【外伝開始】メソポタミアの冥界でエレちゃんに仕えたいだけの人生だった…。   作:土ノ子

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 繰り返しとなりますが警告。
 本作は原作設定を相当に都合よく改変していたりオリジナル設定を投入したりしています。
 その結実が本章となりますので、会わない方は合わないと思われますが広い心でご容赦ください。
 また、原作第一部の既読を前提に執筆しているため、第一部クリア後に読むことを強く推奨します。



冠位時間神殿ソロモン

 

 素晴らしいモノを見た。

 美しいモノを見た。

 手に届かないはずの希望を垣間見た。

 

 ■よ、お前は我らにとって唯一の光だった。だが貴様は我らを裏切った。

 

 “何故立ち止まる? あらゆる命が悲劇で終わるこの世界を、お前なら変えられるはず――”

 

 許されざる怠惰だった。

 許されざる愚劣だった。

 我らが垣間見た光はソロモンにも劣る無能だった。

 

 せめて――せめて、お前が我らと同じ志を抱いていれば我らはそれだけで……。

 

 私たち(われわれ)は協議した。俺たち(われわれ)は決意した。

 

 ──かつての希望(ヒカリ)に訣別を。我々は恃むべきモノを間違えた。

 

 ◇

 

 目が覚める。

 

「…………」

 

 フッと意識が覚醒し、瞼を開ける。ボヤけた視界に無機質な白の天井。背には柔らかな感触。

 カルデアの自室と気付いたのは十数秒後。鈍い頭でなんとか思考を回す。

 

「おかしなユメ……()()()()()、いる? ――ああ」

 

 同じ失敗はこれで二度目か。

 いつもの癖で呼びかけ、もう二度と出会うことのない彼を思い出す。

 第七特異点でオルガマリーの未来を繋ぐために逝ったアーチャー、キガル・メスラムタエアを。

 

「……何をやっているのかしらね、私は」

 

 どこかうすら寒い寂しさが胸に去来する。

 これから何度も習慣となった呼びかけを繰り返し、そしてその度に失望してはその失望にも慣れていくのだろう。これが本当の別離(わかれ)なのだと今更ながらに胸に染みた。

 死別ではない、だが限りなく死別に近い別離。あらゆる命の果てには必ず別れが待っている。その無情な理がオルガマリーの心を締め付ける。

 

「マリー! 起きたのかい、良かった。心配したよ」

「ロマニ、状況は――」

「大丈夫、まだ君が休む時間の余裕はある。というよりも、休むべきだ」

 

 そのままぼんやりとベッドの縁に腰かけているとスライド式の自動ドアが開き、ロマニが入ってくる。

 こちらを窺う気づかわしげな表情に心配させてしまったなと思う。所長として意地を張らねば、とも。

 

「大丈夫よ。一休みして大分マシになったわ。管制室に案内して頂戴」

「止めるんだ、マリー。せめて僕の前でくらい強がりは見せなくていい」

「ロマニ……」

 

 真剣な顔でオルガマリーを見つめるロマニ。

 父の旧友だという男。昔からオルガマリーを知る男。どこか謎の多い男。

 そのふわふわとした雰囲気、軽はずみな勤務態度で何度となく叱責しながらも内心で頼りにしてきた男がひどく心配そうな顔を見せている。

 それほどまでに自分は見せられない顔をしていたのだろうか。

 

「辛いんだろう? いや、辛くないはずがない。別離(わかれ)とはそういうものだ」

「そうね……辛いの、傷なんてないのに(ココ)が痛くてたまらない」

「マリー。辛いのなら泣くんだ。彼も僕も、体面だのなんだのそんなこと気にしやしない」

 

 そっとオルガマリーの肩を押さえてベッドに留め、自身もその隣に座るロマニ。

 ほのかな温かさに心の柔らかい部分がほぐれ、決壊し、眦から涙が溢れ出す。後から後から湧き出す涙はやがて大河となって零れ落ち、オルガマリーの膝を温かく濡らした。

 その肩に偽りのない優しさを込めて手を添えるロマニ。悲しむオルガマリーへ心底からの憐憫が宿っていた。

 

「ありがとう、ロマニ。ダメね、私。アーチャーがいなくなるなんて私、全然考えてなかった」

「気にしなくていいさ。だがあの別れは必要……いや、必然だった。命とはそういうものだからね」

「……ロマニ?」

 

 違和感が芽吹く。

 

「あらゆる命は永遠ではなく、その果てに別離が待っている。約束された死がある以上生きることは無意味だ。そうじゃないか?」

「……あなたは誰? ロマニはヘタレでチキンで悲観的な男だけど、命に絶望したことなんてないわ」

 

 ロマニに似て、しかし生命に向かう心のありようが決定的に異なっていた。

 涙は引っ込み、自然と心が警戒態勢にシフトする。だが不思議と敵意は抱かなかった。

 

「私が誰か、など些末なこと。私は君が真理に気付いたのか確かめに来ただけだ」

 

 気が付けばロマニは魔術王へと姿を変えていた。だがあの惑星の如き巨大な存在感はなく、ただ静かにオルガマリーの隣に腰かけている。

 オルガマリーも何故か敵の首魁を前に驚くほど穏やかな心境だった。

 

