【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。 作:土ノ子
推奨bgm:you(癒月)
風が吹く。夜を超え冷やされた涼やかな風が。
そよそよと頬に触れる優しい感触に助けられ、オルガマリーは目覚めた。
「ん……ここ、は――」
身を起こし、周囲を見渡す。優しい大地の感触がオルガマリーの手に返ってきた。
真っ先に目に入ったのは藤丸とマシュ。互いの手を取り合い、向き合うように眠っていた。
「この二人、相変わらず仲がいいわね。そう思わない?
ええ、微笑ましいですな。
いつもならそう返ってくるだろう問いかけは風に巻かれて消えた。
「……あ」
彼はいつもそばにいた。それが当たり前だった。
だが
「……ッ」
泣くまい、と涙をこらえた。下を向き、顔を隠す。
一人でも行くと伝え、彼は安心したと微笑んでいた。それを嘘にする訳にはいかないのだから。
ああ、だが許してほしい。
「ねえ、アーチャー……あなたはいま、何を思っているの?」
せめてあなたを想うことを。想い続けることを。
◇
その後、揃って目覚めた藤丸とマシュと一緒にウルクの跡地を散策する。
オルガマリーの目元が赤くなっていたことは二人ともそっと見なかったフリをした。
「あの大きかったウルクが跡形もない……」
「城壁の一部が残っているくらいでしょうか。都市の大半は今も冥府に墜ちたままなのでしょう」
「でも、たくさんの人が生き残った。だから戻らなくても始めていけるよ、だってここはウルクなんだから!」
「そうね、きっとそうだわ」
「私もそう思います」
人ひとりいない空っぽな廃墟に朝日が差し込み、風が吹き抜ける。ウルクの跡地は不思議な静寂と荘厳さがあった。
その中を歩く三人はウルクの賑わいを幻視し、藤丸の明るい感想にも笑って頷く。ウルクの民の逞しさは彼らもよく知っているのだから。
「ところでひとまず城壁跡地を目指してみませんか? 目立つあそこならだれかが集まっているかも」
「そうね。元々あてはないんだし、そうしましょうか」
「賛成」
「あら、奇遇ね。三人とも。また会えてうれしいわ」
三人が意見を一致させたところで早速声がかかった。
「ジャガーもいるぞ! ククるん見つけて引っ付いてきました」
「本当に引っ付かないでくれるかしらジャガー? 頭カチ割りますよ?」
明るく陽気で、少しだけ怖いがとても頼りになる女神様の声だ。
彼女達を見つけた三人の顔に喜色が広がる。
「ケツァルコアトル、それにジャガーマン! 生きてたのね!」
「よかった!」
「お二人とも無事で嬉しいです」
「あたぼうよお嬢さん! 虎は何故強いのか、それは虎だから! いや虎じゃねー、ジャガーだ!」
「あ、うん、相変わらずみたいでなによりだわ」
謎のセルフボケツッコミで誰にも理解できない一人漫才を繰り広げるジャガーマンにそっと生暖かい視線を送る。
藤丸とマシュも慣れたのか楽しそうに笑っていた。一人微笑みつつも怒っているのはケツァルコアトルだ。
「ジャガーマン?」
「あ、痛い。痛いよククるん。割れちゃう、ジャガーの頭がポーンと弾ける!」
「知っていますか、ジャガーマン。人間の頭蓋骨の硬さははかぼちゃと同じくらいらしいわ。なら神霊の場合はどれくらい硬いか気にならない?」
「え、なにそれこわい。私もうかぼちゃ食べられなーい。まあジャガーは肉食なんですけどね――アイタタタタギブギブククるんギーブ!」
容赦のないアイアンクローがギリギリとジャガーマンの頭蓋を締め上げる。もちろんケツァルコアトルの握力ならかぼちゃどころか大岩だろうと粉砕するだろう。
なおそうと知ってボケ倒すジャガーマンも大概度胸があった。あるいは理性がないのかもしれないが。
「あなた達と最後に一目会えて嬉しかったデース。お姉さん、頑張ってたけどそろそろ限界なの」
「最後……そう、貴女もいってしまうのね」
口から煙を吐き出し果てているジャガーマンを放り棄て、お茶目なウィンクが一つ送られる。
別れを示すようにその霊基から少しずつ魔力へ還る光が漏れ出していた。
相次ぐ別れに寂しげな顔のオルガマリーにそっと微笑むケツァルコアトル。
「大丈夫。退去しても私とあなた達の縁は切れることはない。呼びかけてくれればきっと応えるわ」
だから、と悪戯っぽくケツァルコアトルが笑う。
「場外乱闘が必要なら呼んでね? お姉さん頑張っちゃう!」
「……まあ、機会があったらね」
「フフ、なら観客を沸かせる豪快な勝利を期待してマース。あなた達ならきっとできるわ」
「うん、頑張る」
最後にさよならと手を振って彼女たちは退去した。
別れが一つ、過ぎた。