【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 まず結果だけ語ろう。

 

『A――――Aaaaaa、aaaaaaaaaaaaaaaa――――――!!!!』

 

 ビーストⅡ、ティアマトは復活した。聖杯は彼女の手に渡り、その魔力を呼び水にペルシア湾の沖合に顕現。その頭脳体をアーチャーの宝具で倒したと思えば霊基の連続再起動による巨神形態が再臨。

 

「なに、これ……こんなの、本物の神じゃない!?」

 

 七つ分の聖杯を上回る超々々級魔力炉心でさえ比較にならない異次元の存在規模。

 星間すら航行可能とし、体内に貯蔵した膨大な生命原種の種を元にあらゆる生命を生み出す驚異的な生体機能。

 自己改造、個体増殖、生体融合に加えケイオスタイドを用いた細胞規模の強制浸食改造『細胞強制(アミノギアス)』の権能。

 母なる海の化身にして始まりと終わりの女。人類に捨てられた女神がその嘆きを贖うべく動き出す。

 

「母さん――母さん、僕だ! キングゥだ! ――――母さんっ!?」

 

 最後までキングゥの悲痛ささえ湛えた呼びかけに応えず、一顧だにすることもなく、ウルクへ驀進を開始した。溢れ出す黒泥、ケイオスタイドで世界を凶々しく染め上げながら。

 ティアマトの胎動……言い換えれば寝起きに起こした寝返りでメソポタミアの地表の四割近くを侵食する黒泥の巨大津波が発生。

 さらにラフムの活性化が一足飛びに進み、一億近い数が人類を抹殺すべくメソポタミア全土で活動中。加えてティアマト本体からさらなる増産を確認。刻一刻と数を増やしている。

 唯一の幸いは夜の間だけはラフムも睡眠に似た活動停止状態が起こることか。だがそれはけして救いではない。今この瞬間を必死に生きる者達は夜の闇に怯え、明日が来ないことを必死に祈る。

 人類滅亡前夜が訪れようとしていた。

 

 ◆

 

 メソポタミア世界の心臓部、ウルク。大地の霊脈の結節点であり、歴史の節目。人と世界の区別が付かないティアマトにとっては噛みちぎるべき敵の喉首そのもの。言わば人類史の最終防衛戦だ。

 

「――いい加減もっとマシな話を聞かせろドクター! もしや貴様ティアマト の太鼓持ちか!?!」

『僕だってこんな絶望的な報告したくないっての! でも仕方がないだろう、あれは神話的にも生物的にも完全な存在だ。神霊の分霊や擬似サーヴァントなんて生易しい代物じゃない。正真正銘の神なんだ』

 

 その只中で定められた滅びを覆さんと知恵者達が頭脳を振り絞る。だがその話し合いの成果は芳しいとは言えなかった。

 ティアマトのあまりの完全無欠さに逆ギレ気味のギルガメッシュ王にロマニもまた怒声で答える。それほどに余裕がない。

 

『最悪なのはその不死性だ。最初に生まれた母である彼女が生み出した命がある限り、逆説的に彼女の存在を証明してしまう。この矛盾を打ち破らなければ僕らに勝ち目はない』

「それはつまりこの世界の生命全てを殺し絶やせと!? 不可能です! いえ、たとえ可能でもそんな……」

『そう、人理定礎が崩壊する。仮にティアマトを倒せてもその後が続かないんだ』

 

 矛盾だ。この矛盾を解決せねばカルデアは戦いの場に上がることすらできない。そして矛盾を乗り越えた後もあの巨神を打ち倒さねばならないと来た。

 乱麻を断つ快刀を求めてしばしの間みなが首を捻るが中々良い案は出ない。

 そんな中、

 

「――冥界なら?」

 

 誰よりも早く乱麻を断つ快刀を見つけ出したのは藤丸。どこにでもいる一般人、柔軟な対応力と発想力を持つ彼だからこそ辿り着けた答え。

 

「小癪。我と同じ答えに辿り付くとはな」

「冥界……死者の世界にティアマトを墜として戦おうってコト!?」

 

 藤丸を見てニヤリとギルガメッシュ王が笑い、一拍遅れてオルガマリーも叫んだ。他の面々も次々になるほどと頷いた。

 

『そうか、冥界には生者がいない……これならティアマト神の不死性の穴を突ける!』

『それにエレシュキガルと冥界の助力も期待できる。地上で戦うよりずっと有利だ! ハハ、これは一本取られたな!?』

「なるほど……それなら確かに!」

 

 希望が見えてきたと喜びに沸く一同。

 が、

 

「…………」

 

 その輪に加わらず、チラリとアーチャーへ密かに目配せするギルガメッシュ王。

 ティアマト神を生者無き冥府へ落とす。確かにいいアイデアだ。だが()()()()()()()()()()と知っているが故の目配せだった。

 ティアマト神の不死性を打ち破るにはもう一手必要となる。彼女の天敵に等しい一手が。

 

「よき思案かと。元より冥府は生と死を司る大家。生無くして死は無く、死有りてこそ生は輝くもの。無欠の不死などないとかの女神に思い知らせてやりましょう」

 

 だがそれを今言う必要はないとアーチャーは判断。王もその判断を黙認した。

 代わりに胸を張り、堂々と冥界の威を誇る。冥府こそが我が誉れと断じるその言葉に嘘はない――隠し事はあれ。

 

「それに冥府へティアマト神を墜とせば冥府の全戦力を懲罰の名目で行使できます。戦力や取りうる手段は地上よりもずっと増える。現状ではこれが最善でしょう」

 

 裏事情は一旦押し隠し、強気な言葉で押し通すアーチャーにみなの顔にも希望が戻り始める。活路が見えたのだ。

 そんな中、アーチャーの方へ向き直ったギルガメッシュ王が視線を合わせて静かに問う。

 

()()()()()?」

「無論。なに、丁度私向きの仕事でしょう」

「そうか。ならば早めに済ませておけ。最早時間はない」

「ご配慮、ありがたく」

「?」

 

 いつも通りと言えばいつも通りの、周囲からは要領を得ない会話に首を捻る一同。

 

「エレシュキガル! ウルクにて奴を待ち受け、都市ごと冥府へ落とす。準備にいかほどかかる?」

 

 だが続く王からの指令に疑問を忘れ、目の前の大仕事へ意識を集中した。

 地上と冥府を繋ぐ大鏡越しに会議に参加していたエレシュキガルが呼びかけられ、苦虫を嚙み潰した顔で応える。

 

『……んっとに無茶言ってくれるわねこの金ぴか。ま、やれますけど?』

「恰好付けずに早く答えんかこの戯け!」

『うるさーい! 私達が手塩にかけた冥界に()()()()を引き込むんだから格好の一つもつけずにやってらんないのだわ! あ”あ”あ”また冥界の復興に人手と資金が吹っ飛んでく~……』

「お労しやエレシュキガル様……」

 

 キリッと胸を張った後にすぐさま泣き崩れるエレシュキガル。情緒不安定が過ぎる姿だがこれまでも何度か冥界は大トラブルが起きては多大な出費に苦しんでいた。そのトラウマが蘇ったらしい。

 ある意味ではらしく、変わらない姿に誰もがクスリと笑い、余裕を取り戻す。

 その後も人類存亡を左右する会議は場違いな程明るくなった雰囲気で進んでいった。

 

 一人の、母から捨てられた幼子を置き去りにして――。

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