【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 翼竜が空を翔け、轟々と風鳴りが鳴り響く。

 大気の壁にぶつかり、突破することで起きる爆音と上空数百メートルの凍える空気がオルガマリーを苦しめていた。

 だがそれ以上に彼女を苦しめるのはここが空の上であるという事実だ。

 

「もう! 二度と空なんて飛ばないって決めたのに、私の人生なんでこう上手く行かないのよーっ!?」

「オルガ、落ち着いてください。オルガ。いえ、気持ちは分かりますが」

 

 トラウマを抉られたオルガマリーが必死に翼竜にしがみつきながら絶叫を零す。彼女の心境を一言でいうならもうほんとムリ、だ。

 それでも愚痴を言いつつ責務を投げ出さないあたり彼女の根っこがよくわかる。

 

「カルデアの所長さんは空が苦手かしら? 大丈夫、そんなあなたにおススメなのが――そう、空を舞う自由なる闘争(ルチャ・リブレ)なのデース!!」

「無茶言わないでよっ! あんたは怪しい通販の販売員か!?」

 

 こんな状況でも信奉する格闘技を布教せんとするケツァルコアトルの戯言に涙目のオルガマリーが噛みつく。仮にも女神に対しても口調を気にする余裕がない程彼女は焦っていた。

 それほどに追い詰められても折れず、全力で空を翔けている理由は一つ。

 

「キャハハハハハハハハハハ――――!!」

 

 ベル・ラフム。聖杯を奪取した飛行型ラフムと言うべき個体を彼らは全力で追っていた。

 その行先は神代のペルシア湾。母なる海目掛けて両者は熾烈なデッドヒートを繰り広げていた。

 

「ッ、速い! まさかケツァルコアトルスより速いだなんて!?」

「しかも腹が立つくらいにご機嫌ね……。奴の尻尾を捕まえて大地に叩きつけてあげなさい! 我が分身、ケツァルコアトルス!」

KYREIEEEE(キリィイイイイィ)―――!!」

 

 風が巻き起こる。空に黒雲がかかり、バチバチと紫電が雲の間を走り始める。

 さらにラフムには逆風を、翼竜に順風がかかり、互いの速度差が目に見えて縮まった。ありえざる自然現象を起こすのは無論サーヴァント、ケツァルコアトルの宝具。

 

「我こそは翼ある蛇(ケツァルコアトル)! 嵐よ、我が前に頭を垂れよ!!」

 

 翼竜を使役し、風雨雷霆さえ従える彼女をライダーたらしめる宝具である。

 急速に厚みを増した黒雲がその身に蓄えた雷電を女神の意に従い、ベル・ラフムへと容赦なく叩き込んだ!

 

 (ゴウ)(ゴウ)(ゴウ)

 

 眩い閃光が瞼の裏から視界を白く染める。

 刹那遅れて凄まじい轟音が鳴り渡る。雷が大気を引き裂き、オルガマリーの全身がビリビリと震撼した。

 だが、

 

「キャハハハハハハハハハハ――――!!」

 

 変わらない。全身を雷で打たれ、恐ろしい規模の熱量(エネルギー)を叩き込まれたはずのベル・ラフムはほとんど堪えた様子もなく。聖杯を差し引いてもデタラメな打たれ強さだった。

 

「私の雷に撃たれてピンピンしているだなんて。()()()してまでスペックアップしただけはありマース」

「ほんとになんで生きてるの!? まともな生き物はね、共食いで強化されないし雷に撃たれれば普通は死ぬのよ!?」

「いやぁオルガ。アレを相手に言うだけ無駄かと」

 

 そう、眼前で飛行するベル・ラフムの異常な強靭さの秘密は――共食い。

 エリドゥ近郊のラフム二百体の内、半数が特攻じみた無謀さでカルデア陣営を足止め。そして残る半数は――誰が合図するでもなく一斉に()()()()と互いを食らい始め、やがて一個の強力な個体へと成長したのだ。

 その成れの果てが眼前のベル・ラフムだ。

 

「仕方ありまセーン。こうなったら格闘戦(ドッグファイト)で無理やりにでも捕まえて地に引きずり落とすわ。アーチャー、彼女をお願い」

「任されました」

「ちょっ、それって今以上のスピードで飛ばす……ってコト!?」

「我慢してください」

 

 これまでもギリギリだったが、更なるブラックアウトのギリギリを攻める宣言に顔を引きつらせる。なおアーチャーには一言で切り捨てられた。それほどに余裕がない。

 これ以上は本気でマズイ。実感としてそれが分かるだけにオルガマリーは焦るが、同時に必要性も分かるだけに反論も難しい。

 

「――まったく。それでも僕と同じ躯体(カラダ)の持ち主か、情けない」

 

 が、蔑みと冷酷さがたっぷり乗った一言が風向きを変えた。

 オルガマリーとは同じ天の鎖の遺体から分かたれた姉弟とも言える関係にあたるキングゥだった。

 

「こちらで躯体の活性状態を調整すればいけるはずだ。たかだが音速程度で音を上げるようなヤワな代物じゃないんだよ、本当ならね」

「嫌味かっ!? でもいいわ、見逃してあげる! 早くやって、キングゥ!」

「……迷わない奴だな、クソッ」

 

 キングゥにだけ妙に当たりが強いオルガマリーの指示に不承不承と頷く。

 エリドゥで回収した半死半生のキングゥ、今更見捨てることもできず翼竜に乗せて同行していた。心臓である聖杯を奪われ、見る影もなく弱体化したがこのままやられっぱなしなのもプライドに障るのだ。

 

「感謝する、キングゥ」

「止めろ、キガル・メスラムタエア。吐き気がする」

 

 言葉通り嫌そうに顔を歪め、吐き捨てるキングゥ。嫌味ではなく心底から言っていることが分かる。

 その原因は恐らく、

 

「それはお前の中の躯体(エルキドゥ)が騒ぐからか?」

「……死者の言葉がお望みかい? それなら幾らでも騙ってやれるけど?」

「結構だ。あいつとはもう十分に言葉を交わしたからな」

「なんだ、つまらないね。精々耳心地のいい台詞を囀ってやろうと思ったんだが」

 

 妙に嘘くさい友好的な笑みを浮かべた戯言を切って捨てるとつまらなそうに顔をそむけるキングゥ。やや子供っぽく偽悪的な言動を見ながら胸の内だけでその所感を呟く。

 

(姿形はさておき中身はエルキドゥとは似ても似つかんな。どちらかと言えば――)

 

 チラリとオルガマリーを見ると、彼女も気づき首を傾げられた。

 

「? なに、アーチャー?」

「いえ、何も。それよりもしっかりと捕まっていてください。そろそろ――」

「こちらは準備万端だけど、みんなも用意はいいかしら?」

 

 ちょっとした会話の間、静かに息を整えていたケツァルコアトルの総身から魔力が滾る。慌ててオルガマリーが翼竜にしがみ付き、他の者達もそれをフォローする体勢を取った。

 準備OKと見て取ったケツァルコアトルが頷き、滾らせた魔力を一気に爆発させる!

 

「それじゃ――全速力で飛ばします!」

KYREIEEEE(キリィイイイイィ)―――!!」

 

 主からの恩寵が翼竜に注ぎ込まれ、その翼に風を切り裂き音と並ぶための力が宿った。

 

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