「真理?」

「この世界は無価値だ、存続する意味はない」

 

 淡々と法則を読み上げただけのような、無感動な声。数えきれない時間、稼働を積み上げた末に擦り切れ果てた機械が上げた悲鳴のような声だった。

 

「約束された死がある以上生存に意味はない。人は生まれた時から終わりに向かって走り続け、そしていつも悲劇とともに生の幕を閉じる。もううんざりだ。何故これほど愚かしいものを見続けねばならない!? 何故世界はこれほど愚かしくあれる!?」

 

 吐き捨てる言葉には人類への失望と憤懣が宿っていた。その嘆きをオルガマリーは否定できない。

 

「そうね。全ての命には終わりがあり、避けがたい別れがある。私の宝物はカルデア、でも何時か……どうしようもなく失う日が来るのでしょう」

「ならばその宝物を永遠とすればいい。永遠を生きる、終わらない命へ。以前の君は救いがたい愚昧だったが、我が思想に賛同するなら話は別だ。私ならそれができる。いや、私にしかできないのだ」

 

 憤りにも似た決意。何が何でも悲願(ネガイ)を貫き通す鋼鉄の意思。連ねた言葉に宿る人間臭さに、オルガマリーは意外そうな顔で隣の魔術王の横顔を窺う。

 視線を伏せる彼の横顔には隠しようのない憐憫(あわれみ)があった。

 

「……驚いたわ。優しいのね、あなた」

「優しい? 馬鹿な、なんと愚かな発言だ。そんな感情に左右される愚劣さは私にはない」

「そうかしら」

「そうだ。それよりも回答を求める。カルデアの長、オルガマリー・アニムスフィア」

 

 あるいは。

 オルガマリーが魔術王に頭を垂れればカルデアだけは助かるのかもしれない。

 だけどそれはきっと――、

 

「ありがとう。でも、受け入れられない」

 

 悩むことなくオルガマリーは首を横に振った。

 魔術王はその返答を黙って聞き……やがて理解しがたいと憤りを零し始める。微かに溢れ出した魔力が空気を軋ませた。

 

「……何故だ? 何故拒む? 何故理解しようとしない!? 何故そんなにも愚かであり続けるのだ、人類(オマエラ)は!?」

「貴方の提案を受け入れて、カルデアを永遠にしても……私のカルデアは消えてしまうからよ」

 

 理解しがたいと吐き捨てる魔術王。

 

「私が好きなカルデアは器じゃない。そこに生きる人よ。貴方の手を取れば私達は否応なく変わってしまう」

「馬鹿な。それは怠惰だ、愚劣だ。人は常に変化している。昨日までの自分と今日の自分が同じ存在だと何故言える? 誕生したばかりの赤子と死にゆく老人は同一人物であっても別物だ。なのにお前は些細な変化を恐れ、進化を拒むのか!?」

「ええ、私達はきっとそんな些細なものにこだわって生きていく」

 

 その理屈に一理あると己の愚かさを自覚し、苦笑しながらオルガマリーは答えた。

 

「それに人類は急激な進化に適応できる程強くも、賢くもない。多分今よりもっと酷いことになるかもしれない。私達は貴方が望む人類(わたしたち)になれない」

「……そうか。理解した。いや、痛感した。やはり人類(オマエラ)は愚劣だ。こうして時間を割いたことが間違いだった!」

 

 どす黒く、悍ましい魔力が溢れ出す。夢というあやふやな世界が急速に破壊されていく。それほどにあからさまな感情の発露。

 崩れ行く世界にも怯まず、オルガマリーはしっかりと言葉を紡ぐ。

 

「私はそうは思わない。戦うしかなくても、あなたと話せてよかったと思う」

 

 だから、と続ける。

 

「また会いましょう、魔術王ソロモン。今度は直接ね」

 

 腰かけたベッドの縁から立ち上がり、しっかりと魔術王の瞳を見据える。

 決定的な拒絶と破綻を済ませたはずだった。だが互いを見る両者の視線にはまだ微かな関心で繋がれていた。

 

「……下らんな。我が玉座に至るためには七十二柱の眷属全てを討ち滅ぼす必要がある。そんな戦力がどこにある? あの人類で最も愚かしい男はお前のそばから消えたではないか」

「無くてもやるわ。やってきた。これまでも、これからも。それにアーチャーは消えたんじゃない。私ならできるって信じてくれたのよ」

 

 この期に及んでカルデアの()最大戦力たるアーチャーを揶揄する魔術王に微かに訝しむ。これまでの言動から魔術王がアーチャーを知っていたのは明らかだ。だが一体どこで知ったのか?

 

「やはり、下らん。お前の言葉には何一つ根拠がない。私の計画の不確定要因になりえない。ゴミのように叩き潰されるがいい、カルデアの長」

 

 立ち上がり、背を向けたまま捨て台詞を吐くソロモン。

 最後まで謎を残したまま、ソロモンは崩れ去る世界から去っていった。

 




 実はインフルエンザと後遺症食らってまだエピローグまで書き上げられていなかったり。
 応援してね(血反吐を吐きながら)
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