理由もなく人間を捕らえ、バラバラにし、殺す。苦痛と悲鳴を見てカタカタと身体を揺らし、気色の悪い鳴き声を上げる様は心から楽しんでいるかのよう。

 人間の悪性を煮詰めたかのような振る舞いはキングゥが蔑む人間以下。否、あれなら人間の方がずっと救いがある。

 ラフムを同類と認めるのはキングゥの矜持が許せなかった。

 

「母さん。あなたは一体何を考えているんだ?」

 

 一人で考えても得られない答えを求め、目を閉じて母の声に耳を傾ける。数十秒、沈黙したままだったキングゥはやがてゆっくりと頭を振った。

 

「……声も聞こえない。目を閉じて耳を澄ませればいつも貴女の嘆きが聞こえていたのに」

 

 聞いているだけで胸が締め付けられる、痛々しい泣き声。この嘆きを止めようと、母を助けようと――そうすれば自分が生まれた意味を証明できるのだと、キングゥは知恵と力の限りを尽くしてきた。

 だから本当なら嘆きが聞こえなくなったのはいいことのはずなのだ。だがあの声は自分と母を繋ぐ縁でもあったのだと失って初めて実感する。

 キングゥはいま、孤独だった。

 

「寂しいよ、母さん……■■■■■■」

 

 今天にあるキングゥを見、聞く者は誰もいない。その状況に後押しされ、思わず呟いた言葉にハッと我に返る。その呟きを無かったように首を振り、強く否定する。

 

「違う、僕は何を……! ()()()のことなんか眼中にない! 僕は、母さんが生み出した新たな世界を統べる新人類なんだ!?」

 

 必死に叫ぶそれこそがキングゥのアイデンティティ。

 冥府から盗掘されたエルキドゥの亡骸に宿った新しい生命、それがキングゥ。意識を持った瞬間から記憶も経歴も誇るべき過去もなく、空っぽの心に母ティアマトの望みを叶える機能と『新人類』であるという虚ろなプライドを詰め込んで動く泥人形だ。

 

「…………」

 

 沈黙。

 自分で自分の言葉を塗り潰し、否定しても後に残るのは虚しさだけだった。

 この世界で()()()()()()新人類。その肩書はキングゥが思う以上に彼を追い詰めていたのかもしれない。

 ふと思いつき、ある気配を探る。

 

「……いた」

 

 程なくしてその気配は見つかった。当然だ、キングゥとそれの間には特別な繋がりがあるのだから。

 いまキングゥには何の(しるべ)もない。光に導かれる蝶のように自然とその方向を向いていた。

 程なくしてキングゥはエリドゥへ辿り着き……ラフムの所業を見、激怒した。

 

 ◆

 

 都市エリドゥで行われたひと際醜悪で、無意味な蛮行を目にしたキングゥは激高し、怒りが赴くままに生み出した黄金の鎖でラフムを貫いていた。後悔はない。

 勢いのまま地上に降り立ち、ラフムを糾弾する。

 

「なんだ、これは……何をしているんだ、お前たちは!?」

 

 都市へ攻め込むのも、無残に人間を殺すのもいい。醜悪だが必要な作業だ。だがこの蛮行はキングゥの許容範囲を超えていた。

 

()()に何の意味がある。そこにどんな意図がある。これが母の願いか? 言ってみろ、量産品のガラクタども!」

 

 怒りよりも軽蔑を込めて憤るキングゥ。彼の中ではっきりとラフムの存在は人間以下の唾棄すべき存在となった。

 

「意味がない。何の意味もない、無駄な行為だ。お前達の行為はあまりに愚かしい!! 遺憾だが、母は間違えた。お前達を生み出したのは過ちだった!」

 

 キングゥは糾弾する。ラフムの存在を許さないと憤激する。

 対してラフムは反応しない。カタカタと身体を揺らしながらキリキリと(きし)らせ、意味の分からない鳴き声を上げるばかり。

 

「6j54.xe/おまえうるさい

「t@ohqq@/がらくただ

「t@ohqt@gq/がらくたがきた

 

 無論、キングゥには通じない。死んだ仲間を悼むことも怒る様子すらないラフムに舌打ちする。うすら寒い手応えの無さ、機械が相手でももう少しまともな反応が返ってくるだろう。

 

「チッ、まともに会話もできない欠陥品が。もういい、僕が手ずから一匹残らず解体処分してやる」

 

 シャラン、と硬質で涼やかな音とは裏腹に黄金の鎖がエリドゥのラフムをターゲッティング。殺し尽くす、と殺意のトリガーを引こうとする。

 

「――キ」

「キキ」

「キ、キキキキキキ」

 

