【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 女神の真体が落下する。

 王の自爆と女神の魔弾が冥府を覆う天蓋を粉微塵に粉砕。地上と冥府を繋ぐ大穴を開けた。

 その巨大な穴から地上の事物が数多崩落していく。ウルクを構成していた瓦礫が、地盤そのものが、そしてその全てを凌ぐティアマトの巨体が冥府へと地上から降り注いだ。

 

『地上での作戦は成功。……ギルガメッシュ王の霊基反応、消滅を確認。イシュタルは無事だが、反応は低下している。無理な威力を引きずり出した反動だろう』

「フン、どうせ”男”の窮地に張り切り過ぎたのでしょう。気にする必要はないわ。まだやる気ならその内勝手に来るでしょう」

「でしょうな。それよりも」

 

 アーチャーがチラリと見た先には、

 

「……ギルガメッシュ王」

「王様らしい最後だった」

「ええ、負けていられないわね」

 

 一足先の冥界下りで墜ちるティアマトを待ち受けていたカルデアの者達がいた。みな涙を滲ませながらも決然とした面持ちで顔を上げた。王より後を託された事実を噛みしめるように。

 

「心配はいらないようね」

「フフッ、ナイスなファイティングスピリット。私もやる気、出ちゃいマース」

「そしてあちらは……」

 

 ただ一人、少し離れた場所ではるか頭上のウルクがあった大穴を見るキングゥ。

 

「……死んだのか、ギルガメッシュ。クソ、なんなんだ。この騒めきは」

 

 王の死に巻き起こる胸を搔き毟る痛みに思わずキングゥは歯を食い縛る。

 胸の内に溢れ出るあまりにも温かく、切ない記憶。だがこれは自分のものではない。絶対に、自分のものではないのだ。

 

「エルキドゥ、これはお前の記録(ネガイ)か」

 

 キミに会いたかった。キミと話したかった。

 この胸に残る多くの思い出の話を、その感想を、友としてキミに伝えたかった。

 そう、機体(カラダ)の奥底から語り掛ける声がある。

 

「……そのネガイは叶わない。だって僕はお前じゃない。だけど」

 

 オルガマリーとの対話(アップデート)で己のカタチの欠片を見つけた今ならばキングゥとエルキドゥは()()モノだと言える。だからこそ、その遺志を引き継ごうと思える。

 

「僕だけはそのネガイを覚えておいてやる。そうして僕は――前に進む」

 

 天の遺児は王の死を契機に、天の鎖の思いを背負い、更なる一歩を踏み出した。

 そして、

 

 

 

『A――――Aaaaaa、aaaaaaaa――――!!』

 

 

 

 冥府に、生命亡き世界へ叩き落された全ての母が咆哮を上げる。

 ここに命はない。ここに我が仔はいない。ここはわたしの世界じゃない。そんな怒りと嘆きが籠った咆哮だ。

 

『霊気反応、膨張。角翼が急速修復。加えてケイオスタイドとラフムの生産速度が活性化、物凄い勢いだ!』

 

 黒泥の津波がティアマトから溢れ出し、冥界の大地を汚していく。雲霞の如く飛散するラフムが冥府の各地へ飛び去り、目に付くものを片っ端から破壊していく。冒涜的な光景にエレシュキガルが顔を歪めた。

 

「……ッ!? 冥界全土の出力が僅かだけど低下してる。冥府の支配権を乗っ取るつもりだわ!」

「ふざけた真似を。エレシュキガル様!」

「ええ、手加減は抜きよ。母さんといえど遠慮仮借なく行かせて貰うのだわ!」

 

 エレシュキガルが手を一振り。ただそれだけで視界を埋め尽くす程の膨大な雷光がティアマトを打ち据える。冥府の防衛機構、裁きの赤雷が発動したのだ。

 侵食する黒泥とラフムをその熱量で蒸発させ、それ以上の浸食を押し留め、さらにティアマトの真体すら拘束する。

 このエレシュキガルはメソポタミア世界でも最高位の神性。こと冥府を戦場としたならばかのグガランナすら封殺しうる。

 

『……凄い! イシュタルの宝具級の熱量が常時ティアマトを焼いている。アレならティアマトでも簡単に抜けられない!』

 

 カルデアのロマニも手応えを感じ、快哉を叫ぶ。

 だが人類悪、ある意味で人類史に等しい()()を持つ獣の底力はこの程度で大人しくなるほど安くない。

 

『……? なんだ、霊基の膨張が停止。いや、急速に収縮――ッ!? 馬鹿な、なんだこれは!?』

 

 計器の数値を訝し気に見ていたロマニはすぐに信じられないと目を剥く。

 

『冗談だろ!? さっきまでの霊基膨張はただの暖機運転だったとでも!? 収縮からの急速な霊基膨張工程(インフレーション)停止、魔力炉心、連続再起動を確認。霊基の神代回帰、ジュラ紀まで進行』

 

 ティアマトは冥府の赤雷に耐えるために動けなかったのではない。単に全力を振るうために己を内側から作り変えていたのだ。

 

『……ティアマト、竜体へ変化。これはもう神性じゃない、まぎれもない神の体だ!』

 

