【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
極黒の闇から噴き出す冷気にマシュは何故か温かみを感じた。
その姿はまるでブラックホールだった、と後に藤丸立香は語った。
光すら飲み込む暗黒星、全ての命を吸い込み食らう貪欲の大口、狂猛過ぎる呪詛の化身――
神すら食い殺す暗黒星が弾丸と化し、冥府の空を駆けた。
ティアマトの瞳が輝き、赤黒い光が無数に放たれる。並みのサーヴァントならまとめて一薙ぎで消し飛ばされる超火力。
だが暗黒星は無尽蔵の魔力砲すら意に介さず、赤黒い光を飲み込み吸い込み食らい尽くす!
『A――――Aaaaaa、aaaaaaaaaaaaaaaa――――――!!!!』
ティアマトが、
迫る暗黒星を我が天敵、ありえざる”死”の具現と認めた女神が
星間航行すら可能とする規格外の魔力炉心の生み出す七重魔力障壁が展開される。かの天牛の蹄すら防ぎきる絶対防御が暗黒星と拮抗――することなく一瞬で食い破られた。
これなるは対神性特攻呪詛、ただシュメルの神を抹殺することに特化した弑逆概念。
黒き流星が駆け抜け、そして角翼が一息も持たず微塵に砕かれた。
だけではない。
駆け抜けた先で急速に縮小し、力を失いつつある暗黒星の存在を代償に。
『――ッ!? やった、やったぞ! ティアマトの霊気反応が通常のサーヴァントのものに変化した。霊基の巨大さは変わらないが、今なら倒し切れる! 逆説的復元は働かない!』
『ロマン、こちらも解析が完了した。ティアマトの霊基核は頭部だ。古典的だが彼女を倒すには――』
『ナイスだレオナルド! 聞こえていたね? 全員、ティアマトの頭部へ集中攻撃だ!』
応、と全員が頷く。
アーチャーが重すぎる代償をもって抉じ開けた未来への糸口、決して無駄にはしないと決意を固めた。
『Aaaaaa、aaaaaaaaaaaaaaaa――――――!!!!』
そして決断したのはティアマトも同じ。
己を無敵と為さしめた概念防御が砕かれたと知るやなりふり構わず生きるために動き始める。
『おいクソ、本気か! 冥界の壁を這い上がって地上へ逃げる気だ。あの巨体で地上と高低差二千メートル以上の断崖絶壁だぞ!?』
『今更驚く程のことかい? それより対策は――』
「であれば我らにお任せあれ」
謹厳実直な響きの声音。どこかアーチャーに似た声の主は冥府の闇より現れ出たガルラ霊達。霊基出力においてはサーヴァントに劣れど、冥府に仕掛けられた数々のギミックを扱う手腕はサーヴァントの一群より頼もしい。
「司令部より各員へ全兵装自由使用許可。至上命題、ティアマト神の殺害を発令する」
「撃て撃て撃て撃てぇ――――!! 後先考えるな、副王殿の弔い合戦だ!」
「なんでもいいからあのデカブツを叩き落とせ! 絶対に冥府から逃がすな!」
かつてのネルガル神防衛戦を超えて充実させた冥界の防衛兵器が火を吹いた。
『Aaaaaa……Aaaaaaaaaaaaaaa――――!!』
容赦なく降り注ぐ大火力の雨がティアマトが取りつく岩壁そのものをぶち壊した。元より角翼が砕かれたあの巨体で足場である岩壁を崩せば落下する他ない。
轟音と地揺れ。
無論、ティアマトは無傷だが地上へ逃げ去るのは防いだ。だがまだまだティアマトは諦めていない。
『ラフムの生産速度、上昇。マーリンの花の魔術の許容限度を超えて無理やり数を揃えるつもりか!』
「私がラフムを処理します。全員、続いてください」
その悪あがきを見た南米の主神、翼ある蛇が動く。
「過去は此処に! 現在もまた等しく。未来もまた此処にあり。風よ来たれ、雷よ来たれ――明けの明星輝く時も! 太陽もまた、彼方にて輝くと知るがいい!」
力ある言葉を紡ぎ、魔力を滾らせる。呼応するように出現した赤熱するエネルギー塊がその手に収まり――握り潰す!
掌握するは純粋な
「
それは古代アステカの巨石、世界の過去と現在のすべてを示すというアスティック・カレンダー。
ケツァル・コアトルを祭る”神殿”の要、メソポタミアの大地で高い神性と権能を維持できた奥の手であり、今この時は太陽神の権能が顕わす獄熱の太陽風として冥府に顕現する!
『すっご……ラフムがまとめて
『瞬間的な熱量はアーチャーに劣るが、継続時間はこちらが上のようだ。生まれる端から焼き尽くされちゃ流石のラフムも敵わないか』
太陽風の熱波が容赦なくラフムを灼いた。
冥府の闇が光に蹴散らされ、煉獄さながらの様相を呈する。熱波が吹き抜け、空気を焼いた。
「ちょっと。ケツァルコアトル! 私が加護を与えてなければ人間は全員丸焦げよ!?」
「ウフフ♪ もちろん信じていましたよ? エレシュキガル」
「え、そう? それなら――なんて言い訳が通るかぁっ!!」
ケツァルコアトルの無茶にエレシュキガルがキレ散らかす。普段以上に導火線が短いのは無論、理由がある。
「ああ、本当にイライラする。悪いわね、母さん――存分に
だがオルガマリーにそれは叶わず、どこか妹のように思えた少女の心が無残に切り裂かれたことに腹が立ってたまらない。
そして目の前にはその直接の原因とも言えるティアマト神がいる。エレシュキガルが昂るのも当然だった。
『エレシュキガル様はとても慈悲深く、しかし
かつてアーチャーはそう語った。そう、エレシュキガルは人一倍情に強い女神なのだ。
「天に絶海、地に監獄。我が踵こそ冥府の怒り! 出でよ、発熱神殿! 反省するのだわ!」
その槍の名は発熱神殿キガル・メスラムタエア。夫より預りし太陽の権能の一欠けら。そこに怒りや憤りや嘆きや悲しみその他諸々
「
地が震え、裂け目から途轍もない
かの天牛の蹄すら上回る怒りの鉄槌がティアマトを大地から強烈に殴りつけた。
『A、Aaaaaaaaaaaaaaaaaa……』
痛みに叫び、苦痛に身を捩る。恐らくは地上に現れてから初めてティアマトが上げた
「……なんて、頑丈なの。弱点じゃなかったとはいえ私の全力なのよ!」
だが戦慄したのはむしろエレシュキガルの方だ。まごうことなく全力、手心など一切加えていない本気の宝具行使。サーヴァントどころか上位の神性だろうとバラバラに粉砕するだけの威力を込めた一撃だった。
だが苦痛の声を上げつつティアマトはまだ五体満足を保っている。
力押しは無理だと誰もが悟り、改めて弱点の頭部核を狙いを定めた。が、
『A――――Aaaaaa、aaaaaaaaaaaaaaaa――――――!!!!』
それよりも先にティアマトが動く。
咆哮とともに空間が震える。非物理的な振動の波が空間を走り抜け、ティアマトを中心とした一定範囲の球状空間が展開された。
その空間内にあったラフムが消滅し、サーヴァントが皆一歩無意識に後ずさる。本能的な消滅の危機を覚えたからだった。
「ここで来るか、ネガ・ジェネシス……!」
マーリンが叫ぶ。
窮地に追い込まれたビーストⅡの選択はまさかの籠城戦だった。