【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 キングゥを助けると決め、飛び出したオルガマリー達だったが、一方でその行動はクレバーだった。

 

「お願い、()()()()()()()()!」

 

 数体のラフムを轟々と焼く漆黒の炎は否応なく目を引く。陽動に向くのだ。

 彼らが注目を集めた隙に――空中に飛び出したケツァルコアトルが聖杯を奪った個体へ強烈な飛び蹴りを食らわせる!

 もんどりうって転がり、聖杯を口から吐き出す。カラカラと軽い音を立てながら転がっていく聖杯――これこそ第七特異点を維持していた元凶!

 

「聖杯とキングゥを確保して撤収! 急いで!」

(オルガ、民は――)

(流石に聖杯より虐殺を優先しないはず。後は彼ら自身が混乱に乗じて逃げるのを期待するしかないわ)

 

 オルガマリーなりに計算を働かせた指示だった。現実問題として聖杯の重要度は何より高いのだから流石に全個体が追ってくるはずだと。

 だが彼女はラフムが持つ底なしの悪意を甘く見ていた。

 

「ギ、ぎゃああ――ッ!? な、なんで俺達を……」

 

 ()()()()

 

「ひっ、やめ、やめ……やめてええええぇ――ッ!?」

 

 ()()()()

 

「た、助けて……助けろよ! 助けに来たんじゃないのか!? この人殺し!!」

 

 ()()()()

 

「なッ……!?」

 

 バラバラに、グチャグチャに。人の尊厳など顧みないほど残酷に。絶句する一行の前であっという間に無残な光景が量産されていく。

 一部のラフムが聖杯や戦闘に頓着せず民達を虐殺し始めたのだ。なんら意味もなく、ただ民と救出に来たカルデアを苦しめるために。これでは捕らえられた民が全滅するのも時間の問題だろう。

 

「ッ!? 数が多い、この――!」

 

 一方聖杯を奪うべく手を伸ばしたケツァルコアトルもラフムの命を顧みない体当たりの連続に阻まれる。

 一撃繰り出すだけで消滅する程魔力を搾り尽くす特攻に流石の女神も手を焼いた。

 エリドゥ近隣に存在するラフム、二〇〇を優に超える。ラフム全体としては微量でもカルデアを圧殺するに十分な戦力なのだ。

 

「ッ!? アーチャー、ケツァルコアトルを援護! できるなら一人でも多く助けて!」

「承知! ですが御身は――」

「なんとかするわ! だから聖杯をお願い!」

「……やむなしか。援護に攻勢端末を付けます。お気を付けて」

 

 アーチャーの心配を振り切り、オルガマリーはキングゥの元へ単身駆けた。何故と問われれば戦力が足りないのだから()()するしかなかったと答えるだろう。

 キングゥの救出が果たして本当に必要なのかは敢えて答えずに。

 

「キャハ 来た おもちゃ 来た」

「おもちゃが むこうから 来た」

「キャハハハッ――グゲッッッ!?!!?」

 

 キングゥからオルガマリーに狙いを変え、襲い掛かった一体のラフムが無造作に()()()()()()()

 

「――邪魔」

 

 冷徹な表情で指先を揃え、構えたオルガマリーが冷ややかに呟く。

 ガンドの連弾(フルバースト)。それも執拗にラフムの口腔を狙う正確無比な。

 ラフムの体表が如何に頑丈でも大口を開けたそこにちょっとした大砲に等しい呪詛(ガンド)を連続で叩き込まれれば流石に無事ではいられない。

 

「グギッ」

「ギャッ」

「ブゲッ」

 

 そのまま流れるように見事なガンド捌きで三連続。あっという間に油断したラフムの一群をぶっ飛ばしたオルガマリーは急いでキングゥへ駆け寄る。

 倒れたラフムは攻勢端末が念入りに焼き尽くし、追撃を断った。

 

「キングゥ、大丈夫!? 悪いけど手荒く行くわよ!」

 