 現れ出るは女の体に竜の手足を備えた双翼四脚の人面竜。

 人よりも魔竜の相を強く押し出した悍ましくも神々しいその姿に誰もが息を吞んだ。

 

 

 

『A――――Aaaaaa、aaaaaaaa――――!!』

 

 

 

 咆哮とともに更に勢いを増した黒泥が溢れ出す。原初の海が冥府を急速に侵食していく。

 

『黒泥が冥府を侵食していく! さっき以上の速度だ!!』

『エレシュキガル、冥界の出力低下が止まらない。どうにか出来ないかい?!』

「……手はある。あるけど! ああもう、仕方ない――来なさい!」

 

 どう考えてもこんな時間稼ぎのために切っていい切り札ではないが、ここで切らねば勝負が付いてしまう。

 故にエレシュキガルは躊躇いながらも思い切りよく最強の札を戦場へ叩きつける。

 

「冥府の猛牛よ。我が伴なりし最強の随獣、かつてティグリスを干上がらせた神威をここに――地の底にて吼えよ、天の牡牛(ナム・アブズ・グガルアンナ)!!」

 

 真名を唱え、呼び出すは天の牡牛の二代目、グガランナマークⅡ。

 ()()()()()

 百億のガラス片を粉微塵にしたような甲高い轟音とともに空間を砕き割り、ここにシュメル最強の神獣が顕現した。

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!』

 

 

 

 天牛の大咆哮が冥府全土に轟き渡る。

 のみならず物理的な衝撃波と化してティアマトにぶつかり、その巨体を吹き飛ばす! さらに黒の津波まで押し返した。

 

「これが天の牡牛、天地の姉妹神が持つメソポタミア最強の神獣!?」

『神話通り……いや、神話以上のデタラメだ!! この霊基反応、ティアマトに匹敵する出力だぞ!?』

 

 ティアマトにも負けない神威の具現に興奮して口々に騒ぐ一同。ともに怪獣としか呼べない巨体が向き合う絵は神話的ですらある。無理もない反応だったが、エレシュキガルの反応は鈍い。

 

「言うほど楽勝って訳じゃないんだけどね……!」

 

 黒泥、ケイオスタイドに触れるだけで強制的にティアマトの配下と化す塩基契約(アミノギアス)の権能が厄介すぎる。

 今のマークⅡは冥府の加護を全開にしてケイオスタイドの浸食を無理やり弾きながらティアマトと交戦していた。

 

『黒泥の浸食速度が低下した、が……止まらない。緩やかだが冥府の出力低下もだ』

『勘弁してくれ。グガランナとプロレスしながらまだ余裕があるってのか!?』

 

 だが、冥界の支配権を侵す黒泥の勢いが止まらない。

 

「……マズイ、マズイわ。これじゃ一時間も持たずに冥府が乗っ取られちゃう!?」

 

 対応しようにも下手に眷属を繰り出せば塩基契約(アミノギアス)で乗っ取られるだけだが、エレシュキガル本体は泥の勢いを押し留めるので精いっぱい。

 

「私が宝具で黒泥の蒸発を助けます。藤丸君とマシュも宝具で少しでも勢いを押し留めて!」

「お願い、ケツァルコアトル! 藤丸も! アーチャー、私達はティアマトにアタックして注意を逸らすわ。覚悟はいい!?」

「お任せを!」

 

 疑う余地なき最大戦力が弱音を漏らすこの事態、誰もが絶望しながらも悪あがきを決意したその瞬間、

 

 ()()()()()

 

 エレシュキガルの胸に落ちるように一つ、更に一つ重ねて一つ――。女神が撒き散らす生命の海を糧にどんどんどんどん咲き誇る数多の花が黒泥の海洋を鮮やかな花園へ塗り変えていく。

 

「これは、花? 一体何が」

「嘘、これって」

「まさか!?」

 

 花。とある魔術師の象徴。全員の脳裏にふわりとした捉えどころのない笑みが過ぎった。

 稀代のキングメーカー、そしてどんでん返しの大名人。敵を騙すためなら平気で味方をペテンにかける世界最高峰の詐欺師だ。

 

「いよぉしッ、間に合った! そして発想が貧困だな、アーキマン! 泥が生命を生み出すならその命を無害な花に変えればいい。そうだろう?」

 

 そして一瞬後、皆が思い浮かべた花の魔術師が天から降ってきた。華麗に花園と化した冥府へ着地、ゆっくりと立ち上がり嬉しそうに集まった皆を見渡す。

 その懐かしい姿にロマニが絶叫する。

 

『げえっ、マーリン!? 退去したお前がどうやってここに!?」

「ハハハ、期待通りのリアクションをありがとうアーキマン。そして答えはシンプルだとも――()()()()()()()()()()()()

 

 マーリン渾身のドヤ顔に顎が外れそうな程あんぐりと口を開けるロマニ。

 

『ンなアホな――いや待て。アヴァロンにマーリン本体が健在なら』

「妖精郷を経由してちょちょいとね。本来ならルール違反だが、ここは信念を曲げるべきと判断した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 憎まれ役、とかね。物憂げな呟きは誰にも届かず風に溶けて消えた。

 

「さあ諸君。原初の母を討つ最後の策を練ろうじゃないか」

 

 稀代のペテン師が底知れぬ笑みを浮かべ、一同を誘う――。

 

 

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