 その瞬間、ラフムが一斉に黒板に爪を立てたような、甲高い嫌な音を立て始めた。思わずギョッと目を見開いてラフムを見、気付く――笑っているのだ。

 

「「「キャハ――キャハハ――キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!」」」

 

 ゲラゲラと、ケタケタと、奇怪に身を捩らせながらラフム達は嘲笑う。

 

「なんだ、お前ら……笑っているのか……? 一体何が可笑しい」

「アハァ」

 

 困惑交じりの問いかけに()()()と一斉に笑いと身じろぎを止め、エルキドゥへ向き直るラフム。まるで蜂の群れが外敵に狙いを定める様をもっと機械的に、それでいて生理的嫌悪感を煽るようデザインすればこうなるのかもしれない。

 

「きまってる」

「おまえ が おかしい」

「あわれ な がらくた。かわいそう な きんぐぅ」

 

 そしてまたキャハキャハと甲高く、軋るような笑い声をあげるラフム達。

 

「!? お前達、言葉を――?」

 

 凄まじい速度で成長し、学習するラフムの性能の一端にキングゥはこの時気付いた。一体一体は確かにキングゥから見れば低性能だが、総体としてのスペックを比べれば明らかに上回る。それも現在進行形で進化を続けているのだ。

 

「おまえ はは しらない」

「はは いった」

「はは めいじた」

 

 巨大な口をカタカタと開け閉めしながら片言の言葉を紡ぐラフム。

 

「戯言を、お前らが母さんの何を知っていると――」

 

 彼らが語る母の存在に、言葉とは裏腹にキングゥは動揺を見せた。無理もない、母を知らないのはキングゥも同じ。

 そしてラフムが語る言葉はあまりにキングゥの認識と異なりすぎていた。もしかして、という疑念が僅かな間だが彼の性能を低下させたのだ。

 

「ひと を しれ」

「ひと を まなべ」

 

 ラフムは続ける。

 

「にんげん とは なにか とえ」

「これが 我々の 結論だ」

 

 ()()――この醜悪で悍ましい所業がラフムの出した答えだというのか。キングゥは生まれて初めて()()()()とした嫌悪感に襲われ、一歩分距離を取った。強い弱いではない、まるで寝床に毒蛇が潜り込まれていたような寒気に襲われ、鳥肌が立ったのだ。

 

「にんげんの マネは たのしい」

「たのしい たのしい たのしい」

「にんげんを 殺すのは とても 楽しい」

「お前ら……いや、母さん。あなたは一体――」

 

 人間を真似、学び取った結論があの醜悪な所業の数々ならば――彼らを生み出した母は一体、()()()()()()? そんな疑念がキングゥの胸中に満ち、

 

「そして」

 

 ラフムに付け込まれる隙となった。

 

「おまえは とても ツマラナイ」

 

 ゾブリと柔らかい泥を裂くような湿った音が響く。

 キングゥの胸元から赤く濡れたラフムの触腕が生えていた。ラフムの一体が不意を突き――その胸に格納された聖杯を奪ったのだ。

 

「か……返せ! それは母さんから貰った――」

 

 奪われた大切なものを取り戻すために伸ばした手はあっさりと振り払われる。

 これをキングゥの油断というには酷だろう。アイデンティティがグラグラと揺れた隙をラフムが上手く突いたと言うべきだった。

 

「おまえ もう 要らない」

「要らない おまえは ごみ」

「ごみは ごみばこに」

 

 だから死ねと、もう用済みだと。

 

「「「キャハハハハハハハハハハハハハハハ――――!!」」」

 

 そして高らかに笑うラフムの一体が膝を付くキングゥへ近づき、その鋭い触腕を振り下ろそうとし――、

 

「――ダメ。見ていられない。お願い、アーチャー」

「仕方のない(ヒト)だ……だからこそ、仕え甲斐があるっ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「お前は……お前達が、何故――!?」

「言わないで。自覚はあるから」

 

 キングゥが突然の闖入者に何故と叫び、彼女も自分の行動に頭を抱えていた。

 それくらいこれは愚かな行動なのだ。

 

「でもここであなたを見捨てるのはもっと()()!」

 

 だとしても構わないとオルガマリーは思う。

 これが愚かな過ちだったとしても、行く先にどんな困難が待ち受けていたとしても、これを貫いてきたのがカルデアなのだから。

 

「私の一身上の都合であなたを助けます。」

 

 オルガマリー・アニムスフィア。あるいはこの世でたった一人、キングゥの同類とも言えるかもしれない少女がラフム蠢くエリドゥのど真ん中に降り立った。

 

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