 言うが早いか呆然とした顔で胸をぶち抜かれて地に転がるキングゥを乱暴に引き起こし、肩を貸すオルガマリー。

 そのまま急いで移動しようとするのを顔を歪めたキングゥが振り払った。

 

「やめろ、……やめろ! お前らに情けをかけられるくらいなら死んだ方がマシだ! 僕は、敵だ。敵なんだぞ……」

 

 この時キングゥの胸中に満ちるのは()()()()()()()()()()という絶望。

 ”母”と同じく”力”もまたキングゥのあやふやなアイデンティティを支える要素だった。それが消えた今のキングゥの精神は芯となるパーツが抜け、グラグラと揺れる積み木のようなもの。

 

(ほんと、嫌になるくらいにそっくりね)

 

 何時かの自分を思い出し、内心だけで苦笑を零す。友愛か、同情か、同族嫌悪か。キングゥへ向ける感情はそのどれもが滅茶苦茶に絡まり合って一言では言い表せないけれど、確かなことは一つ――このままにできない。

 

「……あなたに母がいるように、私には父がいたわ。誰もが認める偉大な父、カルデアの初代所長。あの人に認められるため頑張って、頑張って……認めてもらえない内に逝っちゃった」

 

 境遇も、親に抱いた感情もまるで違うのに二人はほんの一部だけ鏡合わせのように似ていた。

 鏡の欠片をとっかかりに、オルガマリーはキングゥへ語り掛ける。

 

「だから……だからどうした! 僕を助ける理由にはならないだろうが!」

「なるわ。あなたはラフムの行いに怒り、咎めた――()()()()()()()()()()()()()()()()。私が動くには十分よ」

 

 必要だからラフムの犠牲となる民衆を見殺しにした。だからと言って何も思わなかった訳ではない。

 あの時キングゥが抱いた怒りはあまりに真っ当で、正しかった。共感すらした。

 それを()()()()()()()()()()()()()()()()()とオルガマリーは思う。

 

「馬鹿な……そんなの、理由になる訳ないじゃないか」

「そうね。だからこれはただの感傷――私がやりたいからやってるの。悪い?」

「お前がやりたいから……?」

 

 呆然と呟く。

 何かを選択する程の自分(ちせい)を持たないキングゥにとってオルガマリーの言葉は眩しすぎた。

 

「そうよ! 今からギルガメッシュ王への報告を考えたら胃が痛いし、下手したらウルクの人達からも恨まれそうだし、ちょっと後悔もしてるけど!」

 

 オルガマリーは言葉通りお腹を押さえて顔をしかめ――それでも止める気はないとやけくそ気味に言い放たった。

 

「だけどまだ私はあなたと話してない! 話したい! だから助けた、以上! いいじゃない、私だってたまには好き勝手しても! カルデアの所長はストレス溜まるんだから!?」

 

 全くもって無責任極まりない発言だ。人類の未来を守るカルデアの所長とは思えない。

 だがアーチャーとケツァルコアトル、そしてカルデアの管制室も糾弾する者はいない。

 

『ハハ……ストレス発散に問題行動か。うん、でもマリーらしいよ。溜め込んだら大爆発するところとか最後は合理より人情を取っちゃうとことか』

 

 むしろ苦笑と、表に出さない称賛があった。代表してロマニが溢し、周囲もうんうんと頷いた。

 

「ロマニ! それって一体どういう意味!?」

『もちろん言葉通りの意味さ。うん、そんな君が所長だからこそカルデアはカルデアであり続けられるんだろうね』

 

 ふわふわと頼りなく笑うロマニに噛みつくオルガマリー。

 これは窮地だ。人理の存亡がかかった瀬戸際なのだ。億のラフムとそれを超える親玉を迎え撃つ絶対魔獣戦線メソポタミア。

 だが、今のカルデアに悲壮感は欠片もなかった。こんなにも絶望的な状況なのに、彼らは迷うことなく自分の道を進んでいた。

 

「これがニンゲン、か……」

 

 眩しいものを見たように目を細め、呟く。

 ここにキングゥが見たことのないニンゲンの姿があった。

 

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