【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 さて、今度こそ城壁へ向かうか。

 そう言葉にするでもなく顔を見合わせた一行に遠くから呼びかける声があった。

 

「おるが殿! 藤丸殿! マシュー!」

 

 この人懐っこくも凛々しいよく通る声は間違いない。

 声の持ち主を見れば予想通りブンブンと手を振ってものすごい勢いで駆け寄ってくる鎧姿の少女がいた。

 

「牛若丸!」

「拙僧もいますぞ」

「ハハハ、私もおります。また会えて嬉しいですよ、お三方」

 

 その背に続くのが北壁に詰めていたはずのサーヴァント達だ。

 

「弁慶さん、レオニダス王も!」

「俺達も会えて嬉しいよ! でも北壁はどうしたの?」

 

 彼ら三騎は避難民たちを守るため北壁に立てこもり、防衛戦を行っていたはずだ。

 

「牛若丸様が夜明けに戦の気配は収まったと言うなり北壁を飛び出しここへ。拙僧は付いていくだけで必死にて」

 

 やれやれと首を振って苦労を語るは弁慶。

 流石は牛若丸。天真爛漫にして自由闊達、誰にもその行いを縛ることはできなかったという訳だ。

 

「夜を徹して鳴り響いた大地の鳴動が収まったのだ。そして世界は終わっておらぬ。ならばおるが殿達が勝利したに決まっていよう!」

「独断専行が過ぎますぞ。ま、お陰でカルデアの方々との別れに間に合ったと思えば某もそう口うるさく言いませぬが」

「弁慶……貴様いささか調子に乗りすぎではないか? ン?」

「牛若丸様!? 理不尽、それはあまりに理不尽かと!」

 

 牛若丸から弁慶へいつものパワハラプロレスが始まった。

 主従漫才を見ながら苦笑するレオニダス王が言葉を継ぐ。

 

「擁護する訳ではありませんが、黒泥が失せ、北壁のラフムが一斉に崩れ落ちたのも大きい。戦場の趨勢が決まったと判断するには十分でした」

「で、ありましょう! 弁慶、貴様はいちいち思慮が足りぬのだ! 思慮が!」

「理不尽な……!?」

 

 パワハラ上司に睨まれた弁慶が小さくなるのを見てついクスリと笑う。虐められる彼には申し訳ないが、彼らには心を緩めるキッカケが必要だったのだ。

 そんな一幕の中、牛若丸が不思議そうに周囲を見渡す。

 

「ところでアーチャー殿はいずこに? あの御仁がおるが殿の傍を離れるとはまだ何か異変でも?」

「あ……」

 

 意図せずに不意を突いたその問いかけにオルガマリーの眼から涙が次々に零れ落ちる。

 ああ、と誰もが()()()。戦いとは常に犠牲を孕むものなのだから。

 

「ごめん、なさい……。違うの、これは――」

「……なるほど」

 

 牛若丸もまた深々と頷き――()()()()()()()

 戦場の麒麟児は誰よりも先にアーチャーを理解し、評価したのだ。

 

「アーチャー殿、天晴美事(あっぱれみごと)! 死すべき時に死し、主を生かす! (これ)(まさ)に武士の本懐。私も死すべき時は斯くありたいものです。いえ、もう死んでいますが」

「牛若丸様、それは」

「弁慶よ、だから貴様は阿呆なのだ。おるが殿を守れなければアーチャー殿はそれこそ怨霊へ墜ちる程に悔やんだであろう。私には分かる」

 

 自らも復讐騎(アヴェンジャー)の適性を持つ牛若丸はアーチャーにどこかで感じていたシンパシーを通じて断言した。

 

「私は冥府にて何が起こったのかさっぱり分かりませぬ! なれどアーチャー殿のことはよく知っており申す。かの御仁が無為に犠牲となるはずもなく、かといって主を傷つけることを許すはずもなく。

 で、あればそれは必要だったのでしょう。ならば私は称賛する以外を知りませぬ。武士ですから!」

 

 どこまでもあっけらかんと、殺伐とした死生観のまま牛若丸は語る。

 

「無論オルガ殿もまだ心に整理が付いておらぬ様子。しかし、それでいいのです」

「それで、いい?」

 

 零れ落ちる涙を己の弱さと捉えるオルガマリーはその言葉に思わず目をしばたたかせる。

 

「心とは儘ならぬもの。悩み、惑うのはそれだけアーチャー殿がおるが殿にとって大きかった証。であれば無理に割り切らぬが吉。

 忘れず、吹っ切らず、抱えて前に進み(そうら)へ。大丈夫、おるが殿ならそれができます。僭越ながら、この私が保証します」

 

 まるで燕のように軽やかに。

 

「――以上。我が言の葉。ゆめ、忘れることなかれ。です!」

 

 しかし薄っぺらくはない言葉がオルガマリーの心の柔らかい場所に届いた。

 

「抱えて、前に進む……そう、ね。そうかもしれない」

 

 得心し、頷く。

 朗らかに笑う牛若丸もまた頷いた。

 

「ありがとう、牛若丸。少しだけ気が楽になったわ」

「ならば重畳! ……などと言っている間に退去する時間が来てしまいました。皆で一席設ける時間があればよかったのですが」

 

 ショボン、と肩を落とす牛若丸の手指の先がゆっくりと光と化している。他の面々も同じ。

 彼女が言う通り退去する時が来たのだ。

 

「止むを得ますまい。元より特異点とはそういうもの。さて、カルデアの方々。このレオニダス、ともにこの魔獣戦線で肩を並べられたこと。誠に光栄でした。座に帰ってもこの記録はけして忘れますまい」

「こ、こちらこそ! レオニダス王と話し、教えを受けられたのは光栄でした! 同じ盾持ち英霊としてレオニダス王を尊敬しているので」

「ええ、マシュ殿。私も貴女と戦えて嬉しかった。牛若丸殿ではありませんが、どうか我が言葉を胸の片隅に」

「絶対に忘れません。お元気で、レオニダス王」

「ハハハ! いいですな。では互いの壮健を願って――さらば!」

 

 爽やかに、力強い笑みとともに別れを告げるレオニダス。

 牛若丸、弁慶もまた清々しい笑みや一礼とともにこの特異点から去っていく。

 二つ目の別れが過ぎた。

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